|公開日 2022.3.12
ところが、令和2年(2020)12月の試験で、はじめて「1問」として出題されました。履行遅滞・履行不能などの債務不履行は「契約の解除」「損害賠償」などで問題となりますので、基本事項はしっかり理解しておく必要があります。
2 履行遅滞中の履行不能

試験にはよく出るの?
むつかしいの?

直接には出ないけれど、基本中の基本テーマなので、これを理解できないと債務不履行や契約の解除に関しては得点できないからね。
1|債権の意味
債務不履行に入る前に、「債権の意味」についてもう1度確認しておきましょう。
土地や建物の「売買契約」とか、金銭の貸し借りをする「消費貸借契約」などをイメージすれば、わかりやすいでしょう。
たとえば、Aが所有建物をBに 5,000万円で売却したという場合、売主Aと買主Bは「売買契約」を結んでいて、その結果、AはBに対して「5,000万円支払え」と請求することができ、また、BはAに対して「建物を引き渡せ」と請求することができます。
また、CがDに 1,000万円を貸すことにして、1,000万円をDが受け取った場合、貸主Cと借主Dとの間では、金銭の「消費貸借契約」が結ばれており、その結果、Cは、Dに対して「1,000万円(約束があれば利息も)返せ」と請求することができます。
このように、債権というのは、主に契約関係にある特定の人(債権者A・C)が、特定の人(債務者B・D)に対して、特定の行為(代金の支払い・建物の引渡し・金銭の返還)を請求する権利をいいます。
物権が「だれに対しても」排他的に、目的物を直接支配する権利であるのに対して、債権は「ある特定の人」に対する権利です。
売買契約における代金債権とか目的物引渡債権、金銭貸借契約における金銭債権、土地・建物の賃貸借契約における賃借権などが、債権の典型例です。
なお、債権と請求権は区別され、債権から請求権が発生します。
2|債務不履行
債務不履行というのは、債務者が、正当な事由がないのに「債務の本旨」に従った履行をしないことをいいます。
たとえば「履行の期日」が来ても代金を払わない、土地・建物を明け渡さないという履行遅滞、あるいは、管理不始末で建物を燃やしてしまい引渡しができなくなったという履行不能などのような場合をいいます。
債務不履行の3タイプ
債務不履行には、履行遅滞・履行不能・不完全履行の3タイプがあります。
試験対策としては、履行遅滞と履行不能をしっかり確認しておきましょう。
3|履行遅滞
履行遅滞というのは、債務の履行が可能であるにもかかわらず、履行期に履行しないことをいいます。
たとえば、建物の売買契約で、履行期が10月30日と決められているのに、10月30日を過ぎても、建物の引渡しや移転登記がなされないような場合です。
履行遅滞では「いつから遅滞となるか」が要注意です。
1 いつから履行遅滞となるか
履行期との関係で3パターンがあります。
1 債務に確定期限があるとき
確定期限というのは、「10月30日」というように、将来「到来する時期が確定」しているものをいいます。確定期限があるときは、債務者は、その期限が到来した時を過ぎれば「履行遅滞」となります。
2 債務に不確定期限があるとき
不確定期限というのは、到来することは確実だが「いつ到来するか」不確実な期限をいいます。「梅雨が明ければ借金を返済する」とか「父親の死亡後1年以内に売却する」というような場合です。
不確定期限があるときは、債務者は、
① その期限到来後に履行の請求を受けた時、または、
② その期限到来を知った時
のいずれか早い時から「履行遅滞」となります。
不確定期限は、いつ到来するかわからないため、債務者が知らないときに、履行遅滞の責任を負わせるのは妥当ではないので、「請求を受けた時」または「知った時」とされるのです。
3 期限の定めがないとき
債務に履行期限を定めなかったときは、債務者は、履行の請求を受けた時から「履行遅滞」となります。
