|更新日 2023.9.11|公開日 2019.11.14
2021年の民法改正により、相隣関係や共有の規定が大きく変わりました。
改正法の施行時期は、2023年(令和5年)4月1日で、今後は試験範囲となります。
共有は大改正され、多くの条文が「新設」されました。
改正部分はコチラをご覧ください。
1|共有の意味
意 味 数人による共同所有
共有というのは、2人以上の者が1個の物を共同して所有することをいいます。
たとえば、兄弟3人で資金を出し合って別荘を購入した場合とか、数人の相続人が土地・建物を共同相続した場合などに成立します。また、建物の区分所有における共用部分も区分所有者の共有とされています。
数人が共同で所有するために、それぞれの共有者は、所有割合としての持分を有することになります。「持分」の本質は所有権であり、ただ、持分という割合で制約されているにすぎません。この制約がなくなれば、全面的な所有権に復帰する性質を有しています。
相続人が数人いるときは、土地・建物などの相続財産は、共同相続人の共有とされるため、共有は、相続についても重要な意味をもっています。
準共有
共有は「所有権」の共同所有ですが、準共有というのは「所有権以外の財産権」(抵当権や債権など)を数人で有する場合をいいます。準共有には、共有の規定が準用されます。
2|持 分
意 味 所有の割合
持分というのは、共有物に対して有する所有の割合で、持分権とか共有持分ともいわれますが、試験ではほとんど持分が使われています。
持分は、通常、共有者の合意によって決められますが、法律上規定されることもあります。たとえば、相続財産における法定相続分がそうです。持分が不明な場合には、等しいものと推定されます。
1 持分の自由処分
持分は自由処分できる
各共有者は、単独で「自己の持分」を自由に処分(売却、賃貸、担保の設定、放棄など)することができます。他の共有者の同意は必要ありません。
なぜなら、そもそも持分は所有権なので、普通の所有権と同じように、自由に「自己の持分」を譲渡したり、抵当権を設定するなどの処分ができるのは、当然なのです。
いうまでもなく、処分できるのは、あくまでも「自分の持分(所有権)」に限ります。
他の共有者の持分処分
Aが、他の共有者B・Cに無断で、共有物を自己の「単独所有」として売却した場合でも、売買契約としては有効に成立しますが(最判昭43.4.4)、他の共有者の持分(所有権)処分であるため、買主が「共有物全部」の権利を取得することはできません。Aの持分のみ取得することができます。
「他人の権利の売買」をしたAとしては、B・Cの持分を取得して、これを買主に移転する売買契約上の債務を負うこととなります(561条)。
2 持分の放棄
持分の放棄
共有者の1人が、その持分を放棄したときは、その持分は他の共有者に帰属します。
共有は、所有権が持分という割合で制約された状態にあるので、持分の放棄によりこの制約がなくなれば、いつでも完全な支配権としての所有権に復帰するのです。
特別縁故者と持分の帰属
共有者の1人が死亡して相続人がいないときは(相続人の不存在)、その持分は、まず特別縁故者に対する財産分与の対象となり、財産分与がないときに、他の共有者に帰属します。特別縁故者を優先させたのです(最判平1.11.24)。
3|共有物の使用・変更
1 共有物の使用
各共有者は「共有物の全部」について、自己の持分に応じた使用をすることができます。たとえば、2/3の持分を有する共有者は、共有物全部について「2/3の割合」で使用する権利を有しているわけです。
したがって、共有者Aの持分に基づいて共有物の占有使用を承認された者、たとえば賃借人などは、Aの持分の限度で共有物を占有使用することができます。あたかも、A自身がその持分に基づいて占有使用できるのと同じように。
2 共有物の変更
変更するには全員の同意が必要
共有物の変更というのは、建物を増築・改築したり、田を畑にするなどのように共有物を「物理的に変化」させたり、売却・賃貸する、抵当権を設定するなどのように「法律的に処分」することをいいます。
変更行為は、全員の利益に重大な影響を与えるため、持分価格の過半数の同意では足らず、全員の同意が必要です。
