|公開日 2023.05.01

【問 1】 A所有の甲土地につき、AとBとの間で売買契約が締結された場合における次の記述のうち、民法の規定及び判例によれば、正しいものはどれか。

 Bは、甲土地は将来地価が高騰すると勝手に思い込んで売買契約を締結したところ、実際には高騰しなかった場合、動機の錯誤を理由に本件売買契約を取り消すことができる。

 Bは、第三者であるCから甲土地がリゾート開発される地域内になるとだまされて売買契約を締結した場合、AがCによる詐欺の事実を知っていたとしても、Bは本件売買契約を詐欺を理由に取り消すことはできない。

 AがBにだまされたとして詐欺を理由にAB間の売買契約を取り消した後、Bが甲土地をAに返還せずにDに転売してDが所有権移転登記を備えても、AはDから甲土地を取り戻すことができる。

 BがEに甲土地を転売した後に、AがBの強迫を理由にAB間の売買契約を取り消した場合には、EがBによる強迫につき知らなかったときであっても、AはEから甲土地を取り戻すことができる。(平成23年問1)

解説&正解
【1】[表示されない動機]*95条2項
 将来地価が「高騰する」と思い込んで売買契約を締結したが、実際には「高騰しなかった」のだから、動機に錯誤があったといえる。しかし「思い込んで」いるだけで、契約の動機が相手方に表示されなかったときは、法律行為の内容とはならないので、錯誤を理由に契約を取り消すことはできない。本肢は誤り。

【2】[第三者詐欺と相手方]*96条2項
 本肢は、契約当事者以外の第三者による詐欺である。第三者にだまされた本人は、「契約の相手方」がその事実を知り(悪意)、または知ることができた(過失)ときに限り、契約を取り消すことができる。
 第三者にだまされたBは、契約の相手方Aが、第三者Cによる「詐欺の事実を知っていた」悪意であるから、詐欺を理由に契約を取り消すことができる。本肢は誤り。

【3】取消後の第三者]*117条
 詐欺を理由に売買契約が取り消された場合、その取消し後に、Bから土地所有権を取得したDは、96条3項によって保護される「第三者」には該当しない。
 取消し後は、①取消しによるB→Aの所有権復帰と、②取消し後のB→Dへの所有権移転とは、二重譲渡と同様の関係が成立し、対抗問題となるので先に登記を備えた方が完全に所有権を取得することとなる。
 「Dが所有権移転登記を備えた」以上、AはDから甲土地を取り戻すことはできないのである。本肢は誤り。

【4】[強迫と善意の第三者]*96条3項
 強迫を理由に契約を取り消した場合、その取消しは、強迫を「知らなかった」善意の第三者にも対抗できるから、AはBの強迫を理由に、善意の第三者Eから「甲土地を取り戻すことができる」。強迫された本人Aに責任はないのだから、第三者Eが善意であっても、本人を優先して保護しているのである。本肢は正しい。

[正解] 4



【問 2】 Aは、その所有する甲土地を譲渡する意思がないのに、Bと通謀して、Aを売主、Bを買主とする甲土地の仮装の売買契約を締結した。この場合に関する次の記述のうち、民法の規定及び判例によれば、誤っているものはどれか。なお、この問において「善意」又は「悪意」とは、虚偽表示の事実についての善意又は悪意とする。
  
 善意のCがBから甲土地を買い受けた場合、Cがいまだ登記を備えていなくても、AはAB間の売買契約の無効をCに主張することができない。

 善意のCが、Bとの間で、Bが甲土地上に建てた乙建物の賃貸借契約(貸主B、借主C)を締結した場合、AはAB間の売買契約の無効をCに主張することができない。

 Bの債権者である善意のCが、甲土地を差し押さえた場合、AはAB間の売買契約の無効をCに主張することができない。

 甲土地がBから悪意のCへ、Cから善意のDへと譲渡された場合、AはAB間の売買契約の無効をDに主張することができない。(平成27年問2)

