|公開日 2017.7.15
|更新日 2019.4.26

今回は、物権変動と登記の関係について、代表的な論点をまとめました。

1|取消しによる物権変動と登記

1 取消し前の第三者

「取消し前」の第三者に対しては、登記ではなく、取消しの効果の問題です。
たとえば、Aが制限行為能力強迫を理由に売買契約を取り消した場合、登記がCに移転していても、Aは登記なしに、取消しの効果を第三者Cに主張できます。
この場合は、そもそも取消しによって生じる物権変動をあらかじめ登記させることは不可能ですし、また、「登記がないと対抗できない」とすると、制限行為能力強迫を理由とする取消しは、ほとんど意味がなくなってしまうからです。

ただし、Aが詐欺を理由に取り消した場合には、その取消しは善意の第三者に対抗できないため(96条3項)、Cが善意であれば、Cには取消しの効果を対抗できません。
これは対抗要件(登記)の問題ではなく、取消しの効果善意の第三者保護の問題です。
なお、善意の第三者が保護されるためには、(保護要件としての)登記を必要とするかという点について、判例は、登記のない善意の第三者を保護しました(最判昭49.9.26)

2 取消し後の第三者

「取消し後」の第三者に対しては、177条の対抗要件=登記の問題で、権利取得の優劣は「登記の先後」で決まります。
Aが、AB間の売買を取り消した後は、その登記がなければ「取消し後」に所有権を取得した第三者Cに対抗できません。

つまり、契約が取り消された場合は、
① 取消しによるB→Aの所有権復帰
② 取消し後のB→Cへの所有権移転とは
二重譲渡と同様の関係が成立し、先に登記を備えた方が優先するのです。

取消と登記

2|契約の解除と登記

契約を解除した場合にも、取消しと類似した問題が生じます。

1 解除前の第三者

契約を「解除する前」に、すでに第三者が権利を取得していた場合は、解除の遡及効の問題です。

解除と登記

Aが、Bの債務不履行を理由にAB間の売買契約を解除しても、「その前に」すでに第三者Cが権利を取得していれば、Aは、解除による所有権復帰をCに対抗することはできません(545条1項但書)

たとえば、買主Bの代金不払いを理由に契約が解除されると、解除の効果として、契約は「はじめにさかのぼって」消滅しますので解除の遡及効、契約は最初から存在しなかったのと同じ状態に戻ります。
そうすると、「解除される前に」権利を取得した第三者Cも、はじめから権利を取得しなかったこととなって、まったく責任がないのに(他人の責任が原因で)権利を失うことになってしまいます。

そこで民法は、解除をしても「第三者の権利を害することはできない」(545条1項但書)と定めて解除の遡及効を制限し、第三者を保護したわけです。
なお判例は、この第三者には「対抗要件として登記が必要」としており、これは確定した判例となっています(最判昭58.7.5)
第三者は自らに権利移動があったのであれば、これを公示して権利者としてなすべきことをしておくべきである(対抗要件を備えておくべきである)ということなのです。

2 解除後の第三者

契約を「解除した後」に、第三者がその権利を取得した場合は、これはもう177条の対抗要件=登記の問題で、権利取得の優劣は登記の先後で決まります。

Aの契約解除後に、第三者Cが現れた場合、
① 解除によるB→Aの所有権復帰
② 解除後のB→Cへの所有権移転とは
二重譲渡と同様に、その優劣は登記の先後で決定されます(最判昭35.11.29)

Aは契約を解除しても、自己への所有権復帰を登記しない間に、「解除後」にCが先に登記を備えてしまえば、Cに所有権を対抗することはできません。

3|時効と登記

1 所有者との関係|当事者間の問題

A所有地の占有者Bが、時効取得の要件を満たせば、Bは登記がなくても、原権利者Aに対して、所有権取得を主張して移転登記の請求ができます。
A・Bは物権変動の「当事者」であって、Aは第三者ではないからです。

2 時効完成前の第三者

「時効が完成する前」に、第三者がその権利を取得した場合はどうでしょうか。
Bの取得時効の完成前に、土地がA→Cに譲渡され移転登記もなされた場合で、その後、Bの時効が完成したという場合です。
この場合にも、Bは登記なくして、Cに時効完成を対抗できます。

