|更新日 2023.3.20|公開日 2017.11.28

1|根抵当権の意味・性質

 根抵当権の意味

 継続取引に最適、普通の抵当権は不便  ある企業が、銀行から営業資金を借り入れ、それを返済していくという場合、通常であれば、借入れするごとに抵当権を設定し、返済したら抵当権を抹消する、そしてまた借り入れて抵当権を設定し・抹消するというように、債権と抵当権の発生・消滅がくり返されます。
 このような継続的な取引関係で、そのつど抵当権を設定したり抹消することは、時間もコストも必要以上にかかるため、非常に不便で耐え難いものとなります。そこで、銀行が貸す資金の上限(極度額)を決め、その範囲内であれば個別の債権1つ1つに抵当権を設定しなくても何度でも借りたり返したりできる、というシステムが設けられたわけです。
 こうした「増減変動する複数の不特定の債権を担保する仕組み」が、根抵当権です。

意 味 極度額の限度で担保する
 根抵当権というのは、一定の範囲に属する不特定の債権を一定の限度(極度額の限度)で担保する抵当権をいいます。
 普通の抵当権(普通抵当権)は、令和3年3月3日に成立した 1,000万円のA債権を担保するとか、8月8日に成立した 2,000万円のB債権を担保するというように、特定の債権を担保します。しかし根抵当権は、こうした個別の「特定の債権」を担保するのではなく、不特定多数の債権を一定の限度内で担保する抵当権なのです。

 根抵当権の性質

 根抵当権には次のような性質があります。

 被担保債権を特定しない
 普通抵当権は、特定の債権を担保することが目的なので、その被担保債権を特定することが必要です。一方、根抵当権は、一定の範囲に属する不特定の債権を担保することが目的なので、被担保債権を特定する必要はありません。

 不特定の意味
 不特定というのは、個々に発生する債権のうち「どの債権が担保されるかが特定していない」ことをいいます。

根抵当権

 継続取引の中で、a・b・cという「特定の債権」が発生し、その後、d・eという「特定の債権」が発生して、a・bが弁済された場合、最終的に元本確定によって「担保される債権」が、c・d・eに特定します。
 元本確定までは「どの債権が担保されるか不特定」で、個々の特定債権の発生・消滅によって根抵当権が発生・消滅することはありません。普通抵当権のように「個々の特定債権を担保する」のではなく、極度額内の不特定債権を担保するわけです。
 根抵当権は「箱・枠・範囲を担保する」というイメージです。

性 質
 根抵当権には、次のような性質があります。
 被担保債権を特定しない
 普通抵当権は、a債権・b債権などの特定の債権を担保することが目的なので、被担保債権を特定することが必要です。特定の債権なしには成立しません(付従性)。

 将来発生する債権を担保
 もっとも現在では、普通抵当権でも、この「付従性が緩和」されていて、担保する債権は現在存在する必要はなく、将来発生する可能性のある債権や条件付債権であっても設定することができます。
 一方、根抵当権は「一定の範囲」に属する債権を担保することが目的なので、被担保債権を特定する必要はありません。現在のa・b・cはもちろんのこと、将来発生するd・e・fも担保するところにその特質があります。普通抵当権に備わっている「付従性」はありません。

 包括根抵当の禁止
 不特定の債権を担保するといっても、「現在および将来の債権をすべて担保する」というような無制約の包括根抵当は認められません。根抵当権によって担保される被担保債権は一定の種類の取引によって生じる債権に限られます。

 随伴性がない
 普通抵当権は、特定債権の担保が目的なので、その特定債権が譲渡されれば、これを担保する抵当権も一緒に移転します(随伴性でしたね)。

 一方、根抵当権は、債権を一定の範囲で、いわば「箱」「枠」を担保するのであり、「箱の中」にある1つ1つの特定の債権を個別に担保するものではありません。したがって元本確定前に、「箱の中」にある個別債権を取り出して譲渡しても根抵当権は移転せず、確定日付ある証書で債権譲渡通知を行っても、債権の譲受人は根抵当権を取得することはできません(随伴性の否定)。

2|根抵当権の設定

 根抵当権は、根抵当権者(債権者)と根抵当権設定者(債務者や物上保証人)による根抵当権設定契約によって設定されます。
 根抵当権設定契約では、次の事項について合意する必要があります。

 極度額
 極度額というのは、抵当不動産が担保する債権の最高限度額をいいます。根抵当権者は、極度額を限度に、確定した元本・利息等について、他の債権に先立って弁済を受けるのです。

 担保すべき債権の種類
 具体的には、次のとおり定めます。
 ① 「特定の継続的取引契約」によって生じる債権を担保する。
 ② 「一定の種類の取引」から生じる債権を担保する。
 たとえば、商品供給取引や当座貸越取引、手形割引取引などです。