なお債務者が、同時履行の抗弁権のように、履行期が到来しても「履行しなくてもいい正当な権利」を有するときは、いうまでもなく「履行遅滞」となることはありません。
不法行為による損害賠償債務の履行期
不法行為によって発生した損害賠償債務は「期限の定めのない債務」です。
判例は、この損害賠償債務は、不法行為の時(債権成立の時)から当然に「履行遅滞」となるとしています(最判昭58.9.6)。
被害者(債権者)から「請求を受けた時」から遅滞になるのではありません。
被害者はすぐに請求できる状態にはないので、被害者が請求する時まで、加害者=債務者は履行遅滞にはならないというのでは、被害者の保護に欠けるからです。
2 履行遅滞の効果
債務不履行が生じた場合、最も問題となるのは「損害賠償」と「契約の解除」です。
損害賠償請求ができる
債権者は、履行が遅滞したために生じた損害の賠償、つまり「遅延賠償」の請求ができます。本来の債務はそのまま存続しますから、本来の債務履行も請求できるわけです。
債権の内容が「拡張」するといえます。
契約の解除ができる
履行遅滞にある債務者に対して、債権者は相当の期間を定めて履行の催告をし、その期間内に履行がないときは契約を解除することができます。
遅滞中の履行不能の責任も負う
債務者が履行遅滞にある間に、債務が履行不能になってしまった、たとえば地震とか暴風雨など不可抗力によって建物が全壊してしまい、引き渡すことが不能になったという場合には、債務者はこの責任も負うこととなります。
履行遅滞にある債務者は、遅滞中に生じた履行不能の責任も負うわけです。
判例は、「履行不能」自体について債務者に帰責事由がなくても、つまり不可抗力や偶発的事故によるものであっても、債務者は履行不能によって生じた損害の賠償責任を負うとしています。
債務者はすでに履行遅滞にあるため、「それ以後の履行不能」は、結局、債務者の責めに帰すべき事由によるものと考えられるからです。
履行期までに履行していれば、こんな目に遭わずに済んだわけですから。
これは確立した判例理論で、今回明文化されました(413条の2第1項)。
「債務者が履行遅滞にある間に、当事者双方の責めに帰することができない事由によってその債務の履行が不能となったときは、その履行不能は、債務者の責めに帰すべき事由によるものとみなす」

履行遅滞にある債務者は、その遅滞中に生じた履行不能について責任を負わなければならないんだよ。
4|履行不能
履行不能というのは、契約成立の時には可能であって、その後に履行が不可能となることです。契約成立後に不可能になるので、後発的不能といいます。
住宅の売買契約をした後に、売主の管理が原因で住宅が「全焼」してしまったような場合ですね。債務は履行不能となり、もはや買主に住宅を引き渡すことはできません。
不能の判断
履行不能かどうかの判断は「契約その他の債務の発生原因、および取引上の社会通念に照らして」なされます。物理的不能に限りません。
たとえば、判例は、不動産の売主が「同じ不動産」を第三者に譲渡して移転登記をした二重譲渡の場合、原則としてただちに「履行不能」となるとしています(最判昭35.4.21)。
1 履行不能の効果
履行請求はできない
履行不能であるときは、債権者はその「債務の履行」を請求することができません。
改正前民法ではこの点を定めた条文がなかったため、今回明文化されました。
「債務の履行が契約その他の債務の発生原因および取引上の社会通念に照らして不能であるときは、債権者は、その債務の履行を請求することができない」(412条の2第1項)。
契約解除と損害賠償
履行不能は、履行を強制しても意味がないので、契約を解除して損害賠償請求をすることになります。
この損害賠償は「目的物に代わる」損害の賠償、つまり填補(てんぽ)賠償に限られます。
解除しないで「填補賠償」を請求できますが、この場合には、自分の債務も履行しなければなりません。一方、解除して填補賠償を請求することもできます。この場合には、自分の債務は免れて清算されることになります。
