|公開日 2022.3.11

法定地上権って何?
マスターするポイントは?

建物を保護するためのシステムなんだ。法定地上権が成立する要件をおさえようね。
目 次
1|法定地上権の意味と趣旨
1 意 味
「地上権」というのはおわかりですね。物権編でほんのちょっと触れました。
他人の土地を借りる契約をして、その上に「建物」を建てたり「工作物」を建造するための物権でしたよね。当事者間の「地上権設定契約」によって発生します(約定地上権)。
法定地上権は「法定」とあるように、当事者の意思や設定契約ではなく、一定要件の下に「法律上当然に成立する」地上権をいいます。
つまり、土地と建物が「同じ所有者」であるときに、どちらか一方に抵当権が設定され、その後、抵当権が実行されて土地と建物が「別々の所有者」になった場合には、「建物のために地上権が設定されたものとする」ことです。
2 趣 旨
なぜ、約定地上権のほかに、法定地上権が必要なのでしょうか。
それは「建物について、地上権が設定されたものとみなす」(388条)とあるように、法定地上権は「建物を保護するためのシステム」なのです。建物を存続させるために「地上権が設定された」ことにするわけです。
建物を保護するためのシステム
どういうことかというと、抵当権が実行されて競売された結果、「土地」の所有者と 「建物」の所有者が別々になった場合、そのままの状態では、新しい所有者間では、建物のために地上権や土地賃借権の設定契約が締結されていないため、建物がその土地上に存続する「法的な根拠」がありません。
「建物」を競落した所有者は、何の権利もなく「他人の土地」の上に建物を建てているという、いわば「違法状態」にあるのです。
そうすると「土地」を競落した所有者は、「建物」の所有者に対して、「建物を撤去して私の土地から出て行け」と主張することができるわけです。
しかし、これを無制限に認めると、競売があるたびに建物が壊されてしまい、多大な経済的損失となるばかりでなく、建物の新所有者は競落した意味がなくなります。
こうして「建物を撤去しなくてもいい」ように、建物のために一方的に「法定の地上権」を認めて建物を保護しているのです。
2|法定地上権の成立要件
法定地上権はどういう場合に成立するか、その成立要件について次の3点を確認しておきましょう。判例も多く、法定地上権といったらここが出る、というくらい重要です。
1 抵当権設定当時の建物の存在
2 所有者が同じであること
3 土地・建物の一方か双方に抵当権設定
1 抵当権設定当時の建物存在
法定地上権が成立するためには、土地への抵当権設定当時、すでに建物が存在していることが絶対に必要です。これは判例の一貫した態度です(最判昭36.2.10ほか)。
というのも、建物が存在していない更地(さらち)に抵当権を設定する場合、抵当権者は、建物による利用制限がない土地として担保価値を高く評価しており、その後に建てられた建物のために法定地上権を成立させると、土地の交換価値は下落し、抵当権者が害されることになるからです。
たとえ、抵当権者が建物築造を「事前に承諾」していても、法定地上権は成立しません(最判昭51.2.27ほか)。
また、更地に一番抵当権が設定された後に建物が築造され、「その後」土地に設定された二番抵当権が実行されても、建物のために法定地上権は成立しません。
抵当権が実行されると、抵当不動産上のすべての抵当権(一番抵当権、二番・三番抵当権など)が一括して清算されますが、このとき建物のために法定地上権が成立するかどうかは、一番抵当権設定時が基準とされます。
一番抵当権設定時に建物が存在していない場合には、一番抵当権者は、利用制限がない更地として担保価値を高く評価しており、やはりその後に建てられた建物のために法定地上権を認めると、その価値が著しく害されることになるからです。
建物に登記がないとき
建物は、土地への抵当権設定当時に実際に存在していれば、保存登記がなくても法定地上権は成立します。
土地の抵当権者は、建物が実在していれば、担保価値の評価のさいに建物の存在を考慮するからです(大判昭14.12.19)。
土地および地上建物の所有者が、①土地の所有権移転登記をしない間に、建物に抵当権を設定した場合(最判昭53.9.29)や、②建物の所有権移転登記をしないまま土地に抵当権を設定した場合(最判昭48.9.18)にも、法定地上権が成立します。
改築・再築されたとき
土地への抵当権設定当時に建物が存在していれば、後に改築されたり、滅失して再築された場合でも、法定地上権は成立します(最判昭52.10.11)。
抵当権設定時に建物が存在しているときには、それが担保評価の基礎となっているからです。
ただし、共同抵当(土地・建物の双方に抵当権を設定する)の場合は、判例は、原則として法定地上権の成立を認めていません。
「所有者が土地および建物に共同抵当権を設定した後、建物が取り壊され、土地上に新たに建物が建築された場合には、新建物の所有者が土地の所有者と同一であり、かつ、新建物が建築された時点での土地の抵当権者が新建物について土地の抵当権と同順位の共同抵当権の設定を受けたなどの特段の事情のない限り、新建物のために法定地上権は成立しない」(最判平10.7.3)。

