|更新日 2023.3.15|公開日 2017.07.14

1|取得時効

 取得時効の対象となる権利としては、物権である所有権が最も重要です。「所有権」の取得時効は「一定の要件を備えた占有が一定期間継続する」ことで完成しますので、占有の意味・態様が重要です。

 占有の意味と態様

意 味 事実上の支配状態 
 占有というのは、不動産や動産を「事実上」支配・管理・所持している状態をいいます。「使っている」「住んでいる」「人に貸している」「保存管理している」などの状態にあれば、占有しているということです。 

態 様 占有には、以下の態様があります。

 自主占有・他主占有  自主占有というのは「所有の意思」(所有者として占有する意思)をもってする占有で、他主占有は、それ以外の占有をいいます。
 「所有の意思」があるかどうかは、占有の取得原因によって「客観的」に判断されます。たとえば、買主や窃盗者は「所有の意思をもつ」ものとして自主占有者とされ、賃借人や質権者などは「所有の意思をもたない」ものとして他主占有者とされます。

 善意占有・悪意占有  占有を正当とする本権(所有権や賃借権など)がないのに、あると誤信する占有が善意占有、本権がないことを知りながら、または疑いを有している占有が悪意占有です。善意占有は過失の有無により、「過失ある占有」と「過失なき占有」に分けられます。

 瑕疵なき占有・瑕疵ある占有  善意かつ無過失で、平穏かつ公然になされている占有を瑕疵なき占有、このうち1つでも欠けている占有を瑕疵ある占有といいます。

 所有権取得のための占有の要件

要 件 次の要件を備えた占有であることが必要です。

 自主占有であること  占有者が所有の意思をもって占有している自主占有であること。「所有者として」使用したり、「他人に貸して」賃料を取っている場合の占有です。「賃借人」のように、他人の所有権を認めつつ占有する他主占有は、いくら長期間継続しても所有権を時効取得することはできません。

 占有が平穏かつ公然であること  暴力で奪った占有であったり、密かに取得した占有でないことが必要です。このような占有で所有権を時効取得することはできません。

 占有が一定期間継続すること  占有は、時効期間中継続することが必要です。占有者が任意に占有を中止したり、他人に占有を奪われたときは、占有は中断します。
 ただし、他人に奪われても、直ちに占有回収の訴えによって占有を回復すれば、占有状態は継続します。

 所有権の取得時効の期間

 取得時効の完成に必要な期間は、次のとおりです。
  占有を開始した時に平穏・公然・善意・無過失であれば、10年間
  瑕疵ある占有の場合、たとえば、悪意または有過失であれば、20年間

 占有の承継(占有の選択)

 占有は、売買や贈与、相続などによって承継されるため、前主の占有と自己の占有との関係が問題となります。

 占有の承継が生じた場合、占有の承継人は、その選択に従い、①自己固有の占有のみを主張してもいいし、②前主の占有と自己の占有をあわせて主張することもできます。 
 ②を選択した場合は、前主の瑕疵悪意・過失・強暴・隠秘)も承継します。たとえば、善意占有を12年続けた承継人は、悪意占有をしていた前主の占有期間8年をあわせて、20年の「悪意占有」を主張してもよく、自己の12年の「善意占有」を主張することもできます。

注 意  
 ① 占有者が善意無過失かどうかは、占有開始時において判断されるので、この時に善意無過失であれば、後に悪意に変わっても、10年間で所有権を取得できます。
 ② 「占有の承継人」が善意無過失かどうかは、前主の占有開始時において判断されます。「前主」が善意無過失なら、「悪意の承継人」も善意無過失とされます。
 ③ 「悪意で占有を始めた者」からの占有承継人は、「承継時」に善意であれば、その時から善意の占有となります。

 取得時効の効果

 時効取得は原始取得である  時効が完成し援用されると、時効期間の最初(起算点)にさかのぼって、占有者は「所有権」を取得します。その結果、本来の所有者は、その所有権を失うこととなります。
 時効取得者は、前権利者のもとで存在した制限に「一切拘束されることなく権利を取得する」のであって、これを原始取得といいます。前所有者から時効取得者へ「所有権が移転する」という承継取得ではないのです。

1歩前へ  不動産賃借権と地役権
 所有権以外の財産権を「自己のためにする意思」をもって、平穏・公然に行使する者は、20年または10年の区別に従い、その権利を時効取得します。所有権の取得時効ではないので、「所有の意思」ではなく「自己のためにする意思」が要件とされます。
 重要なのは債権である「不動産賃借権」です。時効取得できるためには「賃借権の行使としての占有」でなければならず、そのためには、①「土地の継続的な用益という外形的事実」が存在し、かつ、②「賃借の意思に基づくことが客観的に表現されている」こと(賃料を請求し支払いも受けているなど)が必要です(最判昭43.10.8)
 「地役権」については、①継続的に行使され、かつ、②外形上認識できるものに限り、時効取得できることが明記されています(283条)

