|更新日 2023.2.25|公開日 2017.9.29

1|使用者責任の意味と内容

意 味
 使用者責任というのは、事業のために被用者を使用する者は、被用者がその事業の執行について、第三者に加えた損害の賠償責任を負わなければならない、というものです。

 民法は次のように定めています。
 「ある事業のために他人(被用者)を使用する者は、被用者がその事業の執行について第三者に加えた損害を賠償する責任を負う」(715条1項)
 要するに「他人の不法行為」について責任を負うということです。これは「他人の行為の結果については責任を負わない」という自己責任の原則の重大な例外です。

 どうして他人の不法行為について責任を負わなければならないのでしょうか。
 これは、利益を上げる過程で他人に損害を与えた者は、「利益の存するところに損失をも帰せしめる」という見地から、その利益の中から賠償するのが公平であるとするもので、無過失責任の一種である「報償責任主義」を採用したものです。

 使用者が、被用者の活動によって利益をあげる関係に着目した考え方なんですね。

 事業の執行について

 外形理論
 使用者は、被用者がその事業の執行について、第三者に加えた損害の賠償責任を負わなければなりません。
 「事業の執行について」というのは、判例によれば、被用者の職務行為そのものには属さなくても、「行為の外形から判断して広く被用者の職務の範囲内に属する」ものと認められる場合を含み、必ずしも担当業務を適正に執行する場合だけを指すものではありません(最判昭40.11.30)

 被用者が、使用者に無断で運転していたときでも「事業の執行について」生じたものと解され、使用者に損害賠償責任が発生することになります。

 被用者の不法行為

 使用者責任が成立するためには、その前提として「被用者自身」について 709条に基づく不法行為が成立することが要件です。
 というのも、使用者は、被用者の起こした不法行為について「使用者としての責任」を負うものであるため、被用者の不法行為責任が成立しない場合は、そもそも使用者の使用者責任は成立しないわけです。

 使用者責任の免責

 使用者は、被用者の不法行為について、常に責任を負うというわけではありません。
 使用者について、またはの事由があるときは免責されます。

 ① 被用者の選任およびその事業の監督について相当の注意をしたとき
 ② 相当の注意をしても損害が生じたこと

 これらを証明すれば、責任を負わなくてもいいのです。

 被害者の悪意・重過失

 外形理論の趣旨は、取引行為の外形に対する相手方の信頼を保護することにありますので、相手方が、
 ① 被用者の権限濫用を知っていた悪意の場合(最判昭42.4.20)や、
 ② 知らなかったことについて重過失がある場合(最判昭42.11.2)には、
 使用者は責任を負いません。

 ※ 判例は原則として「重過失は悪意に等しい」として、重過失と悪意を同等に扱っています。

 被用者に対する求償権

 被用者が、業務遂行中に第三者に不法行為による損害を与えた場合、使用者は、その損害を賠償しなければなりませんが、被用者に対して求償することができます。
 なぜなら、使用者が使用者責任を負うとしても、本来の不法行為責任は、加害者である被用者自身にあり、その責任が免除されるわけではないからです。

 ただし、損害賠償の全額を求償することはできません。この点について判例は、損害の公平な分担という見地から、信義側上相当と認められる限度で求償できる、として使用者の求償権を制限しています(最判昭51.7.8)

被用者は重過失を要するか
 さて、被用者に求償するためには、被用者は重過失であることを要するでしょうか。

 使用者責任は、被用者の不法行為を基礎として成立しているので、被用者に不法行為の成立要件としての故意・過失があればよく、その過失は必ずしも重過失である必要はありません。被用者に故意または重大な過失がなくても、過失(軽過失)があれば、使用者は、被用者に求償することができます。

2|土地の工作物責任

 意味・性質

意 味
 「土地の工作物等の責任」というのは、土地の工作物の瑕疵(設置または保存)のために、他人に損害を生じさせた責任は、第1次的に占有者が、そして占有者が「必要な注意をしたとき」は、所有者が最終的にその責任を負わなければならない、とする特殊の不法行為責任です。

 この責任は、加害の原因となった瑕疵を「だれが作り出したかにかかわりなく」占有者・所有者に生じる性質のもので、また占有者・所有者の故意・過失が加害の事実そのものについて存在することも要件ではありません。とにかく、土地工作物の瑕疵によって他人に損害を生じさせた責任は、占有者・所有者が負わなければならないのです。

性 質
 その根拠は、他人に損害を生じさせるかもしれない危険性をもった瑕疵ある工作物を支配している以上は、「その危険について責任がある」という危険責任に求められています。

