|更新日 2024.02.10
|公開日 2017.05.14
1|民法は学習効率が悪い
宅建試験で出題される民法は、宅建業法や法令上の制限にくらべて、内容の点からも範囲の点からも、学習効率が最も悪い科目といえます。
なぜでしょうか?
まずは現状を把握してみましょう。
1 出題数と合格点
宅建試験は、四肢択一式の筆記試験(2時間)で50問出題されます。
50問の内訳はこうなっています。
① 権利関係 14問(民法ほか)
② 宅建業法 20問(主に宅建業法)
③ 法令制限 8問(都市計画法ほか)
④ その他分野 8問(需給実務ほか)
①の権利関係は4科目で、その内訳は次のとおり。
・民 法 10問
・借地借家法 2問
・建物区分所有法 1問
・不動産登記法 1問
さて、宅建試験は何点とれば合格できるのでしょうか。
過去20年間の統計をみると、合格点は30~36点です。36点は3回だけという事実からみて、かつては36点とれば合格はほぼ間違いない状況でした。
ところが、平成30年度の合格点は37点で、これは過去唯一の最高点です。
前年の平成29年(2017年)の合格点35点から、一挙に2点もはね上がったのです。
問題がやさしすぎたのでしょうか、受験者のレベルが高かったのでしょうか。
いずれにせよ、従来の認識では考えられない点数でした。
※ 詳細はこちらから。
RETIO|不動産適正取引推進機構
では、民法は何点とればいいのでしょうか。
たとえば、上記の②③④で8割得点できた場合(これも結構ハードルは高く相当の努力を要しますが……)28点ですから、これだけでは合格できませんね。
9割得点できたとしても32点ですから、やはりこれだけでは不合格です。
②③④の合計36問で、たった4問の不正解なのに、ほかの科目でさらに得点しなければ合格できないのですから、思いのほか厳しい試験なのですよ。
②③④を全問正解すれば36点(税法2問含む)で、①権利関係の4科目が0点でも合格できます。しかし、ここは現実的に考えて、
「85%の正解率」で30点
「80%の正解率」で28点 ですね。
30点とれば、あと6点でほぼ合格です。
つまり、ほかの科目で85%正解した上で、民法は10問中6点以上は確実に得点できるようにする必要があるわけです。
今回の「合格点37点」を考えると、合格者のほとんどは民法では6点以上はとっていたはずです。
これに「借地借家法」や「不動産登記法」などで1~2点加えれば、十分合格圏です。
民法はだれもが苦労する科目ですが、ぜひとも6点以上!をめざしましょう。
効率の悪い民法こそが合否のカギをにぎっているのです。
2 範囲が広く、論点も多い
たとえば、試験範囲(条文数)と出題数をみると、宅建業法は条文数(施行令・規則含む)が約100条で、出題数は20問。
民法は条文数約1000条で、出題数は10問。
・100条 20問
・1000条 10問
宅建業法と比較すると、民法は効率のよくない科目だということは納得ですね。単純に数字だけみても、20倍も効率が悪いですね。
それに、宅建業法なんかは勉強したテーマがほとんど出題されますので、とくに的を絞り込む必要もありません。
民法は約1000条全部を勉強するわけではないのですが、それでも範囲は広すぎます。
さて、平成1~令和1年の31年間で民法で出題された論点・テーマは、出題数により、AA~Eの6グループに分類できます。
*ここでは選択肢の1肢として出題されたものは算入していませんので、実際の出題数は少しだけ多くなります。
【AAクラス|20問以上】
[代理](25問) [抵当権](24問)
【Aクラス|15~19問】
[意思表示|虚偽表示・錯誤・詐欺]
[物権変動/対抗問題]
[連帯債務・保証債務・連帯保証]
[売買][賃貸借][不法行為]
【Bクラス|10~14問】
[時効][所有権|共有]
[契約解除][法定相続分・遺産分割]
