|更新日 2023.3.15|公開日 2017.07.10

1|無権代理と表見代理

 無権代理の2つの類型  「広く」無権代理というのは、「代理権がないのに代理として行われた行為」をいいます。代理権がないので、「本人」に効果が生じることはなく、また、代理行為として、つまり代理意思でなされているので、「代理人」に対しても効果を生じません。
 無権代理は代理行為とはならずに、効果の帰属先が「不確定の状態」にあるわけです。
 民法は、この無権代理を「2つの類型」に分けて対応しています。

  本人と無権代理人との間に「代理権の存在を推測させるような事情がある」場合は、有効な代理行為として本人に責任を負わせる。
  そうでない場合は、無効として扱い無権代理人に責任を負わせる。

 表見代理無権代理といいます。なお、表見代理も「代理権がない」という「広い意味」では、無権代理の一種です。

2|表見代理

趣 旨 相手方の保護=取引の安全 
 表見代理は、代理権の存在を推測させるような事情(代理権があるかのような外観)があるために、相手方がこれを信頼して(代理権があると思って)取引関係に入った場合に、その信頼を保護するために表見代理を有効な代理行為として扱い、その効果を本人に帰属させる制度です。
 こうした責任を「本人」に負わせるのは、「責任を負わされてもやむをえない」といえるような本人側の責任が存在し、他方で、善意無過失で代理権の存在を信頼したという相手方の信頼が存在しているからです。

 表見代理の3タイプ
 「代理権が存在するかのような事情」に応じて3タイプがあります。

表見代理の3タイプ

① 代理権の存在を推測させる事情
 ⇒ 代理権授与の表示がある表見代理
② 一定の代理権があるという事情
 ⇒ 権限外の行為による表見代理
③ かつて代理権があったという事情
 ⇒ 代理権消滅後の表見代理



 「代理権授与の表示」がある表見代理

意 味 実際には代理権を与えていないのに、本人が、ある人に代理権を与えたかのような表示をしたために、相手方が代理権の存在を信頼して取引関係に入った場合です。
要 件 この表見代理が成立するには、次のような「要件」が必要です。

 1 本人による代理権授与の表示  
 本人が相手方に対して、「ある人に代理権を与えた旨を表示した」ことが必要です。このような「表示をした」ことに、本人の責任(帰責性)があるわけです。表示の相手方は、「特定人」でも「不特定人」でもかまいません。
 表示方法  
 表示は、口頭(直接または電話など)の通知、書面での通知、新聞広告など、方法の種類を問いません。ほかにも、以下の場合があります。
 ① 委任状・白紙委任状の交付  本来の趣旨と異なるかたちで第三者に提示・行使されると「代理権授与の表示」とされることがあります。 
 ② 本人名義の使用許諾  いわゆる名義貸しがあった場合です(最判昭35.10.21)
 ③ 地位・肩書の表示の許諾

 2 表見代理人の行為
 表見代理人が「代理権の範囲内」で代理行為をすること。

 3 相手方が善意無過失であること  
 この表見代理は、代理権があると信じた相手方を保護するためなので、相手方が、代理人に代理権が与えられていないことを知っていたり(悪意)、または過失によって知らなかった場合(善意だが過失あり)には成立せず、本人は表見代理の責任を負いません。
 相手方が「善意無過失であること」というこの要件は、ほかの表見代理でも同じです。
 善意無過失は「代理権があると信じ、しかも、そう信じることについてと正当な理由がある」ともいわれます。
効 果 通常の代理行為が成立
 表見代理が成立すると、その効果は、あたかも代理権が存在したかのように、本人に帰属し、本人は通常の代理行為と同様の責任を負うこととなります。この効果もほかの表見代理と共通です。

 「権限外の行為」による表見代理

意 味 代理人が、与えられた代理権の権限を越えて代理行為をした表見代理です。いわゆる「越権行為」ですね。権限外の部分が無権代理となるわけです。
 「家屋賃貸」の代理権を有する者が、その「家屋を売却」したとか、「抵当権設定」の代理権を有する者が、「売買契約」を締結したような場合が、これにあたります。