C・Bは、時効による物権変動の「当事者」であって、新所有権者Cは第三者ではないからです。両者は「当事者の交代」にすぎないため、Cに登記があってもなくても関係ありません。
時効取得者とその「時効完成前」の第三者とは、当事者間の問題です。

3 時効完成後の第三者

「時効完成後」に第三者がその権利を取得した場合はどうでしょうか。
この場合は177条の対抗問題で、登記の先後で決まります。

Bの取得時効完成後に、A→Cの譲渡があった場合には、
① 時効取得者Bと
② 時効完成後の第三者Cとは
二重譲渡と同様の関係が成立し、その優劣は登記の先後によって決まるため、先に登記を備えた方が完全な所有者となります。

Bは所有権を時効取得しても、その登記をしなければ、時効完成後に登記を備えた第三者Cに所有権を対抗できません。

4|相続による物権変動と登記

A・Bが、共有持分各1/2で共同相続したときに、Aが単独相続の登記をし、これを第三者Cに譲渡して移転登記もすませたという場合、Bは、自分の1/2の持分をCに対抗するために登記が必要でしょうか。

この場合、Bに登記は不要です。
どうしてでしょうか?
これは、Aが勝手に単独名義で登記しても、その登記は、Bの持分に関する限り「無権利の登記」ですから、第三者Cも、Bの持分については、その権利を取得することはできないのです。

一方で、Aからその「共有持分」を譲り受けたCは、その譲渡について登記がなければ、共有者Bに対して共有持分の取得を対抗できません(したがって、共有物の分割請求ができないことになります)
Aが、自己の「共有持分」をCに譲渡した場合、一方の共有者Bは、177条の「第三者」にあたります。

5|物権変動の無効と登記

1 契約が法令違反や公序良俗違反のため無効である場合

このような場合は、はじめから物権変動が生じることはないので、無効の行為を通じて第三者Cが登記を備えても、真の権利者Aは、登記なしにCに対抗できます。

2 錯誤によって無効となる場合

この場合にも、はじめから物権は移転していないのですから、物権の「復帰」ということはありえず、したがって、無効主張の時期に関係なく、表意者Aは登記なしに第三者Cに対抗できます。

3 虚偽表示によって無効となる場合

A・B間の不動産売買契約が虚偽表示によって行われた場合はどうでしょうか。
この場合、仮装の所有権者Bから譲り受けた善意の第三者Cに対しては、Aは、虚偽表示の無効を対抗できないために(94条2項)、Cは、Bから完全に所有権を取得します。
Cに登記は不要です。

6|ポイントまとめ

1 ポイントまとめ

1 取消しと登記
① 制限行為能力や強迫を理由に取り消した場合──
取消前の第三者には登記なくして対抗できる。取消後の第三者とは、登記で決まる。
② 詐欺による取消しの場合──
取消前の善意の第三者は、登記の問題ではない。取消後の第三者とは、登記で決まる。

2 解除と登記
① 解除前の第三者
登記を備えた第三者に対して、解除による物権復帰を対抗できない。
登記を備えない第三者に対抗するためには、解除権者は、物権復帰の登記を必要とする。
② 解除後の第三者──登記で決まる。

3 時効と登記
① 時効完成前の第三者
時効取得者は、登記なくして、時効完成前に権利者となった第三者に対抗できる。第三者の登記の有無は関係ない。
② 時効完成後の第三者──登記で決まる。

4 相続と登記
① 相続により物権を取得した者は、登記なくして自己の相続分を第三者に対抗できる。
② 遺産分割による持分を対抗するには、登記を必要とする。

5 無効と登記
① 「法令違反」「公序良俗違反」「錯誤」により無効の場合──
無効の行為を通じて第三者が登記を備えたとしても、権利者は登記なくしてその第三者に対抗できる。
② 「虚偽表示」により無効の場合──
虚偽表示の無効は、善意の第三者に対抗できない結果、第三者は登記なくして完全に所有権を取得する。


(この項終わり)