|更新日 2025.4.14|公開日 2017.5.13

1|宅建試験の合否は民法で決まる

宅建試験の問題数は全50問で、そのうち民法の問題数は10問です。20パーセントの出題率ですが、宅建試験の合否は、実のところ「民法」で決まります。しかしながら、民法は点がとりにくい科目です。
はたして、「得点できる民法の勉強法」はあるのでしょうか?

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この記事では、民法をはじめて勉強する人や苦手な人が「正しい勉強法」を身につけて、「安定して高得点できる攻略法」をご案内しています。長文ですが、必ずや合格できる勉強法・コツが身につきます。

2|民法の点がとりにくい理由

 出題範囲が広い

民法の出題範囲は以下のとおりです。非常に広い範囲です。

民法総則 権利能力・意思能力|制限行為能力者|意思表示(虚偽表示・錯誤ほか)|代理(通則・表見代理ほか)|時効(完成猶予・取得時効ほか) |条件・期限
物権・担保物権 物権変動|対抗問題|相隣関係|共 有|担保物権通則|留置権・質権|抵当権(通則・法定地上権ほか)|根抵当権
債権総論 債務不履行|損害賠償|連帯債務|保証債務|連帯保証|債権譲渡|弁 済|相 殺
契  約 同時履行の抗弁権|契約の解除|贈 与|売 買||賃貸借(通則・転貸借・敷金|使用貸借|請 負|委 任
不法行為 一般原則|使用者責任ほか
相  続 相続人・法定相続分|遺産分割|相続の承認・放棄|遺言・遺留分

なお、昨年度、令和6年|2024年度の出題は次のとおりでした。

【問 1】 法律行為  
【問 2】 委 任  
【問 3】 共 有  
【問 4】 売 買  
【問 5】 債務不履行  
【問 6】 混 同|新出  
【問 7】 賃貸借  
【問 8】 条文問題|新出  
【問 9】 承 諾|新出 
【問10】 売 買

多くの人は一生懸命勉強したのですが、代理・時効・物権変動・抵当権・連帯/保証・契約解除・不法行為・相続法などは出題されませんでした。
このように範囲が非常に広いために、全部のテーマをマスターするのが難しく、そのうえ出題数が少ないので、民法は点のとりにくい科目といえます。

 出題数が少ない

出題数全50問の内訳は、次のとおりです。
① 権利関係  14問(民法ほか)
② 宅建業法  20問
③ 法令制限  8問(都市計画法ほか)
④ その他分野 8問(需給実務ほか)

「民法」は、①権利関係に属しており、内訳は次のとおりです。
民  法   10問
・借地借家法  2問
・区分所有法  1問
・不動産登記法 1問

民法の勉強法

3|民法の勉強法|解説書の読み方

解説書は『規定・条文の解説書』

宅建民法の試験問題は、ほとんどが「民法の規定及び判例によれば、正しい(または誤っている)ものはどれか」というように出題されます。「民法の規定」というのは「民法の条文」のことで、判例というのは「最高裁判所の見解」のことです。

試験問題が「民法の規定によれば~」と言っている以上(判例はひとまず置いて)、みなさんは、民法の規定・条文を勉強しなければなりません。
そこで、宅建民法用の『市販の解説書』は、初心者向けに、民法の規定・条文をわかりやすく解説しているわけです(すべてが、わかりやすく解説しているかは疑問ですが……)

「規定・条文」と言うと、みなさんにスルーされてしまうのですが、しかしながら、そもそも宅建士試験は「規定・条文の試験」、つまり「法律の試験」ですからね。
民法、借地借家法、不動産登記法、宅地建物取引業法、都市計画法、建築基準法などなど、ほとんどが法律です。

規定・条文の趣旨を理解

さて「民法を勉強する」というのは、「民法の規定・条文を理解する」ということです。規定・条文が定められるに至った「趣旨やその理由を理解する」のです。決して「規定・条文を覚える」というのではありません。覚えるのは、趣旨・理由を理解してからです。

どの規定・条文も「制度趣旨や理由があって定められている」のですから、これらを理解しないことには、民法を理解することはできません。この点を十分に意識して、民法を学習していきましょう。

