|更新日 2023.2.25|公開日 2017.9.26

1|委任の意味

意 味  契約の締結を依頼すること
 委任(契約)というのは、委任者(依頼する人)が、受任者(依頼される人)に対して「第三者と売買や賃貸借などの契約をしてほしい」と依頼する契約をいいます。
 不動産業者に土地・建物の「売却」や「購入」を依頼したり、マンションの「賃貸借」を依頼するような場合では、「売買契約の締結」や「賃貸借契約の締結」を委任しているわけです。委任の内容は、このように「契約を締結すること」です。

代理権の授与
 委任の内容は、第三者と契約を締結することなので、通常、受任者には「契約締結の代理権」が与えられており、ほとんどが「代理人」となります。
委任
  委任状を交付する必要はない
 委任は、委任者と受任者の合意だけで成立する諾成契約です。その際には「委任状」が交付されるのが通常ですが、委任状は、第三者に対して「受任者の権限を証明」する手段であって、委任の成立要件ではありません。合意さえあれば「委任状を交付」しなくても委任は成立します。

注意!  委任と委託
 他人に「事務処理」を依頼する契約には、委任と委託があります。
 「委任」の事務処理の内容は「契約の締結(法律行為)」をすることで、「委託」の事務処理の内容は「マンションを維持・管理する」というように「事実行為」をすることです。「法律行為」か「事実行為」かの違いはありますが、「委託」には「委任」の規定が準用されるので(委任に準じる)、委任と同じように考えて問題ありません。宅建業法で学習する「媒介」は、売主と買主を仲介する業務で、この「委託に該当」します。
 試験では、「委任」「委託」の両方が出題されています。

委任と委託の相違

・委任=事務の内容は契約の締結
・委託=事務の内容は事実的行為

2|受任者の義務

 善管注意義務

 無報酬でもこの義務がある  受任者は、報酬の有無に関係なく、委任の本旨に従い「善良な管理者としての注意(善管注意)」をもって、委任事務を処理する義務(善管注意義務)を負います。自己の財産におけると同一の注意」では足りません。無報酬でも、注意義務の程度が軽くなることはないのです。

 委任は、当事者双方の信頼関係によって成立しており「対価の関係」で成立するものではないという「歴史的背景」があるからです。委任も委託も「報酬がなくても」、善管注意義務を欠けば「過失あり」として、債務不履行となります。
 無報酬だからといって、注意義務の程度が軽くなることはないのです。

 自己執行義務

原 則 自分の責任で事務処理をする
 委任は、双方の信頼関係が基礎となっているという性質上、受任者はその信頼に応えるように自ら事務を処理しなければならず、原則として、他人に代行させることはできません。

例 外 他者を選任できる場合がある
 ただし以下の場合は、他者(復受任者)を選任することができます。
 ① 委任者の許諾を得たとき、または、
 ② やむをえない事由があるとき

 なお、受任者(代理人)が、代理権を有する復受任者(復代理人)を選任したときは、復受任者は「委任者」に対してその権限の範囲内において「受任者と同一の権利(費用償還請求権など)」を有し、「義務(善管注意義務など)を負う」こととなります。

 その他の義務

 報告義務
 受任者は「委任者の請求があるとき」は、いつでも事務処理の状況を報告しなければなりません。ただ、請求があるときに報告すればよく、必ずしも「定期的に」報告する義務はありません。
 ただし「委任終了後」は、遅滞なく事務の経過および結果を報告する必要があります。

 受取物の引渡義務
 受任者は、事務処理にあたって受領した金銭、収取した果実を委任者に引き渡さなければならず、また、自己名義で取得した権利も委任者に移転しなければなりません。

 金銭消費の責任
 委任者に引き渡すべき金銭を「自分のために消費」したときは、受任者は「消費した日」以後の利息も支払う義務を負います。この金銭消費は、受任者の背信行為なので、金銭の「引渡時期以前」であっても、消費した金銭に利息を払う必要があります。損害があれば、その賠償責任も負います。

3|委任者の義務

 義務の核心は報酬の支払い  委任は無報酬が原則なので特約がなければ、受任者は報酬を請求できません。また、報酬は、原則として委任事務の履行後でなければ請求することができず、後払いが原則です。

 報酬の支払い

 委任はその内容に応じて「履行割合型」と「成果完成型」の2タイプがあり、報酬支払もこれに対応しています。
 履行割合型  
 事務処理の「労務・履行そのものに対して」報酬が支払われる従来の委任タイプ
 成果完成型  
 事務処理の結果、達成された「成果に対して」報酬が支払われるタイプ

 1 履行割合型の報酬支払
 後払いが原則  履行割合型の委任は、従来の委任のタイプです。たとえば、介護サービス(委託)に対して支払われる報酬のように、「提供された労務・サービスそのもの」に対して報酬が支払われるので、報酬は後払いが原則です。労務・サービスに対する報酬なので先に労務提供がなされる必要があるわけです。