代償請求権
代償請求権というのは、債務が履行不能となった場合に、不能の原因と「同一原因」によって債務者が利益を受けたときは、債権者がその利益を「自己の損害の限度」で請求できる権利をいいます。
代償請求権を認めていた判例の見解が、今回明文化されたものです(最判昭41.12.23|422条の2)。
火災保険金に請求できる
たとえば、賃借建物が、賃貸人・賃借人双方の責任によらない(類焼によって焼失したとか、第三者によって毀損されたとか)で消滅した場合、賃借人の建物返還義務は履行不能になります。
このとき、火災保険金が賃借人に支払われると、賃貸人はこれを自分に償還するように請求できるわけです。
あるいは、賃借人がその第三者に対して不法行為による損害賠償請求権を取得すると、この請求権の移転を求めることができるのです。
というのも、賃借人は履行不能により建物返還義務を免れたうえに、保険金や損害賠償請求権を取得して二重の利益を得ることとなるため、債権者(賃貸人)に代償請求権を認めることが公平だからです。
請求額は、債権者の「受けた損害の額」が上限となります。

履行不能の場合に、債権者が代償請求権を行使できる場合があることが、明文化された。
2 原始的不能
原始的不能というのは「契約成立時にすでに履行不能」である場合をいいます。
たとえば、熱海にある別荘の売買契約をしたところ、前日の台風で全壊していたというような場合です。
存在していない建物を目的としているために、契約自体も存在しないことになるのですが、今回の改正で「原始的不能によって生じた損害」の賠償請求ができるようになりました(412条の2第2項)。
これは、原始的不能でも「契約は有効」であることを前提として、契約の効力の代表的なものとして、損害賠償請求を明確にしたのです。
もちろん、原始的不能を理由に契約を解除したり、代償請求権も可能です。
5|受領遅滞
受領遅滞というのは、債権者が協力しないために「履行が遅延」している場合をいいます。「債権者遅滞」ともいいます。
売主である債務者が履行期限に登記所に出かけたのに、買主である債権者が来ていない・連絡もつかないというような場合、債務者が「債務の本旨」に従った提供をしたのに、債権者が履行を遅滞しているわけです。
債務者保護のために一定の効果が発生します。
1 受領遅滞の効果
1 保管義務の軽減
債務の目的が、土地・建物など「特定物の引渡し」であるときは、債務者は、その保管について注意義務が軽減されます。
つまり受領遅滞以後は、善良な管理者の注意ではなく、「自己の財産に対するのと同一の注意」をもって保存すれば足ります。
2 費用の請求
債権者の受領遅滞によって増加した履行費用(保存費用含む)は、債権者の負担となります。
3 受領遅滞中の履行不能
受領遅滞中に生じた履行不能については、たとえ「不能の発生自体」については債権者に帰責事由がない場合でも(不可抗力であっても)、債権者の帰責事由による履行不能とみなされます。
その結果、債権者の方から契約解除はできず、また反対給付の履行も拒むことはできません。
[確定期限がある] 期限到来時から
[不確定期限がある]
①・②のいずれか早い時から遅滞
① 期限到来後に請求を受けた時
② 期限到来を知った時
[期限の定めがない]
債権者の請求を受けた時から
2 不法行為による損害賠償債務は、不法行為の時から当然に履行遅滞となる。
3 債務者の履行遅滞中にその債務が不可抗力で履行不能となったときは、その履行不能は、債務者の責めに帰すべき事由によるものとみなされる。
4 履行不能の原因と同一の原因(火災など)によって、債務者が火災保険金などの利益を受けたときは、債権者はその利益に対して「自己の損害の限度」で代償請求できる。
5 契約成立時に履行不能(原始的不能)でも、損害賠償請求ができる。
6 受領遅滞があれば、債務者は、目的物の保管義務が軽減される。
7 受領遅滞中に生じた履行不能は、債権者の帰責事由による履行不能とみなされる。