|公開日 2023.05.01

【問 1】 留置権に関する次の記述のうち、民法の規定及び判例によれば、正しいものはどれか。

 建物の賃借人が賃貸人の承諾を得て建物に付加した造作の買取請求をした場合、賃借人は、造作買取代金の支払を受けるまで、当該建物を留置することができる。

 不動産が二重に売買され、第2の買主が先に所有権移転登記を備えたため、第1の買主が所有権を取得できなくなった場合、第1の買主は、損害賠償を受けるまで当該不動産を留置することができる。

 建物の賃貸借契約が賃借人の債務不履行により解除された後に、賃借人が建物に関して有益費を支出した場合、賃借人は、有益費の償還を受けるまで当該建物を留置することができる。

 建物の賃借人が建物に関して必要費を支出した場合、賃借人は、建物所有者ではない第三者が所有する敷地を留置することはできない。(平成25年問4)

解説&正解
【1】[留置権と造作買取代金債権]
 留置権は、他人の物の占有者が「その物に関して生じた債権」を有するときに生じる。しかし、造作買取代金債権は造作に関して生じた債権であって「建物」に関して生じた債権ではないから、造作買取代金債権に基づいて建物を留置することはできない(最判昭29.1.14)。本肢は誤り。

【2】[損害賠償請求権と留置権]
 不動産の二重譲渡があって、第2の買主が先に所有権移転登記(対抗要件)を備えれば、売主は、第1の買主に対しては債務不履行となり、買主は損害賠償請求権を取得する。この損害賠償請求権は、売主の債務不履行によって生じた債権であって、不動産に関して生じた債権ではないから、第1の買主は損害賠償請求権に基づいて不動産を留置することはできない(最判昭43.11.21)。本肢は誤り。

【3】契約解除後の有益費]*最判昭46.7.16
 建物の賃貸借契約が「賃借人の債務不履行により解除」されれば、その後、賃借人は建物を占有すべき権限のない不法占有者となる。
 不法占有者が「建物に関して有益費を支出」しても、有益費の償還請求権に基づいて建物を留置することはできない。本肢は誤り。

【4】[留置権の成立]*最判昭44.11.6
 建物賃借人が支出した必要費は「建物」に関して生じた債権であって、「敷地」について生じた債権ではないから、必要費の償還に基づいて「敷地」を留置することはできない。本肢は正しい。

[正解] 4



【問 2】 ①不動産質権と②抵当権に関する次の記述のうち、民法の規定によれば、誤っているものはどれか。

 ①では、被担保債権の利息のうち、満期となった最後の2年分についてのみ担保されるが、②では、設定行為に別段の定めがない限り、被担保債権の利息は担保されない。

 ①は、10年を超える存続期間を定めたときであっても、その期間は10年となるのに対し、②は、存続期間に関する制限はない。

 ①は、目的物の引渡しが効力の発生要件であるのに対し、②は、目的物の引渡しは効力の発生要件ではない。

 ①も②も不動産に関する物権であり、登記を備えなければ第三者に対抗することができない。(平成29年問10)

解説&正解
【1】[利息の範囲]*358条/375条
 記述の内容が逆。
 ①不動産質権者は、特約がないかぎり、被担保債権の利息を請求できない。不動産質権は、目的物を使用収益できる権利なので、その利得が利息に相当するからである。
 ②抵当権では、利息は、原則として、満期のきた最後の2年分についてだけ抵当権の効力が及ぶ。抵当権は、抵当権設定者の使用収益を認める権利なので、抵当権設定後も後順位抵当権者など利害関係者が現れる可能性があり、その利益を保護する必要があるからである。本肢は誤り。

【2】[存続期間]*360条1項
 ①不動産質権の存続期間は10年を超えることができない。これより長い期間を定めても、10年に短縮される。所有者以外の者に不動産を長期間占有させることは、不動産の効用をそこなうからである。
 ②抵当権は、抵当目的物を債務者や物上保証人のもとに置いて、その使用収益を認めるものであり、とくに存続期間は制限されていない。使用収益の利益を債務の弁済にあてることができるからである。本肢は正しい。

【3】効力発生要件]*344条/369条1項
 ①不動産質権については、「質権の設定は、債権者にその目的物を引き渡すことによって、その効力を生ずる」と定められており、目的物の引渡しが効力の発生要件である。
 ②抵当権は、抵当目的物の占有を移転する必要のない権利だから、「目的物の引渡し」がなくても、設定契約によって効力を生じる。本肢は正しい。

【4】[対抗要件]*177条
 ①不動産質権も、②抵当権も不動産に対する物権であり、登記を備えなければ、その変動を第三者に対抗することができない。本肢は正しい。

[正解] 1



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