|更新日 2021.02.11
|公開日 2017.07.28

32年間の出題傾向|32年間で6問の出題ですから頻出テーマではありません。
直近では令和1年(2019)に出題されましたが、これは11年ぶりです。
大幅な改正がありましたが、学説や判例の見解を明文化したものが多く、実質的な改正は多くはありません。

1|弁済と弁済の提供

 弁 済

Aから 100万円借りていたBが、支払期限に利息を付けて 100万円支払いました。
あたりまえですが、これが弁済です。
弁済によって契約の目的は達成され、100万円の債務は消滅します。

意 味

このように弁済というのは、借りたお金を「返す」、売買代金を「支払う」、売った建物を「引き渡す」というように、債務者がその債務を「履行」することによって「債権が本来の目的を達成して消滅する」ことをいいます。

この当然のことが、今まで条文にはなく、今回明文化(473条)されました。
「債務者が債権者に対して債務の弁済をしたときは、その債権は消滅する」。

Topics

弁済と履行  弁済と似た用語に履行があります。履行は弁済と同じ意味で用いられますが、履行は債務者の「行為」に着目した用語で、弁済は債権の消滅という「効果」に着目した用語です。
宅建士試験では同じように考えて問題はありません。

 弁済の提供

民法には「弁済」とは別に、弁済の提供がありますが、どう違うのでしょうか。

弁済には債権者の協力が不可欠
一言でいえば「弁済の提供」は、誠実な債務者のための制度なのです。

弁済は、代金や賃料を銀行振込でするというように「債務者の行為」だけで完了するものもありますが、多くは債権者の協力がなければ完了しません。

たとえば土地の売買で、後日、売主と買主が登記所に出向いて「所有権移転登記」と引換えに「売買代金の頭金を支払う」という約束がある場合、買主が小切手を持参して登記所に行っても、売主が来ていなければ、買主は弁済することができません。

債務者がどんなに誠実に「弁済の努力」をしても「債権者の協力」がなければ、弁済を完了させることはできす、債務を消滅させることはできないのです。
しかし、債務者としてはするべきことをすべてやったわけですから、いつまでも債務者が責任を負うのは適切ではありません。

意 味

弁済の提供とは、債権者の協力なしには債務が消滅しない場合に「弁済のために債務者としてすべきことをすべてする」ことをいいます。
債務者による「弁済の提供」があって、さらに「債権者の協力」があったときに弁済は完了し、債権・債務が消滅するという流れになっているのです。

 弁済の提供の方法

弁済の提供には2つの方法があります。
「現実の提供」と「口頭(言語上)の提供」です。

1 現実の提供
「弁済の提供は、債務の本旨に従って現実にしなければならない(493条)とあるように、弁済の提供は「現実の提供」であることが原則です。

債務者としてなすべきことをすべてして、債権者の協力があれば「履行を完了できる状態」にあることです。

具体例
「弁済の提供・現実の提供」については、とくに金銭債務が問題になります。

銀行が自己宛に振り出した小切手の引渡しは「弁済の提供」と認められます(最判昭37.9.21)
「銀行の自己宛小切手」は、取引界においてその支払いが確実なものとして現金と同様に取り扱われているからです。

「郵便為替」や「郵便振替払込証書」も同様の理由で、有効な「弁済の提供」となります。

なお判例は、金銭債務の不足額がわずかであった場合でも「現実の提供」として認めています(最判昭35.12.15)

反面、「個人振出の小切手」とか「預金通帳」「預金証書」の提供は、有効な弁済提供とはなりません。
個人振出の小切手は信用力がなく、預金通帳・預金証書はそもそも金銭の支払手段ではないからです。

2 口頭の提供|これは例外
「現実の提供」をしなくていい場合として、2つの例外があります。
ともに債権者に原因があるのです。

  • 債権者が受領を拒んでいる
  • 履行について債権者の行為を要する
債権者が受領拒絶しているとき
債権者があらかじめ受領を拒絶した(黙示でもよい)場合には、弁済者は「弁済の準備」をしたことを債権者に通知して受領を催告するだけで「弁済の提供」となります。

このような場合にまで、現実の提供を要求するのは不公平だからです(受領を拒絶しているんだったら、通知だけでいいじゃん)。

なお、債権者が過大な要求金額を提示して、それ以下なら受領しないというのは「受領拒絶」になります。

債権者の行為を必要とするとき
弁済について債権者の協力を必要とするときは、そもそも協力がなければ弁済できないので、まず債権者の協力を要請するため「口頭の提供」を認めたのです。

