|更新日 2023.3.18|公開日 2017.07.18

1|抵当権の意味

 Aさんが念願のマンションを買うために、銀行からローンで 3,000万円を借りるとしましょう。銀行としてはこの 3,000万円を絶対に回収しなければなりませんから、Aさんの住むマンションに抵当権を設定します。
 返済が滞れば、このマンションを競売にかけてその競売代金から優先的に 3,000万円を返してもらおうというわけです。

意 味  このように抵当権というのは、債権者が、債権の弁済を確実に得るために、債務者の家または土地に設定して、弁済がないときに、家・土地を売って債権を回収する担保物権をいいます。

 民法は「抵当権者は、債務者または第三者が占有を移転しないで債務の担保に供した不動産について、他の債権者に先立って自己の債権の弁済を受ける権利を有する」(369条)と定めています。
 抵当不動産の「占有を移転しない」で、つまり、「債務者や物上保証人が抵当不動産をそのまま使って使用収益が認められている」という点が、「占有を移転する質権」と根本的に違います。

抵当権の設定,占有移さない

2|抵当権の性質

 抵当権の効力の及ぶ範囲

 抵当権は「建物や土地に設定される」のですが、建物や土地にはいろいろなものが付着しています。抵当権は、これらの付着物にもその効力を及ぼすのでしょうか?

 付加一体物に及ぶ
 抵当権の効力は、抵当不動産に付加して一体となっている付加一体物に及びます。
 付加一体物は、取りはずしが簡単であっても独立の存在を失って不動産所有権の内容になっているため付加した時期に関係なく、原則として抵当権の効力が及びます。

 たとえば、土地との関係では、石垣・敷石などは土地所有権の内容になるために、抵当権設定後に設置されたものであっても抵当権の効力が及びます。

ワンポイント  わが国の法制度では、土地と建物とは別々の不動産として扱われるために、双方が付加して一体となっている・定着しているからといって、土地に抵当権が設定されれば、そのまま建物にも抵当権の効力が及ぶ、ということは絶対にありません。


 従物|抵当権設定当時なら及ぶ
 従物というのは、「土地」に置かれた石どうろう・庭石、「建物」に備えつけられた畳・建具(雨戸・障子など)をいいます。抵当権設定当時に存在したこれらの従物については、「従物は、主物の処分に従う」(87条2項)とあるように、主物(土地や建物)の処分(抵当権の設定など)に従うものとして、抵当権の効力が及びます。

 従たる権利にも及ぶ
 建物への抵当権は、その「敷地の利用権」にも及びます。判例は、敷地の賃借人が自己の所有建物に抵当権を設定したときは、抵当権の効力は土地賃借権にも及ぶとしています(最判昭40.5.4)

 果実|債務不履行後から及ぶ
 抵当権は、債務者や物上保証人のもとに抵当不動産を置いて、その使用収益を認める権利なので、そこから生じる果実(天然果実・法定果実)に抵当権が及ぶとしたのでは、使用収益の意味がなくなります。果実に対しては、抵当権の効力は及ばないのが原則です。

 しかし、被担保債権について債務不履行があったときは、その後に生じた果実には抵当権の効力が及ぶとされ、抵当権者も果実を取得することができます。

 利息|満期の2年分
 利息については、原則として、満期のきた最後の2年分についてだけ抵当権の効力が及びます。抵当権は、債務者等がそのまま抵当不動産を占有してその使用収益が認められる権利なので、抵当権を設定した後も、別の抵当権者が現れる可能性があります。
 2年という制限を置いたのは、こうした後順位抵当権者など他の債権者の利益も保護する必要があるからです。

 したがって、その他の利害関係者がいないときには、この制限は不要なので最後の2年分を超えて抵当権を行うことができます。
 また、抵当権者が、債務不履行による「損害賠償請求権」を有する場合についても同様に、最後の2年分についてだけ効力が及びます。

 物上代位性と差押え

 [担保物権の性質・効力]で触れたように、抵当権には物上代位性があります。

 たとえば、債務者がその抵当不動産を売却したことによって売買代金を受けとる場合には、この売買代金に対して抵当権を行使することができます。

 ただし、物上代位によって優先弁済を受けるためには、債務者が受領する売買代金の払渡し前に必ず差押えをする必要があります。差押えが、代金等の払渡し前に限定されているのは、抵当権は「特定の抵当物」に対する権利であるのに、払渡し後の債務者の「一般財産」に混入した場合にまで抵当権の効力を認めてしまうことは、あまりに抵当権を優遇することとなり、適切ではないからです。

