|公開日 2023.05.01

【問 1】 不法行為に関する次の記述のうち、民法の規定及び判例によれば、正しいものはどれか。

 放火によって家屋が滅失し、火災保険契約の被保険者である家屋所有者が当該保険契約に基づく保険金請求権を取得した場合、当該家屋所有者は、加害者に対する損害賠償請求金額からこの保険金額を、いわゆる損益相殺として控除しなければならない。

 被害者は、不法行為によって損害を受けると同時に、同一の原因によって損害と同質性のある利益を既に受けた場合でも、その額を加害者の賠償すべき損害額から控除されることはない。

 第三者が債務者を教唆して、その債務の全部又は一部の履行を不能にさせたとしても、当該第三者が当該債務の債権者に対して、不法行為責任を負うことはない。

 名誉を違法に侵害された者は、損害賠償又は名誉回復のための処分を求めることができるほか、人格権としての名誉権に基づき、加害者に対し侵害行為の差止めを求めることができる。(令和1年問4)

解説&正解
【1】[保険金と損益相殺]*最判昭50.1.31
 判例は、放火によって家屋が焼失したため、家屋所有者が火災保険契約に基づいて「保険金請求権」を取得しても、加害者に対する「損害賠償請求金額」からこの保険金額を「損益相殺として控除」する必要はないとしている。
 保険金は、すでに払い込んだ保険料の対価の性質を有しており、損益相殺として控除される利益にはあたらないからである。本肢は誤り。

【2】[損益相殺による調整]*最判平5.3.24
 被害者が、不法行為によって損害を受けると同時に、不法行為と同一の原因によって損害と同質性のある利益を受けている場合には、公平の見地から、加害者の賠償すべき損害額からその利益を控除することができる。本肢は誤り。

【3】[共同不法行為者の連帯責任]*719条
 不法行為をした行為者(債務者)を教唆した第三者も、共同不法行為者とみなされて、行為者と連帯して不法行為責任を負うこととなる。本肢は誤り。

【4】[名誉侵害と原状回復]*最判昭61.6.11
 名誉を侵害された者は、損害賠償または名誉回復のための処分を求めることができるだけでなく、「人格権としての名誉権」に基づき、加害者に対し、現に行われている侵害行為を排除し、または将来生ずべき侵害を予防するため「侵害行為の差止め」を求めることができる。
 名誉は生命、身体とともにきわめて重大な保護法益であり、人格権としての名誉権は、物権の場合と同様に排他性を有する権利というべきだからである。本肢は正しい。

[正解] 4



【問 2】 Aに雇用されているBが、勤務中にA所有の乗用車を運転し、営業活動のため得意先に向かっている途中で交通事故を起こし、歩いていたCに危害を加えた場合における次の記述のうち、民法の規定及び判例によれば、正しいものはどれか。

 BのCに対する損害賠償義務が消滅時効にかかったとしても、AのCに対する損害賠償義務が当然に消滅するものではない。

 Cが即死であった場合には、Cには事故による精神的な損害が発生する余地がないので、AはCの相続人に対して慰謝料についての損害賠償責任を負わない。

 Aの使用者責任が認められてCに対して損害を賠償した場合には、AはBに対して求償することができるので、Bに資力があれば、最終的にはAはCに対して賠償した損害額の全額を常にBから回収することができる。

 Cが幼児である場合には、被害者側に過失があるときでも過失相殺が考慮されないので、AはCに発生した損害の全額を賠償しなければならない。(平成24年問9)

解説&正解
【1】[連帯債務の性質]*大判昭12.6.30
 被用者Bの損害賠償債務が消滅時効にかかっても、使用者Aの損害賠償債務はその影響を受けず、当然に時効消滅するものではない。
 被害者に対する使用者と被用者の損害賠償債務は連帯債務なので、一方の債務が時効消滅しても、他方の債務はその影響を受けないのである(連帯債務の相対的効力)。本肢は正しい。

