|更新日 2021.03.06
|公開日 2020.03.10
1 配偶者居住権の成立要件
2 配偶者居住権の性質
3 2つの居住権の違い

今回、新設されたテーマですね。
どんな狙いがあるの?

残された配偶者の居住場所を確保するという点だね。
新しい権利だから、しばらくは要注意だよ。
目 次
1|居住権の趣旨
残された配偶者の居住確保の必要
「配偶者居住権」および「配偶者短期居住権」は、改正相続法によって新設された配偶者の居住確保のための規定です。
高齢化社会が進展してきたことに伴い、配偶者の一方が死亡したときに、残された配偶者(以下、配偶者)もまた高齢であることが多く、とくに住み慣れた住居に居住する権利を保護する必要性がより高まっています。
配偶者の生活保障を考えるにあたっては、生活の拠点である居住場所の確保がとくに重要といえます。
2つの配偶者居住権は「高齢化社会に対応した新しい権利」です。
・配偶者居住権(=長期の居住権)
・配偶者短期居住権
2|配偶者居住権
1 意味・性質
配偶者居住権というのは、配偶者が、相続開始時に「被相続人の財産に属した建物」に居住していた場合に、その居住建物の全部について、無償で使用収益することができる権利をいいます。
今までの日常と変わらず「慣れ親しんだ建物に住むことができる」のです。
配偶者居住権は、配偶者個人の居住を保護する権利なので、次の性質が導かれます。
譲渡できない
配偶者居住権は、譲渡できません。
相続できない
たとえ存続期間を定めた場合(後述)であっても、配偶者の死亡によって当然に消滅します。死亡すれば保護の必要はなくなるので、相続の対象とはなりません。
2 取得要件
配偶者居住権は、
1「被相続人の財産に属した建物」に、
2「配偶者」が「相続開始の時に居住していた」場合に、
3「被相続人の遺贈」や「共同相続人間の遺産分割」によって取得されます。
以下、注意点を確認しておきましょう。
1 被相続人の財産に属した建物
次の建物であることが必要です。
① 被相続人が所有していた
② 被相続人が配偶者と共有していた
第三者との共有建物は含まない
建物が「被相続人と第三者との共有」の場合は含みません。
これは第三者の共有持分(所有権)を保護するためです。
というのも、第三者と共有している場合には、配偶者居住権の設定は、共有物の変更または処分にあたるため、共有者全員の同意が必要となります。
にもかかわらず、被相続人による遺贈や共同相続人による遺産分割によって、第三者の同意なしに一方的に配偶者居住権を設定することは、第三者に、無償の配偶者居住権を受忍させることとなり適切ではないからです。
一方、「配偶者」が共有者であるときは、配偶者の同意で足ります。
賃貸借も含まない
被相続人が、居住建物を賃借または使用貸借していた場合も「被相続人の財産に属した建物」には該当せず、配偶者居住権は成立しません。
2 相続開始時に居住していた
「配偶者」が上記建物に「相続開始の時に居住していた」ことが必要です。
配偶者の居住の継続を安定的に保障することが目的だからです。
必ずしも「無償で」居住していることは要件ではありません。
配偶者
配偶者には「内縁の配偶者」や「事実上の夫婦」は含まれません。
3 取得原因
配偶者居住権の取得原因は、次の場合です。
① 遺贈による場合
被相続人の遺贈によって配偶者居住権が設定された場合です。
この場合には、特別受益の「持戻し免除」の意思表示がされたものと推定されます。
② 死因贈与による場合
死因贈与(契約であるため配偶者の同意を要する)によって、配偶者居住権が取得されます。
③ 遺産分割協議による場合
共同相続人の間で遺産分割協議が成立し、配偶者が配偶者居住権を取得するものとされたときには、それに従います。
遺産分割協議が成立しない場合には、家庭裁判所の「遺産分割審判」で配偶者居住権の取得が定められます。

配偶者居住権の取得原因は、遺贈、死因贈与、遺産分割協議(または遺産分割審判)だよ。
3 配偶者居住権の性質・内容