 事務処理ができなくなった場合
 「既履行部分」に応じた報酬  受任者は、次の場合は「すでに履行した割合」に応じて割合的報酬を請求できます。
 ① 委任者に帰責事由なく、委任事務の履行ができなくなったとき
 ② 委任が履行の中途で終了したとき

 ①は、双方の帰責事由によらない場合、または受任者の帰責事由による場合です。受任者の帰責事由、たとえば自己都合で委任事務が中途終了した場合であっても、受任者に割合的報酬が認められます(648条3項)

 ②は、履行の中途で「委任が解除」されたり、「当事者の死亡」などの終了原因によって終了した場合です。このときも「すでに履行された部分」に対する割合的報酬を請求できます。介護の依頼をしていた委任者の親が死亡した場合には、受任者(介護業者)は、「それまでの労務・介護サービス」に対する報酬を請求できるわけです。

 2 成果完成型の報酬支払
 このタイプは、不動産の売買や賃貸借における媒介報酬、弁護士の成功報酬などのように「事務処理の成果に対して」報酬が支払われる委任です。

 成果の引渡しを要する場合
 引渡しと同時履行  成果完成型は、成果が生じてはじめて報酬が支払われるという点で「請負に類似」しており、報酬は、成果の引渡しと同時に支払わなければなりません。
 新民法は、「成果の引渡し」と「報酬の支払い」は、同時履行の関係にあることを明確にしています(648条の2)

 成果の引渡しを要しない場合
 完成後に払う後払いが原則  「引渡しが不要」な場合には、受任者は「成果の完成後」に報酬を請求できます。

注意!  完成しなかったときの報酬
 利益割合に応じた報酬が請求できる  以上のように、成果完成型の委任では「成果が完成」しなければ報酬を請求できないのが原則です。
 では「成果が完成していない」段階で、①受任者が委任事務を継続できなくなったり、②委任が解除されたりした場合には、報酬はどうなるのでしょうか。
 完成していない以上、全く報酬は請求できないのでしょうか。
 この場合、成果完成型の委任が請負と類似していることから、「委任者が受ける利益の割合に応じた報酬」を請求することができます。「利益の部分」が「得られた成果」とみなされるわけです。委任事務に専念してきた受任者の利益保護が図られているのです。

パトモス先生講義中

履行割合型は従来の委任タイプ、成果完成型は請負に似ている、この点を注意しよう。

 費用前払い|費用償還義務

 委任者には報酬の有無に関係なく、費用等に関して次の義務があります。

 費用の前払い義務
 事務処理の費用を要するときは、受任者の請求があれば、委任者は「費用の前払い」をしなければなりません。

 費用償還義務
 受任者が、事務処理に必要な費用を支出したときは、①費用全額と、②支出日以後の利息を償還しなければなりません。受任者に経済的損失を与えないようにするためです。

 損害賠償義務
 受任者が事務処理のために「過失なく」損害を受けたときは、委任者はその賠償をしなければならず、この賠償責任は無過失責任です。

4|委任の終了

 契約の解除

 双方からいつでも解除できる
 委任は、報酬の有無に関係なく、双方からいつでも解除することができます。双方の信頼関係が基礎となっている委任では、相手方を信頼できなくなったときは、いつでも解消できるようにしているわけです。ただし、解除をした者は、次の場合には(やむを得ない事由のときを除いて)相手方の損害を賠償しなければなりません。

 ① 相手方に不利な時期に解除したとき
 ② 委任者が受任者の利益をも目的とする委任を解除したとき
 「受任者の利益」というのは、報酬を得ることは除いて、受任者にとって「報酬が得られること以上の利益」であることが必要です。

 その他の終了事由

 契約の解除以外の終了事由は、次の3つで、任意代理権の消滅事由と同じです。

 ① 死 亡
 委任者または受任者が死亡したときは、報酬に関係なく終了します。
 受任者が死亡しても、その「相続人」が、受任者の地位を承継することはありません。個人的な信頼関係で成立している委任は、相続には適さないのです(一身専属性)
 ② 破産手続開始の決定
 委任者または受任者が破産手続開始の決定を受けたとき
 ③ 後見開始の審判
 「受任者」が後見開始の審判を受けたとき。実際に事務処理をする受任者が判断能力を欠く常況となったため、続けて処理するのは適切ではないからです。
 「委任者」が後見開始の審判を受けても、委任は終了しません。

委任の終了事由

委任者または受任者
・死 亡 ・破産手続開始決定
さらに受任者は
・後見開始の審判

 委任終了後の特別措置

 委任の終了に際して、2つの「特別措置」がおかれています。

 1 受任者の緊急処分義務
 委任者の死亡等により委任契約は終了しますが、急迫の事情があるときは、受任者は、引き続き事務処理を行うなど、「委任者の相続人等が事務処理できる状態になるまで」必要な処分をしなければなりません。事務処理が放置されて、委任者側に不測の損害が生じないようにするためです。

 2 委任終了の対抗要件
 委任の終了は、①これを相手方に通知したときか、②相手方がこれを知っていたときでなければ、相手方に対抗することができません。したがって、そのときまで当事者は委任契約上の義務を負うこととなります。



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