 土地の工作物
 「土地の工作物」というのは、家屋や橋梁(きようりよう)などの建造物のほか、水道設備・道路・電柱など土地に接着して人工的に築造されたあらゆる設備をいいます。ただし「機械」のように、工場内に据付けられたものは含まれません(大審大1.12.6)

 試験では、「建物の外壁」「家屋を囲う塀」などの瑕疵が出題されています。

 だれが責任を負うか

 第1次的に占有者、最終的に所有者
 賠償責任の負担について、占有者と所有者は「順位的関係」にあって、第1次的には占有者が賠償責任を負います。ただし、占有者が「損害の発生を防止するのに必要な注意をしたこと」を証明すれば、占有者は免責され、所有者が、最終的に賠償責任を負担します。

 所有者には、なんらの免責事由が認められておらず、完全な無過失責任です。つまり、所有者は「損害の発生を防止するのに必要な注意」を怠らなかったことを立証しても免責されません。「過失がないとき」でも賠償責任を負うわけです(大審昭3.6.7)

 ただし、絶対的な責任ではないので、たとえば、異常な自然災害などが原因だったときには「不可抗力」を理由に免責が認められる場合があります。

 求償関係
 工作物責任は、占有者または所有者に生じる性質のものですが、工作物を設置した「請負人」など、損害の原因について「他に責任を負うべき者」があるときは、損害賠償をした占有者・所有者は、その者に対して求償することができます。

 損害賠償請求権の消滅時効

 土地工作物責任による損害賠償請求権は、一般の不法行為責任と同様に、①または②の場合に時効消滅します。

 ① 被害者(またはその法定代理人)が「損害および加害者」を知った時から3年間行使しないとき
 ② 不法行為時から20年間行使しないとき

3|共同不法行為責任

 意味と効果

意 味
 共同不法行為というのは、次の①・②の不法行為をいい、生じた損害全額について連帯して責任を負います。

 ① 数人が共同の不法行為によって他人に損害を加えた行為
 ② 共同行為者のうちいずれの者がその損害を加えたかを知ることができない行為

 なお、行為者を教唆(きようさ)した者や幇助(ほうじよ)した者も、共同不法行為者とみなされます。

効 果
 共同不法行為が成立すると、各人は「連帯して損害全額の賠償責任を負う」ことになります。「連帯責任」とすることによって被害者の救済を図っているわけです。
 このような責任は、損害の発生について直接・間接に「関連共同」しているために、結果についても共同責任とするのが妥当であるとの考えに基づいています。これにより、被害者は、共同不法行為者のだれに対しても賠償を請求することができ、厚く保護されることになるわけです。

 ※ この考え方によると、加害者にとっては軽微な原因しか与えていない場合でも、全額の責任が負わされることになり、そのうえ、結果としては、資本力のある加害者だけに責任が集中するおそれもあります。この不公平をどのように解消するかは、共同不法行為の1つの課題とされています。

 連帯責任と求償関係

 試験に出題された例から確認しておきましょう。
 「Aの被用者Bと、Cの被用者Dが、A・Cの事業の執行につき、共同してEに対し不法行為をして、各人が、Eに対して損害賠償債務を負担した場合」です。

 全額の連帯責任
 たとえば、被害者Eに対する加害者BとDの「加害割合が6対4」であっても、使用者Aは、Eに対して全額の賠償責任を負わなければなりません。

 被用者Bは、Eに対し損害全額の責任を負い、使用者Aは、その指揮監督下にある被用者Bと一体をなすものとして、Bと同じ内容の責任を負うのです。加害割合6対4は、内部的な負担部分として考慮されるだけです。

 使用者間の求償
 使用者Aが、加害者B・Dの過失割合に従って定められる自己の負担部分を超えてEに賠償したときは、その超える部分について、他方の使用者Cに対し、Cの「負担部分の限度」で求償することができます。各使用者間の求償は、責任分担の公平を図るために認められているからです。

 被用者への求償
 使用者Aが、被用者Bの不法行為により、Eに対し損害賠償債務を負担したことにより損害をこうむった場合は、損害の公平な分担という見地から信義則上相当と認められる限度において、Bに対して損害の賠償または求償の請求をすることができます(最判昭51.7.8)

 使用者への求償
 使用者Cの被用者Dが、自己の負担部分を超えてEに対し損害を賠償したときは、その超える部分について、一方の使用者Aに対しAの負担部分(=Bの負担部分)の限度で求償することができます。
 被害者Eとの関係では、使用者Aと被用者Bは一体をなすものであり、Aは、Bと同じ内容の責任を負うものだからです。



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