法的性質
配偶者居住権は「賃借権類似」の法定債権とされます。
無償なので、賃借権そのものとはいえないのです。
存続期間
配偶者居住権の存続期間は、「配偶者の終身の間」です。
配偶者が死亡するまでの間、居住することができます。
ただし、遺産分割協議または遺言に別段の定めがあるとき、あるいは家庭裁判所が遺産分割審判で別段の定めをしたときは、それによります。
対抗要件を備えさせる義務
居住建物の「所有者」は、配偶者居住権を取得した配偶者に対し、配偶者居住権の設定の登記を備えさせる義務を負います。
配偶者居住権は登記することによって、居住建物の所有権を譲り受けた者や居住建物の差押えをした債権者等の「第三者に対抗する」ことができます。
使用収益の範囲
配偶者居住権により、配偶者は「居住していた建物の全部」について使用収益することができます。
従前に居住の用に供していなかった部分についても、居住の用に供することができます。
配偶者居住権の取得には「居住していた」ことが必要ですが、建物全体を居住の用に供していたことまでは要件とされず、「一部」しか使用していない場合でも、配偶者居住権は「建物全体」について行使できるのです。
用法遵守・善管注意義務
配偶者は、従前の用法に従い(用法遵守義務)、善良な管理者としての注意(善管注意義務)をもって、居住建物の使用収益をしなければなりません。
使用収益に対する所有者の承諾
配偶者は、居住建物の所有者の承諾を得なければ、増・改築したり、第三者に使用収益させることはできません。
修繕等
配偶者は、居住建物の使用収益に必要な修繕をすることができます(修繕権)。
配偶者は、第一次的な修繕権を有するわけです。
ただし、配偶者が相当の期間内に必要な修繕をしない場合は、建物所有者が修繕することができます。
費用の負担
配偶者は、居住建物の通常の必要費を負担します。
その他の費用(臨時の必要費および有益費)を支出したときは、建物所有者に償還請求できます。
居住建物の返還等
配偶者居住権が消滅すれば、配偶者は居住建物を返還しなければなりません。
ただし、配偶者が居住建物の共有持分を有する場合は、建物所有者は、居住建物の返還を求めることはできません。
共有者である配偶者は、共有持分に応じた使用権をもつからです。
損害賠償請求権等の期間制限
建物所有者は、次の①・②の請求権については、建物の「返還を受けた時から1年以内」に行使しなければなりません。
① 用法遵守・善管注意義務違反による使用収益によって生じた損害賠償請求権
② 配偶者が支出した費用の償還請求権
4 配偶者居住権の消滅事由
配偶者居住権は、次の事由で消滅します。
① 配偶者の死亡
② 期間満了
③ 混 同
配偶者が、建物の「所有権を取得」した場合には、混同により、配偶者居住権は消滅します。
ただし、その所有権の取得が他の者との共有で、その者が「共有持分」を有するときは、配偶者居住権は消滅しません。
④ 配偶者居住権の消滅請求
これは「建物所有者」による配偶者居住権の消滅請求があった場合です。
配偶者が、用法遵守義務・善管注意義務に違反した場合や、無断で増・改築したり、第三者に使用収益させた場合には、建物所有者は、相当の期間を定めてその是正の催告をし、その期間内に是正されないときは、配偶者に対する意思表示によって配偶者居住権を消滅させることができます。
⑤ 居住建物の滅失・使用収益の不能
⑥ 合意または権利放棄
配偶者居住権も一種の法定債権であることから、合意または配偶者による権利放棄により、配偶者居住権は消滅します。
3|配偶者短期居住権
1 短期居住権の意味
配偶者短期居住権(以下、短期居住権)というのは、①被相続人の財産に属した建物に、②配偶者が相続開始時に、③無償で、④居住していた場合は、その居住建物の所有権を取得した「居住建物取得者」に対して、一定期間、その居住建物を無償で使用できる権利をいいます。
(意味は暗記する必要はありません。イメージできればOKです)
なぜ短期居住権が必要?
