|更新日 2023.3.17|公開日 2017.07.21
1|留置権の意味
留置権って、あまり聞いたことはありませんが、パソコンを修理に出したら、修理代を払わないとパソコンは返してもらえませんね。
修理店の立場からみれば「パソコンを返してほしければ、修理代金を払ってね」というわけです。修理店は修理代金が支払われるまで、パソコンを「留置」できるわけで、この権利を留置権といいます。
意 味
このように、留置権というのは、他人の物(パソコン)の占有者(修理店)が、その物に関して生じた債権(修理代)を有するときに、債権の弁済を受けるまで、その占有物(パソコン)を留置できる担保物権です。
宅建士試験は不動産取引に関わる試験ですから、パソコンのような動産関係は出題されません。過去問のほとんどは、建物賃貸借にかかわる留置権です。
2|留置権の性質
過去の出題例から、ポイントを確認しておきましょう。
留置権の対抗要件|占有
留置権は、留置物を占有するのが成立要件かつ存続要件なので、対抗要件としての登記は必要ありません。修理で預かっていたパソコンが、修理を頼んだ債務者によって第三者に譲渡されたとしても、修理店はその第三者=新所有者に対して、留置権の登記がなくても対抗することができます。
物上代位性がない
留置権は、留置物自体を留置することが主たる内容であって、留置物の交換価値を支配する権利ではないため、物上代位性はありません。
したがって、不動産について留置権を有する債権者は、留置不動産が「金銭債権に転じた」としても、その金銭に物上代位することはできないのです。
善管注意義務
留置権者は、善良な管理者としての注意をもって留置物を占有しなければなりません(善管注意義務)。債権担保(有償)のために他人の物を占有するのですから、「自己の財産に対するのと同程度の注意」では足らないのです。
留置権者(債権者)が善管注意義務に違反したときは、債務者は、留置権の消滅を請求することができます。
3|留置権と必要費
留置権は、他人の物の占有者が、その物に関して生じた債権を有するときに、債権の弁済を受けるまで、その占有物を留置できる担保物権です。
したがって、建物の賃借人が、その賃借中に「建物の修繕のために」修繕費=必要費を支出した場合には、賃借人は、その必要費の償還を受けるまで、留置権に基づいて「建物の返還を拒否」することができます。建物修繕のための必要費は、まさにその物に関して生じた債権にほかならないからです。
ただし、留置権に基づき建物の返還を拒否している場合に、引き続き建物に居住することによって得られた「賃料相当額の利益」は、不当利得として返還しなければなりません。
判例に現れた事例をみておきましょう。
留置中の必要費
建物賃借人が、留置権に基づいて建物返還を拒否して留置中に、さらに建物のために必要費を支出したときは、その必要費のためにも留置権を行使することができます(最判昭33.1.17)。
留置権と造作買取代金債権
建物賃借人が支出した造作(ぞうさく)買取代金債権は、建物の造作に関して生じた債権であって、建物に関して生じた債権ではないので、造作買取代金債権に基づいて建物を留置することはできません(最判昭29.1.14)。
不法占有者が支出した必要費・有益費
建物賃借人は、債務不履行により賃貸借が解除された後に、必要費・有益費を支出しても、その償還のために留置権に基づいて建物の返還を拒否することはできません。
なぜなら、賃貸借を解除されたことにより、建物賃借人は建物を占有すべき権限のない不法占有者となるため、留置権を認めてその債権を保護すべきではないからです(最判昭46.7.16)。
ただし注意すべきは、「不法占有者には留置権がない」のであって、必要費・有益費の償還請求権そのものが認められない、ということではありません。
4|質権の意味
時計を質屋に預けて1万円借りる、時計を返してもらいたければ1万円を返す、こうした「動産質」は庶民金融として広く活用されていますが、土地や建物などの不動産を質に取ることは現代ではほとんどありません。
むしろ、権利に対する質権、たとえば敷金返還請求権に質権を設定するなどのような「権利質」が活用されています。
意 味
質権というのは、債権者がその債権の担保のため、債務者等の不動産を受け取って占有=留置し、債務が弁済されないときは、その担保不動産を売却して、他の債権者に優先して弁済を受ける担保物権です。
質権は、当事者の合意で設定される「約定担保物権」で、質権を設定する方を質権者、質権の負担を受ける方を質権設定者といいます。多くの場合、債務者が質権設定者になりますが、第三者が物上保証人として、質権設定者になることもあります。
質権を設定する目的物によって、不動産質、動産質、権利質に分類されますが、ここでは、過去問に多い「不動産質」を中心にポイントを確認しておきましょう。
5|質権の性質
効力発生要件
不動産質権について、民法は「質権の設定は、債権者にその目的物を引き渡すことによって、その効力を生ずる」(344条)と定めており、目的物の引渡しが効力発生要件です。「当事者の合意」だけで効力が生じるのではありません。
質権の効力
質権の効力には、留置的効力と優先弁済的効力があります。
「留置的効力」は、担保不動産を質権者のもとに「留置」し、債務が弁済されるまでは返還しないようにして、間接的に債務の弁済を促す効力です。
「優先弁済的効力」は、債務が弁済されないときに、担保不動産を「競売」してその代金から、ほかの一般債権者に優先して債務の弁済を受ける効力です。
抵当権との違い
質権と抵当権との違いは、債権者が担保不動産を占有=留置できるかどうかにあります。質権は、質権者に担保不動産の占有を移すのですが、抵当権は、抵当権者に担保不動産の占有を移さないで、債務者等に置いたままにします。
抵当権には、質権の効力の1つである「留置的効力」がないわけです。
質権では、質権者が、質権設定者から「担保不動産の占有を奪う」という点で、抵当権とは根本的に異なります。
利息請求の禁止
不動産質権者は、特約がないかぎり、利息を請求することができません。なぜなら、不動産質権は、担保不動産を使用収益できる権利であるため、その利得が「利息に相当する」とみられるからです。
そのため利息については、抵当権で認められている「満期となった最後の2年分についてのみ行使できる」という制限はありません。
不動産質権の存続期間
不動産質権の存続期間には制限があり、10年を超えることができません。特約でこれより長い期間を定めても、10年に短縮されます。
更新もできますが、存続期間はやはり10年を超えることができません。これは、目的不動産を所有者以外の者=質権者に長期間占有させることは、不動産の効用をそこなうおそれがあるからです。
善管注意義務
質権者は「善良な管理者としての注意をもって」質物を占有しなければなりません(善管注意義務)。債権(有償)担保のために他人の物を占有するので、「自己の財産に対するのと同程度の注意」では足らないのです。
債権質の対抗要件
債権に質権を設定する債権質の場合、たとえば敷金返還請求権に質権を設定した場合の対抗要件は、債権譲渡と同じく、質権設定を第三債務者に通知するか、または、第三債務者が質権設定を承諾することです。
この通知・承諾は「確定日付のある証書」でしなければ、第三債務者以外の第三者に対抗できません。くわしくは「債権譲渡」で解説しています。
たとえば、建物の賃借人が、賃貸人に敷金を交付した場合、その敷金の返還請求権は、賃貸借契約終了後・建物明渡し完了時に、それまでに生じた賃借人の債務(未払賃料とか家屋修繕費用など)を差し引いて、なお残額がある場合に、その残額について具体的に発生します。
しかし抵当権と同様、質権についても付従性が緩和されており、建物賃借人の債権者は、建物明渡し完了前でも、つまり敷金返還請求権が現に発生していなくても、将来発生する敷金返還請求権に対して質権を設定することができます。
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