要 件 この表見代理が成立するには、次のような「要件」が必要です。

 1 本人が基本代理権を与えた
 本人が、代理人に「何らかの代理権」、つまり基本代理権を与えていたことが必要です。代理人に「基本代理権を与えた」ことが越権代理行為の原因を与えており、この点に本人の責任(帰責性)があるわけです。

 2 表見代理人が権限外の行為をした
 権限外の行為については代理権はないが、他に基本代理権を有していることが必要です。判例は、Aから「移転登記申請」を委任されたBが、印鑑と印鑑証明書を濫用して、Aを自分の「債務の保証人」にした事例について、登記申請についての権限は「基本代理権にあたる」としています(最判昭46.6.3)

 3 相手方が善意無過失であること
 権限外の行為を「権限内の行為」であると信じ、しかも、そう信じることについて正当な理由があることが必要です(最判昭35.12.27)
 たとえば、本人から実印・印鑑証明書・委任状など(代理権を象徴するような物)を託された代理人が、権限外の行為をした場合には「正当な理由」があるとされます。
 なお判例は、妻が「夫の実印を保管所持」しているというだけでは、「土地建物を売却」する代理権があると信ずべき「正当な理由」があるとはいえない、としています(最判昭27.1.29)家族は、勝手に権利証や実印を持ち出しやすい立場にあるからです。

 「代理権消滅後」の表見代理

 本人から与えられていた代理権が消滅した後に、なお代理人として法律行為をし、相手方が、この者の代理権の存在を信じて取引関係に入ったという場合です。
 ちなみに、代理権の消滅原因には、代理人が、①後見開始の審判を受けたこと、②破産手続開始の決定を受けたことなどがあります。
 この表見代理が成立するには、代理人が、代理権の消滅後に、その「代理権の範囲内」において行為をすることです。はじめから代理権を有していなかった場合には、この表見代理は成立せず、「無権代理」の問題となります。

 表見代理が競合した場合

 いずれも「権限外の行為」による表見代理が成立

 1 代理権授与の表示権限外の行為の競合
 「代理権が授与されたとの表示」のある表見代理人が、表示された「代理権の範囲を越えて」権限外の行為をした場合です。権限外の行為について「そこまでの代理権があると信ずべき正当な理由」が相手方にあるとき、つまり、相手方が善意無過失のときに限り、本人は「権限外の行為」について責任を負います。

 2 代理権消滅後権限外の行為の競合
 「代理権消滅後」に、以前の「代理権の範囲を越えて」権限外の行為をした場合です。この場合も、表見代理人の「権限外の行為」について、「そこまでの代理権があると信ずべき正当な理由」が相手方にあるとき、つまり、相手方が善意無過失のときに限り、本人は「権限外の行為」について責任を負います。

3|無権代理

意 味 全く代理権のない者の行為 
 無権代理は、まったく代理権のない者が代理行為をする場合をいいます。本人の知らないところで「代理人と称する者」が勝手に代理行為をしたわけです。さすがに、何の責任もない本人を犠牲にしてまで相手方の利益を優先させることは適切ではないので、当然には本人に対してどのような効果も生じません。

性 質 未確定状態にある
 無権代理行為は、いまだ効果を生じない状態、つまり有効とも無効とも確定しない状態にあります。この未確定状態を「確定」できるのは、「本人」と「相手方」です。そのため、両者には次のような権限が認められています。

