|更新日 2023.2.25|公開日 2017.8.08

1|遺産分割

 遺産分割の意味

意 味
 遺産分割というのは、相続財産を「具体的」に分けていくことをいいます。
 相続開始の時に、相続人が「配偶者と子2人」というように数人いる共同相続人の場合、相続財産は、ひとまず相続人全員の共有となります。この「遺産共有状態」は一時的・暫定的な状態であり、遺産を構成している個別の財産(家・土地・現金・預貯金など)が、1人1人の共同相続人に個別具体的に帰属するためには、遺産分割をする必要があります。

 配偶者が1/2、子が1/2の法定相続分を有するというのは、「遺産全体」について取得する割合であって、遺産の中の「1つ1つの財産」について、これを1/2ずつに分けるということではありません。配偶者と子は、どの財産を取得してもよく、要するに、取得した価額が、遺産全体の価額の1/2になればいいわけです。

 遺産分割の自由

 共同相続人は、被相続人が遺言で禁じた場合を除いて、いつでも「協議により」遺産の全部または一部の分割をすることができます。
共有の状態」を早く解消させて、各相続人に単独の権利・義務をもたせるためです。

 遺産分割の禁止と方法の指定

遺産分割の禁止
禁止期間は5年を超えることはできません。被相続人は、遺言で「相続開始の時」から5年を超えない期間を定めて、遺産の分割を禁じることができます。
 もともと共有物の不分割契約は5年を超えることができない(256条)のですが、相続財産の分割禁止も例外ではありません。

分割方法の指定
 被相続人は、遺言で「遺産分割の方法」を定めたり、これを定めることを「第三者に委託」することができます。

 協議分割

 上記のように、共同相続人は、被相続人による「分割禁止の遺言」がない限り、いつでも協議分割をすることができます。したがって、1人から「遺産分割の請求」があれば、他の相続人は分割の協議に応じなければなりません。
 分割協議には共同相続人全員の参加が必要で、一部の相続人を除外してなされた分割協議は無効です。

利益相反行為と特別代理人の選任
 相続人中に未成年者とその親権者(未成年者は父母の親権に服します)がいる場合、たとえば、「配偶者」と「未成年である子」が相続人となった場合には、遺産分割協議は利益相反(互いの利益が対立する)行為となるため、親権者は「未成年者のために」特別代理人の選任を家庭裁判所に請求しなければなりません(826条)

利益相反行為は無効
 利益相反行為かどうかは、行為の外形から客観的に判断すべきであって、親権者の主観的な意図や動機から判断すべきではないとされています。
 したがって親権者が、共同相続人である子を「代理」して遺産分割協議をしたときは、公平を欠く意図がなく、利害の対立が現実化しなくても「追認のない限り」無効とされます(最判昭48.4.24)

 判例は次のように判示しています。
「親権者が、共同相続人である数人の子を代理して遺産分割の協議をすることは、かりに親権者において、数人の子のいずれに対しても公平を欠く意図がなく、代理行為の結果、子の間に利害の対立が現実化されていなかったとしても、利益相反行為にあたるから、親権者が共同相続人である数人の子を代理してした遺産分割の協議は、追認のない限り、無効である」

遺産分割協議の解除
 共同相続人は、既に成立している遺産分割協議の全部または一部を「全員の合意により解除」した上で、改めて遺産分割協議を成立させることができます。
 全員が、遺産分割協議をやり直したいと希望するのであれば、その合意に基づいて遺産分割協議をいったん解除し、再度協議することに法律上問題はありません(最判平2.9.27)

 遺産分割の効力

分割は遡及する
 遺産分割の効力は「相続開始の時にさかのぼって」生じます(遡及効)
 遺産分割協議が「成立した時」から効力を生じるのではありません。

 たとえば、相続開始の時から2年経過した後に遺産分割をしたときでも、その効力は、第三者の権利を害しない範囲で、相続開始の時にさかのぼって生じます。遺産分割によって取得した所有権などの権利は、相続開始の時(被相続人の死亡時)から相続人に帰属していたこととなり、「被相続人から直接、財産を取得したもの」として扱われます。

第三者との関係

分割の第三者
 遺産を分割するとその効力は、相続開始の時にさかのぼって生じますが、第三者の権利を害することはできません(909条)。ここでいう「第三者」は、遺産分割前に生じた者のことで、この第三者に対しては「分割の遡及効を制限した」わけです。
 というのも、相続開始から遺産分割までに、相続財産に対して「第三者」が利害関係を有することになる場合も多く、そのため、分割の遡及効によりその権利をくつがえすことは、法律関係の安定を害することになるからです。
 ただし、第三者が権利を主張するためには「対抗要件」を備える必要があります。

分割の第三者
 遺産分割後に生じた第三者については、対抗要件(177条)の問題となります。

分割後の第三者に対する関係では、分割により新たな物権変動を生じたものであり、したがって、分割により相続分と異なる権利を取得した「相続人」は、その旨の登記をしなければ、分割後に相続不動産につき権利を取得した「第三者」に対して、自己の権利取得を対抗することはできません(最判昭46.1.26)
 登記を怠った「相続人」は保護するに値しないというわけです。

共同相続と単独登記
 遺産分割前に、共同相続人の1人が「勝手に」土地所有権の単独名義をして、これを第三者に譲渡し「登記」しても、他の共同相続人は、自己の持分を登記なくして、その第三者に対抗することができます。
 なぜなら、遺産分割前の相続財産は全員の共有なので、共同相続人の1人による処分は「他の相続人の持分(所有権)」に関する限り、他人の権利の処分となるからです。
 単独名義の登記は「無権利の登記」であって、登記に公信力がない(登記を真実と信じてもそれだけでは保護されない)以上、第三者も当然にはその権利を取得することはできません(最判昭38.2.22)

2|預貯金の払戻し制度

預貯金債権は共有とされる
 判例変更(平成28年)により、預貯金債権普通預金債権・定期預金債権など)は、相続開始と同時に、ひとまず「相続人の共有に属する」とされ、従来のように「当然に相続分に応じて分割される」ことはありません。
 相続人は、遺産分割協議が終了するまでの間は、単独では「預貯金の払戻し」を受けることができなくなりました(最判平28.12.19)。これは、相続財産をできる限り幅広く共有として、共同相続人間の実質的公平を図ろうとする趣旨なのです。

 しかし一方で、これでは、相続人の当面の「必要生計費」や「葬儀費用」、あるいは被相続人の債権者が弁済を請求してきた場合など、緊急に資金が必要となったときに対応することができません。預貯金債権は共有とされるため、相続人全員の同意によるか、遺産分割されるかしなければ、「被相続人の葬式費用が必要になった」場合でも、1円も払戻しができないのです。

「預貯金の払戻し制度」の創設
 そこで新民法は、遺産分割における公平性を図りつつ、相続人の資金需要に対応できるように遺産分割前における「預貯金の払戻し制度」を設けました(909条の2)
 これにより、一定の法定額ならば、相続人が単独で払戻しできることとなるわけです。

 各相続人は、①標準的な当面の必要生計費、②平均的な葬式費用などは「法定の限度額以内」であれば、単独で権利行使(払戻し)することができます。他の共同相続人の同意も、家庭裁判所の許可も必要ありません。
 なお、この権利を行使をした預貯金債権については、その共同相続人が遺産の一部分割により、これを取得したものとみなされます



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