|公開日 2023.05.01

【問 1】 AとBとの間で令和2年7月1日に締結された委任契約において、委任者Aが受任者Bに対して報酬を支払うこととされていた場合に関する次の記述のうち、民法の規定によれば、正しいものはどれか。

 Aの責めに帰すべき事由によって履行の途中で委任が終了した場合、Bは報酬全額をAに対して請求することができるが、自己の債務を免れたことによって得た利益をAに償還しなければならない。

 Bは、契約の本旨に従い、自己の財産に対するのと同一の注意をもって委任事務を処理しなければならない。

 Bの責めに帰すべき事由によって履行の途中で委任が終了した場合、BはAに対して報酬を請求することができない。

 Bが死亡した場合、Bの相続人は、急迫の事情の有無にかかわらず、受任者の地位を承継して委任事務を処理しなければならない。(令和2年問5)

解説&正解
【1】[危険負担と利益償還義務]*536条2項
 委任者A(債権者)の「責めに帰すべき事由によって履行の途中で委任が終了」した場合は、危険負担の問題であって、Aは、反対給付(報酬支払義務)の履行を拒むことができず、受任者B(債務者)は報酬全額を請求することができる。
 ただし、Bは「自己の債務を免れたことによって得た利益」は、Aに償還しなければならない。本肢は正しい。
  債務者の利益償還義務は、たとえば債務者が、危険負担により「建物の引渡債務を免れた」ことによって「建物の管理費用を免れる」などの利得を得た場合には、この利得を買主に償還しなければならないとするもので、これは債務者が二重の利益を受けることとなるからである。

【2】[受任者の善管注意義務]*644条
 委任は対価の関係ではなく、相互の信頼関係を基礎としているから、受任者Bは、報酬の有無に関係なく、委任の本旨に従い善良な管理者の注意(善管注意義務)をもって、委任事務を処理する義務を負う。
 これより軽い「自己の財産に対するのと同一の注意」では足りない。本肢は誤り。

【3】[受任者の割合的報酬*648条3項1号
 受任者B(債務者)の「責めに帰すべき事由によって履行の途中で委任が終了」した場合でも、Bは、委任者Aに対して報酬を請求することができる。本肢は誤り。
  たとえば、介護業者(受任者)は、自己都合によって委任(準委任)が「履行の途中で終了」しても、既にした履行の割合に応じた報酬を請求することができる。

【4】[委任終了後の処分]*654条
 受任者Bの死亡により委任が終了した場合でも、急迫の事情があるときは、「Bの相続人」や法定代理人は、委任者(またはその相続人や法定代理人)が委任事務を処理することができる状態になるまで、必要な処分をしなければならない。委任者側に不測の損害が生じないようにするためである。
「急迫の事情の有無にかかわらず、……委任事務を処理しなければならない」は誤り。

[正解] 1



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