解説&正解
【1】[善意の第三者と登記]*94条
 AとBの通謀による甲土地の仮装売買契約は虚偽表示なので、契約は無効である。ただし、この無効は善意の第三者に対抗することができない。この意味は、当事者間では無効であっても、善意の第三者との関係では有効なものとして扱うということである。
 つまり「善意のC」との関係では、所有権はA→B→Cへと有効に移転しており、したがって、Cは「いまだ登記を備えていなくても」完全に所有権を取得しているのである。AはCに対して、AB間の売買契約の無効を主張することはできない。本肢は正しい。

【2】[第三者の範囲]*最判昭57.6.8
 判例は、土地の仮装譲受人Bがその土地上に建物を建てて、その建物をCに賃貸した場合、建物賃借人Cは、仮装譲渡された土地については法律上の利害関係を有するものではないから、第三者にはあたらないとしている。
 土地と建物は別個の財産であるため、建物賃借人Cの利害は事実上のものにすぎないからである。したがって、Aは、AB間の売買契約の無効を主張して、Cに対し建物明渡請求をすることができる。本肢は誤り。

【3】[第三者の範囲]
 虚偽表示でいう第三者とは、虚偽表示の当事者(またはその相続人)以外の者であって、「虚偽表示によって形成された法律関係について、新たな利害関係を有するに至った者」をいう。
 Bは、虚偽表示によって形成された仮装譲受人なので、その差押債権者である善意のCは、第三者に該当するから、Aは売買契約の無効をCに主張することはできない。本肢は正しい。

【4】善意の転得者]
 第三者からの転得者も「第三者」に含まれるので、善意であれば「善意の第三者」として保護される。したがって、Aは、善意の転得者Dに対して、前主Cの善意・悪意に関係なく、所有権を主張することはできない。本肢は正しい。
  また判例は、善意の第三者からの転得者が悪意の場合であっても、善意の第三者が介在する以上、善意者の地位を承継するから、虚偽表示による無効を対抗されることはないとしている(大判昭6.10.24)

[正解] 2



【問 3】 AがBに甲土地を売却した場合に関する次の記述のうち、民法の規定及び判例によれば、誤っているものはどれか。

 甲土地につき売買代金の支払と登記の移転がなされた後、第三者の詐欺を理由に売買契約が取り消された場合、原状回復のため、BはAに登記を移転する義務を、AはBに代金を返還する義務を負い、各義務は同時履行の関係となる。

 Aが甲土地を売却した意思表示に錯誤があったとしても、Aに重大な過失があって取消しを主張することができない場合は、BもAの錯誤を理由として取消し主張することはできない。

 AB間の売買契約が仮装譲渡であり、その後BがCに甲土地を転売した場合、Cが仮装譲渡の事実を知らなければ、Aは、Cに虚偽表示による無効を対抗することができない。

 Aが第三者の詐欺によってBに甲土地を売却し、その後BがDに甲土地を転売した場合、Bが第三者の詐欺の事実を知らなかったとしても、Dが第三者の詐欺の事実を知っていればAは詐欺を理由にAB間の売買契約を取り消すことができる。(平成30年問1)

解説&正解
【1】[原状回復義務と同時履行]*533条
 売買契約が詐欺・錯誤などを理由に取り消されると、契約ははじめから無効とされて契約がなかった状態となる。そのため、売主・買主双方は、互いに給付された物を返還する原状回復義務を負うこととなるが、このとき、もとの契約が売買のような双務契約である場合は、双方の原状回復義務は「同時履行の関係となる」。
 売主Aの代金返還義務と買主Bの登記移転義務とは、同時に履行しなければならないのである(最判昭47.9.7)。本肢は正しい。

【2】[本人に重過失がある錯誤]
 錯誤をした本人Aに「重大な過失」があるときは、錯誤を理由として取消しを主張することはできない表意者保護のための錯誤取消しも、重過失がある表意者までも保護する必要はないからである。
 この場合、相手方Bは意図通りの契約が成立するので、Bが「Aの錯誤を理由として取消しを主張する」ことは制度の趣旨に反するため、許されない(最判昭40.6.4)。本肢は正しい。

【3】[虚偽表示]*94条2項
 「売買契約が仮装譲渡」というのは、虚偽表示による契約であって、無効である。この無効は、善意の第三者には対抗できない
 Aは「仮装譲渡の事実を知らない」善意の第三者Cに「虚偽表示による無効を対抗することができない」のである。本肢は正しい。

