|更新日 2023.3.22|公開日 2017.07.25
1|連帯債務
1 連帯債務の意味と成立
たとえば、A・B・Cが共同事業を始めるにあたり、開業資金 900万円をDから借りようとするときに、その返済について「A・B・C3人が債務者となる」ことを約束することがあります。
意 味 複数の人が債務者になる
連帯債務というのは、同じ内容の契約で数人が連帯して債務を負担することをいいます。借金を連帯債務にすれば、債権者は、1人または全員に対して、全額でも一部でも請求できるので、返済能力のある債務者に請求すれば返済の目的が達成されるからです。
1人の返済が危うくなっても、別の債務者に請求できるため、債権の効力はより強くなるというわけです。
成 立 契約や法律の規定による
① 契約によって連帯債務を成立させる場合、1個の契約でなくてもよく、順次に別個の契約をして連帯債務とすることができます。
② 法律の規定によって連帯債務を成立させる場合は、とくに債権を強化するためです。たとえば、共同不法行為では「各自が連帯して」損害賠償責任を負うと定められ(719条)、また、日常家事に関して生じた夫婦の一方の債務は「夫婦が連帯して」責任を負うと定められています(761条)。
2 連帯債務の性質と効力
性 質 1人1人が全額弁済の債務
連帯債務は、債権者に対しては、債務者1人1人が全額弁済の債務を負い、1人が弁済すれば全員の債務が消滅するという関係にあるため、次のような性質があります。
① 各債務者は全部を履行する義務がある。
② 1人または数人が全部の履行をすると全員の債務が消滅する。
③ 保証債務と異なって「主たる債務・従たる債務」の区別がない。
④ 連帯債務は、債務者の数に応じた独立の債務から成るので、各債務についても個別に取り扱われる。したがって、
・1人について法律行為の無効や取消しの原因があっても、他の債務者の債務は有効に成立する。1人が制限行為能力者だったり、詐欺・錯誤による取消しがあっても他の債務者の債務は影響を受けない。
・各債務の態様は同一でなくてもよく、利率・期限・条件が異なってもよい。
・1人の債務についてだけ、保証債務を成立させることができる。
・債権者は、債務者の1人に対する債権だけを分離して譲渡することができる。この場合でも、各債務は連帯債務としての性質を失うことはなく、他の債務者が弁済をすれば、債権の譲受人の債権は消滅する(大判昭13.12.22)。
4 連帯債務の効力
相対的効力が原則
連帯債務では「1人について生じた事由はその当人だけに効力が生じ、他の債務者には影響を与えない=効力を生じない」というのが原則です。これを連帯債務の相対的効力といいます。連帯債務は、債務者1人1人が、対等に債務を負担するものなので、債務者の人数に応じた「数個の独立した債務」が存在し、1人1人は主従の別がありません。
相対的効力事由
相対的効力を有する事由は、以下のとおりです。下図を例に確認しましょう。
① 履行の請求 債権者Aが、Bに履行の請求をすれば、Bは履行遅滞となりますが、C・Dはその影響を受けず、履行遅滞とはなりません。また、Bに裁判上の請求をしても、C・Dの債務の消滅時効の完成には影響しません。
② 無効・取消し Bの錯誤または詐欺・強迫を理由に、AB間の契約が取り消されても、AC間、AD間にはその影響は及ばず、完全に有効な連帯債務が成立します。
③ 期限の猶予 AがBに対して期限の猶予をしても、CとDの債務は猶予されません。7月1日の支払期日を、Bについてだけ7月末日としても、CとDの支払期日は7月1日のままです。7月1日を過ぎれば、C・Dは履行遅滞となります。
④ 債務の承認 Bが債務の承認をしたことにより、Aの代金債権 900万円の消滅時効が更新されても、C・Dの債務はその影響を受けないため、後日、時効消滅する可能性があります。
⑤ 免 除 AがBの債務を免除すれば、Bは債務を免れますが、C・Dの債務はその影響を受けず、依然として 900万円の連帯債務を負ったままなので、Aは、900万円全額の請求ができます。
⑥ 時効の完成 Bの債務について消滅時効が完成しても、C・Dの債務はその影響を受けず、時効消滅はそのまま進行します。
このときは、絶対的効力が生じます。つまり、債権者と「他の債務者の1人」が別段の合意をしたときは、「その債務者」に対する効力は、その意思に従うものとされます。
たとえば、債権者A・Bとの間で「AがCに対して履行の請求をした場合には、Bに対しても履行の請求をしたことにする(絶対的効力が生じる)」旨の合意をした場合が、これにあたります。
なお、A・Bとの間で「AがBに対して履行の請求をした場合には、Cに対しても履行の請求をしたことにする」旨の合意をしたとしても、Bへの履行の請求が、Cに対して絶対的効力を生じることはない=Cには効力が生じないのは、もちろんです。混同しないよう要注意です。
2|絶対的効力事由
意 味 全員に効力が及ぶ