 なお判例は、差押えは、抵当権者自身が他の債権者に先立って最初にしなければならないとしています(最判平13.10.25)

 抵当権の物上代位性は、債務者が抵当不動産を「賃貸したときの賃料」にも及びますので、この点も注意してください。

 順位昇進の原則

 債務の弁済などによって、先順位の抵当権が消滅したときは、後順位の抵当権の順位が当然に(当事者の意思とは無関係に自動的に)繰り上がります。これを順位昇進の原則といいます。債務の弁済があって一番抵当権が消滅すれば、二番抵当権が当然に一番抵当権に昇進するわけです。

 抵当権の順位の変更

 抵当権の順位の変更というのは、一番抵当を二番抵当に、二番抵当を一番抵当にすることで、各抵当権者の合意によってすることができます。
 順位の変更は、抵当権者同士の順位が入れ替わるだけで債務者の利害には影響しないので債務者の承諾は不要です。しかし「差押債権者」や「転抵当権者」などの利害関係者があるときは、その承諾を得なければなりません。

 なお、順位の変更は、登記をしなければ効力を生じません。この登記は、第三者への対抗要件ではなく効力発生要件です。

 妨害排除請求権

 抵当物について毀損行為があると、債務の弁済期に関係なくその担保価値は減少し、債権が担保されなくなります。これは、抵当権そのものに対する侵害であって、抵当権も物権である以上、当然に、物権的請求権としての「抵当権に基づく妨害排除請求」を行使することができます。

3|抵当権の処分

意 味  抵当権の処分というのは、抵当権を被担保債権と切り離して、1個の財産として抵当権だけを取引の対象とすることです。抵当権者は、抵当権を譲渡したり、その順位を譲渡したり、また自分の債務の担保とすることができるわけです。

 抵当権の処分には、①抵当権の譲渡、②抵当権の放棄、③抵当権の順位の譲渡、④抵当権の順位の放棄、⑤転抵当の5パターンがあります。中でも、③・④が多く利用されていますので、まずはこれについて解説し、他は注意点のみ確認しておきましょう。

 抵当権の順位の譲渡・放棄

 抵当権の順位の譲渡または放棄は、抵当権の順位の処分なので抵当権者の間で行われます。

 「Aは、Bから 2,000万円を借りて甲地に一番抵当権を設定した後、さらにCから 1,000万円を借りて甲地に二番抵当権を設定した。その後、抵当権の実行によって甲地が競売され、1,500万円の配当がなされた」という例をみてみましょう。

抵当権の順位の譲渡

 順位の譲渡や放棄がない場合には、一番抵当権者Bが 2,000万円全額について、配当額 1,500万円から全額の弁済を受けますので、二番抵当権者Cはここからは弁済を受けられません。Cが優先弁済を受けるためには、Bから順位の譲渡を受けたり、Bの順位の放棄が必要です。

 順位の譲渡|順位が入れ替わる
 順位の譲渡は、先順位の抵当権者から後順位の抵当権者に対して行われます。
 たとえば、B→Cへ抵当権の順位が譲渡されると、Cが一番抵当権者、Bが二番抵当権者となります。したがって、Cは、競売代金 1,500万円から優先的に債権全額の 1,000万円、Bにはその残額 500万円が配当されます。

 順位の放棄|同順位になる
 順位の放棄も、先順位抵当権者が、後順位抵当権者に対して行います。
 上例で、B→Cへ抵当権の順位が放棄されると、BとCは同順位になります。したがって、配当額 1,500万円は、B・Cの債権額に比例して(2000:1000=2:1で)分配され、Bに 1,000万円、Cに 500万円が配当されることになります。

 転抵当

 転抵当というのは、抵当権の上に抵当権を設定するものです。たとえば抵当権者が、第三者から借金をする場合に、第三者の貸金債権のために自己の抵当権を担保とするというように。

 転抵当権も物権ですから、第三者にそれを主張するためには登記(付記登記)が必要です。また、転抵当の設定は、抵当債務者にも利害関係があるので、抵当債務者に通知するかその承諾がないと、転抵当権者は抵当債務者に転抵当権を対抗することができませんし、保証人・物上保証人・抵当不動産の第三取得者にも対抗できません。

