|更新日 2023.2.25|公開日 2017.9.25
1|請負の意味
意 味
請負というのは、建設会社が注文を受けて住宅を建築するように、請負人が「仕事を完成する」ことを約束し、注文者がその「仕事の結果」に対して報酬を支払う約束をする契約です。当事者の合意のみで成立する諾成契約です。
注意したいのは、請負は「仕事の完成」を目的とする契約であるということです。
建築などの「有形的な労務」であろうと、輸送などの「無形の労務」であろうと、請負は、労務を提供して仕事を完成することが目的であって、労務の提供が目的(委任・雇用など)ではないので、請負人がいくら頑張って労務を提供しても「仕事が完成」しなければ、債務を履行したことにはならないのです。
請負の目的は「仕事の完成」なので、自ら労務を提供する必要はなく、一定の例外を除いて、下請負も許されます。
宅建士試験では「建物の建築請負」が中心ですので、以下これに焦点を当ててポイントを確認しておきましょう。
2|報酬の支払い
1 報酬の支払時期
引渡しを必要とする場合
住宅の建築のように、完成後に引渡しを必要とする請負の場合には、報酬は、目的物の引渡しと同時に支払う必要があります。つまり、請負人の「目的物引渡債務」と注文者の「報酬支払債務」とは、同時履行の関係に立ちます。
引渡しを要しない場合
一方、建物の修繕・増改築(リフォーム)などのように、引渡しを要しない請負の場合には、報酬は「仕事の完成後」でなければ請求できません。後払いですね。それとも、リフォームしないうちから料金払います?
もともと請負は「完成した仕事」に対して報酬を支払う契約なので、仕事を完成させることが先履行の義務なのです。
2 利益割合に応じた報酬
請負では「仕事が完成」しない限り、報酬を請求できないのが原則です。しかし新民法は、仕事が完成しなくても「報酬請求ができる場合がある」ことを明文化(634条)しました。つまり──、
① 注文者の責めに帰することができない事由によって、仕事の完成ができなくなった場合において、または、
② 仕事の完成前に請負が解除された場合において、
「既になされた仕事」の結果のうち、可分な部分の給付によって注文者が利益を受けるときは、その部分を「仕事の完成とみなす」こととして、請負人は、その利益の割合に応じて報酬を請求することができるのです。
①は、注文者・請負人双方に帰責事由がない場合、または、請負人だけに帰責事由がある場合をいいます。したがって、注文者(債権者)だけの帰責事由によって完成できなくなったときは、危険負担の問題となり、請負人(債務者)は報酬の全額を請求できます。
②は、請負人の債務不履行を理由に解除された場合、および、注文者と請負人が合意解除した場合をいいます。
仕事が完成できなくても、注文者が利益を受けるときは、報酬が請求できることになった。
3|請負人の担保責任
1 原 則
請負人が、種類・品質に関して「契約の内容に適合しない」仕事の目的物を引き渡したときは、注文者は、請負人に対して契約不適合の担保責任として、以下の権利を行使することができます。
これは、売買における契約不適合の場合と同じです。
1 修補請求権
2 報酬減額請求権
3 損害賠償請求権
4 契約解除権
追完請求権(修補請求権)
引き渡された建築建物に「雨漏り」や「床の傾斜」など契約不適合があるときは、注文者は、履行の追完としてその修補を請求できます。
ただし、修補請求にも限界があって、不適合が重要でなく、修補に過分の費用を要するなど、取引上の社会通念に照らして修補が不能であると評価される場合は、修補請求はできません(412条の2第1項)。
報酬減額請求権
催告による減額請求
注文者が、相当の期間を定めて修補請求の催告をしても、請負人がその期間内に修補しないときは、注文者は「不適合の程度に応じて」報酬の減額を請求できます。
無催告減額
次の場合は、催告することなく直ちに報酬の減額請求ができます。
① 修補が不能
② 請負人が修補の拒絶意思を明確に表示
③ 催告をしても修補を受ける見込みのないことが明らか
④ 一定の期間内に修補しなければ契約目的を達成できない
損害賠償請求権
一般の債務不履行責任として、注文者は、①修補に代え、または、②修補とともに損害賠償請求ができます(415条)。
修補請求に代わる損害賠償請求
注文者は、修補が不能であるときや、請負人が修補の拒絶意思を明確に表示したときなどの場合には、修補に代わる損害賠償請求ができます。
