|公開日 2023.05.01

【問 1】 時効の援用に関する次の記述のうち、民法の規定及び判例によれば、誤っているものはどれか。

 消滅時効完成後に主たる債務者が時効の利益を放棄した場合であっても、保証人は時効を援用することができる。

 後順位抵当権者は、先順位抵当権の被担保債権の消滅時効を援用することができる。

 詐害行為の受益者は、債権者から詐害行為取消権を行使されている場合、当該債権者の有する被保全債権について、消滅時効を援用することができる。

 債務者が時効の完成の事実を知らずに債務の承認をした場合、その後、債務者はその完成した消滅時効を援用することはできない。(平成30年問4)

解説&正解
【1】[保証人の時効援用]*145条
 時効利益の放棄も、時効の援用も、その効果は相対的なので、放棄・援用した本人だけに効力が生じる。したがって、消滅時効完成後に「主たる債務者が時効の利益を放棄」しても、「保証人は消滅時効を援用することができる」。本肢は正しい。

【2】[時効の援用権者]*最判平11.10.21
 消滅時効を援用できる者は、時効によって直接利益を受ける者や正当な利益を有する者である。先順位抵当権の被担保債権が時効消滅すれば、後順位抵当権者は、順位が上昇する(順位昇進の原則)が、権利の喪失を免れるという利益を有するものではなく、配当額の増加という反射的な利益を受けるにすぎない
 したがって、後順位抵当権者は、先順位抵当権者の「被担保債権の消滅時効を援用する」ことはできないのである。本肢は誤り。

【3】[詐害行為の受益者]*最判平10.6.22
 債務者がその財産を減少させる「詐害行為」をしたときに、その詐害行為により財産を譲り受けた受益者は、債権者が「詐害行為」を取り消せば自分の利益を失うことになる。つまり、受益者は、債権者の債権が時効消滅すれば、自己の利益を失うことはなくなり、この点に正当な利益を有するので、債権の消滅時効を援用することができる。本肢は正しい。

【4】時効完成後の債務承認]
 消滅時効が完成したにもかかわらず、債務者が「時効の完成の事実を知らずに」債務の承認をした場合は、以後それに反する主張は許されず「完成した消滅時効を援用することはできない」(最判昭41.4.20)
 債権者としては、債務者が債務を承認した以上、もう時効は援用しないだろうとの期待を抱くのが通常だから、援用を認めないのが信義則に照らし相当とされる。本肢は正しい。

[正解] 2



【問 2】 時効に関する次の記述のうち、民法の規定及び判例によれば、誤っているものはどれか。なお、時効の対象となる債権の発生原因は、令和2年4月1日以降に生じたものとする。

 消滅時効の援用権者である「当事者」とは、権利の消滅について正当な利益を有する者であり、債務者のほか、保証人、物上保証人、第三取得者も含まれる。

 裁判上の請求をした場合、裁判が終了するまでの間は時効が完成しないが、当該請求を途中で取り下げて権利が確定することなく当該請求が終了した場合には、その終了した時から新たに時効の進行が始まる。

 権利の承認があったときは、その時から新たに時効の進行が始まるが、権利の承認をするには、相手方の権利についての処分につき行為能力の制限を受けていないことを要しない。

 夫婦の一方が他方に対して有する権利については、婚姻の解消の時から6箇月を経過するまでの間は、時効が完成しない。(令和2年12月問5)

解説&正解
【1】[消滅時効の援用権者]*145条
 消滅時効の援用権者である当事者とは、権利の消滅について、直接利益を受ける債務者や、保証人、物上保証人、第三取得者(抵当不動産の買主)など正当な利益を有する者も含まれる。本肢は正しい。

【2】[請求取下げと時効の更新]*147条2項
 裁判上の請求をした場合に、その請求を「途中で取り下げる」と、確定判決等によって権利が確定することはないので、「新たに時効の進行が始まる」ことはない。本肢は誤り。

【3】[権利の承認と時効の更新]*152条
 時効は、権利の承認があったときは、その時から新たに進行を始める(時効の更新)が、承認をするには、相手方の権利についての「処分につき行為能力の制限を受けていない(行為能力者であること)を要しない」。
 つまり、制限行為能力者による処分でもよいのである。本肢は正しい。

【4】[夫婦間の権利の時効の完成猶予]
 夫婦の一方が他方に対して有する権利については、婚姻の解消の時から6か月を経過するまでは、時効は完成せず、時効の完成が猶予される(159条)。本肢は正しい。

[正解] 2



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