【4】[第三者の詐欺と悪意の転得者]
 第三者の詐欺によって契約をしたAは、相手方Bが、第三者の詐欺の事実を知っている悪意のときか、過失があるときに限って取り消すことができる。そのため、善意のBに対しては、Aは詐欺を理由にAB間の契約を取り消すことはできず、その結果Bは完全に権利を取得することとなる。
 したがって、完全な権利者Bからの転得者Dは「第三者の詐欺の事実を知って」いる悪意であっても、前主Bの地位の承継を主張してその権利を取得できるので、Aは詐欺を理由にAB間の契約を取り消すことはできない(大判昭6.10.24)。本肢は誤り。

[正解] 4



【問 4】 AとBとの間で令和2年7月1日に締結された売買契約に関する次の記述のうち、民法の規定によれば、売買契約締結後、AがBに対し、錯誤による取消しができるものはどれか。

 Aは、自己所有の自動車を100万円で売却するつもりであったが、重大な過失によりBに対し「10万円で売却する」と言ってしまい、Bが過失なく「Aは本当に10万円で売るつもりだ」と信じて購入を申し込み、AB間に売買契約が成立した場合

 Aは、自己所有の時価100万円の壺を10万円程度であると思い込み、Bに対し「手元にお金がないので、10万円で売却したい」と言ったところ、BはAの言葉を信じ「それなら10万円で購入する」と言って、AB間に売買契約が成立した場合

 Aは、自己所有の時価100万円の名匠の絵画を贋作だと思い込み、Bに対し「贋作であるので、10万円で売却する」と言ったところ、Bも同様に贋作だと思い込み「贋作なら10万円で購入する」と言って、AB間に売買契約が成立した場合

 Aは、自己所有の腕時計を100万円で外国人Bに売却する際、当日の正しい為替レート(1ドル100円)を重大な過失により1ドル125円で計算して「8,000ドルで売却する」と言ってしまい、Aの錯誤について過失なく知らなかったBが「8,000ドルなら買いたい」と言って、AB間に売買契約が成立した場合(令和2年問6)

解説&正解
【1】重過失ある表意者は取消しできない]
 意思表示に錯誤があって、その錯誤が法律行為の目的および取引上の社会通念に照らして重要なものであるときは、表意者は、原則としてその意思表示を取り消すことができる。しかし、表意者に重大な過失がある場合は、取り消すことはできない
 Aは「100万円で売却するつもり」が、重大な過失により「10万円で売却する」と表示して契約したのだから、錯誤による取消しはできない。

【2】[表示されない動機]*95条1項・2項
 「時価100万円の壺を10万円程度であると思い込み」というのは、法律行為の基礎とした事情についてのその認識が真実に反する錯誤、つまり動機の錯誤である。
 動機の錯誤を理由とする意思表示の取消しは、その「動機が表示されていたときに限り、することができる」のであって、思い込んでいるだけでは、錯誤による取消しはできない。

【3】[共通錯誤があるとき]*95条3項2号
 表意者は重大な過失があるときは、錯誤による意思表示を取り消すことはできないが、相手方も表意者と同一の錯誤(共通錯誤)に陥っていたときは、表意者は重過失があっても、錯誤を理由に意思表示を取り消すことができる。
 相手方も錯誤に陥っているので、取り消しを認めても相手方を不利にすることはないからである。
 「時価100万円の名匠の絵画を贋作」と思い込むのは、重大な過失と考えられ、AもBも「贋作だと思い込む」共通錯誤に陥っており、また「贋作であるので売却する」「贋作なら購入する」と動機を表示している以上、Aは、錯誤による取消しをすることができる。

【4】重過失ある表意者は取消しできない]
 正しい為替レートの1ドル100円を125円で計算したのは、表示行為の意味・価値を誤った内容の錯誤である。この場合も、原則として錯誤を理由に売買契約を取り消すことができる。しかし、Aの錯誤は「重大な過失」によるものであるため、錯誤による取消しはできない。
 以上より、錯誤による取消しができるものは[選択肢3]となる。

[正解] 3



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