|更新日 2023.3.09|公開日 2017.07.01

1|制限行為能力者

 行為能力制度

 趣 旨 はじめから意思能力が不十分な人を保護する
 意思能力・判断能力は、人により「いろいろなレベル」があります。意思能力が未発達の幼少者、事故や病気で意思能力が減退・喪失した知的障害者、認知症の高齢者など、「法律行為の時に、すでに意思能力が不十分な人」がいます。

 こうした人たちは、判断能力が不十分なことにつけ込まれて不利な契約を結ばされ、そのため財産を失う危険が多く、保護する必要があります。もちろん「契約時における意思無能力」を証明すれば契約を無効にできますが、この立証はなかなか難しく、こうした人たちを保護するには不十分です。

 そこで民法は「もともと意思能力が不十分な人たちには、1人では契約をさせない」で、保護者をつけてその能力不足を補い、不利な契約の危険から保護することにしたのです。
 このように「自分1人で契約することが制限されている人たち」を、法律行為(契約)をする能力が制限されているという意味で「制限行為能力者」といいます。こうした制限のない、自分1人の判断で法律行為ができる人たちを「行為能力者」といいます。

ワンポイント 意思能力は契約時に判断
 意思能力があるかどうかは「1つ1つの契約ごとに個別に判断」されます。「あらかじめ、画一的に定められるものではない」のです。
 一方、「行為能力」があるかどうかは、未成年者・知的障害者など、年齢や判断能力の程度に応じて「あらかじめ、法律と裁判所の審判手続によって画一的に定められる」のです。


 制限行為能力者の4タイプ
 1人の判断で法律行為ができない制限行為能力者には、4タイプがあります。

① 未成年者
=意思能力の発達途上にある者
② 成年被後見人
=意思能力を欠く常況にある者
③ 被保佐人
=意思能力が著しく不十分の者
④ 被補助人
=意思能力が不十分である者

2|未成年者

 意味と保護者の権限

意 味 未成年者というのは、年齢18歳未満の者をいいます。
保護者とその権限 法定代理人
 代理権と同意権がある  未成年者には、保護者として法定代理人がつけられます。通常は親権者(父・母)が法定代理人となります(親権者がいないときは未成年後見人が選任される)。
 法定代理人は「代理人」とあるように代理権を有しており、「未成年者に代わって」代理して売買契約などの法律行為をすることができます。また「未成年者がする法律行為」に同意を与えることのできる同意権も有しています。

 未成年者の行為能力

原 則 法定代理人の同意が必要
 同意なければ取消しできる  未成年者が法律行為(契約)をするには、その法定代理人の同意が必要です。同意は、未成年者に対してでも、取引の相手方に対してでもかまいません。「同意なし」に、未成年者が「単独」で行った行為は、取り消すことができます。取消しは、未成年者・法定代理人どちらからもできます。

 なお「未成年者が取消し をする」場合には、法定代理人の同意は不要 です。同意がないことを理由に「未成年者による取消しを取り消す」ことはできません。取消しは、契約の拘束から未成年者を自由にする意思表示なので、単独で行っても問題はないのです。

例 外 単独でできる行為がある
 法定代理人の同意を必要としない行為、つまり、未成年者が単独でできる行為は、次の3つがあります。これらは未成年者に不利益を及ぼす危険はないので、同意は必要なく、単独で行っても完全に有効です。「同意がない」ことを理由に取り消すことはできないのです。

 1 単なる権利取得・義務の免除行為  未成年者が、単に権利を取得したり、義務を免れる行為には、法定代理人の同意は不要です。たとえば、贈与を受けたり、借金などの債務を免除されたり、金銭債務の金利を下げる契約をするなどです。
 ただし、「債務の弁済を受ける」ことは既存の債権を消滅させ債権を失うこととなるため、また「負担付贈与を受ける」ことは法的な負担を負うこととなるため、いずれも法定代理人の同意が必要です。

