|更新日 2023.2.25|公開日 2017.8.10
1|適法な転貸借関係
まずは、適法な賃借権の譲渡、賃借物の転貸の法律関係をみていきましょう。
1 賃借権の譲渡・賃借物の転貸
賃貸人の承諾
賃借人は、賃貸人の承諾を得なければ、賃借権を譲渡したり、賃借物を転貸することはできません。これに反した場合、賃貸人は契約を解除することができます。
これが「民法の原則」です(612条)。
その趣旨は、賃貸借は、賃貸人が賃借人その人(支払能力など)を信頼して賃借物を貸す契約なので、「賃貸人の承諾なしに(無断で)賃借人が代わる」ことは、契約の中核である賃料の支払能力など、賃貸人の利害に重大な影響を与えるからです。
ただ、後述するように、この原則は判例により大きく緩和され、すでに確立した判例が形成されています。
承諾は誰にする?
賃貸人による承諾は、賃借人・転借人・譲受人のいずれに対して行っても有効です(最判昭31.10.5)。なお、1度なされた承諾は、賃借権の譲渡または転貸の「契約締結前」でも撤回することはできません(最判昭30.5.13)。
2 適法な転貸借の効果
直接履行義務
賃貸人の承諾を得て適法に、賃借人が賃借物を転貸した場合、転借人は「転貸借に基づく債務」を賃貸人に対して直接履行する義務を負うこととなります。
賃貸人と転借人の間では「賃貸借関係はない」のですが、転貸借によって賃貸人(賃借物の所有者)が不利益を受けることがないように、「実際に賃借物を使用収益している転借人」に、賃貸人への履行責任を負わせたのです。
転貸料の直接請求
この「直接履行義務」に基づいて、賃貸人は、転借人に対して転貸料を請求することができます(転貸料請求権)。賃貸人からの請求があれば、転借人は「転貸料」を直接に賃貸人に支払わなければなりません。
転借人の義務の範囲
転借人は、賃貸借に基づく「賃借人の債務の範囲」で、賃貸人に義務を負います。
つまり、
① 「賃貸借」における賃借人の債務の範囲、かつ、
② 「転貸借」における債務の範囲、
によって限定されます。
たとえば、最も重要な賃料債務についてみると──、
・賃借料が15万円、転借料が10万円のときは10万円
・賃借料が10万円、転借料が15万円のときも10万円、となるわけです。
2|土地賃借権の転貸・譲渡
賃借人は、賃貸人の承諾を得なければ、「賃借権を譲渡」したり、「賃借物を転貸」することはできません。
この「承諾が必要かどうか」について、土地の賃借人が、その賃借地上に所有する「所有建物」を賃貸する場合と譲渡する場合とで確認しておきましょう。
所有建物を賃貸する場合
「転貸」にはあたらないので、承諾は不要
土地の賃借人が、その「所有建物」を第三者に賃貸する場合、この賃貸について「土地賃貸人」の承諾は不要です。
なぜなら、「建物所有を目的」とする土地賃貸借では、「土地賃借人」が建物を建てて「自ら居住する」だけでなく、建物を「第三者に賃貸して賃借地を使用させる」ことは、「土地賃貸人」も当然に予想・容認しているものとみるべきであり、したがって「建物の賃貸に伴う」賃借地の使用は、賃借地の「転貸」にはあたらないからです。
所有建物を譲渡する場合
賃借権の譲渡なので、承諾が必要
一方、土地賃借人が、その所有建物を「第三者に譲渡する」ことは、同時に土地賃借権の譲渡を伴うこととなるので、特別の事情のない限り、賃借権譲渡について、土地賃貸人の承諾が必要とされます(最判昭47.3.9)。なにしろ「賃借人が交替」しますからね。
賃貸人の承諾を得て「土地賃借権が譲渡」されると、旧賃借人の地位は譲受人に移転し、旧賃借人は賃貸借関係から離脱します。以後、土地の新しい賃貸借関係は、賃貸人と譲受人(新賃借人)間で存続することとなります。
3|無断譲渡・無断転貸したら即解除?
