|更新日 2023.3.17|公開日 2019.11.28
1 相隣関係の趣旨
隣りは何をする人ぞ 相隣関係というのは、隣接する不動産所有権の利用を調節する関係をいいます。土地・建物などの「不動産」は、自動車や家電などの「動産」と違って固定していて互いに隣接し合っています。そのため、1つの不動産の利用は、隣接する不動産の利用に何らかの影響を及ぼしているのが通常です。
こうした影響を無視して、隣同士の所有者が、互いに境界線いっぱいに絶対的支配権を主張して、たとえば境界ギリギリに建物を建てたりしては、かえってそれぞれの所有権の平和な行使が妨げられてしまい、社会の共同生活は困難となります。
そこで民法は、隣人同士の円満な共同生活のために「普通に生じる程度の影響」は互いに認容するよう、所有権相互の最小限度の譲り合いを求めているのです。
以下、試験に出た論点を確認しておきましょう。
2 隣地の使用請求
土地の所有者は、境界またはその付近において障壁や建物を築造し、または修繕するため「必要な範囲内で、隣地の使用を請求する」ことができます。
もちろん隣地の使用・立入りには、隣人の承諾が必要ですが、「請求できる」というのは、隣人の承諾を得られないときは「承諾に代わる判決」を得て使用することができるということです。
ただし「住家に立ち入る」場合の承諾は、隣人自身の意思に基づくことが必要であり、判決によって承諾に代えることはできません。隣人の人格的利益を侵害するおそれがあるからです。
以上の場合に、隣人が損害を受けたときは、償金を請求することができます。
3 公道に至るための通行権
他の土地に囲まれて公道に通じない土地の所有者は、公道に至るため、その土地を囲んでいる他の土地を通行することができ、必要があるときは通路を開設する(自家用車が通れるようにする)ことができます。
ただし、通行の場所・方法は、
① 通行権者に必要な範囲で、かつ、
② 他の土地のために最も損害の少ないもの、でなければなりません。
通行権者は、通行する他の土地の損害に対して、原則として償金を支払わなければなりません。
土地通行権と登記
「公道に通じない土地」の所有権を取得した者は、所有権移転登記をしなくても、他の土地の所有者・利用権者に対して、通行権を主張し通路を開設することができます。
なぜなら、相隣関係の規定は、隣り合う不動産相互の利用調整を目的とするものであって、「不動産取引の安全確保を目的」とする登記制度とは関係ないのです。
4 分割で生じた土地の通行権
「共有地を分割」したことによって公道に通じない土地が生じた場合、その土地の所有者は、公道に出るため、分割者の所有地のみを通行することができ、また通路を開設することができます。この場合には、償金を支払う必要はありません。
5 一部譲渡による土地通行権
分筆や一部譲渡によって公道に通じない土地が生じた場合、その土地の所有者は、譲渡人の残余地のみを通行し、道路を開設することができます。
これらの権利は、「残余地が譲渡」されるなど、特定承継があった場合でも存続します。なぜなら、相隣関係の規定は、対人的な関係を定めたものではなく、隣地間の利用調整が目的であるため、通行権・道路開設権も、土地に付着した物権的権利の性質を有しており、同時にまた、残余地自体に付着した物権的負担なのです。
残余地が譲渡されて所有者が変わっても、その残余地を通行したり、道路開設をすることができます。
6 その他の規制
1|境界線を越えた竹木の枝と根
隣地の竹木の「枝」が境界線を越えるときは、その竹木の所有者に、その枝を切除させることができます。竹木の所有者は隣地所有者であるため、自分で勝手に切除することはできません。
一方、竹木の「根」が境界線を越えて伸びてきたときは、隣人の許可なしに自分で切り取ることができます。敷地を超えて伸びてくる根を放置すると、建物の地盤にまで影響を与えてしまうおそれがあるからです。
2|境界標の設置
土地の所有者は、隣地所有者と共同の費用で境界標を設置することができます。境界標の「設置費用や保存費用」は、相隣者双方が1/2ずつ負担します。
ただし「測量の費用」は、土地の広さに応じて分担します。
3|境界線付近の観望制限
境界線から1m未満の距離に、他人の宅地を見通すことのできる窓または縁側・ベランダを設けるときは、目隠しを付けなければなりません。隣人のプライバシー保護のためです。
4|自然的排水の受忍義務
水が自然に高地から低地に流れるときは、高地の所有者は、低地に排水することになります。この場合、低地の所有者は、隣地から水が自然に流れてくるのを妨げてはならず、これを受忍する義務があります。
自然の流水を阻止するような「工作物を設置」することはできません。
5|境界線上の境界標等|共有の推定
隣接する土地の境界線上に設けた境界標、障壁、溝、堀などは、相隣者の共有に属するものと推定されます。
6|雨水を隣地に注ぐ工作物設置の禁止
土地の所有者は、直接に雨水を「隣地」に注ぐ屋根や工作物を設けてはならず、これに反した場合は、隣地所有者は、所有権に基づいて妨害排除または予防の請求をすることができます。
宅建民法講座|テーマ一覧