被相続人が死亡して相続が開始したからといって、居住建物の権利関係がすぐに確定するわけではありません。
にもかかわらず、被相続人の所有建物に居住していた配偶者が、直ちにその居住建物から退去しなければならないとすると、精神的・肉体的に大きな負担となります。
遺産分割等により「居住建物の権利関係が確定するまでの一定期間」は、配偶者の居住継続を確保する必要があります。
こうして、新民法は、被相続人の意思にかかわらず、配偶者の短期的な居住を保護するようにしたのです。
2 取得要件
短期居住権は、上記①~④の要件が満たされると、法律上当然に取得されます。
配偶者居住権のように、被相続人による遺贈や死因贈与、あるいは遺産分割などの法律行為によって取得されるのではなく、相続関係者の意思表示とは関係なく取得できるのです。
短期居住権の取得要件は、
1「被相続人の財産に属した建物」に、
2「配偶者」が相続開始時に、
3「無償」で、
4「居住」していたことです。
以下、注意点を確認しておきましょう。
1 被相続人の財産に属した建物
次のような建物をいいます。
① 被相続人が所有していた
② 被相続人が配偶者と共有していた
③ 被相続人が第三者と共有していた
配偶者居住権とは異なり「第三者との共有建物」でも短期居住権を取得できます。
2 配偶者
短期居住権を取得できるのは、法律婚の配偶者のみです。
内縁や事実婚の配偶者は取得できません。
3 無償での居住
配偶者が相続開始時に、無償で居住していたことが必要です。
この点は、配偶者居住権とは異なります。
4 居住
現に建物の全部または一部を生活の本拠としていることが必要です。
3 短期居住権の性質・内容
法律上当然に成立する
相続開始の時に無償で居住していれば、法律上、当然に成立します。
債権である
短期居住権は「物権」ではありません。
居住建物の所有権を取得した「居住建物取得者」に対する債権(法定の建物利用権)です。
収益権限はない
居住建物の使用は認められますが、収益権限はありません。
無償で全部使用できる
ただし、配偶者が「居住建物の一部」の使用にとどまっていれば、居住権もその部分に限られます。
譲渡・相続できない
短期居住権は、配偶者自身の居住を保護する権利なので、譲渡・相続はできません。
第三者対抗力がない
短期居住権は、あくまでも使用借権類似の債権であり、配偶者居住権と異なり、対抗要件を備えることができません。
居住建物取得者は、その建物を第三者に譲渡するなどして「配偶者の居住建物の使用を妨げてはならない」のですが、建物取得者がこの義務に違反した場合でも、配偶者は、新所有者に短期居住権を主張することはできません。
用法遵守・善管注意義務
従前の用法に従い(用法遵守義務)、善良な管理者の注意(善管注意義務)をもって使用する義務を負います。
所有者の承諾
配偶者が、居住建物を第三者に使用させるためには、居住建物取得者の承諾を得なければならず、無断転貸は禁止されます。
4 存続期間
居住できる期間は、次のとおりです。
遺産分割をする場合
・遺産分割により居住建物の帰属が確定した日、または、
・相続開始の時から6か月を経過した日
の「いずれか遅い日まで」存続します。
相続開始後すぐに遺産分割が成立し、建物の相続人が確定しても、直ちに出ていく必要はなく、6か月経過するまではそのまま居住できます。
それ以外の場合
配偶者以外の者が、遺贈・死因贈与により居住建物の所有権を取得したとき、あるいは配偶者が相続放棄をしたときなどです。
この場合、建物取得者はいつでも短期居住権の消滅の申入れをすることができ、申入れの日から6か月を経過した日まで短期居住権が存続します。

相続開始から少なくとも6か月間は住めるようにしよう!
5 短期居住権の消滅事由
消滅事由
短期居住権は、以下の事由により消滅します。配偶者居住権と共通している事由もありますが、主なものをみておきましょう。
① 配偶者の死亡
② 期間満了
③ 配偶者居住権の取得
短期居住権を有していた配偶者が、配偶者居住権を取得した場合は、短期居住権による保護は不要となるため、短期居住権は消滅します。
④ 短期居住権の消滅請求
配偶者が、用法遵守義務・善管注意義務に違反したり、承諾なしに第三者へ使用させたときは、居住建物取得者は、配偶者に対する意思表示によって短期居住権を消滅させることができます。
原状回復
配偶者居住権を取得した場合を除いて、短期居住権が消滅したときは、配偶者は、居住建物の返還、附属物の収去などの原状回復義務を負います。
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