【2】[死者自身の慰謝料賠償請求権]
 被害者Cが即死の場合でも、使用者Aは「Cの相続人」に対して慰謝料賠償責任を負う。
 判例は、即死の場合でも負傷後数時間で死亡した場合でも、財産的損害・精神的損害について、まず被害者自身に損害賠償請求権が発生し、それが相続人に承継されるとしている。
 身体傷害の場合には被害者自身が損害賠償請求権を取得するのに、最も重大な法益である生命侵害にそれが認められないのは著しく均衡を欠くというのがその理由(最判昭42.11.1)。本肢は誤り。

【3】[求償権の範囲]*最判昭51.7.8
 損害を賠償した使用者Aは、その全額を「常に被用者Bから回収できる」ものではない。
 Bに対する求償の範囲は全額ではなく損害の公平な分担という見地から、信義側上相当と認められる限度に制限される。本肢は誤り。

【4】[被害者の過失]*最判昭34.11.26
 責任無能力者である「幼児」Cが不法行為責任を負うことはないが、責任無能力者を監督する父母などに監督上の過失があるときは、「被害者側に過失がある」として、裁判所は、それを考慮して職権により賠償額を定めることができる。
 過失相殺が考慮されるため「損害の全額を賠償しなければならない」ものではないのである。本肢は誤り。

[正解] 1



【問 3】 不法行為(令和2年4月1日以降に行われたもの)に関する次の記述のうち、民法の規定及び判例によれば、誤っているものはどれか。

 建物の建築に携わる設計者や施工者は、建物としての基本的な安全性が欠ける建物を設計し又は建築した場合、設計契約や建築請負契約の当事者に対しても、また、契約関係にない当該建物の居住者に対しても損害賠償責任を負うことがある。

 被用者が使用者の事業の執行について第三者に損害を与え、第三者に対してその損害を賠償した場合には、被用者は、損害の公平な分担という見地から相当と認められる額について、使用者に対して求償することができる。

 責任能力がない認知症患者が線路内に立ち入り、列車に衝突して旅客鉄道事業者に損害を与えた場合、当該責任無能力者と同居する配偶者は、法定の監督義務者として損害賠償責任を負う。

 人の生命又は身体を害する不法行為による損害賠償請求権は、被害者又はその法定代理人が損害及び加害者を知った時から5年間行使しない場合、時効によって消滅する。(令和2年12月問1)

解説&正解
【1】[債務不履行責任と不法行為責任]*415条、709条/最判平19.7.6
 「設計者や施工者」が、建物としての基本的な安全性が欠ける建物を設計・建築した場合には、①設計契約や建築請負契約の「当事者」に対しては、契約上の債務不履行責任を負う。
 また、②契約関係にない「建物の居住者」に対しても、不法行為に基づく損害賠償責任を負うことがある。本肢は正しい。

【2】使用者に対する求償]*715条3項
 もともと、使用者が第三者に対して使用者責任に基づく損害賠償義務を履行した場合には、使用者は「損害の公平な分担」という見地から信義則上相当と認められる限度で、被用者に対して求償することができる。
 さらに判例は、被用者が損害を賠償した場合には「被用者は、損害の公平な分担という見地から相当と認められる額について、使用者に対して求償することができる」(最判令2.2.28)としている。「使用者」の賠償と「被用者」の賠償とで異なる結果となることは相当ではないからである。本肢は正しい。

【3】[監督義務者の責任]*714条
 責任能力がない認知症患者(責任無能力者)が不法行為責任を負わない場合には、その者を監督する法定の義務を負う監督義務者が、損害賠償責任を負うこととなる。
 ただし判例は、特段の事情がある場合を除いて、「責任無能力者と同居する配偶者」であるからといって、責任無能力者を監督する「法定の監督義務者」であるとはいえない、としている(最判平28.3.1)。本肢は誤り。

【4】[生命等を害する不法行為による損害賠償請求権の消滅時効]*724条の2
 人の生命または身体を害する場合の損害賠償請求権は、被害者(またはその法定代理人)が「損害および加害者を知った時」から5年間行使しないときに時効消滅する。本肢は正しい。
 一般不法行為の場合の3年間を「5年間」に伸長したわけだが、もちろん、人の生命・身体の法益がきわめて重要だからである。
  「不法行為の時」から20年間行使しないときも、時効消滅する。

[正解] 3



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