|公開日 2022.2.17
直近では、令和2年(2020)に「錯誤」が出題されました。
「意思表示」を正しく理解することは、そのまま民法体系を理解するカギとなり、同時に得点できるカギでもあります。大変重要なテーマです。
1|意思表示・法律行為
まず、意思表示・法律行為・法律効果について確認しておきましょう。
1 意思表示|申込みと承諾
たとえば、売買契約では、売主が「売りましょう」という申込みの意思表示をして、これに対し買主が「買いましょう」と承諾の意思表示をすることで成立します。
賃貸借契約であれば、貸主が「貸しましょう」という申込みをして、借主が「借りましょう」と承諾すれば成立します。
このように、意思表示というのは「売る・買う」、あるいは「貸す・借りる」というように、最終的に権利の発生・移転・消滅を生じさせるような意思を表示することをいいます。
「申込み」と「承諾」という意思表示を要素として契約が成立するわけです(522条)。
契約が成立するまでには、当事者間で、価格や数量、代金の支払方式、目的物の引渡時期や登記の移転時期などいろいろなことが話し合われますが、最終的に重要なのは「売る・買う」「貸す・借りる」というように、権利変動を生じさせる意思表示なのです。
2 法律行為って何?
法律行為というのは、要するに契約のことです。単に行為ということもあります。
土地を売ったり買ったりする売買契約、家や土地を貸し借りする賃貸借契約、金銭の貸し借りをする金銭消費貸借契約、そして遺言など、いろいろな契約・行為の総称を「法律行為」といいます。
試験では「法律行為=契約」と考えて問題はありません。
図で示すと、大体このようになります。
試験では、たまにこれらの用語が混用されて出題されたりします。
たとえば[平成26年問9肢1]では、次のようになっていました。
「後見人制度に関する次の記述のうち、民法の規定によれば正しいものはどれか。
1 成年被後見人が第三者との間で建物の贈与を受ける契約をした場合には、成年後見人は、当該法律行為を取り消すことができない。」
3 法律効果って何?
たとえば、土地の売買契約が成立すると、買主は土地の所有権を取得し、同時に売買代金支払義務を負担します。
一方、売主は売買代金請求権を取得するとともに、土地の所有権移転義務を負うことになります。
所有権の取得、売買代金支払義務の発生、売買代金請求権の取得などのように、契約=法律行為をした結果として発生・取得するこれらの法律上の効果を法律効果といいます。
以上の関係を売買契約で図示すると、こんな感じですね。
2|欠陥のある意思表示
さて、民法は「私的自治の原則」に基づいて契約の自由を認め(521条)、契約の締結・内容は「できるだけ当事者の意図するとおりにしよう」という立場を明確にしています。
これを「意思表示」にあてはめると、「当事者が本当に意図するところ(=内心の意思)に従って法律効果を与えよう」ということです。
意思表示は、法律行為の不可欠の要素ですから、「法律行為=契約が有効に成立するためには、意思表示自体が有効」でなければなりません。
以下、説明する「欠陥のある意思表示」というのは、この意思表示に問題があるために「有効とすることはできない」意思表示をいいます。
1 意思表示の構造
まず、意思表示の構造は、簡単にみると以下のようになっています。
欠陥のある意思表示は、「内心の意思(真意)」と「表示」に欠陥がある・瑕疵があるわけですが、このような意思表示は、表意者(意思表示をする者)の意思=真意を表示していないので、無効とされたり、取消しの原因となったりします。
2 欠陥のある意思表示のパターン
欠陥のある意思表示には、次の5つのパターンがあります。
- 1 心裡留保
- 2 虚偽表示
- 3 錯 誤
- 4 詐 欺
- 5 強 迫
「1・2・3」は、表意者の「意思」と「表示」に食い違い(不一致)がある意思表示、「4・5」は、「意思」と「表示」に不一致はないけれど、意思表示を「形成する過程」に不法な作用が加えられた(だまされたり、おどされたりした)場合の意思表示です。
これらは結局のところ、「契約は当事者の自由意思によってなされるべきである」という契約自由の原則に反しているわけです。
次回から、こうした意思表示をくわしくみていくことにしましょう。
「瑕疵」という用語は、売買契約における瑕疵担保責任が大きく改正されたことに伴い、売買では使用されなくなりました。
しかし、用語自体が民法で廃止されたわけではなく、他の分野では依然として使用されています。たとえば、瑕疵ある意思表示の取消し(120条2項)、占有における瑕疵の承継(187条2項)などのように。
ポイントまとめ
1 法律行為は、売買契約や賃貸借契約、金銭消費貸借契約などの契約や遺言などの総称のことである。
2 法律行為は、意思表示を構成要素としている。
3 契約は、申込みと承諾という意思表示によって成立する。
4 意思表示は、「売る・買う」「貸す・借りる」など、権利変動を生じさせる表示をいう。
5 欠陥のある意思表示は、取消しや無効の原因となる。