|公開日 2023.05.01

【問 1】 不動産に関する物権変動の対抗要件に関する次の記述のうち、民法の規定及び判例によれば、誤っているものはどれか。

 不動産の所有権がAからB、BからC、CからDと転々譲渡された場合、Aは、Dと対抗関係にある第三者に該当する。

 土地の賃借人として当該土地上に登記ある建物を所有する者は、当該土地の所有権を新たに取得した者と対抗関係にある第三者に該当する。

 第三者のなした登記後に時効が完成して不動産の所有権を取得した者は、当該第三者に対して、登記を備えなくても、時効取得をもって対抗することができる。

 共同相続財産につき、相続人の一人から相続財産に属する不動産につき所有権の全部の譲渡を受けて移転登記を備えた第三者に対して、他の共同相続人は、自己の持分を登記なくして対抗することができる。(令和3年12月問6)

解説&正解
【1】[第三者の意味]*最判昭39.2.13
 不動産物権変動における「対抗関係にある第三者」とは、物権変動の「当事者およびその相続人」以外の者をいう。
 所有権がA→B→C→Dと「転々譲渡」された場合、A・B・C・Dは、物権変動の当事者であって、第三者ではないので、AとDは、互いに「対抗関係にある第三者」には該当しないのである。本肢は誤り。

【2】[対抗関係にある第三者]*同49.3.19
 「対抗関係にある第三者」とは、「相手方に登記などの対抗要件がないことを主張する」について正当な利益を有する者をいう。
 同一の土地について、賃借権を有する土地賃借人と、その賃借地の所有権を取得した者とは、ともに正当な利益を有するので、両者は、互いに「対抗関係にある第三者に該当する」。本肢は正しい。

【3】時効完成前の第三者]*同41.11.22
 「時効が完成して」不動産の所有権を時効取得した者と、その取得時効の完成前に登記をした第三者は、物権変動の当事者であってはじめから対抗関係にはないから、時効取得者は「登記を備えなくても、時効取得をもって対抗することができる」。本肢は正しい。

【4】[共同相続と対抗要件]*同38.2.22
 相続財産は、共同相続人の共有に属するので、その1人から相続不動産につき所有権の全部譲渡を受けた第三者が「移転登記」を備えても、持分を超えたその登記は、他の共同相続人の持分に関する限り無権利の登記(不実の登記)である。
 したがって、他の共同相続人は「自己の持分を登記なくして」第三者に対抗することができる。本肢は正しい。

[正解] 1



【問 2】 A所有の甲土地についての所有権移転登記と権利の主張に関する次の記述のうち、民法の規定及び判例によれば、正しいものはどれか。

 甲土地につき、時効により所有権を取得したBは、時効完成前にAから甲土地を購入して所有権移転登記を備えたCに対して、時効による所有権の取得を主張することができない。

 甲土地の賃借人であるDが、甲土地上に登記ある建物を有する場合に、Aから甲土地を購入したEは、所有権移転登記を備えていないときであっても、Dに対して、自らが賃貸人であることを主張することができる。

 Aが甲土地をFとGとに対して二重に譲渡してFが所有権移転登記を備えた場合に、AG間の売買契約の方がAF間の売買契約よりも先になされたことをGが立証できれば、Gは、登記がなくても、Fに対して自らが所有者であることを主張することができる。

 Aが甲土地をHとIとに対して二重に譲渡した場合において、Hが所有権移転登記を備えない間にIが甲土地を善意のJに譲渡してJが所有権移転登記を備えたときは、Iがいわゆる背信的悪意者であっても、Hは、Jに対して自らが所有者であることを主張することができない。(平成24年問6)

解説&正解
【1】時効完成前の第三者]
 「時効により所有権を取得した」Bと、その時効完成前に甲土地を購入したCとは、物権変動の当事者であって、そもそも対抗関係にはないから、Bは所有権の登記がなくても、「所有権移転登記を備えたCに対して」所有権を主張できる。本肢は誤り。*最判昭41.11.22

【2】[土地賃借権の対抗要件]*借地10条
 甲土地の賃借人Dは、その賃借地上に「登記ある建物を有する(所有している)」ので、すでに第三者に対する土地賃借権の対抗要件を備えている。したがって、甲土地を購入したEは「所有権移転登記を備えていない」ため、Dに対して土地所有権を対抗できず、自らが賃貸人であることも主張できない。本肢は誤り。