絶対的効力というのは、1人に生じた事由の効力が他の債務者にも同じように及ぶことをいいます。たとえば、Bが 900万円を弁済して債務が消滅すれば、同時に「C・Dの 900万円の債務も消滅する」というように。
絶対的効力事由には4つの事由がありますが、すべて債権の消滅事由であることに注意しましょう。
・相 殺
・更 改
・混 同
4つの絶対的効力事由さえ覚えていればいいよ。
あとは全部相対的だからね。
1 弁済|弁済の提供
債務者の1人が弁済(代物弁済や供託も同じ)すると、債権はその目的を達成して消滅するので、当然に他の債務者の債務も消滅します。
また、弁済の提供は、それだけでは債務は消滅しないのですが、債権者がこれを受領すれば、他の債務者も債務を免れるので、「弁済の提供の効果」や「受領遅滞の効果」も、他の債務者に効力を及ぼします。
2 相 殺
相殺というのは、お互いの貸し借りを「差し引いて決済する」ことをいいます。
XがZに 100万円貸していて、ZもまたXに 30万円貸しているときに、Zが 30万円で相殺する意思表示をすれば、Xの貸金は 70万円に減ります。実際に「現金の受け渡し」をしなくても、意思表示だけで簡易に決済できるわけです。
さて、連帯債務者の1人Bが、債権者Aに対して 600万円の債権(反対債権)を有している場合には、次のようになります(負担部分は各 300万円)。
本人が相殺を援用した場合 Bが 600万円の反対債権で相殺すれば、これは弁済したと同じことなので、C・Dについても当然に 600万円の債務が消滅し、残額 300万円の連帯債務となります。
本人が相殺を援用しない場合 Bが相殺を援用しない場合には、Aからの請求に対し、C・Dは、Bの「負担部分 300万円の限度」で、履行を拒むことができます。Bの負担部分 300万円については履行を拒絶して、600万円を弁済すればいいわけです。
なお、Bの反対債権は、600万円のままです。
他の債務者は、相殺を援用できなくなった 改正前民法では、C・Dは、Bの反対債権で「相殺できた」のですが、これはBの有する反対債権に対して処分権を与えるものであり行き過ぎであるとして、新民法で上記のように改正されました。
他の債務者は、Bの負担部分の限度で、履行を拒むことができるんだ。
3 更 改
更改(こうかい)という用語は聞き慣れませんが、プロ野球選手の「契約更改」というニュースはよく耳にしますね。
更改というのは、従前の債務を消滅させて「新債務を成立させる契約」をいいます。債務を消滅させるので、弁済と同じように考えていいのです。
債務者の1人Bと債権者Aとの間に更改契約があったときは、Aの債権は「すべての連帯債務者の利益のために消滅」します。たとえばBが、従前の連帯債務 900万円に代えて、B所有の不動産をAに譲渡する旨の新債務を負担した場合には、C・Dの 900万円の債務もまた消滅します。
Bの旧債務を消滅させ、その効果をC・Dにも及ぼすことは、債権者の意思に反しないと考えられるからです。
4 混 同
混同というのは「債権と債務が同一人に帰属する」ことにより、債権が消滅することをいいます。自分が自分に請求するというのは法的に意味がないからです。
債権者と債務者の1人との間で混同が生じると、その債務者は弁済したものとみなされます。たとえば、債権者Aが死亡し、BがAを相続して代金債権を承継した場合には混同が生じ、Bは弁済したものとみなされるので、C・Dの債務も当然に消滅します。
混同は、相続以外にも債権譲渡を受けた場合にも生じます。
5 求償権(内部の清算関係)
友人5人が割り勘で飲み会をした後、1人が飲み代全額を支払った場合には、あとで1人1人に請求しますよね。求償というのは、要するに清算に関する問題です。
連帯債務者の1人が債務を弁済した場合には、ほかの債務者が負担する部分については、他人の債務の弁済となるので清算する必要があるわけです。
内 容 負担部分に応じた求償
負担部分というのは、各人が負担すべき割合部分・分担部分という意味です。
債務者の1人が弁済したときは、他の債務者に対しそれぞれの負担部分に応じた額を求償することができます。この場合、その弁済額が「自己の負担部分」を超えているかどうかに関係なく求償できます。
弁済者自身の負担部分を「超えて」いなくても、弁済によりほかの債務者も債務消滅という利益を受ける以上、求償を認めるのが公平だからです。これは、新民法で明文化されました(442条1項)。
たとえば、A・B・Cが、債権者に対して 600万円の連帯債務を負っている場合に、Aが「自己の負担部分 200万円を超えない」60万円だけを弁済したとしても、B・Cの負担部分の割合に応じて「それぞれ 20万円を求償できる」こととなります。
この求償には「弁済があった日以後」の法定利息、および避けることができなかった費用その他の損害の賠償を含みます。
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