|更新日 2023.2.25|公開日 2017.8.05
1|解除の意味と趣旨
家を売ったところ、とっくに期限が過ぎているのに、何度催促しても「買主」が代金を払わない。困った「売主」としては、代金の支払いを請求するとともに、履行遅滞を理由に損害賠償を請求したり、あるいは裁判所に訴えて履行を強制することもできます。
しかしこれらの場合には、売主も家の引渡しを履行しなければなりません。ただ今後も、このような買主とやっていくのは相当やっかいです。
売主としては、「不誠実な買主」との契約を解消して、むしろ新たに買主を探したほうがいいのではないでしょうか。
意 味 一方的に契約解消
契約の解除というのは、すでに成立している契約の効力を、一方当事者の意思表示によって消滅させ、「契約ははじめから存在しなかった」と同じ状態に戻すことをいいます。
趣 旨 相手方の救済
契約が有効に成立すると、「当事者は互いに契約に拘束」されます。しかし「履行されない契約」にいつまでも拘束されるのは相当ではないといえます。
当事者の一方がその債務を履行しないときには、相手方を救済するための手段として解除を認めれば、契約の効力を消滅させて、自己の債務を免れることができます。解除の趣旨は、まさにこの点にあります。
2|催告を必要とする解除
契約の解除ができるのは、債務不履行があった場合の法定解除や、当事者が契約で定めた約定解除のほかに、事後的に契約を解消する合意解除があります。
試験で重要なのは、債務不履行(履行遅滞、履行不能、不完全履行)を理由とする「法定解除」です。まずは、催告を必要とする解除をみておきましょう。
1 催告による解除
相手方が履行遅滞にある場合にする解除です。
原 則 催告してから解除できる
相手方が履行遅滞にあっても、直ちに解除することはできず、必ず催告が必要です。相手方に対して「相当の期間」を定めて履行を「催告」し、その期間内に履行がないときに、契約を解除できるのです。
解除する前に、催告を必要としたのは、履行遅滞の場合は、履行は可能なので、相手方にもう1度履行の機会を与えるのが適切であり、また、いったん有効に成立した契約なので、なるべく存続させるべきだとされているのです。
例 外 軽微な不履行は解除できない
ただし、相当の期間を定めて履行の催告をして、その期間内に履行がないときでも、催告期間が経過した時における債務不履行が「その契約および取引上の社会通念に照らして軽微であるとき」は、契約を解除することはできません。土地・建物の売買であれば、契約や不動産取引に通用している社会通念などから判断して、契約目的の達成に「必須的でない付随的義務の不履行」や「僅少部分の不履行」にすぎない場合には、解除はできず、損害賠償で満足すべきとされます。
① 不相当に短い催告期間でも有効 「相当期間を定めない」催告や、「不相当に短い期間」を定めた催告も有効であり、客観的にみて相当期間が経過すれば解除することができます。相手方はすでに履行遅滞にあるので、催告した以上「再度の催告」は不要なのです(最判昭44.4.15)。
② 履行遅滞と催告 相手方が「同時履行の抗弁権」を有しているときは、履行期日を過ぎても履行遅滞ではないために、催告しても解除はできません。
まず、自ら履行の提供=弁済の提供をして、相手方の「同時履行の抗弁権」を消滅させて履行遅滞となった相手方に催告して、それでも履行がないときに解除できるのです。履行の提供もしないで、「催告」しただけで解除することはできません(最判昭29.7.27)。
解除権留保の約定解除
たとえば「買主のローン不成立のときは契約の解除ができる」というように、あらかじめ解除権を留保している場合(約定解除権)は、「ローンが不成立となったとき」に解除権が発生します。ただし、解除は意思表示によってしなければならないので、たとえ売主がローンの不成立を知っていても、買主が解除の意思表示をしない間は、解除の効果は生じません。
解除に条件はつけられないが……
解除の意思表示に条件をつけることは、相手方の立場を不安定にするため、原則として許されません。しかし、たとえば「1週間以内に履行がないときは、改めて解除の意思表示をしなくても契約は解除されたものとする」というような条件であれば、すでに履行遅滞にある相手方をとくに不利益にするものではないので、この意思表示は有効とされ「改めて解除の意思表示をしなくても」解除の効果が生じます。
解除の意思表示は撤回できない
いったんなされた解除の意思表示は、撤回することができません。相手方の立場を不安定にするからです。
契約の解除は、解除される債務者に帰責事由(故意・過失・信義則違反)がなくてもすることができます。解除制度は、損害賠償制度と異なり、債務不履行をした債務者の責任追及ではなく、債権者を契約の拘束から解放する制度だからです。
債務者の責めに帰すべき事由は不要で、解除するための要件とはなりません。
3|催告を必要としない解除
次の①~⑥の場合には、債権者は催告をしないで「直ちに」解除することができます。催告しても履行の見込みはないからです。履行期前でも解除できます。
契約の全部解除
① 債務の全部が履行不能のとき|全部履行不能
売主の不注意とか自然災害等により、引渡し建物が滅失したというように「全部の履行が不可能」な場合です。履行を催告しても意味がないので、「履行期前」に不能となった場合でも「履行期を待つことなく」直ちに解除できます。
② 債務者が全部の履行拒絶の意思を明確に表示したとき|明確な履行拒絶
「履行を拒絶する趣旨の言葉を発した」だけでは不十分で、「履行を拒絶する意思を明確に表示した」ことが必要です。
③ 残存部分のみでは契約目的を達成できないとき|目的不達成
一部の履行不能、または一部の明確な履行拒絶の場合であって、残存部分のみでは契約目的を達成できない場合です。
④ 「催告しても」履行の見込みがないことが明らかなとき|明らかに履行見込みなし