 2 許可された営業に関する行為  法定代理人から営業を許された未成年者は、その「営業に関して」は「成年者と同一の行為能力」を有し、行為能力者として扱われます。資金の借入れ、店舗の購入・賃貸借、店員の雇用など「その営業に関する行為」であれば、成年者と同様に単独で行うことができます。いちいち同意を必要とするのでは迅速な取引ができないため包括的な同意を与えて営業に支障がないようにしたわけです。

 3 処分を許された財産の処分  法定代理人が処分を許した財産の処分(学費とか小遣いなど)は、単独ですることができます。包括的な同意があったと認められるからです。

3|成年被後見人

 意味と保護者の権限

意 味 成年被後見人というのは、精神上の障害があるために意思能力を欠く常況(常時欠如)にある者で、後見開始の審判を受けた者のことです。
保護者とその権限 成年後見人
 代理権はあるが同意権はない  保護者として成年後見人がつけられます。成年後見人は、法定代理人として代理権を有しており、成年被後見人の「財産上の行為」は、原則として成年後見人が代理して行います。
 ただし、成年後見人に同意権はありません。日常的に判断能力を欠いている成年被後見人に同意を与えても、保護することにはならないからです。

 成年被後見人の行為能力

原 則 単独でできる行為はない
 取り消すことができる  成年被後見人は「単独」では法律行為(契約)をすることはできません。単独でした契約はその時に意思能力があったとしても(そもそも意思能力がなければ無効)、成年被後見人という理由だけで取り消すことができます。たとえ、成年後見人の「事前の同意」があってもです。
 なお、取消しは、成年被後見人が単独ですることができます。

例 外 日常生活に関しては単独で
 ただし、食料品や衣料品等の購入、公共料金の支払いのような「日常生活に関する行為」については、例外的に単独ですることができます。これらの行為は、できるだけ本人の残存能力と自主性を尊重すべきとされているのです。

注 意
① 遺言などの「一身専属的な行為」や婚姻・認知などの「身分行為」は、できるだけ本人の意思を尊重すべきとされ、一時的に能力が回復したときは単独でできます。
 なお、未成年者でも15歳に達した者は、単独で遺言をすることができます。
② 成年後見人が、成年被後見人に代わって、「成年被後見人が居住している」建物または敷地について、売却・賃貸借・抵当権の設定などをするには、家庭裁判所の許可が必要です(許可がなければ無効)。
 成年後見人が勝手な処分をして、成年被後見人の居住の利益が侵害されないためです。以上は、保佐人・補助人の場合も同様です。
③ 制限行為能力者が、意思無能力の状態で法律行為をした場合は、
 ・「制限行為能力者」であることを理由に取り消すことができるし、または、
 ・「意思無能力」を理由に無効を主張することもできます。

4|被保佐人

 意味と保護者の権限

意 味 被保佐人というのは、精神上の障害があるために意思能力が著しく不十分な者で、保佐開始の審判を受けた者をいいます。
保護者とその権限 保佐人
 同意権、審判で代理権が付与される  保護者として保佐人がつけられます。保佐人は、被保佐人の行為に同意を与える同意権を有します。また、家庭裁判所の審判により「特定の法律行為」(甲土地の売却とか購入など)について、代理権を付与することもできます。

 被保佐人の行為能力

原 則 重要な行為は同意が必要
 被保佐人が、重要な法律行為をするには、保佐人の同意(または同意に代わる家庭裁判所の許可)が必要です。同意(または許可)を得ないでした行為は、取り消すことができます。「重要でない法律行為」については単独ですることができます。

 「重要な法律行為」の主なものは、次のとおりです。
 過去、試験に出たのは、①「土地の売却」と、③「贈与の拒絶」です。
 ① 不動産の取引行為(土地・建物の売買・賃貸)、利息・賃料の受領は、同意不要。
 ② 相続の承認や放棄、遺産分割
 ③ 贈与の申込みの拒絶、遺贈の放棄
 ④ 被保佐人が、上記の行為を制限行為能力者の法定代理人としてすること