[遺言・遺留分]
【Cクラス|5~9問】
[制限行為能力][停止条件]
[所有権|相隣関係][担保物権|混合]
[根抵当権][債務不履行]
[債権譲渡][弁済][請負]
[条文問題][相続の承認・放棄]
【Dクラス|3~4問】
[同時履行の抗弁権][相殺]
[危険負担][贈与][使用貸借]
[委任][相続|総合][親族関係]
【Eクラス|1~2問】
[占有権][地役権][留置権]
[先取特権][質権]
[金銭債権][債権者代位権]
[善管注意義務][詐害行為取消権]
[代物弁済][買戻し][組合契約]
[事務管理][不当利得]
[権利の取得・消滅]
[契約終了事由][債権の発生原因]
[所有権の移転・取得]
[民法の指導原理]
このように出題テーマは、民法総則から相続編まで全範囲に及んでいます。
AA、A、Bクラスだけでも相当のボリュームです。Cクラスを加えると、民法1科目だけでかなりの時間・エネルギーを要します。
10問という出題数から考えると最も学習効率のよくない科目ですね。
何といってもAA、A、Bクラスは、いわば論点中の論点ですから、どうしても力を入れることになります。Cクラスも無視できませんね。
それぞれの内容も深く、資格受験校でも市販テキストでも当然に力を入れて解説しています。
範囲がきわめて広く、論点が非常に多い科目なのです。
3 出題される論点は一部
これらの論点が毎年全部出題されるわけではなく、新出問題もあります。
平成29年度の新出問題は、10問×4肢=40選択肢のうち、15肢(38%)、30年度は16肢(40%)もありました。
また、平成24年には代理が2問出たり、直近の平成29年では法定相続分関係が2問出たりと、偏って出題されることもあります。安易な出題予想は禁物ですね。
さて、令和1年の出題は次のようになっていました。
【AAクラス】
[代理][抵当権]
【Aクラス】
[対抗要件2問][売買][不法行為]
【Bクラス】
[時効][遺産分割]
【Cクラス】
[弁済][請負]
【Dクラス】出題なし
【Eクラス】出題なし
やはり幅広く出題されていますね。
一方で、Aクラスの[意思表示][連帯債務・保証債務・連帯保証][賃貸借]は出題されませんでした。
一生懸命勉強したのに、出ないテーマも結構あるんです。
ガッカリですね。
2|85人が不合格になる試験
宅建試験の合格率は、例年15%くらいです。
いいかえれば、100人受けて85人が不合格になる試験なのです。
この現実を真剣に受け止めて、気を引き締めなければなりません。
合格体験記には1ヵ月で合格したとか、民法は勉強せずにほかの科目で満点とって合格したとか、そんな記事をたまに見かけます。
しかし、簡単に合格できるなどと惑わされてはいけません。
チョコチョコっと勉強して合格できるような国家試験ではありません。
民法6点以上といっても「すぐに」とれるものではないのですよ。
基本をマスターするだけでも、すごく時間がかかる科目なのです。
あなたは15%の合格組?
まずは、テキストを1ページ1ページ、1行1行ていねいに学習するところからです。
最初は時間がかかりますが、この地道な取り組みが合格への第一歩です。
初心者の人は早めに勉強を開始する必要があります。効率が悪い科目だからこそです。遅く始めて利益になることはありません。
これは一般論ですが、仕事に追われる初心者の人が、5月のゴールデンウィーク明けから民法を始めて、果たしてマスターできるでしょうか?
厳しいと思います。もちろん時間のある人なら十分間に合うでしょうが……。
人それぞれの環境がありますので一概には言えませんが、遅くとも3月~4月頃には始めていることをお勧めします。
出遅れた人は、いまから始めましょう。
1回で合格する決意で取り組みましょう。もう1回勉強するのは、時間とエネルギーの浪費ではないでしょうか。
ご健闘を祈ります。
(この項終わり)