|更新日 2023.2.25|公開日 2017.07.26
1|保証債務の意味と成立
保証債務というのは、保証人になることです。たとえば、100万円の借金をする友人(主たる債務者)に頼まれて、あなたがその保証人になると、「友人が返済できないとき」は、あなたが代わって100万円を返済しなければなりません。
自分の借金ならともかく、友人とはいえ他人の借金を返済しなければならないのですから、できれば保証人にはなりたくないものですね。
1 保証債務の意味と成立
意 味
保証債務は「債権者と保証人が保証契約を締結」して、主たる債務者が「債務を履行しないとき」に、保証人がその履行責任を負うという債務です。
成 立 債権者と保証人との契約で成立
保証人となるための保証契約は、債権者と保証人との契約で成立します。
普通は、主たる債務者(主債務者)から頼まれて保証人になる(保証委託契約)のが通例ですが、民法上は、委託の有無は保証契約の成立とは関係ありません。
主債務者に無断・内緒で保証人になってもよく、主債務者の意思に反して保証人になることもできます。保証契約は、主たる債務者の債務の履行を担保(保証)することが目的であって、主たる債務者に不利益となるものではないからです。
また、主たる債務者から委託を受けて保証契約を締結した場合でも、その「保証委託契約」が無効だったり取り消されても、「保証契約」自体に影響はありません。
保証契約は「契約書などの書面」(電磁的記録含む)でしなければ効力を生じません。書面によらない保証契約は無効です。従来のように、口頭によるときは安易に保証が引き受けられやすく、しかも、保証人が深刻な責任を負うこととなるため、書面化が要求されているのです。
2|保証債務の性質
保証契約は、主債務者の債務の履行を担保する目的で締結されるものであって、「主たる債務」と「保証債務」は別個独立の債務です。ただ、「主たる債務」とそれを担保する「保証債務」は主従の関係にあることから、保証債務には、主債務に対して付従性・随伴性・補充性の3つの性質があります。
1 付従性|成立・存在に関する性質
保証債務は、主債務を担保することが目的なので、主債務なしに成立することができません。つまり、その成立や存続が主債務に付従しているので、これを保証債務の付従性というわけです。具体的には、次のような内容となってあらわれます。
① 主たる債務が錯誤や詐欺を理由に取り消されたり、主たる債務が不成立のときは、保証債務は成立しません。主債務は、保証契約の締結時に発生している必要はなく、将来発生する債務または条件付債務であってもかまいません。
② 主たる債務が不特定の債務であっても、保証契約は有効に成立します。継続的かつ包括的な信用関係を一体として担保する根保証が、その典型です。
③ 主たる債務が、弁済や消滅時効、その他の事由により消滅すれば、保証債務も当然に消滅します。
④ 反対に、保証人について生じた事由の効力は、主債務者に対しては生じません。保証人が債務の承認をしても、主債務の消滅時効が完成猶予されることはなく、また主債務者は、債権者に対して保証人が有する債権をもって相殺することは許されません。
2 随伴性|移転に関する性質
随伴性(ずいはんせい)は、移転に関する付従性です。
債権者の債権が、債権譲渡により移転すれば、それを担保する保証債務もともに随伴して移転し(随伴性)、保証人は、債権の「譲受人」に対して保証債務を負うこととなります。このとき、譲渡債権について対抗要件(通知・承諾)を備えると、保証債務についても当然に対抗要件を備えたこととなります。
3 補充性|従たる債務
保証債務は「主たる債務が履行されないときに履行する」という債務であって、補充的(第二次的)に履行する「従たる債務」です。これを保証債務の補充性といいます。
「履行されないときに履行する」従たる債務なので、債権者から請求を受けても、保証人には「まず主債務者に催告せよ」とか「まず主債務者の財産に執行せよ」という2つの抗弁権が与えられています。
4 保証人の抗弁権|催告と検索
① 催告の抗弁権 保証人は、債権者から「履行の請求」をされたときは、原則として「まず主たる債務者に催告せよ」という抗弁をすることができます。これを「催告の抗弁権」といいます。
ただし、主たる債務者が、①破産手続開始の決定を受けたとき、または、②行方不明のときには、この抗弁権は認められません。
② 検索の抗弁権 債権者が主たる債務者に催告した後に、保証人に履行請求をしたときでも、保証人は、①主たる債務者に弁済の資力があり、かつ、②主たる債務者の財産への執行が容易であることを証明して、「まず主たる債務者の財産に執行せよ」と抗弁して、債権者の「請求を拒む」ことができます。これを「検索の抗弁権」といいます。
3|保証債務の範囲
保証人はどこまで責任を負うのか、保証債務の範囲が問題となります。
① 保証債務は、主債務と同じ範囲で履行責任を負うものなので、主債務を保証するだけではなく、その利息、違約金、債務不履行による損害賠償、その他、主債務に従たるすべてのものを含みます。
