|更新日 2023.2.25|公開日 2017.8.04

 危険負担の意味

 危険負担というと、なんだか難しいイメージがしますね。ふだんの生活でもほとんど使うことのない用語ですし。

意 味
 危険負担というのは、たとえば、建物の売買契約が成立した後、建物がその引渡し前に、自然災害などの不可抗力(当事者双方の責めに帰することができない事由)によって滅失した場合に、「建物が滅失したのに、買主は代金を支払う必要があるのか、代金債務も消滅するのではないか」という問題です。

 というのも、売買契約などの「双務契約」は、双方の債務が対価関係にあるので、「一方が消滅すれば、他方も消滅するのが公平ではないか」と考えられるからです。

 いいかえれば、危険負担は「履行不能となった損害=危険は、どちらが負担するのか」という問題なのです。

注意!  債権者・債務者の区別
 危険負担では、債権者・債務者の区別は、履行不能となった債務を基準に判断されます。建物の売買でいえば、滅失して履行不能となった「建物の引渡し」については、売主が債務者、買主が債権者となるので、注意しましょう。

 原 則

原 則
 売買でいえば、買主(債権者)は、売買代金を払う必要はなく、代金の支払いを拒絶することができます履行拒絶権

 たとえば、自然災害や類焼などの不可抗力(双方に帰責事由がない)によって、建物が滅失してしまい、売主による建物の引渡債務が履行不能となれば、買主は「代金の支払いを拒むことができる」わけです。

 売主は代金をもらうことはできないので、建物が滅失したことの損失(危険)は、引渡債務者である売主が負担することとなります。

 なお、買主は代金支払いを拒絶できるだけであって、代金債務そのものが消滅するのではありません。代金債務を消滅させるためには、買主は、履行不能を理由に「契約を解除」する必要があります。

パトモス先生講義中

不可抗力で売主の債務が履行不能になったときは、買主は代金の支払いを拒むことができるようになった。

1歩前へ  契約の解除との関係
 売主の建物引渡債務が、「不可抗力」であれ「帰責事由」によるものであれ、履行不能となった以上、買主としては履行不能を理由に契約を解除(542条1項)すれば、売買代金の支払いを免れることができるわけで、何もわざわざ「履行を拒むことができる(536条1項)などという危険負担の規定を置く必要はないように思われます。
 確かに、解除権を行使できるときには、危険負担の規定の意義は乏しいものですが、新民法は、相手方の所在が不明のときや、解除権の不可分性(544条)のために、買主が解除権を行使できないときを考慮して、解除がなされるまでは債務の履行拒絶ができるとして、買主=債権者の利益保護を図ったのです。

 注意すべき点

 売主の帰責事由によるとき
 履行不能が、売主(債務者)の帰責事由によるとき、たとえば管理不始末で全焼させてしまったというような場合、売主は債務不履行の責任を負うこととなります。これは危険負担の問題ではなく、売主の「債務不履行の問題」です。
 売主は、本来の債務の履行に代わる「填補賠償債務」を負担することとなります。

 買主の帰責事由によるとき
 履行不能が、買主(債権者)の帰責事由によるときは、買主は代金債務の履行を拒むことはできず、売主に代金を支払わなければなりません(536条2項)。また、履行不能を理由として契約を解除することもできません(543条)

1歩前へ  利益償還義務
 履行不能が買主の帰責事由によるときは、売主は代金を請求できるわけですが、自己の建物引渡債務を免れたことによって利益を受けることがあります。
 たとえば、建物の管理費用などの支出を免れるなど、引渡債務を免れることによって利得を得たような場合には、その利得を買主に償還しなければなりません(536条2項)

 特約があるとき
 危険負担の規定は任意規定なので、当事者の合意によって民法の規定と異なる特約をすることができます。その場合は「特約」に従います。
 たとえば「自然災害による建物滅失の危険は、建物引渡しまでは売主が負担する」との特約があれば、売主の建物引渡債務も、買主の代金支払債務も共に消滅します。



宅建民法講座|テーマ一覧