|更新日 2023.2.25|公開日 2017.8.11

1|遺 言

 遺言の自由と遺言能力

遺言の自由
 すべての人は、自分の財産を自由に処分する権利を有していますが、生存中に処分できるだけでなく、死後における運命をも自由に決定することができます。

 自由に遺言できるといっても、「長男の相続をゼロにする」というような遺言を許したりすると、相続人間に不平等を生じるので、遺言の自由も無制限に認められるわけではありません。遺言の自由と法律上の相続権との調和を図るため、「遺留分制度」など各種の措置が講じられています。

遺言能力
 遺言は、15歳に達すればすることができます。未成年者であっても、15歳に達していれば、自分1人の単独意思で遺言をすることができるわけです(961条)

 遺言は身分行為であるため、とくに表意者の意思を尊重すべきとされており、「制限行為能力者」(未成年者・成年被後見人・被保佐人など)の遺言であっても、法定代理人や成年後見人などの同意は不要で、同意がないことを理由に取り消すことはできません。法定代理人の同意がなくても完全に有効です。

 また、遺言は、遺言者本人の意思によってなされなければならず、代理は許されません

2|遺言の方式

 遺言は「民法の定める方式」に従わなければならず、方式に違背した遺言は、無効です。

遺言の要式性──死人に口なし
 日本の遺言制度の特色は、遺言訴訟の多くが、方式の不備な遺言について争われていることです。「死人に口なし」とあるように、遺言が効力を生じる時には、すでに遺言者は生存していないため、遺言がはたして「本人の最終意思かどうか」の確認ができません。
 遺言の要式性は、遺言者の真意を明確にして、こうした難点を防止するために採用されたものです。

普通方式と特別方式
 民法の定める遺言の方式は、普通方式と特別方式です。
  普通方式による遺言は、自筆証書公正証書、秘密証書に限られます。
  特別方式による遺言は、危急時遺言などです。

 自筆証書遺言|方式が緩和

意 味
 自筆証書遺言というのは、遺言者が、
  全 文
  日 付
  氏 名
自書(手書き)し、これに、押印することによって成立する遺言です。

財産目録はコピーでよい
 改正前民法では、添付する財産目録(相続財産の目録)も含めて「全文の自書」が必要でした。しかし、この方式は遺言書作成の負担が大きく、遺言書作成が浸透しない一因ともなっていたため、新民法で緩和されました。

 つまり、自筆証書に「一体のもの」として添付する財産目録については、自書の必要がなくなり、パソコンなどで作成した財産目録、預貯金通帳や登記事項証明書(登記簿謄本)コピーを添付することが認められたのです。
 ただし、偽造等を防止するため、財産目録の毎葉(各用紙)に、署名・押印しなければなりません。各用紙の「両面」に記載があるときは、その両面に署名・押印が必要です。

 なお、緩和されたのは財産目録等であって、「遺言書の本文」については、これまでどおり自書で作成する必要があります。

自筆証書遺言の変更
自筆証書目録を含むは「加除訂正」することができますが、加除訂正は、遺言者が変更の場所を指示し、これを変更した旨を付記して特にこれに署名し、かつ、変更した場所に押印しなければ、加除訂正としての効力を生じません(要式性のため細かい)

 公正証書遺言

 公正証書遺言は、「公証人の立会い」の上で公正証書で作成する遺言です。次の方式に従って作成されます。

 まず「2人以上の証人」の立会いのもと、遺言者が遺言の趣旨を「公証人」に口授して、公証人がこれを筆記して、遺言者・証人に読み聞かせます。
 そして、遺言者・証人が筆記の正確なことを承認した後、「各自」が署名・押印し、さらに「公証人」が、方式に従って作成された旨を付記して署名・押印します(これも細かい)

 危急時遺言|口頭で

 船舶が遭難した場合に、その船舶中にいて死亡の危急に迫った者は、証人2人以上の立会いがあれば、口頭で遺言をすることができます。

 共同遺言の禁止

 遺言は、単独の意思表示が確保されるものでなければならず、そのため「遺言は、2人以上の者が同一の証書ですることができない」とされています(975条)。夫婦であっても、血縁関係があっても、同一の証書で遺言をすることはできません。

3|遺 贈

意 味
 遺贈は、「遺言という方式」で他人に自己の財産を与える行為をいいます。人は、生前に自由に財産を処分できるその延長として、死後の遺産のゆくえも自由に決定させようという趣旨です。「遺言の自由」は「遺贈の自由」にほかならず、民法も986条から1003条の18か条にわたって遺贈について定めています。
遺贈と贈与
 遺贈は、財産上の利益を無償で与える点で、贈与に似ています。しかし、贈与は、贈与者と受贈者との合意(契約)によってなされる「生前処分」ですが、遺贈は、遺言による一方的な意思で完結させる単独行為であり「死後処分」です。