原状回復義務にも及ぶ 土地・建物などの売主の保証人は、売主の債務不履行により生じた損害賠償義務だけでなく、反対の意思表示のない限り、売主の債務不履行を理由に「契約が解除」された場合の原状回復義務についても保証する責任があります(最判昭40.6.30)。
・主たる債務 ・利息/違約金
・損害賠償債務 ・原状回復義務
② 保証債務は、主債務に対して従たる性質を有するので、保証人の負担が主たる債務の目的や態様(条件、期限、利息等)の点で、主債務より重いことは許されません。
したがって、保証債務の内容が主債務よりも重いときは、主債務の限度に減縮されます。主債務が 100万円で保証債務が 120万円だったり、主債務は条件付きなのに、保証債務が無条件だったりすることは許されず、それぞれ 100万円、条件付きに減縮されるのです。
また、保証契約の締結後に、主たる債務の目的・態様が加重されても、保証人の負担が加重されることはありません。
ただし「保証債務についてのみ」違約金を定めたり、損害賠償額を約定することはできます。これは目的・態様が、主債務より重くなっているのではなく、保証債務の履行を確実にするためのものだからです。
4|保証人の要件
保証人となる資格・要件には、とくに制限はありません。債権者は、任意の者と保証契約を締結することができます。ただし、主たる債務者が、法律や契約によって「保証人を立てる義務」を負う場合には、保証人には、次の2要件が必要です。
① 行為能力者であること
② 弁済資力を有すること
①が欠けると、保証契約が取り消されることとなり、②が欠けると、保証人は履行できないからです。したがって、②の要件が欠けたときは、債権者は、②の要件を備える者に代えるよう請求することができます。
なお、保証契約の締結後に、①が欠けても、保証契約の効力に影響はありません。保護者による補助があるからです。
5|主たる債務者に生じた事由の効力
「主債務者」について生じた事由は、保証債務の付従性により、保証人にも及びます。
1 時効の完成猶予・更新
主債務者に対する履行の請求その他の事由による「時効の完成猶予および更新」は、保証人に対してもその効力を生じます。「その他の事由」には、債務の承認や差押えがあります。
また、主債務の時効が完成して、主債務者が時効を援用すれば、主債務は消滅し、保証債務も当然に消滅します。
主債務者が時効を援用しない場合にも、保証人は、時効援用の当事者(権利の消滅によって直接利益を受ける者)として時効を援用することができます。
反対に、保証債務について「時効の完成猶予および更新」が認められたとしても、これによって、主債務について消滅時効の完成猶予や更新が生じることはありません。
2 保証人の抗弁|履行拒絶の抗弁権
① 保証人は、主債務者が主張できる抗弁をもって債権者に対抗することができます(最判昭40.9.21)。たとえば、主債務者の有する同時履行の抗弁権を行使したり、主債務の時効消滅を主張する(保証人は、時効の援用権者)などです。
② 保証人は保証債務の履行を拒絶できる
主債務者が「相殺権・取消権・解除権」を有するときの扱いは、次のようになります。
すなわち、主債務者が、債権者に対して「反対債権」を有する場合、保証人は、この反対債権を援用して相殺することはできず、「主債務が相殺によって消滅する限度」で、保証債務の履行を拒絶する「履行拒絶権」があるにすぎません。改正前民法のように、保証人に、主債務者の有する反対債権を処分する権限(自ら行使する権限)を認めるのは行き過ぎだからです。
同様に、主債務者が取消権・解除権を有するときも、保証人が取り消したり、解除をすることはできず、主債務者が債務を免れる限度で「履行を拒む」ことができるだけです。これらの権利を自ら行使することはできません。
保証人は、主たる債務者ではないので、「相殺の意思表示」「取消しの意思表示」「解除の意思表示」をして、主債務を発生させた「契約」や「主たる債務」を消滅させることはできないのです。
保証人が、相殺を援用したり、取消権や解除権を行使することはできない。履行拒絶ができるだけ。
3 時効完成後の事由
時効完成後の「債務の承認」や「時効利益の放棄」は相対的効力しかありません。
① 債務の承認 主債務の消滅時効完成後に、「主債務者」がその債務を承認してもその効力は保証人には及びません。
② 時効利益の放棄 主債務の消滅時効完成後に、「主債務者」が時効の利益を放棄しても、その効力は保証人には及びません。
ステップアップ 保証人の債務承認
① 主たる債務の消滅時効完成前に、保証人が「保証債務」を承認していても、主たる債務の消滅時効が完成すれば、保証債務も当然に消滅します(付従性、大判昭10.10.15)。
② 主たる債務の消滅時効完成後に、主たる債務者が「主たる債務」を承認し、保証人がその債務承認を知って「保証債務」を承認した場合には、その後、保証人が「主たる債務」の消滅時効を援用することは、信義則に照らし許されません(最判昭44.3.20)。
6|保証人に生じた事由の効力
保証人について生じた事由の効力は、主たる債務者に対しては生じません。保証人が「債務の承認」をしても、主たる債務の消滅時効が更新されることはなく、また主債務者が、債権者に対する「保証人の反対債権」をもって相殺することは許されません。