この場合、注文者の損害賠償債権と請負人の報酬債権は同時履行の関係に立ちます。
つまり、注文者は(瑕疵の程度や当事者の交渉態度等を考慮して信義則に反すると認められるときを除いて)請負人から修補に代わる損害賠償を受けるまでは、報酬全額の支払いを拒むことができ、履行遅滞の責任も負いません(最判平9.2.14)。
なお、注文者の損害賠償債権により、請負人の報酬債権と相殺することもできます。
次の判例も確認しておきましょう。
|最判昭54.3.20
仕事の目的物に瑕疵がある場合、注文者は、瑕疵の修補が可能なときであっても、修補を請求せずに「直ちに」修補に代わる損害賠償請求ができる。
|最判平14.9.24
請負建物に「重大な瑕疵」があって建て替えざるを得ない場合、注文者は、請負人に対して「建替えに要する費用相当額」を損害として賠償請求ができる。
修補請求とともにする損害賠償請求
注文者は、契約不適合な箇所の修補を求めるとともに、仕事の完成が遅れたことなどにより生じた損害の賠償請求もできます。
契約解除権
催告による解除
注文者が、請負人に対して修補をするように催告したにもかかわらず、相当期間が経過しても修補しないときは、注文者は契約を解除することができます。ただし、契約不適合の程度が「軽微」な場合には、解除できません。
催告によらない解除
以下の場合は、直ちに解除できます。
① 修補が不能
② 請負人が修補の拒絶意思を明確に表示
③ 一部の修補が不能で、残存部分のみでは契約目的を達することができない
④ 修補の見込みのないことが明らか
2 例 外
次の場合には、請負人の担保責任は排除され、または軽減されます。
免責特約があるとき
請負においても、売買と同様に、当事者間で、担保責任を負わないとか軽減するなどの特約をしても有効です。
しかし、特約があっても、請負人が「知りながら告げなかった事実」については、担保責任を免れることはできません。
注文者の原因による契約不適合
契約不適合が、注文者の提供した「材料の性質」または「与えた指図」によって生じたときです。ただし、請負人がその「材料または指図」の不適当であることを「知りながら告げなかったとき」は、誠実義務を欠くものとして、担保責任を負うこととなります。
4|担保責任の期間制限
契約不適合の建物について、注文者がその不適合を知った時から1年以内にその旨を「請負人に通知」しないときは、注文者は不適合を理由として、請負人の担保責任に基づく上記の救済(修補請求など)を受けることができなくなります。
「引渡しを受けた時」から1年以内ではないので、要注意です。
引渡しを受けた後、不適合の存在を知らないまま1年が経過したら、担保責任の追及ができなくなるというのでは、注文者に酷だからです。
しかし、請負人が「引き渡した時」に、契約不適合について悪意または重過失であるときは、この期間制限は適用されません。このような請負人は、注文者に対する期間制限によって保護する必要はないのです。
時効による消滅
建物の引渡時から契約不適合による権利行使が可能となるので、引渡時から10年で、また不適合を知って1年以内に通知した場合は、注文者が不適合を知った時から5年で、修補請求権・報酬減額請求権等の権利は時効消滅します。
契約不適合を知った時から1年以内に請負人に通知しないと、担保責任追及はできなくなるよ。
5|請負の終了
請負は、仕事の完成・引渡しという契約目的の達成だけでなく、契約一般に共通する解除や担保責任に基づく解除によって終了します。
仕事完成前の注文者の解除
注文者は、請負人が「仕事を完成しない間」であれば、いつでも損害を賠償して契約を解除することができます。
請負は、注文者の求めに応じて、請負人が一定の仕事を完成させるのが目的なので、その後、何かの事情で、注文者がこの請負人には仕事を任せたくないと考えるようになったときには、ムリに継続させるよりも、むしろ「損害を賠償」させて、注文者が自由に請負を解除して、請負人を他の者に代えることができるようにしたほうが、双方にとって有益な場合もあるからです。
注文者の破産による請負人の解除
請負人は、仕事完成前でも、注文者が「破産手続開始の決定」を受けたときは、契約を解除することができます。
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