|更新日 2023.3.10|公開日 2017.06.07

心裡留保

 心裡留保の意味

意 味 本心を隠してうそを言う
 心裡留保(しんりりゅうほ)は、簡単にいえば、「うそを言う・冗談を言う」ことです。表意者自身が「この意思表示は、自分の真意でない」と知りながら、つまり「ウソと知りながら意思表示をする」わけです。
 売る気もないのに「売ります」と言ったり、買う気もないのに「買います」と、うそを言って契約するのです。心裡留保は「真意を心の裡(うち)に留保する」という意味です。

 「売るという表示」に対応する「売るという意思」が欠けている、いわば「意思と表示が一致しない意思表示」です。はたして、このような意思表示は有効なのでしょうか。
 表示は「うそ」なんだから「無効」のような気もしますが……。

  試験では「心裡留保」の用語ではなく、条文本体の表記にあわせて「自分の真意ではないと認識しながら」とか「売渡し申込みの意思は真意ではなく」などのように表記されています。こうした記述があれば、ズバリ「心裡留保」です。

 心裡留保の効果

 当事者間での効果と第三者に対する効果に分けて確認しましょう。

 当事者間での効果
 原 則 当事者間では有効
 善意の相手方を保護するため  心裡留保による意思表示は、原則として有効です。うその「売ります」という表示は有効とされるので、これに対して「買います」と承諾して結んだ売買契約も有効となります。
 趣 旨 嘘つきを保護する必要なし
 「うそ」なのにどうして有効なのでしょうか? それは、「うそ」でも、その表示を信頼して取引した相手方を保護するためです。「売ります」と表示した以上、その責任をとれということです。あとで「あれは冗談だから・うそだから、承諾しても売買契約は無効だ」とは言えないのです。
 「うその表示」をした表意者の無効主張を認めていては、安全な取引が確保できないからです。
 例 外 無効の場合がある
 悪意または過失ある相手方は保護されない  原則は有効とされる心裡留保も、無効とされる例外があります。

 相手方が悪意のとき  その表示が表意者の「真意ではない」ことを、相手方が知っている(悪意)のときは無効です。真意ではない(売るつもりはない)ことを知っている相手方を保護する必要はないからです。「真意ではない」ことを知っていればよく、「真意そのものを知る」必要はありません。

 相手方に過失があるとき  「取引上一般人がする程度の注意」をすれば知ることができたのに、不注意で知ることができなかったときは、過失ありとされます。
 過失があるときは、「売ります」という表示は無効とされ、これに対して「買います」と承諾しても売買契約は無効です。不注意な相手方を保護する必要はないからです。
 結局、心裡留保は「相手方が善意無過失のときに限り」有効とされます。

パトモス先生講義中

表示が、表意者の真意でないことを、相手方が知っていたり、知らなくても過失があるときは、心裡留保は無効だよ。

 第三者に対する関係
 心裡留保の無効は、善意の第三者には対抗できない  相手方が、悪意または過失があるときは、心裡留保は無効ですが、相手方がその後、心裡留保の事情を知らない善意の第三者に売却した場合には、表意者は、心裡留保による無効をその「善意の第三者」に対抗(主張)することはできません。
 これにより、善意の第三者は完全に権利を取得できるので、取引の安全が保護されることとなるわけです。

心理留保

注 意 
 善意の第三者は過失があっても保護される  この場合、第三者は善意であればよく、無過失であることを要しません。故意にうその意思表示をした表意者本人の責任は重く、したがって、対立する第三者にはそれほど厳しい条件を要求せずに、善意でありさえすれば「過失があっても保護される」のです。

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