7|債権者の情報提供義務
知らせてくれなきゃ困るよ 新民法で、保証人保護のため、債権者に2つの情報提供義務が新設されました。
① 主たる債務の履行状況に関する情報の提供義務
② 主たる債務者が期限の利益を喪失した場合における情報の提供義務
1 履行状況に関する情報提供義務
保証人に債務の履行状況を知らせる 主債務者が債務不履行になると、保証人も、主債務者の不履行責任と同じ責任を負うこととなり、「知らない間」に遅延損害金が積み重なる危険があります。
そのため、保証人は、主債務の履行状況を知る利益と必要があるだけでなく、その履行状況が、主たる債務者の個人情報であることを理由に、債権者がその情報提供を拒否することもあるために、債権者には「保証人への情報提供義務」が課せられたわけです。
こうして、保証人が「主たる債務者の委託を受けて」保証をした場合には、債権者は、保証人の請求があったときは、保証人に対し遅滞なく「主たる債務の履行状況に関する情報」を提供しなければなりません。
履行状況に関する情報とは、①主たる債務の元本、②その利息、③違約金、④損害賠償、⑤主債務に「従たるすべてのもの」についての不履行の有無・これらの残額、⑥弁済期が到来しているものの額などです。
2 期限の利益を喪失した場合の情報提供義務
保証人に期限の利益喪失を知らせる 期限の利益を有する主債務者が「弁済を怠る」などして期限の利益を失うときは、保証人もまた期限の利益を失い、不測の損害を受けることがあります。
たとえば、主債務者が分割金の「期限内支払いを怠っていた」場合、保証人には、元本債務を1度に履行する義務が生じるうえに、遅延損害金の負担も生じます。「知らない間」にこうした負担を負うのは、保証人にとって大きな不利益です。
そこで、主債務者が期限の利益を喪失したときは、債権者は「利益の喪失を知った時から2ヵ月以内に」保証人にその旨を通知しなければなりません。この通知をしなかったときは、債権者は、保証人に対し、主債務者が期限の利益を「喪失した時から通知をするまで」に生じた遅延損害金に係る保証債務の履行を請求できなくなります。
なお、対象となるのは「遅延損害金」に限定されているため、通知がなかったとしても、遅延損害金以外の保証債務の履行義務は負担しなければなりません。
・履行状況に関する情報提供義務
・期限の利益を喪失した場合の情報提供義務
8|共同保証
意 味 保証人が2人以上
共同保証というのは、主たる債務者の 1,000万円の債務について、A・Bが保証人になるというように、保証人が2人以上いる場合をいいます。共同保証には「2つの特別扱い」がされます。
① 分別の利益(対外関係) 1つは、分別の利益です。複数の保証人が、それぞれ「普通の保証債務」を負担した場合、債務額は保証人の数に応じて分割されるのが原則です。つまり、A・Bの負担する 1,000万円の保証債務がそれぞれ 500万円ずつになるわけで、これは保証人の利益になるので、分別の利益といいます。
ただし、共同保証人の各人が、主たる債務者と「連帯」する連帯保証となっている場合は、「連帯債務」と同様に全部を弁済する義務があるので、分別の利益はありません。
② 求償関係(対内関係) 2つは、求償関係です。各保証人が弁済すれば、主たる債務者に求償できるのは当然ですが、他の共同保証人に対しても求償することができます。債務者の無資力のリスクを1人で負担するのは不公平だからです。
なお、連帯保証人のように分別の利益のない「保証人間で求償」が行われる場合には、連帯保証人は他の連帯保証人に対し、各自の負担部分について求償権を有します。
ステップアップ 求償権
保証人による弁済は「保証債務」という自らの債務の弁済ですが、実質的には、主債務者=他人の債務の弁済なので、保証人は、主債務者に対して求償することができます。「求償権の範囲」は、債務者からの委託の有無や債務者の意思によって異なります。
(1)委託を受けた保証人の求償権|支出額を求償
① 保証人が、主債務者の委託を受けて保証をした場合に、主債務者に代わって弁済するなど、その債務を消滅させる行為=債務の消滅行為をしたときは、主債務者に対し、そのために支出した弁済額などを求償することができます。この求償には、「弁済等があった日以後の法定利息」や損害賠償を含みます。
② 通知を怠った保証人の求償の制限 受託保証人が、債務の消滅行為について、主債務者に事前・事後の通知をしていない場合には、求償権が制限されます。
(2)委託を受けない保証人の求償権(勝手に保証人になった場合)
① 保証が主債務者の意思に反しない場合 保証人は、主債務者が「債務の消滅行為の当時」利益を受けた限度において、求償することができます。この求償には、「弁済等があった日以後の法定利息」や損害賠償は含まれません。
② 保証が主債務者の意思に反する場合 保証人は、主債務者が「現に(求償の時に)」利益を受けている限度においてのみ、求償することができます。
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