・本 人 = 追認権および追認拒絶権
・相手方 = 催告権および取消権 



 本人が追認すれば有効なものとして確定し、追認を拒絶すれば無効に確定します。
 相手方が取り消せば、無効に確定します。

 本人の追認権・追認拒絶権

 1 追認権  無権代理行為を「有効なものとして確定させる権利」を追認権といいます。本人は、無権代理行為によってどのような法律効果も受けないのですが、これを追認して「代理権があったと同様の効果を生じさせる」こともできるわけです。
 無権代理行為といっても、全部が全部、本人に不利益なものとは限りません。息子が親の代理人と称して「勝手に」親の土地を売却したところ、意外と高く売れたので、親がすすんでこの無権代理行為(売買契約)を追認するような場合もあるのです。

 追認の効果
 はじめから有効な代理行為となる  追認がされると、その効果は行為の時にさかのぼります。つまり「行為の時から代理権があった」のと同じ扱いを受けるわけです。「追認した時」からではないので注意しましょう。
 追認する相手方は、「無権代理人」でも「相手方」でもかまいません。ただし、追認がされるまでに登場した「第三者」の権利を害することはできません。

 2 追認拒絶権  勝手に代理行為をされた本人としては、追認を拒絶して無権代理行為の効果が自分に及ばないようにすることができます。追認を拒絶すると、無権代理行為は無効なものとして確定します。

 相手方の催告権・取消権

 相手方は、①本人の追認があれば、無権代理行為は本人に対して「効力を生じ」、②追認が拒絶されれば「効力を生じない」という不安定な状態におかれます。そこで、相手方には催告権と取消権が与えられています。

 催告権  追認するのかしないのか  
 本人に対して、相当の期間を定めて、その期間内に「無権代理行為を追認するかどうか」を確答するよう催告することができます。期間内に本人が確答しない(無視した・放置した)ときは「追認を拒絶」したものとみなされ、無権代理行為は無効なものとして確定します。
 催告権は、無権代理行為を早期に確定させるよう催促するにすぎないので、代理権がないことを知っていた悪意の相手方にもあります。

 取消権  善意の相手方にある  
 善意の相手方は、無権代理行為を取り消すことができます。悪意の相手方は、代理権がないと「知って」契約しているので、取消権はありません。なお、無権代理行為は「本人が追認」すると有効な代理行為として「確定する」ので、取消しは、本人が追認する前にしなければなりません。

注 意  取消しの効果
 本人は追認できなくなる  相手方が取り消すと、無権代理行為は確定的に無効となるため、本人はもう追認できなくなります。また、相手方は、無権代理人に対しても責任を追及できなくなります。取消しは、「本人の追認の可能性を奪う」と同時に、「無権代理人としての責任を追及しない」という意味をもつからです。ただし、相手方は損害を受ければ、無権代理人に対して「不法行為」による損害賠償請求(709条)をすることができます。

 無権代理人の責任の内容

 無過失責任である  無権代理行為について「本人が追認しないとき」は、無権代理行為に巻き込まれた相手方を保護するため、無権代理人には無過失責任が課せられています(最判昭62.7.7)

原 則 履行責任or損害賠償責任
 無権代理人は、「相手方の選択」に従い、契約の履行責任または損害賠償責任を負うこととなります。つまり、無権代理人・相手方間に成立したのと同様の責任を負うか、履行利益(履行があれば得たであろう利益)の損害賠償をしなければならないのです(最判昭32.12.5)
例 外 ただし、以下の場合にはこの責任はありません。
 ① 本人が追認した  有効な代理行為となるからです。
 ② 無権代理人が代理権を証明した  これも有効な代理行為となるからです。
 ③ 相手方に悪意または過失がある  無権代理人に代理権がないことを知っていたり、不注意によって知らなかった相手方を保護する必要はなく、無権代理人に責任を問うことはできません。相手方は、善意無過失であることが必要です。
 ④ 無権代理人が制限行為能力者のとき  重い責任を負わせるのは適切でないからです。

 表見代理との関係

 表見代理も無権代理の一種なので善意無過失の相手方は、
 ① 「本人」に対して表見代理の主張をすることもできるし、これを主張せずに、
 ② 直ちに「無権代理人」の責任を追及することもできます(最判昭62.7.7)



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