【3】[二重譲渡と登記]*177条
 不動産に関する所有権の二重譲渡があった場合、その権利関係の優劣は登記の先後によって決定されるのであって、売買契約の時期によっては決定されないから先に所有権移転登記を備えたFが完全に甲土地の所有権を取得する。
 Gの契約が「先になされたこと」を立証しても、登記のないGは自らが所有者であることを主張できないのである。本肢は誤り。

【4】[背信的悪意者からの転得者
 背信的悪意者Iからの転得者Jは、自身が背信的悪意者でない限りは、177条の「第三者」に含まれるから、通常の二重譲渡と同様に、背信的悪意者でない転得者に対しては、登記なしには取得した権利を対抗することはできない(最判平8.10.29)
 「所有権移転登記を備えない」Hは、「所有権移転登記を備えた」転得者Jに対しては、自らが所有者であることを主張できないのである。本肢は正しい。

[正解] 4



【問 3】 不動産の物権変動の対抗要件に関する次の記述のうち、民法の規定及び判例によれば、誤っているものはどれか。なお、この問において、第三者とはいわゆる背信的悪意者を含まないものとする。

 不動産売買契約に基づく所有権移転登記がなされた後に、売主が当該契約に係る意思表示を詐欺によるものとして適法に取り消した場合、売主は、その旨の登記をしなければ、当該取消後に当該不動産を買主から取得して所有権移転登記を経た第三者に所有権を対抗できない。

 不動産売買契約に基づく所有権移転登記がなされた後に、売主が当該契約を適法に解除した場合、売主は、その旨の登記をしなければ、当該契約の解除後に当該不動産を買主から取得して所有権移転登記を経た第三者に所有権を対抗できない。

 甲不動産につき兄と弟が各自2分の1の共有持分で共同相続した後に、兄が弟に断ることなく単独で所有権を相続取得した旨の登記をした場合、弟は、その共同相続の登記をしなければ、共同相続後に甲不動産を兄から取得して所有権移転登記を経た第三者に自己の持分権を対抗できない。

 取得時効の完成により乙不動産の所有権を適法に取得した者は、その旨を登記しなければ、時効完成後に乙不動産を旧所有者から取得して所有権移転登記を経た第三者に所有権を対抗できない。(平成19年問6)

解説&正解
【1】取消後の第三者と登記]
 売買契約に基づく所有権移転登記後に、契約が詐欺や錯誤を理由に取り消された場合、
 ①取消による買主→売主への所有権復帰と、
 ②取消後の買主→第三者への所有権移転とは、二重譲渡の関係が成立し対抗関係となるので、権利関係の優劣は登記で決まる。
 売主は、詐欺を理由に売買契約を取り消しても「その旨の登記をしなければ」、取消後に当該不動産を取得して登記を移転した第三者に所有権を対抗することはできない。本肢は正しい。*大判昭17.9.30

【2】解除後の第三者と登記]
 売買契約に基づく所有権移転登記後に、その契約が適法に解除された場合、
 ①解除による買主→売主への所有権復帰と、
 ②解除後の買主→第三者への所有権移転とは、二重譲渡の関係が成立し対抗関係となるので、権利関係の優劣は登記で決まる。
 売主は、契約を解除して所有権が復帰しても「その旨の登記をしなければ」、解除後に当該不動産を取得して登記を経た第三者(善意・悪意に関係なく)に所有権を対抗することはできない。本肢は正しい。*最判昭35.11.29

【3】[共同相続と登記]*最判昭38.2.22
 兄弟が共同相続した甲不動産について、兄が「弟に断ることなく」単独名義で所有権登記をした場合、この登記は、弟の持分に関する限り無効の登記(不実の登記)なので、第三者が甲不動産について所有権移転登記をしても、そもそも弟の持分について権利を取得することはできない。
 したがって、弟は「共同相続の登記」をしなくても、第三者に自己の持分権(相続分)を対抗できるのである。本肢は誤り。

【4】時効完成後の第三者]
 ①所有権を時効取得した者と、②その時効完成後に所有権を取得した第三者とは、二重譲渡と同様の関係となり、所有権取得の優劣は登記の先後で決まるから先に登記を備えた者が完全な権利者となる(最判昭57.2.18)
 乙不動産の時効取得者は、その登記をしなければ、「時効完成後」に乙不動産の所有権を取得して「登記を経た」第三者に所有権を対抗することはできない。本肢は正しい。

[正解] 3



宅建民法 厳選過去問|テーマ一覧