この場合も「弁済の準備」をしたことを債権者に通知して受領を催告するだけで「弁済の提供」となります。

 弁済の提供の効果

「弁済の提供」をしたときは、債務者は弁済の提供の時から、債務を履行しないことによって生ずべき責任を免れます。

次の効果を確認しておきましょう。

履行遅滞にならない
弁済の提供をした以後は「債務者」は履行遅滞の責任を負わず、したがって遅滞に基づく損害賠償、遅延利息・違約金の支払いを免れます。

注意義務が軽減される
注意義務も軽減され、善良な管理者の注意義務(善管注意義務)を負っていた場合には、「自己の財産におけると同一の注意」で足りることになります。

債権者に対する効果
「債権者」は、債務の遅滞を理由として契約を解除することはできず、抵当権を実行することはできません。
また、同時履行の抗弁権も失います。
同時履行の抗弁権を失った債権者は「履行遅滞」となりますので、債務者はこれを理由に契約の解除ができることになります。

なお「弁済の提供」をしても債権者の受領がないと債務は消滅しないので、債権者がどうしても受領を拒否している場合には、債務者は最終的に「供託所に供託」をすることで債務を免れ、債務は消滅することとなります。

2|第三者の弁済

 第三者の弁済の機能

弁済は、通常は債務者がするものですが、債務者ではない「第三者」がしてもかまいません。どうしてでしょうか?

それは、債権者としては「だれから弁済されようと」最終的に債権の目的を達成できるからです。
100万円の貸金債権を有する者は、債務者本人から弁済されようと債務者の知人から弁済されようと、要するに 100万円さえ手に入れば満足できるわけです。

民法はこの点を明確にして、原則として「債務の弁済は、第三者もすることができる」(474条1項)と定めています。

さて、弁済は第三者でもすることができますが、「すべての第三者」ができるわけではありません。
第三者の弁済が許されない3つの場合があります。

 第三者の弁済が許されない場合

次の場合には、第三者の弁済は許されず、債務者本人が弁済する必要があります。

1 債務の性質が許さないとき
債務の性質からみて、第三者が弁済したのでは意味がない、債務者その人でなければ、債務の本旨に従ったとはいえない場合をいいます。

たとえば、原稿の執筆債務とか人気タレントの出演債務などがこれにあたります。
第三者が原稿を書いたり、出演しては意味がないわけです。
あいみょんのコンサートなのに、天童よしみが出てきたら世の中どうなります?

2 当事者が禁止・制限したとき
当事者が、第三者の弁済を禁止したり制限する旨の特約で、債務者自身が弁済しなければならないとした場合です。
当事者の意思を尊重したのです。
この場合には、第三者が弁済しても無効な弁済となります。

たとえば、交通事故による損害賠償金の支払いを、加害者=債務者の反省を促すために、債務者以外の第三者による弁済を禁止したり、第三者が弁済できるのは300万円までに制限するなどです。

3 債務者の意思による制限
弁済をするについて「正当な利益を有しない第三者」は、債務者の意思に反して弁済することはできません。このような弁済は無効です。

これは、他人の弁済によって恩義を受けることを欲しない債務者の意思を尊重するためであり、また、債務者が、弁済をした第三者から苛酷な取立て(求償)を受けることから債務者を保護するためです(返済してやったんだからサ~、いますぐ耳をそろえてキッチリ払ってよ、みたいな)。

ただし、第三者による弁済が「債務者の意思に反する」ことを債権者が知らなかった場合には、その弁済は有効とされます。
「債務者も承知しているんだな」と思った善意の債権者は、そのまま弁済を受領することがあるので保護する必要があるからです。

正当な利益を有する第三者

ところで、「正当な利益を有しない第三者が、債務者の意思に反して弁済することができない」ということは、いいかえれば「正当な利益を有する第三者は、債務者の意思に反しても弁済することができる」ということにほかなりません。

たとえば、物上保証人(債務者のために抵当不動産を提供している者)や、抵当不動産の第三取得者は、抵当権を消滅させる正当な利益を有するので「債務者の意思に反しても」その債務を弁済することができます。

そのほかにも、後順位抵当権者、借地上の建物の賃借人もこれに該当します。

パトモス先生講義中

正当な利益を有する者は、債務者の意思に反しても弁済できるよ。

なお、債務者の「友人」とか「親族」は、事実上の利害関係はあっても、それだけでは「正当な利益を有する第三者」とはいえないので、注意してください。

ステップアップ

債権者の意思による制限
債権者は、「弁済をするについて正当な利益を有しない第三者」からの弁済が、債務者の意思に反しない場合でも、拒絶することができます。

というのも、債権者は、その第三者が弁済の正当な利益を有するのかどうか、また、債務者の意思に反するのかどうかを当然には知ることができないからです。
後になって債務者の意思に反することが判明したら、債権者は受領物を弁済者に返還しなければならず、このような不安定な立場に置かれることから債権者を保護する必要があるのです。