催告をしても契約目的を達するのに足りる「履行」の見込みがないことが明らかである場合です。
契約の一部解除
次の場合にも、催告をしないで「直ちに」契約の一部を解除できます。
⑤ 債務の一部が履行不能のとき|一部履行不能
⑥ 債務者が債務の一部の履行拒絶の意思を明確に表示したとき|明確な一部履行拒絶
債権者に帰責事由がある場合
債務不履行が債務者ではなく、債権者の帰責事由によるものであるときは、債権者は契約解除できません。
たとえば、「売主」が建物を引き渡す債務を負っている場合に、建物の滅失について、引渡債権者である「買主」に帰責事由があるときは、買主は契約を解除できません。解除は、債権者を契約の拘束力から解放する「救済手段」ですが、故意・過失・信義則違反などの帰責事由のある債権者にこのような救済を認める必要はないからです。
4|解除の効果
契約が解除されるとどのような効果が生じるのか、①当事者間の効果と、②第三者との関係に分けて確認しておきましょう。
1 当事者間の効果
1 原状回復義務
契約が解除されると、債権・債務ははじめにさかのぼって消滅し、「契約を結ばなかった状態」に戻ります(解除の遡及効)。
そのため、当事者は、相手方を原状に復させる原状回復義務を負うこととなります。まだ履行されていない「未履行債務」は履行する必要はなくなり、すでに履行された「履行済み債務」であれば、目的物を互いに返還します。なお、金銭を返還する場合は、受領時からの利息をつけなければなりません。「解除した時」からの利息ではありません。
2 原状回復義務と同時履行
売主・買主双方の原状回復義務は、売買のような「双務契約」では同時履行の関係に立ちます。
売主の代金返還債務と、買主の目的物返還債務は、同時に履行する必要があります。
3 使用利益の償還義務
当事者は「解除されるまで」に受けていた使用上の利益も償還する必要があります。
判例は、売買により買主に移転した所有権は、解除によって遡及的に売主に復帰するので、原状回復義務の内容として、買主は「解除されるまでの間」に目的物を使用したことによる利益も売主に償還すべき義務を負う、としています(最判昭51.2.13)。
4 損害賠償義務
解除によって契約が消滅しても、すでに生じた損害は消滅しないので、これを賠償する必要があります。
契約を解除したら、目的物の返還義務のほかに、使用利益の償還義務、損害賠償義務も生じるよ。
2 第三者との関係
第三者に対しては、解除前と解除後に分けて考える必要があります。
解除前の第三者
この場合は、第三者保護の問題です(545条1項) 契約が解除されると、債権・債務ははじめにさかのぼって消滅し「契約を結ばなかった状態」に戻ります。はじめから権利移転がなかったこととなるため、解除される前に「すでに権利を取得」していた第三者も、はじめからその権利を取得しなかったこととなります。つまり「権利を失う」こととなるわけです。
しかし、他人の債務不履行によって第三者が「権利を失う」のは行きすぎと考えられ、民法は、解除をしても「第三者の権利を害することはできない」と定め、解除の遡及効を制限して第三者の利益を保護しました。
ただし、保護されるためには「登記」「引渡し」などの対抗要件(権利保護要件)が必要です(最判昭33.6.14)。保護に値する第三者とされるためには「権利者としてなすべきことを全部終えていなければならない」のです。
錯誤や詐欺・強迫などのような「契約成立時」の瑕疵を理由とする「取消し」とは違って、解除は、有効に成立した「契約後の事情」による契約の解消なので、第三者の善意・悪意は問題になりません。
第三者が、前主の債務不履行状態を知っていた悪意だったとしても、不履行は解消されることも十分にあり、それだけで悪意の第三者に責任を問う理由にはならないのです。
新民法も改正前民法と同様に、「第三者の権利を害することはできない」としているだけで、その第三者の善意・悪意、過失の有無については一切言及していません。
解除後の第三者
この場合は、対抗問題です(177条)。
契約が解除された後に取引関係に立った第三者とは、対抗問題となります。
AB間の売買契約で、売主AがBの債務不履行を理由に契約を解除した後に、第三者が現れた場合には、
・解除によるB→Aの所有権復帰と
・解除後のB→第三者への所有権移転とは、二重譲渡と同様に対抗関係となるので、その優劣は対抗要件・登記で決まります。
Aが解除しても、その「所有権復帰の登記」をしないうちに、解除後に取引関係に立った第三者が先に登記を備えてしまえば、Aは第三者に所有権を対抗することはできません。177条(物権変動の対抗要件)の原則どおり、先に登記をした者が所有権を取得します。
5|その他の注意点
解除権の不可分性
当事者の一方が数人あるときは、解除はその全員から、または全員に対してすることが必要です。したがって、その1人について解除権が消滅すれば、全員について解除権が消滅します(解除権の不可分性)。一部の者にだけ解除の効果を認めると法律関係が複雑になるからです。
たとえば、夫婦が契約当事者として建物を賃借している場合、夫婦の一方のみに対して、賃貸人が解除の意思表示をしても、効果は生じません。
解除権の消滅
① 催告権による消滅
解除権が生じたというだけでは、当然に解除の効果が生じるものではなく、実際に解除するかどうかは、解除権者の意思に委ねられています。そのため、相手方の地位は不安定で、これを解消するため、「解除するかどうか」の催告権が相手方に認められています。
解除権の行使について期間の定めがないときは、相手方は解除権者に対し、「相当の期間」を定めて解除するかどうかを確答するよう催告することができ、期間内に解除の通知を受けないときは、解除権は消滅し、もはや契約を解除することはできません。
② 時効消滅
解除権は、解除権行使が可能であることを知った時から5年で時効消滅します(166条1項1号)。
宅建民法講座|テーマ一覧