 抵当権処分の対抗要件

 順位の譲渡・順位の放棄は、転抵当と同様に、主たる債務者に通知し、または主たる債務者がこれを承諾しなければ、これをもって主たる債務者、保証人、物上保証人、およびこれらの承継人に対抗することができません。

4|抵当権消滅請求と代価弁済

 意味と趣旨

意 味  抵当権消滅請求というのは、抵当不動産を買い受けた第三取得者=買主が「指定した金額を支払うので抵当権を抹消してほしい」と抵当権者に対して請求することです。

趣 旨 抵当物の買主保護
 抵当権消滅請求の制度は、抵当不動産の所有権を取得した第三取得者=買主を保護するための制度です。

抵当権消滅請求

 請求権者|第三取得者(買主)のみ
 抵当権消滅請求ができるのは、抵当不動産の所有権を取得した第三取得者、つまり買主のみです。主たる債務者・保証人・連帯保証人(およびこれらの者の承継人)は、たとえ抵当不動産の第三取得者となった場合でも、抵当権消滅請求をすることはできません。
 なぜなら、これらの者は、抵当債務の全額を弁済すべき義務を負っているので、これに「満たない申出金額」で抵当権を消滅させることは認めるべきではないのです。

 抵当権消滅請求の時期
 抵当権消滅請求は、被担保債権の「弁済期到来前」でもすることができますが、差押え(競売開始決定)の効力が生じた後はすることができません。第三取得者は、競売による「差押えの効力が発生する前」に請求する必要があります。

 代価弁済

 抵当権を消滅させるもう1つの方法は代価弁済です。これは「抵当権者」が、第三取得者に対して請求するものです。抵当権者が、相当金額を第三取得者に請求して、第三取得者がそれに応じて抵当権者にその代価を弁済したときは、抵当権は第三取得者のために消滅します。

 コロナ禍の影響で、債務者による弁済が危うくなった場合に、抵当権者(債権者)が早く被担保債権を回収する手段として利用されます。

 抵当権設定後の短期賃貸借

 短期賃貸借(土地5年以内、建物3年以内)は、抵当権設定後に登記しても抵当不動産の競落人に対抗できるとしていた「短期賃貸借の保護制度」は廃止されて、対抗要件の原則どおり、抵当権設定登記後は、賃借権の登記の有無、期間の長短に関係なく、抵当権者に対抗できなくなりました。

 たとえば、抵当権設定登記後の「抵当建物の賃借人」は、短期賃貸借の登記があっても、抵当建物の競落人に対して賃借権を対抗することはできません。ただし、一定要件があれば保護されます。つまり「登記をした賃貸借」は、その登記前に登記をした抵当権を有する「すべての者」が同意をし、かつ、その同意の登記があるときは、同意をした抵当権者に対抗することができるのです。
 
 ただ、抵当権者が同意をする場合には、その同意によって不利益を受けるべき一定の利害関係人の承諾を得なければならないので、事実上、賃貸借を対抗することはきわめて困難になっています。

5|抵当建物使用者の明渡し猶予

 6か月の猶予期間
 前述のように、建物への抵当権設定登記後に、その抵当建物を賃借した「建物賃借人」は、その賃借権の登記の有無や貸借期間の長短に関係なく、対抗要件の原則(177条)により、建物賃借権を抵当権者に対抗することができません。

 そのため、建物抵当権が実行されれば、競売により賃借権が消滅し、建物賃借人は直ちに建物を明け渡さなければならなくなります。しかしこれでは、あまりに建物賃借人に酷であるため、その建物を競売手続の「開始前」から使用収益している場合には、建物競落人の買受けの時から6か月を経過するまでは、建物を買受人に引き渡さなくてもよいとされています。
 ただし、これは「明渡しが猶予」されているだけであって、賃借権が6か月間存続するわけではありません。

 滞納したとき  
 6か月の猶予期間中、建物使用者(賃借権は消滅しているので賃借人とはいわない)は、「建物を使用したことの対価」を買受人に支払わなければなりません。
 建物使用者が、対価の1か月分以上を支払わないときは、建物買受人は、相当の期間を定めて支払いの催告をし、その期間内に履行がないときは、明渡し猶予は認められなくなり、直ちに建物を明け渡さなければなりません。
 なお、この明渡し猶予は、土地賃借権には適用されません



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