 遺贈は、相続人に対してすることも、相続人以外の人にすることもできます。
 遺贈によって利益を受ける者を受遺者といいます。

 遺贈の種類|包括遺贈と特定遺贈

 遺贈には、包括遺贈と特定遺贈があります。

包括遺贈
 包括遺贈は、法律上相続人でない者を相続人のうちに加える遺贈です。たとえば「財産の全部を内縁の妻Aに包括して遺贈する」「認知しない子Bにも、嫡出子と同じだけの財産を与える」「遺言者の有する相続財産の1/3をC法人に遺贈する」というように。

 包括受遺者は「相続人と同一の権利義務を有する」(990条)とされます。相続人と同一の権利義務が与えられるので相続人が1人増えたのと同じことになり、包括受遺者を加えて遺産分割協議をすることになります。
 遺産に借金などの債務があれば、その「債務も承継」することになります。

特定遺贈
 特定遺贈は、家屋とか時計とか一定額の金銭など、具体的な「特定の財産」を与えるという遺言をいいます。この場合は、共同相続人が遺産の中から、この特定財産を受遺者に与える手続をとることになります。

負担付遺贈
 たとえば、遺言者が「自分の所有不動産をAに与える。その代わり、Aは、わが子Bを養育しなければならない」という遺言を負担付遺贈といいます。
 受遺者は、遺贈された財産を取得するとともに、「遺贈の目的価額を超えない限度においてのみ」負担を履行すべき義務を負うこととなります。

 遺贈の放棄

 遺贈の放棄は自由です。受遺者は、遺言者の死亡後、いつでも遺贈の放棄をすることができます。特別の方式は不要です。
 遺贈の放棄は「遺言者の死亡時にさかのぼって」効力を生じます。

 その他の注意点

 そのほか、遺贈で注意すべき点を確認しておきましょう。

受遺者の資格
 受遺者には、自然人でも法人でもなることができます。また、胎児は、遺贈に関してはすでに生まれたとみなされるので、胎児に遺贈することができます(965条)

受遺者の死亡による遺贈の失効
 受遺者は「遺言の効力発生の時」に生存していることを要します同時存在の原則
 したがって、遺言者が死亡する以前に、すでに受遺者が死亡していれば、遺贈は効力を生じません。あくまでも受遺者本人限りの権利なので、相続におけるような「代襲相続」はありません。

遺贈の無効・失効の場合の財産帰属
 遺贈が無効であったり、受遺者が遺贈の放棄をして遺贈が効力を失ったときは、受遺者が受けるべきであったものは、相続人に帰属します。
 ただし、遺言者が別段の意思表示をしたときは、その意思に従います。

4|遺言の効力と執行

 遺言の効力の発生時期

 遺言の成立時期は、遺言書作成の時ですが、遺言の効力が生じるのは、遺言者死亡の時です。「遺言は、遺言者の死亡の時からその効力を生ずる(985条)とあるとおりです。
 なお、遺言に停止条件をつけた場合には、遺言者の死亡後に、その「条件が成就した時」から効力を生じます。

 遺言は法律行為(意思表示)なので、錯誤・詐欺・強迫などによる遺言は取り消すことができます。

遺言書の検認
 遺言書の保管者は、相続開始を知った後、遅滞なく、これを「家庭裁判所に提出」して、その検認を請求しなければなりません。ただし、遺言は、遺言者の死亡の時から効力を生じ、そのために特別の手続きを必要としないので、検認を経ないで遺言書が執行されても有効です。
 検認は、遺言の執行を円滑に実施するための準備手続(証拠保全手続)であって、内容の真偽や有効・無効を判定するものではないのです。

 遺言執行者の権利・義務

 改正前民法は、遺言執行者の法的地位・権利義務について明確な規定がなく議論がありましたが、新民法で明文化されました。

遺言執行者の指定
 遺言者は、遺言で、1人または数人の遺言執行者を指定したり、その指定を第三者に委託することができます。

遺言内容の通知義務
 遺言者が死亡して遺言が効力を発生した場合、遺言内容の実現については、相続人が履行する義務を負いますが、遺言執行者があるときは、遺言執行者が履行する義務を負います。
 そのため、遺言執行者の存在や遺言内容について、相続人は重大な利害関係を有することとなるので、遺言執行者が「任務を開始」したときは、遅滞なく「遺言の内容を相続人に通知」しなければなりません(1007条2項)

遺言執行者の権利・義務
 遺言執行者は「遺言の内容を実現するため、相続財産の管理その他遺言の執行に必要な一切の行為をする権利義務」を有します。

改正前民法では、遺言執行者と相続人の間でトラブルが生じた場合、遺言執行者は「遺言者の利益」のために行動するのか、「相続人の利益」のために行動するのか明確ではありませんでした。新民法は、遺言執行者は「遺言の内容を実現するために行動する」、つまり「遺言者の意思を実現するために行動する」ことを明確にしたのです。

