|更新日 2023.2.25|公開日 2017.7.14

1|贈与の意味

 友人の結婚記念に洋食器セットを「プレゼントする」とか、難民支援・食糧支援などの慈善団体に「寄付をする」とか、実業家が、公共団体に土地を「寄贈する」というように、無料で物品や金銭を与えることは、日常よく見聞きすることですね。

意 味 タダで与えること
 贈与契約というのは、贈与者がある財産を相手方(受贈者)無償=タダ(代金などの対価を受けとらないで与えることを約束し、相手方が同意して成立する契約をいいます。
「贈与する」「受け取る」という当事者の合意だけで成立する「諾成契約」なので、口頭であろうと書面でなされようと契約として法的効力が生じます。

 贈与者にはどのような義務があるか、受贈者にはどのような権利・義務があるかを確認しておきましょう。

2|贈与者の義務

 1 履行義務
 無償であっても、贈与者は、契約によって負担した義務を「債務の本旨」に従って履行しなければなりません。目的物の引渡しだけでなく、不動産における所有権移転登記、債権譲渡における通知などの「対抗要件を備えさせる行為」もする必要があります。

 2 保存義務|善管注意義務
 贈与の目的物が、土地・建物のような「特定物」であるときは、贈与者はその引渡しをするまで、「契約その他の債権の発生原因および取引上の社会通念に照らして定まる」善良な管理者としての注意=善管注意をもって、その物を保存しなければなりません。
 善管注意よりも軽い「自己の財産におけるのと同一の注意」では足りません。

 3 引渡義務  
 贈与者は、贈与の目的とした物や権利を「特定した時の状態」で引き渡し、または移転することを約したものと推定されます。贈与は、対価を要求しない無償契約なので、「負担付贈与」でない限りは、現状のまま贈与するのが、贈与者の通常の意思と考えられるからです。
 したがって、贈与した建物に「しろあり被害」とか「雨漏り」などの欠陥が判明しても、それを知らなかった贈与者が、その欠陥について担保責任を負うことはありません。対価を要求する有償契約である売買などよりも、責任が軽減されているのです。

3|書面によらない贈与・書面による贈与

 贈与には「書面によらない贈与」と「書面による贈与」がありますが、大きな違いは、解除です。

 書面によらない贈与の解除

原 則 いつでも解除できる
 口頭でなされようと書面でなされようと「契約が有効に成立」すれば法的効力が生じ、当事者は互いに契約に拘束されます。自己都合で一方的に契約を解除することは許されません。

しかし、口約束による贈与、つまり「書面によらない贈与」は、当事者がいつでも解除することができます。気が変わったり都合が悪くなれば、いつでも解除できるわけです。
 というのも、口約束などで贈与する場合には、軽率に贈与の約束をしてしまうことも多いため、解除できる余地を残したのです。

例 外 履行の終わった部分は解除できない
 ただし、「書面によらない贈与」であっても、「すでに履行の終わった部分」については、解除することはできません。すでに贈与の意思が明確になっているからです。

注 意! 「履行が終わった」とは  
 不動産の贈与が「書面によらないもの」(口頭の約束)であっても、引渡しか、または登記の「どちらか一方」があれば「履行が終わった」とされます(最判昭40.3.26)。たとえば、不動産の所有権移転登記がなされたときは、「引渡しがなくても」、贈与は「履行を終わった」のであり、贈与者は、もはや契約を解除することはできません。また、引渡しがあれば、所有権移転登記がなされなくても同様です。

 書面による贈与の解除

 「書面によってなされた」贈与は、履行の前後に関係なく、自己都合で解除することはできません。
 贈与の意思を書面にする場合は、贈与者が慎重に判断した結果であり、贈与の意思が明確にされているからです。

4|負担付贈与・死因贈与

 負担付贈与

意 味
 負担付贈与というのは、たとえば、AさんがBさんに家屋を贈与する際に、受贈者Bさんに対して、「私の生活の面倒をみること」というように、契約の一部として、贈与者が「受贈者に一定の義務を負担させる贈与」をいいます。したがって、受贈者が「その負担を履行しないとき」は、贈与者は、債務不履行を理由に契約を解除することができます(最判昭53.2.17)

注 意! 負担付贈与の担保責任  
 負担付贈与では、贈与財産に契約の内容に適合しない契約不適合があるときは、贈与者は負担の限度で、売主と同様に「担保責任」を負います。この負担が、実質的には売買と同じように対価的関係にあるからです。
 たとえば、贈与した家屋に一部損壊・雨漏りなどの「瑕疵」があれば、贈与者は課した負担の限度(生活の面倒をみる限度)において、売主と同じく担保責任を負うこととなるわけです。

 死因贈与

意 味 死亡による贈与契約
 死因贈与というのは、「自分があの世へいったら熱海の別荘をあげるよ」と約束するように、贈与者の死亡によって効力を生じる贈与契約をいいます。

性 質 贈与契約である
 死因贈与は「贈与」とあるように、贈与者・受贈者双方の合意による「贈与契約」として行われます。
 死因贈与と同じような形態に「遺贈」がありますが、遺贈は、贈与者の一方的な意思表示による遺言という「単独行為」として行われます。「契約」か「単独行為」かが両者の相違です。

効 力 遺贈と同じ
 ただ、死因贈与も遺贈も、贈与という点では実質的には同じなので、死因贈与には「遺贈に関する規定」が準用されます。たとえば、遺贈では「遺言者は、いつでも、遺言の全部または一部を撤回することができる」とされている(1022条)ので、「書面による死因贈与」であっても(負担付死因贈与などの特段の事情がある場合を除いて)、贈与者はいつでも贈与を撤回できます。
 死因贈与する土地を後に、第三者に遺贈することもできるし、遺言によりいつでも死因贈与を撤回することもできます。 



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