宅建民法講座｜売買／手付

｜更新日 2023.2.25｜公開日 2019.11.26

１｜売買の意味と性質

意　味　物の所有権を移転する契約
　家電量販店で10万円の電子レンジを買ったり、建物と敷地を 6,000万円で売却するというように、売買（契約）というのは、売主が「財産権（主に所有権）」を買主に移転して、それに対して買主が「対価としての代金を支払う」契約をいいます。　
　キャベツ１個買うのも、マンション１戸を購入するのも、同じく売買です。

性　質　諾成・有償・双務契約の典型
　売買は、「申込み」と「承諾」（売る・買う）という意思表示の合致だけで成立する諾成契約（契約書面がなくても口頭で成立する契約）で、対価（金銭）を得て財産権を移転する有償契約です。
　また、売主・買主双方が、「財産権」と「金銭」の給付義務を負担するために、双務契約の典型とされています。

２｜売主の義務

　１　財産権移転義務　　
　売買により、売主は買主に「財産権（所有権）を移転する義務」を負い、買主は「代金を支払う義務」を負います。
　財産権移転義務の内容は、①契約内容に適合した形で「所有権」を移転することや、②種類・品質・数量に関して契約内容に適合した「目的物」を引き渡すことがあります。

　２　対抗要件を備えさせる義務
　さらに売主は、買主に対して、権利の移転を第三者に対抗するための「対抗要件を備えさせる義務」を負います。新民法で改正されました（560条）。
　たとえば、土地・建物の売買であれば登記、債権の譲渡であれば譲渡の通知などです。

　３　他人の権利の移転義務
　他人の物でも売買は有効です。
　買った土地が、実は他人の所有だったというように、権利の全部または一部が「他人に属していた」場合でも、契約自体は有効です（最判昭25.10.26）。なぜなら、売買は「目的の権利が売主に属していること」を要件とはしていないからです（555条）。

　この場合、売主は、その権利を取得して「買主に移転する義務」を負うこととなり、移転できないときは、債務不履行責任が生じ、買主は契約を解除したり、売主に帰責事由があれば、損害賠償を請求することができます（最判昭41.9.8）。

３｜手　付

　土地・建物などの不動産売買では、契約時から履行時まで（残金決済・移転登記・物件引渡しなど）時間がかかるために、その間法律関係がやや不安定なので、通常、契約の時に、買主が「一定の金銭」を手付として売主に支払うのが慣行です。

　手付には、①証約手付、②違約手付、③解約手付の３つのタイプがありますが、特約がない場合は、民法は「解約手付」としています。

１　解約手付

意　味　手付を放棄すれば解約できる
　解約手付というのは、交付した手付を放棄して、あるいは、受け取った手付の倍額を返還して「契約を解除する」ための手付をいいます。
　「手付交付者」（買主）は手付を放棄すれば契約を解除できるし、「手付受領者」（売主）は受け取った手付の倍額を返還すれば契約を解除することができるわけです。
　手付を「解約手付」とすることで、相手方の承諾を得ず、かつ損害賠償をすることなく、一方的に契約を解消することが可能になります。解除することだけを目的とした手付であって、債務不履行を理由とする解除ではありません。

２　解約手付による解除の要件｜履行の着手がポイント

　１　相手方が履行に着手していないこと
　解除しようとする者は「自ら履行に着手」していても、「相手方が履行に着手していなければ」契約を解除できます。「相手方が履行に着手した後」は、もはや解除できません。これは「履行に着手」して準備を開始した相手方が不測の損害を受けないようにするためです（最判昭40.11.24）。

　たとえば、買主は、中間金（代金の一部）を支払って「自ら履行に着手」していても、売主が履行に着手していなければ、交付した手付を放棄して契約を解除し、すでに支払った中間金の返還を求めることができます。

　２　売主は現実の提供が必要
　手付を交付した買主が契約を解除するには「解除の意思表示」だけで足りますが、手付を受領した売主が解除するには、手付の倍額を「現実に提供」することを要します。単に「口頭で告げて受領を催告する」だけでは足りません。
　ただ「実際の払渡し」までは不要で、「現実の提供」で足ります（最判平6.3.22）。

　３　損害賠償請求はできない
　解約手付の趣旨は、手付だけの損失を覚悟すれば契約を解除できるというものであって、債務不履行による解除ではないので、解約手付を理由としては損害賠償請求はできません。