|更新日 2023.3.09|公開日 2017.06.07
1 はじめに権利能力ありき
1 権利能力の意味と取得原因
たとえば、人が土地や建物の売買契約をすれば、土地・建物の所有者となり、また売買代金を支払う義務を負うことになります。交通事故に遭えば、加害者に損害賠償を請求したり、親が死亡すれば、その財産の相続人となります。
意 味 権利者となれる資格・地位
権利能力というのは、このように「権利を取得したり義務を負ったりする資格・地位」のことをいいます。「権利能力がある」というのは、「権利と義務が帰属する資格・地位が与えられている」とか「権利・義務の帰属主体である」ということです。
したがって「権利能力がない」というのは、民法上のすべての権利をもつことができないということなので、所有者となったり請求権者となることはできません。これから学習する「意思能力」も「行為能力」も、「権利能力」があることが大前提なのです。
取得原因 生まれると同時に取得
この権利能力、どうやって取得するのでしょうか? 役所に出向いて、何か手続きをするのでしょうか?
民法は冒頭で「私権の享有は、出生に始まる」として、「すべての人は一切の例外なく、オギャーと生まれると同時に当然に権利能力を取得する」と定めています(3条1項|権利能力平等の原則)。
役所に出生届をしなくても、出生という事実だけで瞬時に権利能力を取得するので、生まれたての乳幼児でも「相続人」となって、不動産の所有権者となることができます。
権利能力を有する者には、人(自然人)のほかにも、法律で認められた法人(会社など人間の組織体)があります。
権利能力がない者は、はじめから所有権者となったり、債権者になることはできないんだよ。
2 胎児の権利能力
原 則 胎児に権利能力はない
人は、生まれることによって権利能力を取得するので、母親の胎内にあって「まだ生まれていない・出生していない」胎児に権利能力はありません。これが原則です。
例 外 胎児に望みあり|3つの例外
しかし、この原則を貫くと、出生時期のわずかな前後によって、胎児にとってとくに不利益となる場合があります。
たとえば、父親の死亡時(相続の開始時)に、その直前に出生していた「子」は相続できますが、まだ生まれていない胎児は、相続開始時には権利能力がない(権利の保有者となる資格がない)ために相続できず、また、父親が他人による交通事故で死亡しても、加害者に対する父親の損害賠償請求権を相続することはできません。
極論ですが、父親の死亡が、胎児中なのか出生1日後なのかによって「1円も相続できず、請求もできない」という厳しい結果が生じることもあるのです。
もうすぐ生まれてこれから生きていくのに、経済的支えが全くないというのでは、胎児にとってあまりに厳しいといえます。
そこで民法は、胎児を保護するために、①相続、②遺贈、③不法行為に基づく損害賠償請求権については、「すでに生まれたものとみなし」て、1人の人(権利能力者)として扱います。
母親の胎内にあるままで、相続人となったり、遺贈による受遺者となる(胎児に対して遺言で財産を与える)ことができるのです。
・相 続
・遺 贈
・不法行為に基づく損害賠償請求権
たとえば、民法は、①相続における胎児について、次のように定めています。「胎児は、相続については、既に生まれたものとみなす」(886条1項)。
胎児も、相続についてはすでに生まれたものとみなされて、「1人の相続人」として他の相続人とともに相続分が計算されます。
みなすというのは、「法律上一方的に決めつける」「つべこべ言わせない」ということで、反論は一切許されません。
これに対する用語に「推定する」があります。こちらは事実に反することがあれば「反論」することが許されます。たとえば「違約金は、賠償額の予定と推定する」(420条3項)とされているので、賠償額の予定ではないのであれば反論することができるわけです。
「みなす・推定する」は、それぞれ法律の立法趣旨により決められています。
2 意思能力
現代は契約社会 人はだれでも平等に権利能力者ですが、これだけでは生きていけません。現代社会は契約社会として運営されていて、今日、私たちが生きていくためには、さまざまな契約をしていかなければなりません。
会社で働いて給料をもらったり(雇用契約)、通勤のために電車・バスを利用したり(運送契約)、マンションを購入したり借りたり(売買・賃貸借契約)、親の介護を頼んだり(委託契約)、スーパーで食料品・衣料品等を買ったり(売買契約)など、生存に欠かせない衣食住は、私たち1人1人が「契約によって形成していく」という社会システムになっているのです。
「契約社会」を支える基本理念は、「私的自治の原則」「契約自由の原則」です。要するに「だれでも自由に契約を結ぶことができるよ」ということです。
これは「人はだれでも、自らの自由意思によって法律関係・契約関係を形成できる」という反面、「自らの意思で形成した契約に拘束される」とする「自己責任を伴う原則」です。
そして「契約に拘束される」ことが法律上正当といえるためには、その意思決定が「正常に」なされる必要があります。
「私的自治の原則」のもとでは、正常でない意思決定(詐欺や強迫、錯誤などによる意思決定)に拘束されることは認められないのです。
1 意思能力
意 味 相応の判断能力が必要だ
意思能力というのは「契約の法的な意味や結果を判断する能力」のことです。
たとえば、物を買うと自分のものになって自由に使えるけれども、代金を払わなければならない。自分の物を売ったら代金がもらえる代わりに、物の自由な使用ができなくなるといったことを「判断できる能力」です(損得勘定ができる能力ですね)。
一般的には、小学校低学年の程度(6歳前後)の知能といわれます。
民法は、この意思能力を「事理を弁識する能力」(7条・11条・15条)といっています。
★ 試験では「意思能力」も「事理を弁識する能力」も混在して使用されています。
2 意思無能力者による意思表示
自分の行為の「意味・結果を判断する意思能力」を有しない意思無能力者がした意思表示や契約は、無効です。何の効力も生じません。高度の認知症高齢者が別荘の売買契約書にハンコを押しても、この売買契約に効力はありません。
これは、意思無能力者による意思表示は、判断能力が欠けているために「正常でない意思決定」であり、そのため、その法律行為(契約)に拘束されることは正当でないとして、意思無能力者保護のために確立された法理です。
この法理は「自明の理」とされていて条文にはありませんでしたが、新民法で「法律行為の当事者が意思表示をした時に意思能力を有しなかったときは、その法律行為は、無効とする」と明文化されました(3条の2)。
意思無能力者のした契約は、わざわざ取消しをしなくても、はじめから無効なのです。法律行為(契約)が有効とされるためには、まずはこの意思能力が必要です。
契約の当事者が「意思表示をした時」に意思能力を有しなかったときは、その契約は無効だからね。
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