例 外 日常生活に関しては単独
 成年被後見人と同じく、日用品の購入など「日常生活に関する行為」については、単独ですることができます。

注 意  債務の承認
 債務の承認というのは、相手方の「権利の存在を認める」ことをいいます。
 ① 債務の承認は、被保佐人が単独ですることができます。保佐人の同意は不要です。債務の承認は、すでに存在している「相手方の権利を認める」にすぎず、新たな債務を負って不利益を受ける危険はないからです(大判大7.10.9)
 ② ただし、時効完成後の債務承認は単独ではできません。時効によって債務が消滅しているにもかかわらず、債務の承認をすることは、時効の利益を放棄することであって借財と同視できるので、保佐人の同意が必要です(大判大8.5.12)

5|被補助人

 意味と保護者の権限

意 味 被補助人というのは、精神上の障害があるために意思能力が不十分な者で、補助開始の審判を受けた者をいいます。軽度の痴呆・知的障害・精神障害等により、判断能力の不十分な人が該当します。
 なお、本人以外の者の請求により補助開始の審判をするには、本人の同意が必要で、補助を受けるかどうかは本人の意思に任されています。この点は、後見や保佐と大きく違います。
保護者とその権限 補助人
 審判で同意権・代理権が付与される  保護者として補助人がつけられます。補助開始の審判の際に、補助人に「代理権」を与えるのか「同意権」を与えるのか、あるいはその双方を与えるのかの審判がなされます。
 成年後見人の「代理権」、保佐人の「同意権」は当然に付与されますが、補助人の場合は、審判で付与されます。

 被補助人の行為能力

 同意なければ取消しできる  特定の法律行為について「補助人の同意を要する」旨の審判がなされた場合に、その同意(または同意に代わる家庭裁判所の許可)を得ないでした行為は、取り消すことができます。
 「特定の法律行為」は、保佐の場合の「同意を要する行為」の一部に限られます。
 代理権も「特定の法律行為」について与えられますが、この場合は、補助人が代理行為をするので、代理権の対象となる「特定の法律行為」には保佐の場合のような制限はありません。

6|相手方の保護

 保護者の同意なしに、制限行為能力者が単独でした行為は、取り消される可能性があるため、相手方は不安定な状態に置かれます。そこで民法は、相手方保護のために、①催告権、②詐術による取消権消滅を認めています。

 催告権|無視したら追認とされる
 相手方は、制限行為能力者本人が「行為能力者となった」場合、つまり、未成年者が成年に達したり、成年被後見人・被保佐人等が審判の取消しを受けた場合は、その本人に対し、1か月以上の期間を定めて、期間内にその行為を「追認するか否か」について確答すべき旨を催告することができます。
 本人が、期間内に「確答しないとき」は、その行為を「追認した」ものとみなされ、もはや取り消すことはできません。確答を放置した制限行為能力者よりも、行為を存続させて相手方を保護したのです。
 追認を「拒絶した」ものとみなされるのではないことに要注意

 なお、制限行為能力者本人が「行為能力者となっていない」場合には、その保護者に対して同様の催告をし、確答がなければ、同じく「追認した」ものとみなされます。

 詐術による取消権の消滅
 有効なものと確定する  未成年者が身分証明書を偽造するなどして、自分が行為能力者であるかのように相手方を誤信させるため詐術を用いた場合は、その行為を取り消すことはできず、行為は有効なものとして確定します(取消権の消滅)。詐術をするような制限行為能力者を保護する必要はないからです。

1歩前へ 第三者に対する関係
 制限行為能力を理由とする取消しは、善意無過失の第三者にも対抗することができます。たとえば、未成年者が売却した不動産が第三者に転売された後に、法定代理人の同意がないことを理由に売買を取り消した場合、未成年者は、第三者から(たとえ移転登記をしていても)不動産の返還請求をすることができます。
 制限行為能力者制度は、第三者の利益(つまりは取引の安全)を犠牲にしても、制限行為能力者の財産を保護する制度だからです。


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