ただし法改正により、その形状または効用の著しい変更を伴わないもの、つまり軽微変更については、各共有者の持分価格の過半数の同意で足りることとなりました。
4|共有物の管理・保存など
1 管理行為
共有物の管理というのは、変更にあたらない利用・改良行為をいいます。たとえば、共有物について賃貸借を締結することは管理行為となります。
管理行為は単独ではできず、各共有者の持分価格の過半数の同意を要します。
共有物の賃貸借契約の解除は管理行為にあたるので、A・B・C3人の持分が均等の場合、AとBが合意すれば、持分価格の過半数は2/3となるため、Cの合意はなくても、賃貸借を解除することができます(最判昭39.2.25)。
なおこの場合、「当事者の一方が数人ある場合には、契約の解除は、その全員から、またはその全員に対してのみ、することができる」という解除権の不可分性を定めた544条1項の適用はありません。
2 保存行為
保存行為は単独で
共有物を保存する行為は、各共有者が、持分に関係なく単独ですることができます。
なぜなら、保存行為は、共有物の現状を維持する行為であって、必要であるだけでなく、全員の利益にもなり共有者間で利害も対立しないからです。
妨害排除請求と損害賠償請求
共有物を妨害する不法占有者に対する明渡請求は保存行為にあたるので、各共有者は持分に関係なく、単独で「共有物全部」について妨害排除請求ができます。
このとき、各共有者は損害賠償請求権を行使できますが、損害賠償請求権は、各共有者の持分の割合に応じて分割帰属するため、単独では「自己の持分相当額」のみを請求できるにすぎません。「損害全額」を請求することはできないのです(最判昭41.3.3)。
売却代金・賃貸料
共有物の売却代金とか、共有物から生じる賃貸料(共有別荘を貸したときの賃料など)についても、各共有者は自己の持分についてのみ請求権を有するだけです(最判昭51.9.7)。
引渡し請求
共有物を第三者が不法に占有するときは、各共有者は、単独でその引渡しを請求することができます。明渡請求は保存行為なので、各共有者はその持分に関係なく、単独ですることができるわけです。
時効の完成猶予
各共有者は、共有物を「占有する者」に対して、持分に基づき「取得時効」の完成猶予のための請求をすることができます。
3 共有物の負担
共有物の管理費用
共有物の管理は、各共有者の持分価格の過半数で決定されますが、税金など共有物の管理費用は、各共有者がその持分に応じて負担します。「利用の程度に応じて」負担するのではありません。「管理事項は過半数で、管理費用は持分に応じて」ということです。
共有物についての債権
共有者の1人が、共有物について他の共有者に対して債権を有する場合は、その特定承継人に対してもその債権を行使することができます。
たとえば、共有建物の管理に関して、共有者B・Cが、共有者Aに対して税金や管理費の立替えなどの債権を有する場合には、Aの持分の譲受人に対しても、Aの債務の支払いを請求することができます。譲受人としてはたまったものではありませんが、これもB・Cの債権を保護し、管理の実をあげるためなのです。
5|分割請求と分割禁止
1 分割請求の自由と分割禁止
各共有者は、持分に応じた分割請求の自由を有していて、いつでも共有物の分割を請求することができます。共有は複雑な法律関係を生じるため、できるだけ早く解消することが望ましいとされるのです。
ただし、5年を超えない期間内であれば、共有物を分割しない旨の不分割契約をすることができます。不分割期間を5年の短期にしたのは、いつでも分割請求できるという分割自由の原則との調和から、長期間の不分割契約を認めない趣旨なのです。この期間は更新できますが、更新時から、やはり5年を超えることはできません。
2 裁判所による分割協議
分割協議が調わないときは、各共有者はその分割を「裁判所に請求」できます。
裁判による共有物分割では、裁判所は「共有者間の実質的公平を害しないと認められる特段の事情」があれば、共有物を共有者1人の所有とし、他の共有者には持分の価格を賠償させる全面的価格賠償(賠償分割)の方法により分割することができます(最判平8.10.31)。
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