2|消滅時効

 消滅時効にかからない権利

 所有権  所有権は消滅時効にかかりません。これは、フランス人権宣言で提唱された「所有権絶対の思想」を受け継いだものです。Aが、B所有地の所有権を時効取得した場合、Bの所有権は消滅しますが、これはAが取得時効により所有権を原始取得したことの「反射的な効果」であって、Bの所有権が時効消滅したのではありません。
 所有権に基づく物権的請求権ほか  所有権は消滅時効にかからないので所有権に基づく「物権的請求権」や「共有物分割請求権」「相隣関係上の権利」(隣地の使用請求権・通行権など)も消滅時効にかかりません。
 担保物権  担保物権も原則として消滅時効にかかりません。担保物権によって担保されている債権(被担保債権)が時効消滅していないのに、担保物権だけが「独自」に消滅することはないのです(担保物権の付従性)。

1歩前へ  抵当権の消滅時効
 上記のように、担保物権である抵当権は、「債務者」と「抵当権設定者」に対しては、抵当権だけが独自に時効消滅することはなく、抵当権が担保する被担保債権と同時でなければ、時効消滅しません。ただし、「抵当不動産の第三取得者(買主)」や「後順位抵当権者」に対しては、「抵当権自体の不行使によって」消滅時効にかかります(消滅時効期間は20年)。

 消滅時効の期間

 一般の債権の消滅時効(原則)
 5年または10年  売買における代金債権、賃貸借における賃料債権などの債権です。債務不履行による損害賠償請求権もこれに含まれます。以下のいずれかの場合に、時効消滅します。
[主観的]債権者が「権利行使できることを知った時」から5年間行使しないとき
[客観的]「権利行使できる時」から10年間行使しないとき

 消滅時効は「権利を行使できる」にもかかわらず、不行使状態が一定期間継続することで完成するため、その起算点は「権利を行使できる時」からとなります。

 要するに、代金債権・賃料債権などの「一般債権」は、債権者が、権利行使できることを「知った時」から5年間行使しなければ時効消滅するし、たとえ知らなくても客観的に「権利行使ができる時」から10年間行使しないときは時効消滅します。
 債権に「同時履行の抗弁権」が付着しているときも、消滅時効は進行します。

注 意  消滅時効の進行時期 
1)権利行使できる時は履行期限で異なる
 ① 確定期限の定めがあるとき=「確定期限」到来の時から進行
 ② 不確定期限の定めがあるとき=「不確定期限」到来の時から進行
 不確定期限の到来を債権者が知らなくても、消滅時効は進行します。時効における事実状態は「客観的」なものなので、知・不知という「主観」では左右されません。
 ③ 期限の定めがないとき=「債権成立」の時から進行
 期限の定めがないときは、債権者はいつでも履行請求(権利行使)できるので、消滅時効は「債権が成立した時」から進行します。
2)債務不履行による損害賠償請求権の場合
 債務不履行に基づく損害賠償請求権の消滅時効は「本来の債務の履行を請求できる時」から進行します。損害賠償請求権は、本来の履行請求権の内容の変更であり同一性を有するからです(最判平10.4.24)

 不法行為による損害賠償請求権
 3年または20年  交通事故などにより、建物や自動車などの「物品」を壊した不法行為責任の場合は、次の①・②のいずれかの場合に、損害賠償請求権を「行使しないとき」に時効消滅します。
 ① 被害者(またはその法定代理人)が「損害および加害者を知った時」から3年間 
 ② 「不法行為の時」から20年間

 人の生命・身体の侵害による損害賠償請求権
 5年または20年  債務不履行でも不法行為でも、この期間に損害賠償請求権を「行使しないとき」に時効消滅します。
 1)債務不履行による場合  職場における監督者の安全配慮義務違反により「労災事故」が発生したとか、適切に治療しなかったために「医療ミス」が発生したなど、当事者が契約関係にある中で「生命・身体を侵害」した場合です。
 ① 債権者が「権利行使できることを知った時」から5年間
 ② 「権利行使できる時」から20年間

 2)不法行為による場合  交通事故などで「生命・身体を侵害」した場合です。
 ① 被害者(またはその法定代理人)が「損害および加害者を知った時」から5年間
 ② 「不法行為の時」から20年間

パトモス先生講義中

生命・身体の場合は、債務不履行でも不法行為でも、知った時から5年、権利行使できる時・不法行為の時から20年だよ。

 確定判決等で確定した権利
 確定判決または確定判決と同一の効力を有するもの(和解調書など)によって「確定した権利」は、10年より短い時効期間の定めがあるものでも、その時効期間は10年とされます。

 その他の財産権
 (債権および所有権)以外の財産権、たとえば地上権・地役権などは、権利を行使できる時から20年間行使しないとき、時効によって消滅します。



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