遺言執行の妨害行為の禁止
 遺言執行者がある場合、相続人は、相続財産を処分したり、その他「遺言の執行を妨害する行為」が禁止されています。これに違反する行為は、無効です。相続人に自由な処分を許すと遺言の執行ができなくなるおそれがあるため、相続人の権利を制限したわけです。
 ただし、取引の安全のため、この無効は善意の第三者に対抗することはできません。

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相続人が相続財産を売買したり、贈与するなど「遺言の執行を妨害する行為」は無効だよ。

 遺言の撤回

撤回の自由
 遺言者は、遺言の方式に従って、いつでも遺言(全部または一部)を撤回することができます。撤回の自由は、遺言者の最終意思を確保するために必要とされる制度です。

前の遺言と後の遺言が抵触したら?
 前の遺言が、後の遺言と抵触(矛盾)するときは、その抵触部分については、後の遺言で前の遺言を撤回したものとみなされます。抵触部分については、前の遺言どおりの内容を実現する意思はないと認められるからです。

 これは、遺言後の「生前処分」と「遺言」が抵触する場合も同様です。たとえば、遺言で「Bに相続させる」とした土地を、その後、第三者に売却した場合は、その遺言は「撤回したものとみなされる」のです。

撤回された遺言の効力
 遺言が撤回されると、その遺言はなかったことになります。その撤回行為が、さらに撤回されたり取り消されたりしてもその効力はなく、遺言は復活しません。
 ただし、その撤回行為が錯誤・詐欺・強迫など意思表示の欠陥による場合は、撤回行為を取り消すことができるのは、当然です。

5|遺留分

 ここでは、相続財産に対するの「相続人の最低限の取り分を確保」するために、新しく遺留分侵害額請求権が認められることとなった点を確認しておきましょう。
趣 旨
 遺留分制度は、配偶者・子など「兄弟姉妹以外」の相続人に対して、その生活保障と財産の公平な分配を図る趣旨から「最低限の取り分を確保する制度」です。たとえ遺言によっても、「遺留分を侵害する」ことは許されません。

 新民法により「遺留分を侵害された相続人」は、被相続人から「多額の遺贈や贈与を受けた者」(受遺者または受贈者)に対して、「遺留分侵害額」に相当する金銭を請求できるようになりました。

 改正のポイントは次の3点です。
  従来の「遺留分減殺請求権」が、遺留分侵害額請求権に改められた
  遺留分侵害額の算定式が明文化された
  受遺者・受贈者が、弁済等により相続債務を消滅させたときは、遺留分侵害額によって負担する債務を消滅させることができる

 遺留分権利者

 遺留分が認められている「遺留分権利者」は、配偶者・子・直系尊属の3者です。
 したがって、配偶者と子が相続人となった場合、両者が遺留分権利者となります。
 なお、被相続人の兄弟姉妹には遺留分が認められていないので(1042条1項)、遺留分侵害額請求権も認められません。

 遺留分侵害額の性質

 遺留分侵害額請求権は金銭債権です。新民法は「遺留分権利者は、受遺者または受贈者に対し、遺留分侵害額に相当する金銭の支払を請求することができる」(1046条1項)と定めています。

 新しい遺留分侵害額請求権は、従来の「物権的な遺留分減殺請求権」に代わって、「支払請求権」として金銭債権化されたわけです。金銭的な補償を求める権利として、侵害部分を「お金」で返してもらうのです。
 「財産自体を取り戻す」遺留分減殺請求権とは大いに異なります。

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従来の遺留分減殺請求権が金銭債権化されて、遺留分侵害額請求権に改められた。

受遺者等が弁済した分は侵害額から差引かれる
 遺留分侵害額の請求を受けた受遺者・受贈者は、遺留分権利者(相続人)が承継した「相続債務」を弁済するなどの「債務消滅行為」をしたときは、消滅した債務額の限度で、遺留分権利者に対する意思表示によって遺留分侵害額により負担する債務を消滅させることができます。
 同時に、弁済などの債務消滅行為をしたことによって取得した遺留分権利者に対する求償権も「消滅した債務額の限度」において消滅することとなります。こうした措置は、負担の公平を図るとともに求償の手間を省くためです。

遺留分侵害額の計算方法の明確化
 具体的な遺留分侵害額は、新1046条に定められています。

 遺留分侵害額請求権の時効消滅

 遺留分侵害額請求権は、遺留分権利者が「相続の開始および遺留分を侵害する贈与または遺贈があったことを知った時」から1年間行使しないときは、時効によって消滅します。
 「相続開始の時」から10年を経過したときも、同様です。

 遺留分の放棄

 遺留分の放棄には家庭裁判所の許可が必要です。つまり、相続開始前における遺留分の放棄は「家庭裁判所の許可」を受けたときに限り効力を生じます。他の共同相続人に対して直接、書面で「遺留分放棄の意思表示」をしても無効です。

 また、共同相続人の1人が「遺留分を放棄」しても、他の共同相続人の遺留分に影響を及ぼすことはなく、他の共同相続人の「遺留分が増える」わけではありません。



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