改築されても、共同抵当になっているときは、原則として、その改築建物のために法定地上権は成立しないよ。
2 所有者が同じであること
土地と建物の所有者が同一であることが必要です。
抵当権設定当時に、土地と建物がそれぞれ別の所有者に属しているときは、すでに当事者間の契約によって土地への利用権(土地賃借権など)が設定されているはずなので、とくに法定地上権を成立させる必要はありません。
土地と建物の所有者が異なるときは、たとえ親子・夫婦の関係があっても、法定地上権は成立しないのです(最判昭51.10.8)。
たまたま同一所有者となったとき
抵当権設定当時に土地・建物の所有者が別人である以上、抵当権設定後に、土地・建物が「たまたま」同一人の所有に属するようになっても、抵当権の実行による競落の際、建物のために法定地上権は成立しません(最判昭44.2.14)。
建物が共有されているとき
建物の共有者の1人がその敷地を所有し、この土地に抵当権が設定された場合に、抵当権が実行され、第三者がこれを競落したときは、建物共有者全員のために法定地上権が成立します(最判昭46.12.21)。
3 一方か双方への抵当権設定
土地・建物の一方または双方に対して抵当権が設定された場合です。
一方のみに対する抵当権設定
同一人が所有する土地・建物のうち、建物だけに抵当権が設定された後に土地が譲渡された場合には、建物の競落人のために法定地上権が成立します。
すでに建物が存在していれば、建物上の抵当権は法定地上権を伴うものとして担保価値が評価されるからです。
土地・建物双方への抵当権設定
土地・建物の双方に抵当権が設定(共同抵当)された後、競売の結果、別々に競落され、それぞれ別人の所有に属するようになった場合、建物のために法定地上権が成立します(最判昭37.9.4)。
3|抵当地と建物の一括競売
更地に抵当権を設定した後に、その抵当地上に建物が築造されたときは、抵当権者は、建物には抵当権が設定されていなくても、「土地とともに建物」を一括競売することができます。
これは、抵当権の実行を容易にし、また、土地・建物を同一の買受人に帰属できるようにして建物の存続を図るためなのです。
ただし一括競売をしても、建物の売却代金から優先弁済を受けることはできません。抵当権は土地だけに設定されているからです。
なお、競売できる建物は、
・抵当権設定者が建築したものに限らず、
・設定者以外の「第三者」が建築したものでもかまいません。
これは、第三者名義の建物が建築されることによって、一括競売が妨害されることを防ぐためです。
一括競売は、更地に抵当権を設定した後の問題、つまり建物が存在していなかったときの問題です。この点に要注意です。
4|抵当権の消滅
抵当権の消滅原因には、次のものがあります。
- 物権一般に共通のもの
- 担保物権に共通のもの
- 抵当権に特有のもの
1 物権に共通の消滅原因
目的物の滅失があります。
建物に抵当権を設定した後に、火災や地震、土砂崩れなどで建物が崩壊すれば、抵当権は消滅します。
瓦礫(がれき)となった木材や建材の上に抵当権が存続するわけではありません(大判大5.6.28)。
2 担保物権に共通の消滅原因
債務者の債務が弁済されたり、時効消滅すれば、それを担保する債権者の抵当権も付従性により当然に消滅します。
ただし一部弁済の場合は、担保物権の不可分性により、抵当権は全体として存続します。
また、抵当不動産が競売された場合にも消滅します。
3 抵当権の時効消滅
第三取得者が登場した場合は、代価弁済や抵当権消滅請求によって、抵当権は消滅します。また、時効による消滅があります。
抵当権の消滅時効
抵当権は、債務者および物上保証人に対する関係においては、その担保する債権と同時でない限り、時効消滅しません。
目的物の時効取得による消滅
抵当不動産が債務者または物上保証人以外の者によって「占有」され、この者が取得時効によって「所有権」を取得すれば、これによって抵当権も消滅します。
取得時効は原始取得であるため、所有権だけではなく抵当権も消滅するのです。
5|その他の注意点
1 買主の契約解除権等
買い受けた不動産に「契約の内容に適合しない」抵当権があるときは、買主は、抵当権が実行される前であっても、債務不履行を理由に損害賠償請求や契約解除をすることができます。
2 買主の代金支払拒絶
買い受けた不動産に「契約の内容に適合しない」抵当権の登記があるときは、買主は、抵当権消滅請求の手続が終わるまで、売買代金の支払いを拒むことができます。
この場合、買主がいつまでも抵当権消滅請求をしないで「支払いを拒む」ことも考えられますので、売主は、買主に対し、遅滞なく抵当権消滅請求をすべき旨を請求することができます。
ポイントまとめ
1 法定地上権が成立するためには、土地への抵当権設定当時に建物が存在していることが絶対に必要。
2 建物の保存登記がなくても、建物のために法定地上権は成立する。
3 土地に対する抵当権設定当時に建物が存在していれば、後に改築・再築されても、法定地上権は成立する。
4 別々に競落された場合でも、法定地上権は成立する。
5 更地に抵当権設定後、その抵当地上に建物が築造されたときは、抵当権者は、土地と建物を一括競売することができる。
6 一括競売できる建物は、抵当権設定者が建築したものに限らず、設定者以外の「第三者」が建築したものでもよい。
7 抵当権は、目的物の滅失、債務の弁済、競売、代価弁済、抵当権消滅請求などにより消滅する。
8 債務者または抵当権設定者以外の者により「占有」された抵当不動産の取得時効が完成すると、抵当権は消滅する。