したがって、第三者の弁済が債務者の委託を受けてなされることを、債権者が知っていた場合には、債権者はその弁済を拒絶することはできません。

まとめましょう。

【原 則】 債務の弁済は、第三者もすることができる。

1 正当な利益を有しない第三者
債務者の意思に反して弁済できない。
ただし、意思に反することを債権者が知らなかったときは、弁済は有効
債権者の意思に反して弁済できない。
ただし、第三者が「債務者の委託」を受けて弁済をする場合、この委託を債権者が知っていたときは、弁済は有効

2 正当な利益を有する第三者
債務者の意思に反しても弁済できる。

3|弁済の相手(受領権者)

いうまでもありませんが、弁済する相手をまちがったら大変面倒なことになります。

ふつうは、債務者は債権者を知っていますから、債権者に弁済すればいいのですが、銀行等の金融機関などは、債権者である預金者の顔を一人一人覚えていませんから、払い間違いも起こってきます。

債権者の妻だと名乗る女性が、債権証書と実印を持ってきたらどうでしょうか。

 受領権者以外の者への弁済

弁済は、当然ながら、債権者など弁済を受領する権限のある受領権者に対してしなければ、弁済としての効力はありません。

しかし、弁済を受領する権限があるかのような者、つまり「受領権者っぽい人」が登場したら、債務者は弁済すべきなんでしょうか。
旧民法では、このような者を「債権の準占有者」といいましたが、新民法では「取引上の社会通念に照らして受領権者としての外観を有するもの」という長ったらしい用語に変更しています。

新民法は、受領権限のない者への弁済、つまり「受領権者としての外観を有する者」に対する弁済であっても、弁済者が善意かつ無過失のときに限って、弁済として有効としました。

これは表見代理制度と同じく、権利者らしい外観を有する者を善意・無過失で信じた者は保護されるべきという外観法理に基づくものです。

受領権者らしい外観を有する者
判例上、受領権者らしい外観を有する者は、次のような者です。

 詐称代理人
 詐称相続人
 偽造の債権証書・受取証書の持参人
 無効な債権譲渡の譲受人
 預金通帳と届出印の持参人

たとえば、「代理人と称する」詐称代理人Aに対して債務者が弁済したとき、Aに受領権限がないことにつき、債務者が善意かつ無過失であれば、その弁済は有効です。

同様に「相続人と称する」詐称相続人Bに対する弁済も、債務者が善意かつ無過失であれば、その弁済は有効です。

 証書関係|終わりよければ

受取証書の交付請求
弁済したかしないか(債務が消滅したかしないか)は大変重要なことですから、後日争いになったときのために、確かに「弁済した=債務は消滅した」という証拠を確保しておく必要があります。

したがって、弁済をする者は、弁済と引換えに、弁済を受領する者に対して受取証書の交付を請求することができます。

「領収書 金百万円也 但○○代金として ○年○月○日」

こんな一筆があれば、債務者も安心です。
受取証書=領収書は弁済、つまり債務の消滅の証拠となるので、弁済と引き換えに交付されなければなりません。
「弁済」と「受取証書の交付」とは同時履行の関係にあるわけで、弁済者は、受取証書の交付がなされるまで弁済を拒むことができます。

債権証書の交付請求
債権の成立を証明する債権証書(借用書など)があるときは、「全部を弁済」したときに、弁済者はその債権証書の返還を請求することができます。

一部を弁済したに過ぎないときは、債権証書の返還は請求できません。
「受取証書=領収書」の交付のみ請求できます。弁済と債権証書の返還は「同時履行の関係にはない」ことに要注意です。

ポイントまとめ 弁済の提供は「現実の提供」が原則。「口頭の提供」は例外。
 口頭の提供は、次の場合にできる。
① 債権者が受領拒絶しているとき
② 債権者の行為を必要とするとき
 弁済の提供の主な効果
・債務者は履行遅滞の責任を負わない
・債務者の注意義務が軽減される
・債権者は同時履行の抗弁権を失う
 債権者が受領拒否している場合、債務者は供託して債務を消滅させることができる。
 第三者でも弁済できるのが原則。
 債務の性質によるときや、当事者が禁止・制限したときは、第三者弁済はできない。
…………………………
 弁済につき正当な利益を有しない第三者は、債務者の意思に反して弁済できない。ただし、債務者の意思に反することを債権者が知らなかったときは、弁済は有効
 正当な利益を有しない第三者は、債権者の意思に反して弁済できない。
 正当な利益を有する第三者は、債務者の意思に反しても弁済できる。
10 受領権者としての外観を有する者に対する弁済であっても、弁済者が善意・無過失であれば、弁済として有効
11 「弁済」と「受取証書の交付」とは同時履行の関係にある。
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