|更新日 2023.2.25|公開日 2020.5.11
1|契約不適合
「新築住宅を買ったところ、後で雨漏りが見つかった」「中古マンションを購入したが、後日、耐震強度の不足が判明した」「買った区画土地が、基準以上に土壌汚染されていた」。
意 味
こうした「雨漏り」「耐震強度の不足」「土壌汚染」などの欠陥を、新民法では「目的物が種類、品質または数量に関して契約の内容に適合しないもの」(契約不適合)といいます。
売買契約は、互いの義務が対価関係にある有償契約なので、買主が「価格 5,000万円」の住宅を購入するのであれば、売主は「それに相当する価値の物」を引き渡さなければなりません。「雨漏り」「耐震強度の不足」などの欠陥(契約不適合)があれば、5,000万円に相当する価値の物とはいえず、このような建物を引き渡せば、不完全な履行となります。
売買契約が成立すれば、売主は「種類・品質・数量に関して」契約の内容に適合した目的物を引き渡さなければならず、したがって、引き渡された目的物が「契約の内容に適合しない」契約不適合であるときは、売主は不完全な履行による債務不履行責任=契約不適合責任を負うこととなるのです。
1 契約不適合のパターン
「何が契約不適合か」は、当事者が契約で予定していた内容・品質・性能とともに、取引通念を考慮して判断されます(最判平22.6.1)。
具体的には次のとおりです。
1 種類・品質に関する契約不適合
雨漏り・土壌汚染など物理的瑕疵(欠陥)だけでなく、法律的瑕疵(都市計画法上の用途制限、建築基準法上の建築制限など法令により利用が制限されている事情)や、心理的瑕疵(不動産における過去の事件など一般人が嫌悪感をもつ事情)、環境的瑕疵(日照・騒音・悪臭・景観などの周辺環境)も契約不適合となります。
2 数量に関する契約不適合
数量不足があったすべての場合に「数量に関する契約不適合」があったとされるのではなく、たとえば、土地の売買では、「一定の面積を基礎として代金額が定められた」ときに面積不足があれば、数量の不適合があったとされます(最判昭43.8.20)。
新民法により、売買契約における「瑕疵担保責任」が大きく改正され、瑕疵という用語は「売買」では廃止されました。しかし、用語そのものが廃止されたわけではなく、他の分野では依然として使用されています。たとえば、瑕疵ある意思表示の取消し(120条2項)、占有における瑕疵の承継(187条2項)などです。
2 契約不適合における買主の権利
買主の権利は、いいかえれば「売主の担保責任」ということです。
このような契約不適合があった場合、買主を救済するために、次のような権利が認められています。
1 追完請求権
2 代金減額請求権
3 損害賠償請求権
4 契約解除権
追完請求権と代金減額請求権は、債務不履行の特則としての「契約不適合責任」とされ、売主の帰責事由(故意・過失・信義則違反)の有無に関係なく認められます。
以下、確認していきましょう。
1 追完請求権(修補請求権)
意 味 完全な履行を求める
追完請求権は、売主に対して「完全な履行を求める権利」をいいます。
買主としては「雨漏りを修繕してほしい」「耐震強度を補強してほしい」など、「契約どおりに完全に履行してほしい」と請求するのは、むしろ当然でしょう。
さて、契約不適合があれば、まず追完請求権が「第一次的」な買主の救済方法となります(追完請求権の優位性)。
追完内容
履行の追完には、3つの方法があります。
① 目的物の修補
② 代替物の引渡し(交換・取替え)
③ 不足分の引渡し
追完方法の選択権|買主にあり
どの方法によるかの選択権は買主にあり、買主が「原則として」追完の方法を選択できます。ただし「買主に不相当な負担を課するものでないとき」は、売主は、買主が請求した方法と「異なる方法で追完する」ことができます。買主の保護と売主の負担とのバランスを考えたのです。
たとえば、買主が「修補請求」をしたときでも、代替品のほうが安価で、かつ、買主に不相当な負担を課するものでない場合には、売主は「代替品の引渡し」によって追完できるわけです。
買主に帰責事由があるとき
契約不適合が「買主の責めに帰すべき事由」によって生じたとき(不注意で玄関ドアを壊したなど)は、買主は追完請求をすることはできません。買主に責任があるのに、売主に追完させるのは不公平だからです。
2 代金減額請求権
意 味
買主の追完請求に対して、売主が履行を追完しないときは、買主は「不適合の程度に応じて」代金の減額請求をすることができます。代金減額請求権は、売主の意思に関係なく、買主の一方的な意思表示によって効果が生じます(形成権)。
原 則 まずは「追完の催告」を
代金減額請求権を行使するには、原則として、まず「追完の催告」をしなければなりません。雨漏りが見つかったからといって「直ちに」減額請求ができるわけではなく、売主に「追完の機会」を与えなければならないのです。
なぜなら、代金の減額は契約の一部解除という性質を有しているので、通常の契約解除と同様に、まずは、催告が必要とされるのです。
新民法は「買主が相当の期間を定めて履行の追完の催告をし、その期間内に履行の追完がないときは、買主は、その不適合の程度に応じて代金の減額を請求することができる」としています(563条1項)。
新民法で、代金減額請求権が認められたけれど、まず追完の催告をすることが原則だよ。
例 外 催告なしに減額請求できる
