|公開日 2023.05.01

【問 1】 Aは、令和3年10月1日、A所有の甲土地につき、Bとの間で、代金 1,000万円、支払期日を同年12月1日とする売買契約を締結した。この場合の相殺に関する次の記述のうち、民法の規定及び判例によれば、正しいものはどれか。

 BがAに対して同年12月31日を支払期日とする貸金債権を有している場合には、Bは同年12月1日に売買代金債務と当該貸金債権を対当額で相殺することができる。

 同年11月1日にAの売買代金債権がAの債権者Cにより差し押さえられても、Bは、同年11月2日から12月1日までの間にAに対する別の債権を取得した場合には、同年12月1日に売買代金債務と当該債権を対当額で相殺することができる。

 同年10月10日、BがAの自動車事故によって身体に被害を受け、Aに対して不法行為に基づく損害賠償債権を取得した場合には、Bは売買代金債務と当該損害賠償債権を対当額で相殺することができる。

 BがAに対し同年9月30日に消滅時効の期限が到来する貸金債権を有していた場合には、Aが当該消滅時効を援用したとしても、Bは売買代金債務と当該貸金債権を対当額で相殺することができる。 (平成30年問9)

解説&正解
【1】[自働債権の弁済期]*大判昭8.9.8
 Bが相殺に用いる貸金債権の債務者Aは、「12月31日」の弁済期までは支払う必要がないという期限の利益を有しているので、Bが「12月1日」に貸金債権で相殺することは、Aの有する期限の利益を一方的に奪うこととなり妥当でない
 「Bは12月1日に売買代金債務と貸金債権を対当額で相殺する」ことはできない。
 本肢は誤り。

【2】差押え後の自働債権]*最判昭45.6.24
 相殺に用いる債権が、受働債権(売買代金)の差押え後に取得された場合には、この債権で相殺することはできない。Aの売買代金は、差押債権者Cに弁済すべきものだからである。
 Aの「売買代金債権」は「11月1日」に差し押さえられており、Bの「別の債権」は、その差押え後の「11月2日から12月1日までの間」に取得されている。
 したがって、Bは「12月1日」に、売買代金債務とこの「別の債権」とを相殺することはできないのである。本肢は誤り。

【3】[不法行為債権による相殺]
 身体に被害を受けた被害者Bは、不法行為に基づく損害賠償請求権を自働債権として、自己の売買代金債務と相殺することができる。本肢は正しい。
 不法行為者が、被害者の損害賠償請求権を受働債権として相殺することが許されないのは、被害者に現実の救済(治療費は現金で)を保障するためなので、被害者Bの方から、自働債権として相殺による決済を望んでいれば、これを認めても支障はない(最判昭42.11.30)

【4】時効消滅した債権による相殺]
 時効によって消滅した債権も、その消滅以前に相殺適状(相殺する条件に適した状態)にあった場合には、時効消滅した債権で相殺することができる(508条)
 しかし、Bの貸金債権は「9月30日に消滅時効の期限が到来」し、Aがその「消滅時効を援用」しており、すでに消滅している。
 Aの売買代金債権が成立した「10月1日」には、双方の債権は相殺適状にはないので、Bは売買代金債務と貸金債権を対当額で相殺することはできない。本肢は誤り。

[正解] 3



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