|公開日 2022.3.03
2 債権との違い

物権の性質って何なの?
試験に出るの?

直接出題されることはないね。
でも、物権の性質を理解すれば、所有権や抵当権などいろいろな物権をより深く理解できるんだよ。
試験にも有益だから、最小限の知識だけは知っておきたいね。
1|物権が存在するワケ
「物権」というのは、所有権とか抵当権などのように、「物に対する10種類の権利」の「総称」(次回解説)をいいます。
人が生活を営んで生きていくためには、土地や建物をはじめ、食糧品・衣料品など、いろいろな物資(家電製品、自動車などありとあらゆる財物)を必要とします。
しかし、 これらの物資には限りがあるため、これらを直接に利用・消費する権利、すなわち「物に対する権利」を認めて、これを「互いに侵害しない」ようにして物資の利用を安全確実にする制度を必要としたのです。
これが、「物権」が認められる最大の理由で、「債権」よりもはるかに古くから人類の歴史とともに発展してきました。
2|直接的・排他的権利
物権は、目的物を直接に支配して利益を受ける排他的な権利です。
物権は、目的物を直接に支配します。
どういうことかというと、「権利」というのは、最終的にはその人に満足を与えることが目的なのですが、物権は「権利を実現して満足を得る」ために、他人の意思や行為を必要としないということです。
物権と対比される債権と比較するとわかりやすいでしょう。
債権では、債権者が「権利を実現して満足を得る」ためには、他人=債務者の行為(目的物の引渡し、金銭の支払いなど)を必要とするのに対し、物権ではこうした他人の行為を必要としません。
これを「直接」といいます。
たとえば、土地の「所有権=物権」を有する所有者は、みずから使用したり管理するだけで「満足を得る」ことができます。他人の行為は必要ありません。
一方、土地の賃借人、つまり賃借権という債権を有する者は、土地の所有者と賃貸借契約を結んで、賃貸人から土地の引渡しを受けて使用収益ができるという「賃貸人=他人」の行為があって「権利を実現」することができます。
債権は、権利実現のために、必ず他人の行為を必要とするのです。
物権は、排他的な権利です。
排他的というのは、要するに独占的ということで、目的物に1つの物権が成立するときは、同じ内容の物権の成立を認めないということです。
ある人が甲土地を所有していれば、他人は甲土地を所有できませんし、マンションの555号室に住んでいれば、赤の他人は同じ555号室には住めません。
一方、債権は同一物・同一人に対して複数成立します。同日同一時刻の演奏者に対する出演契約は、A社、B社、C社で結んでもかまいません。結局は、実際に実現できるのは1社ですから、あとは債務不履行による損害賠償問題になるだけです。
このように物権は、同一物に対して同一内容の物権が成立することを認めない権利ですから、債権に比べて、他人を排斥する非常に強い権利なのです。
3|物権の効力
物権が、直接的・排他的な権利であるという性質から、2つの効力が認められます。
優先的効力と物権的請求権です。
1 優先的効力
いろいろな権利に対して優先する効力をいい、2つの内容があります。
物権間の優先的効力
内容の対立する「物権相互」の間では、その優劣は物権成立の時の順序に従います。
たとえば、すでにAの所有権が成立している物の上に、Bの所有権は成立しません。
抵当権は、成立時の前後によって順位が異なり、一番抵当権・二番抵当権のように、先に成立したものが優先します。
こうした優先的効力は、物権の排他性によるものです。
この優先的効力・排他性は、土地・建物などの不動産取引では、登記をすることで完全に確保されます。
債権に優先する効力
「債権」が成立している目的物に「物権」が成立するときは、物権が優先します。
たとえば、Aの所有建物をBが賃借=賃借権設定している場合に、Cが売買によりAから建物の「所有権」を取得すれば、賃借人Bは、新所有者Cに対してその「賃借権」を主張できなくなります。
「先に」賃借権=債権が成立していても、「後で」成立した所有権=物権が優先します。「売買は賃貸借を破る」のです。
これは、物権が目的物に対する直接の支配権であるのに対して、債権は「債務者の行為」を介して間接に支配するにすぎない、という差から生じるのです。
ただし、とくに不動産賃借人を保護する趣旨により、土地・建物の賃借権など一定の債権は、登記や目的物の引渡し等によって「物権に優先する効力」が認められていることは、注意を要します。
2 物権的請求権
物権が何かの事情によって妨害されている場合には、物権者は、その妨害者に対し、妨害を除去するよう請求することができます。
台風で近くの鉄塔が倒壊して庭がふさがれているときに、庭の所有者は鉄塔の所有者に対して「邪魔だから片づけてほしい」と主張することができます。
この請求権を物権的請求権といいます。
物権は、目的物を直接に支配する権利なので、この請求権を認めないと、物権はまったく有名無実となってしまいます。
「所有権」が妨害されたときには、物権的請求権として、当然に「所有権に基づく」妨害予防請求権・妨害除去請求権・所有物返還請求権が認められているのです。
「抵当権」の妨害について、判例は、抵当建物が不法占有されている抵当権者は、建物所有者が有する不法占有者に対する妨害排除請求権を「代位行使」して、直接抵当権者に建物を明け渡すよう求めることができるとしています(最判平11.11.24)。
さらに判例は、「債権」には原則として妨害排除請求権を認めていませんが、対抗要件を備えた不動産賃借権についてはこれを認めています(最判昭30.4.5)。
ポイントまとめ
1 物権というのは、所有権、抵当権などの総称である。
2 物権は、目的物の利用を安全確実にする制度である。
3 物権は、直接的な権利である。物権の実現には他人の行為を必要としない。
4 物権は、排他的権利である。目的物に1つの物権が成立するときは、同一の物権の成立は認められない。
5 物権の優先的効力
物権同士では、先に成立した物権が優先し、債権が成立している目的物に物権が成立するときは、物権が優先する。
6 物権には、妨害排除請求権などの物権的請求権がある。
7 対抗要件を備えた「不動産賃借権」には、妨害排除請求権が認められる。