ただし次の場合には、催告をしないで直ちに減額請求をすることができます。売主による追完は期待できないからです。
① 履行の追完が不能(履行不能)
土地・マンションの売買における「面積不足」は、一般的に追完不能といえます。
② 売主が追完を拒絶する意思を明確に表示した(明確な履行拒絶)
③ 催告しても追完を受ける見込みがないことが明らか(明らかに見込みなし)
買主に帰責事由があるとき
ただし、契約不適合が「買主の責めに帰すべき事由」によって生じたときは、代金減額請求権は認められません。
不注意(過失)でスマホを落として壊したら、交換も代金減額もできない道理です。
以上のほかに、買主には、債務不履行の一般原則に従って、損害賠償請求と契約解除が認められています。
3 損害賠償請求権
売買の目的物に契約不適合があれば、買主は、売主の債務不履行を理由に、これによって生じた損害の賠償請求をすることができます。この損害賠償は、債務不履行を理由とするものなので、売主に帰責事由のあることが必要であり、またその内容は履行利益の賠償、つまり、契約に適合した履行がされたならば買主が受けたであろう利益の賠償です。
契約不適合が、契約・取引上の社会通念に照らして「売主の責めに帰することができない事由」によるものであるときは、売主は損害賠償責任を負うことはありません。契約不適合を理由とする損害賠償請求には、債務不履行の原則が適用されるため、売主に帰責事由のあることが必要なのです。
4 契約解除権|解除一般の原則に従う
売買の目的物に契約不適合があれば、買主は、売主の債務不履行を理由に契約を解除することができます。「催告による解除」の場合は、買主が、相当期間を定めて履行の追完をするよう催告をして、その期間内に追完がないときに契約を解除できます。
また、追完不能の場合には「無催告解除」をすることができます。この点は、解除一般の原則に従います。
買主に帰責事由があるとき
契約不適合について、買主に帰責事由があるとき、たとえば、購入建物の一部損壊が、買主の帰責事由によって生じた場合には、追完請求も代金減額請求もできませんが、損害賠償請求も契約解除も認められないのです。
3 権利に関する契約不適合
売主には、契約の内容に適合する「物」を引き渡す義務があるのと同じように、「権利」についても、契約の内容に適合する権利を移転する義務があります。したがって、権利に契約不適合があれば、「物」の引渡しと同じように、買主には、追完請求・代金減額請求・損害賠償請求・契約解除の権利が認められています。「物と権利が統一的に運用」されているわけです。
権利が契約不適合のケース
次のような場合があります。
① 購入した土地に抵当権や地上権が存在する
② 不動産の上に対抗力ある他人の賃借権が設定されている
③ 通行地役権が存在するとして購入した土地に地役権がなかった
④ 建物のために存在するとされた土地賃借権が存在しなかった
⑤ 購入した土地の一部が他人の所有、あるいは他人の共有持分がある
4 買主の権利行使の期間制限
買主は、いつまでもこれらの権利を行使できるわけではなく、期間制限があります。
その期間は、①種類・品質における不適合の場合と、②数量・権利における不適合の場合とで異なっています。
1 種類・品質における不適合の場合
知った時から1年以内に通知
これらの権利(追完請求・代金減額請求・損害賠償請求・契約解除)は、買主が「契約不適合」を知った時から1年以内に、その旨を売主に通知しないときは、行使することができません。契約不適合を知っても「通知しないとき」は、これらの権利を失います。
「何年たっても売主が責任を負う」としたのでは、売主にあまりに酷であり、また早期に法律関係を安定させる必要もあるからです。「引渡しを受けた時」からではない、ことに注意してください。
買主は、不適合を知ってから1年以内に売主に通知しないと、権利を行使できなくなるよ。
契約不適合責任は、同時に債務不履行責任でもあるので、買主の諸権利には、債権の消滅時効に関する一般規定(166条1項)の適用もあります。つまり、
① 1年以内に通知した場合には、知った時から5年で時効消滅します。
② 「引渡し」を受ければ契約不適合の状態を発見して「権利行使することができる」ので、引渡しの時から10年で時効消滅します。
通知の内容
「契約不適合の旨」を通知するだけでよく、訴訟の提起や損害額を明示して損害賠償を請求するなど、担保責任追及の「具体的な行為」をする必要はありません。
売主に悪意・重過失があるとき
「期間内に通知しなくても」買主は権利行使できる ただし、売主が「引渡しの時」にその不適合を知り、または重大な過失によって知らなかったときは、買主が通知を怠ったとしても、これらの権利を失うことはありません。
この期間制限は、契約が無事に履行されたという売主の期待を保護するためなので、悪意・重過失の売主に対して「期間内に通知がない」からといって、期間制限で買主の権利を失わせることは、悪意・重過失の売主を免責することとなり相当ではないからです。
2 数量・権利における不適合の場合
5年または10年で時効消滅
以上の期間制限は、数量および権利に関する契約不適合には適用されず、債権の消滅時効に関する一般原則(166条1項)によって処理されます。
つまり、買主が不適合の事実を「知った時」から5年間、または「引渡しの時」から10年間行使しないときは、時効消滅します。
宅建民法講座|テーマ一覧