 元本確定期日
 元本確定期日というのは、その期日に存在する元本債権のみが担保され、それ以後に発生する元本債権は担保されないという意味をもつ期日のことです。元本確定期日は、任意的な約定事項であって、定めないことも自由です。
 定める場合には、設定契約から5年以内でなければなりません。抵当不動産に対する長期間の拘束を避ける趣旨です。

3|被担保債権の範囲

 被担保債権の範囲
 根抵当権によって担保される債権の範囲は、①確定した元本、②利息等、③債務不履行により生じた損害賠償、の全部です。これらについて、極度額内において無制限に担保されますが、極度額を超えては一切担保されません。

 利息・遅延損害金の範囲
 利息や遅延損害金についての優先弁済の範囲は、普通抵当権は最後の2年分についてのみという制限があります。これは、ほかの債権者(抵当権者など)の利益を確保するためです。
 しかし、根抵当権では、元本・利息・損害賠償の全部について極度額を限度として担保するので、とくに利息や遅延損害金についての制限はなく、極度額の限度内であれば、すべて担保され、極度額を超えた部分は一切担保されません。極度額に達するまでは、最後の1年分であろうと2年分であろうと、何年分でも担保されますが、極度額を超えれば1年分の利息であっても担保されないのです。

4|根抵当権の内容の変更

 根抵当権設定後であれば、当事者(根抵当権者と設定者)との合意で、次の事項の変更をすることができます。なお極度額の変更を除いては、後順位抵当権者などの利害関係人の承諾は不要です。これは、根抵当権が「極度額という枠の範囲」で目的物の担保価値を支配する権利として独立的性格が強化されているためであり、利害関係人は「枠内の内容」をどのように変更されてもこれを甘受せざるをえない立場に立たされているわけです。

 極度額の変更
 極度額 5,000万円を 8,000万円に増額する、あるいは 3,000万円に減額するというように、極度額の変更(増額・減額)は、把握している担保価値(枠そのもの)を変更することです。当事者の合意で勝手に変更されては利害関係人の利益を害するので、変更には利害関係人の全員の承諾が必要です。

 増額については後順位抵当権者・差押債権者、減額については転根抵当権者などの承諾があれば、元本の確定前でも確定後でも、登記後でも極度額を変更することができます。

 担保すべき債権の範囲変更
 元本確定前であれば、当事者の合意によって自由自在に担保すべき債権の範囲を変更することができます。極度額を変更するものではなく把握する担保価値は変更しないので、利害関係人の承諾は必要ありません。

 元本確定期日の変更
 確定期日の定めのあるものを「ないもの」としたり、確定期日を遡及または延期することが自由にできます。ただし、元本確定期日は設定契約から「5年以内でなければならない」という制限は超えられません。

5|元本の確定事由

 いままで述べてきたように、根抵当権は、極度額内であれば何度もお金の貸し借りをしてもよいということでした。ところが、コロナ禍の影響で融資の返済が滞り、不動産を強制的に売却して融資資金を回収しなければならなくなるなど、根抵当権を消滅させようという事態が発生します。

意 味
 このようなとき、未返済額がいくら残っているか、それをいつまでに返済するかなどを明確にすることを、根抵当権の元本確定といいます。
 根抵当権によって担保される債権は、増減変動する不特定のものですが、一定の事由が生じると、根抵当権はその流動性を失い、その時に存在する元本債権だけが担保され、それから後に発生する元本債権は、特定の継続的取引契約など「被担保債権の範囲」に属する性質のものでも、担保されない状態となるわけです。

 元本債権が確定すると、元本債権は、その時に存在したものだけが根抵当権によって担保されますが、利息・損害金は、元本確定時以後に生じる分についても、極度額まで担保されます。なお、元本確定は一度行うと、撤回することができません。

 確定期日の到来

 根抵当権を確定すべき期日を定めた場合には、その確定期日の到来した時に確定します。

 元本の確定請求

 「元本の確定期日」を定めなかった場合は、次のようになります。

 根抵当権設定者による確定請求
 根抵当権設定者は、根抵当権設定の時から3年を経過すれば、元本の確定請求をすることができます。そして、この請求の時から2週間後に確定します。これは、根抵当権設定者が、長期間根抵当権に拘束されることを防ぐためです。
 また、2週間経過後に確定するとしたのは、根抵当者に対して、確定に対する心構えをし、適当な措置を講ずる余裕を与えるためです。

 根抵当権者による確定請求
 一方、根抵当権者は、いつでも元本の確定請求をすることができます。元本は、この請求の時に確定します。



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