 原則・例外、要件・効果などをおさえる

『市販の解説書』を読むときには、まずは4つのポイントを理解しましょう。民法理解に欠かせないもっとも基本的なポイントです。

1 用語の意味
2 原則と例外
3 要件と効果
4 本人と第三者との権利関係

これだけに限られるわけではありません。ほかにも、成立要件・性質・場合分け・種類など、数多くあります。

用語の意味を理解する

民法理解の第1歩は、用語の意味を理解することです。
たとえば「虚偽表示とは?」「物上保証人とは?」「契約不適合とは?」などなど……。
まず、こういった民法用語の意味を理解しなければなりません。

『市販の解説書』も用語の意味については、ほとんど説明しています。
ただ、宅建試験では「用語の意味」自体を問う問題は出題されませんので、用語の意味を「1字1句」暗記する必要はありません。おおよそのイメージで十分です。
たとえば、「詐欺」というのはだまされて契約すること、「錯誤」は勘違いして契約すること、という程度です。

まずは「用語の意味」を理解することが、民法マスターの第1歩です。

原則と例外|必ず試験に出る

民法の規定・条文は、基本的には「原則と例外」で構成されています。
原則と例外は非常に重要で、よく試験に出ます
『市販の解説書』では「原則と例外」を説明していますので、絶対におさえなければなりません。
たとえば、「原則として」とか、「ただし、次の場合は~」などの記述があったら、要注意です。

「原則と例外」の理解も、民法マスターの第1歩です。

要件と効果|必ず試験に出る

また、民法の規定・条文は、基本的には「要件と効果」で成り立っています。要件と効果も非常に重要で、必ず試験に出ます

『市販の解説書』は、「要件とその効果」について説明していますので、必ずおさえましょう。

ただ『市販の解説書』の多くは、「要件と効果」を1つの文章で解説していますので、初心者の人には、わかりにくくなっています。
やはり、「要件は~」「その効果は~」というように分けて解説したほうがわかりやすいのです。

たとえば、表見代理が成立するには、次の「要件」が必要です。
1|本人が代理権授与の表示をしたこと
2|表見代理人が代理権の範囲内の行為をしたこと
3|相手方が善意無過失であること
こうした「要件」があれば、表見代理が成立します「効果」。

試験では、この「要件」を正確に理解できているかが問われます。
たとえば、「相手方が善意のときでも表見代理が成立する」という誤りの記述で、受験者をためすわけです。

「要件と効果」の理解も、民法マスターの第1歩です。

本人と第三者との関係|必ず出題

民法では、本人と第三者との権利関係も非常に重要です。
民法は「私人間契約の紛争解決マニュアル」なのですが、法律関係とか契約では「本人と第三者の権利関係」がしばしば紛争となり、そして、本人と第三者の利益は常に対立するのです。
この対立・紛争を解決するマニュアルが民法というわけです。

たとえば、相手方にだまされて契約した詐欺の場合について、『市販の解説書』はおおむね次のように記述しています。

だまされて結んでしまった「詐欺による契約」は取り消すことができる。しかし、詐欺を理由に契約を取り消しても、その取消しは「善意無過失の第三者」には対抗することができない。

民法では、こうした第三者に対する関係を理解しなければなりません。「本人」と「第三者」が対立したときに、民法はどういう趣旨・理由で一方を保護しているのか、ここが試験に出るのです。

「本人と第三者との権利関係」を理解することも、民法マスターの第1歩なのです。

以上、4つのポイントを常に意識して学習していきましょう。民法で安定して高得点するための最小限のポイントです。
これを意識して読むのと、ただ単に覚えようとして読むとでは、理解力の深さに格段の差が生じるのです。

 趣旨・理由を理解する方法

暗記では通用しない事例問題

試験問題の多くは事例問題です。たとえば「AはBから建物を賃借し、Bの承諾を得て、当該建物をCに転貸したが、……」というように、具体的な事例で出題されます。

事例問題では「暗記に重点を置いた勉強」は通用しません。
民法の規定・条文の趣旨・理由を理解してはじめて、応用力が養われて、こうした事例問題に対処できるのです。

最強の勉強法「ので・から説」

ここで紹介する「ので・から説」は、論理的思考力を「確実に身につける」最強の方法です。
民法だけではありません。この勉強法はすべての法律に適用できます。簡単な勉強法なので、あなたも今日からすぐに使えます。

「ので・から説」って?