原 則 契約を解除できる
賃借人が、賃貸人の承諾なしに(無断で)第三者に賃借物の使用収益(転貸・賃借権譲渡)させたときは、賃貸人は契約を解除することができます(催告は不要)。これが原則です(612条2項)。
無断譲渡・無断転貸は「賃貸人に対抗できない」ため、賃貸人は、賃借人との契約を解除しなくても、賃借権の譲受人・賃借物の転借人に対して、所有権に基づいて賃借物の返還を請求し、また、不法行為による損害賠償を請求することができます。
例 外 判例による原則の緩和
しかし判例は、この原則を緩和し、契約の解除権を制限してきました。無断だからといって必ず解除できるわけではないのです。
信頼関係破壊の法理|解除権の制限
賃貸人の承諾を得ずに、賃借人が、第三者に賃借物の使用収益をさせた場合でも、「賃貸人に対する背信的行為と認めるに足りない特段の事情がある場合」には、「無断譲渡・無断転貸を理由として」契約を解除することはできません(最判昭39.6.30ほか多数)。
賃貸借は相互の信頼関係を基礎とする継続的契約なので、その信頼関係を裏切って「賃貸借の継続を著しく困難にするような背信行為」があった場合に解除できるのです。
この考え方は「信頼関係破壊の法理(背信行為の理論)」として、すでに確立した判例となっています。
賃貸人に無断で賃借物を第三者に使用収益させても、「賃貸人に対する背信的行為と認めるに足りない特段の事情がある場合」は、契約解除はできないよ。
背信行為なしとされた場合の法律関係
無断譲渡・無断転貸であっても、それが背信行為にあたらないとして「契約解除が認められない」場合には、賃貸人の「承諾があった場合と同様」の法律関係が認められます。
背信行為ありとされた場合の法律関係
無断譲渡・無断転貸が背信行為と認められて「契約が解除された」場合には、賃借権の譲受人や賃借物の転借人は、賃貸人に対してそれぞれの権利を主張することができず、賃貸人からの「賃借物引渡請求」に応じなければなりません。
信頼関係破壊の法理は「賃貸借の債務不履行の場合」にも採用されています。つまり「債務不履行があった」というだけでは解除できず、相互の信頼関係を破壊したといえる程度の債務不履行でなければ解除できないのです。
判例は「賃料不払の一事をもっては、まだ賃貸借の『基礎たる相互の信頼関係』を破壊するものとはいいがたく、これを理由に賃貸借を解除することは許されない」としています(最判昭43.6.21)。
4|賃貸借と転貸借の終了
1 賃貸借の終了
賃貸借の終了事由は下記のとおりです。
1 存続期間の満了
契約で10年・20年などの存続期間を定めた場合、更新がない限り、その期間満了により終了します。
2 解約申入れによる終了
存続期間の定めがない場合、当事者はいつでも「解約の申入れ」をすることができます。解約申入れから一定期間(土地1年、建物3か月)経過後に賃貸借は終了します。
3 賃借物の全部滅失等
賃借物の全部が滅失するなどして、賃借物を使用収益できなくなった場合には、賃貸借は当然に終了します。賃借人に使用収益させるという契約目的を達成できないからです。解除の意思表示さえ不要です。
4 契約解除による終了
賃貸人または賃借人が債務不履行をしたときは、相手方の契約解除により賃貸借は終了します。解除した効果は「将来に向かってのみ」生じます。契約のはじめにさかのぼる遡及的効果はありません。
なお、契約上の解除原因(債務不履行や義務違反など)があった場合でも、いまだ「信頼関係を破壊したとは認められないとき」、つまり背信性がない場合には解除は認められません。たとえば、1度きりの賃料支払いの遅延、きわめて軽微な改造などは、解除を認めなければならないような「背信性はない」とされます(最判昭27.4.25)。背信性があれば、催告なしに解除することができます。
2 転貸借の終了
転貸借は、賃貸借を前提に成立しているので、賃貸借が終了すれば「適法な転貸借」も終了します。したがって転借人は、転貸借を賃貸人に対抗することができなくなります。
しかし、賃貸借が終了したからといって、直ちに退去を強いられては、生活や経済活動の基盤として土地・建物を利用している転借人にとってあまりに不利益です。そこで、民法や判例は、次のように転借人を保護しています。
1 合意解除と転貸借
原 則 合意解除を対抗できない
「適法な転貸借」があった後に、賃貸人と賃借人が賃貸借を合意解除しても、この解除は転借人に対抗することはできず、転貸借は終了しません。そもそも承諾を与えて転貸借を認めていながら、「後になって」賃貸借を合意解除して転借人の権利を消滅させることは信義則上許されないからです(613条3項)。
例 外 特段の事由があれば対抗できる
ただし、転借人に不信な行為がある(たとえば、転借人が指定暴力団関係者である)など、「合意解除することが信義誠実の原則に反しない」ような特段の事由がある場合は、合意解除を「転借人」に対抗することができます。これは確立した判例です(最判昭38.2.21ほか多数)。
適法な転貸借の場合、賃貸借を合意解除しても、原則としてその合意解除を転借人に対抗できず、転貸借は終了しないからね。
民法は、適法な転貸借の場合を規定していますが、判例は、無断転貸の場合も同様に扱っています。「土地の賃借人が、賃貸人の承諾を得ることなく土地を他に転貸しても、転貸について賃貸人に対する背信行為と認めるに足りない特段の事情があるため、賃貸人が賃貸借を『解除することができない』場合に、賃貸人が賃借人と賃貸借を合意解除しても、『転借人』に対して合意解除の効果を対抗することができない」(最判昭62.3.24)。
2 債務不履行と転貸借
転貸借は終了
「適法な転貸借」がある場合でも、「賃料不払い」など賃借人の債務不履行を理由に賃貸借が解除されれば、賃借人は転貸人としての債務が履行不能となるため、賃貸借終了と同時に転貸借も終了します。そのため、転借人は、転借権を賃貸人に対抗することができず、賃借物を返還しなければなりません(最判昭36.12.21)。債務不履行があるのに解除を対抗できないとすると、賃貸人にとって酷な結果となるからです。
なお、この場合、賃貸人が賃貸借を解除するには、賃借人に対して催告すれば足り、「転借人」に通知等をして「賃料の代払いの機会」を与える必要はありません(最判平6.7.18)。
3 期間満了等による転貸借の終了
通知が必要
賃貸借が、期間満了または解約申入れによって終了するときは、賃貸人は、転借人に「その旨の通知」をしなければ、賃貸借の終了を転借人に対抗することができません(借地借家34条)。
これらの事由によって賃貸借が終了したからといって、「当然に」転貸借が終了するのではなく、かならず通知が必要です。転借人に退去の期間を与えるためです。
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