|公開日 2017.7.18|最終更新日 2018.6.04

今回のテーマは、抵当権の処分と抵当権消滅請求です。

1 抵当権の処分

抵当権の処分というのは、抵当権を1個の財産として、被担保債権から切り離して取引の対象とすることです。

抵当権の付いた債権の処分(たとえば債権譲渡や債権質入など)は、抵当権の付従性から当然に認められますが、抵当権を被担保債権から切り離して処分することは、付従性との関係で問題があることから、民法は例外的に認めています。

ここでは、①転抵当 ②抵当権の順位の譲渡・放棄について基本的なことを確認しておきましょう。

1 転抵当

転抵当というのは、376条前段に「抵当権者は、その抵当権を他の債権の担保とすることができる」とあるとおり、抵当権と被担保債権を切り離して、抵当権の上に抵当権を設定するものです。

たとえば抵当権者が、第三者から借金をする場合に、第三者の貸金債権のために自己の抵当権を担保とするというように。

転抵当権も物権ですから、第三者にそれを主張するためには登記(付記登記)が必要です。

また、転抵当の設定は、抵当債務者にも利害関係があるので、抵当債務者に通知するかその承諾がないと、転抵当権者は抵当債務者に転抵当権を対抗することができませんし、保証人・抵当権設定者(物上保証人)・抵当不動産の第三取得者にも対抗できません。

転抵当は複雑な法律関係を生じるため、利用は少ないものとなっています。

2 抵当権の順位の譲渡・放棄

事例がわかりやすいでしょう。
「Aは、Bから2000万円を借りて甲地に一番抵当権を設定した後、さらにCから1000万円を借りて甲地に二番抵当権を設定した。その後、抵当権の実行により甲地が競売され、1500万円の配当がなされた」という場合です。

① B→Cへ抵当権の順位が譲渡されると、Cが一番抵当権者、Bが二番抵当権者となって、Cが優先的に債権全額の1000万円、Bにはその残額500万円が配当されます。

抵当権の順位の譲渡・放棄

② B→Cへ抵当権の順位が放棄されると、BとCは同順位になるので、配当額1500万円は、B・Cの債権額に比例して(2000:1000=2:1で)分配され、Bに1000万円、Cに500万円が配当されます。

3 抵当権の処分の対抗要件

抵当権の順位の譲渡・順位の放棄は、転抵当と同様に、主たる債務者に通知し、または主たる債務者がこれを承諾しなければ、これをもって主たる債務者、保証人、抵当権設定者(物上保証人)、およびこれらの承継人に対抗することができません。

2 抵当権消滅請求

1 意 味

抵当権消滅請求というのは、抵当不動産を買い受けた第三取得者が、抵当権者に対して「債務を支払うので抵当権を抹消してほしい」と請求することです。

抵当権を消滅させるもう1つの方法に、「代価弁済」がありますが、これは抵当権者の方から、相当金額を第三取得者に請求して、支払いがあれば抵当権が消滅するというものです。

抵当権消滅請求

抵当権消滅請求をすることができるのは、抵当不動産の第三取得者です。
主たる債務者や保証人は、抵当権消滅請求をすることができません。そもそも弁済することが本来の義務だからです。

2 抵当権消滅請求の時期

抵当不動産の第三取得者は、抵当権の実行としての競売による差押えの効力が発生する前に、抵当権消滅請求をする必要があります。

3 抵当権設定後の短期賃貸借

短期賃貸借(土地5年以内、建物3年以内)は、抵当権設定後に登記しても抵当不動産の競落人に対抗できるとしていた短期賃貸借の保護制度は廃止され(平成15年)、対抗要件の原則どおり、抵当権設定後は、賃借権の登記の有無、期間の長短に関係なく、抵当権者に対抗できなくなりました。

たとえば、抵当権設定登記後の抵当建物の賃借人は、短期賃貸借の登記があっても、抵当建物の競落人に対して賃借権を対抗することはできません。

この短期賃貸借の保護制度が廃止されたことに伴い、抵当権設定後の賃貸借(長短に関係なく)は、一定要件があるときに保護されます。
つまり、登記をした賃貸借は、その登記前に登記をした抵当権を有するすべての者が同意をし、かつ、その同意の登記があるときは、同意をした抵当権者に対抗することができるのです。

抵当権者が同意をする場合には、その同意によって不利益を受けるべき一定の利害関係人の承諾を得なければならないとされていますから、事実上、賃貸借を対抗することはきわめて困難になっています。

3 条文とポイントまとめ

1 条文の確認

♠ 376条(抵当権の処分)
1 抵当権者は、その抵当権を他の債権の担保とし、または同一の債務者に対する他の債権者の利益のためにその抵当権若しくはその順位を譲渡し、あるいは放棄することができる。(以下略)

♠ 377条(抵当権の処分の対抗要件)
1 抵当権の処分は、467条(債権譲渡の対抗要件)の規定に従い、主たる債務者に抵当権の処分を通知し、または主たる債務者がこれを承諾しなければ、これをもって主たる債務者、保証人、抵当権設定者、およびこれらの者の承継人に対抗することができない。(以下略)

♠ 379条(抵当権消滅請求)
抵当不動産の第三取得者は、383条(抵当権消滅請求の手続)の定めるところにより、抵当権消滅請求をすることができる。

♠ 380条(請求できない者)
主たる債務者、保証人、およびこれらの者の承継人は、抵当権消滅請求をすることができない。

♠ 382条(抵当権消滅請求の時期)
抵当不動産の第三取得者は、抵当権の実行としての競売による差押えの効力が発生する前に、抵当権消滅請求をしなければならない。

2 ポイントまとめ

1 抵当債務者への通知またはその承諾がないと、転抵当権者は、抵当債務者・保証人・物上保証人・抵当不動産の第三取得者に転抵当の設定を対抗できない。

2 抵当権の順位が譲渡されると優先順位が入れ替わり、抵当権の順位が放棄されると同順位となる。

3 転抵当、抵当権の順位の譲渡、順位の放棄は、主たる債務者に通知し、または主たる債務者が承諾しなければ、主たる債務者・保証人・物上保証人・抵当不動産の第三取得者に対抗することができない。

4 抵当不動産の第三取得者は、抵当権消滅請求をすることができるが、主たる債務者・保証人・これらの者の承継人はすることができない。

5 抵当権消滅請求は、競売による差押えの効力の発生前にする必要がある。

6 抵当権設定後の登記ある賃貸借は、登記あるすべての抵当権者の同意同意の登記があれば、それらの抵当権者に対抗できる。


(この項終わり)