この「民法攻略法」は、かつて民法がなかなか理解できないで苦しんでいた私が、弁護士をしている先輩から教わったものです。

「ので・から説」というのは、「~~ので、……である」「~~だから、……である」などの記述から「趣旨・理由」を理解する勉強法をいいます。

「原則・例外」「要件・効果」「第三者との権利関係」などの解説を読むときには、次のような記述に注意するのです。
~~ので、……である」
~~だから、……である」
~~のため、……である」
~~。そうすると、……である」
~~。したがって……である」
「……である。なぜなら~~

この「~~の部分」が、まさに「趣旨・理由」を説明した最も重要な個所なのです。
「~ので」「~だから」「~。したがって」「~のため」など、これらを総称して「ので・から説」といいます。

たとえば、次のような解説をみてみましょう。

代理人は行為能力者である必要はない。原則として制限行為能力者でも代理人になることができる。未成年者や被保佐人、被補助人などの制限行為能力者でも代理人となることができるのであって、制限行為能力者がした代理行為は、制限行為能力を理由としては取り消すことはできない。
「なぜ、判断能力の不十分な者が、専門的知識・経験を必要とする代理人になれるのだろうか?」
それは、代理行為の効果はすべて本人に帰属するからである。代理行為をしても、代理人自身はその効果を一切受けないため、代理行為によって制限行為能力者が不利益を受けることはないからである。

「原則」について、その「趣旨・理由」が下線部分でキチンと言及されていますね。ここが重要なのです。

むつかしく考えないこと

論理的な勉強といっても、むつかしく考えることはありません。宅建民法は、司法試験や国家公務員上級試験などと比べて、それほど「緻密な論理性」が要求される科目ではないのです。

要するに、「ので・から」に注意しながら読んでいく、というだけのことです。
「ので・から」を手がかりに、「なるほど、そういうことか」と趣旨・理由を理解する。民法の勉強はこの積み重ねです。「ココが重要だろう」と当て推量で解説書を読んでいては、永遠に民法をマスターすることはできません。

どんな解説書がいいか

以上の理由により、趣旨・理由がキチンと書いてある解説書を選ばなければなりません。

「原則・例外」「要件・効果」「第三者との権利関係」などの解説について、「~ので、……である」「~だから、……である」「~。したがって、……である」というような記述が多い『解説書』を選ぶようにしましょう。
このような記述が少ない、あるいはほとんどないような『解説書』は、実は『要点ブック』であって、『解説書』ではないのです。

『解説書』の選択は、よくよく注意してください。

 最高裁判所も「ので・から説」

効果は実証済み

「ので・から説」が法律の現場でどのように使われているか、論より証拠、最高裁判所の判例で確認してみましょう。

試験では、平成20年(2008)から令和5年(2023)まで連続して16年間、判決文問題が1問出題されています。ただし、昨年度(令和6年|2024)には、判決文問題は出題されませんでした

まずは、直近3年間の判決文問題をみておきましょう。
試験では、判決文を手がかりに【問1】から【問4】の正・誤を判断していくことになります(【問1】から【問4】の選択肢は省略)
なお、便宜上[テーマ|論点]を付記しています。

判決文は読みづらいものですが、ここでは「ので・から説」で判旨が理論構成されていることを確認するだけですから、ザーッと目を通すだけで十分です。

下線部分が「ので・から説」で趣旨・理由を記述した個所
赤字部分が結論の記述、青字部分は注意する記述・キーワードです。


令和5(2023)年

[テーマ|論点] 遺産分割|賃料債権
【問 1】 次の1から4までの記述のうち、民法の規定、判例及び下記判決文によれば、誤っているものはどれか。
(判決文)
遺産は、相続人が数人あるときは、相続開始から遺産分割までの間、共同相続人の共有に属するものであるから、この間に遺産である賃貸不動産を使用管理した結果生ずる金銭債権たる賃料債権は、遺産とは別個の財産というべきであって、各共同相続人がその相続分に応じて分割単独債権として確定的に取得するものと解するのが相当である。


令和4(2022)年

[テーマ|論点] 物権変動|対抗要件
【問 1】 次の1から4までの記述のうち、民法の規定、判例及び下記判決文によれば、正しいものはどれか。
(判決文)
所有者甲から乙が不動産を買い受け、その登記が未了の間に、丙が当該不動産を甲から二重に買い受け、更に丙から転得者丁が買い受けて登記を完了した場合に、たとい丙が背信的悪意者に当たるとしても、丁は、乙に対する関係で丁自身が背信的悪意者と評価されるのでない限り、当該不動産の所有権取得をもって乙に対抗することができるものと解するのが相当である。


令和3(2021)年

[テーマ|論点] 賃貸借|敷金
【問 1】 次の1から4までの記述のうち、民法の規定、判例及び下記判決文によれば、正しいものはどれか。
(判決文)
賃貸人は、特別の約定のないかぎり、賃借人から家屋明渡を受けた後に前記の敷金残額を返還すれば足りるものと解すべく、したがって、家屋明渡債務と敷金返還債務とは同時履行の関係にたつものではないと解するのが相当であり、このことは、賃貸借の終了原因が解除(解約)による場合であっても異なるところはないと解すべきである。

その他の判決文問題(7年間)


4|民法の合格対策

 まず民法から始めよう

民法からスタート|合格の鉄則

どの科目から勉強すべきでしょうか。
民法か宅建業法か、いろいろ意見もありますが、民法から始めるのが合格の鉄則です。民法は私法の基礎科目だからです。
宅建専門校の講座が「最初に民法を講義する」のも、この理由からです。

こうして民法の基礎が理解できると、それほど苦労せずに「得点源」である宅建業法もマスターすることができるのです。

民法の次に宅建業法を

最初に宅建業法から、とすすめる向きもありますが、おすすめできません。やさしいから、出題数が20問もあるから、という理由です。
しかし、宅建業法は得点しやすい科目ですから、短期間で合格点に達することはむつかしくありません。早く始めなければならない理由はないのです。

民法は勉強するテーマが非常に多いうえに、短期間で一気に力がつく科目ではないので、後回しにすればするほど不利になります。
だからこそ、民法から始めるべきなのです。

 開始時期

早ければ早いほど有利

範囲が広い民法を合格レベルにもっていくには、どうしても「一定の勉強期間」が必要です。
できるだけ早い時期にとりかかるのが正しい合格対策といえます。遅く始めて有利になることは決してありません。

できれば3月には始めよう!

2月以前から始めた人は好スタートですが、まだの人は今すぐ始めましょう。スランプになる時もありますから、スタートは早ければ早いほどいいのです。できれば3月には開始したいものです。

リベンジの人は4月からでも大丈夫でしょうが、途中で何があるか予測できないのが人生です。余裕をもってスタートしましょう。

 過去問レベルの勉強を

なかなか手強い民法ですが、ではどんなレベルの勉強をすればいいのでしょうか?
ズバリ、過去問のレベルです。宅建民法は、民法学の勉強ではありませんから、学説や判例について細かくやる必要はありません。

実際に出題された過去問レベルの勉強をすればいいのです。基礎知識から応用まで、範囲においても、内容の深さにおいても、過去問が最良のテキストです。



追伸|図を書くクセを
『解説書』を読むときや過去問練習をするときに、「A、B、C」が登場する事例が出てきたら、必ず用紙に「A→B→C」と関係図を書く習慣をつけるようにしてください。事実関係を理解して、正解するためです。頭ん中だけでイメージしてテキストを読んだりしていては、正解できません。

賃貸人A、賃借人B、転借人C、Aの債権者Dなどとオールキャストが登場すると、図を書かないことには完全にお手上げ。本試験の2時間という「限られた時間」では、簡単な事例問題であっても、最初に問題を解く際も、後から見直し作業をする際も、図がないと、ちょっとしたパニックにおそわれます。

本試験では、問題用紙の余白(常にタップリあるわけではありません)に書いて解くことになりますので、小さなスペースでも書けるように、今から慣れておきましょう。
A、B、Cの立場や権利の流れなどが一目してわかりさえすればいいのですから、自分流の図でかまいません。

1回で合格する決意で取り組みましょう。
ご健闘を祈ります。

長文のおつきあい、お疲れさまでした。