|公開日 2020.01.09

31年間の出題傾向31年間で5問出題。頻出テーマではありません。
直近では、平成28年(2016)にやさしい基本問題が出題されました。ちょっと勉強しておけば正解できるレベルでしたから、正解できないともったいないですね。
総合問題の選択肢として出題されることもありますので、基本だけはしっかりおさえておきましょう。
[改 正] ありません。

1|相続の承認・放棄

 承認・放棄ができるワケ

相続財産は、不動産や現金・預貯金・株式などのプラス財産だけではなく、借財などマイナスの財産を含むこともあり、ときにはマイナスの方が多い場合もあります。
これを相続の開始と同時に、当然に相続人に帰属するものとすることは、相続人にとって大きな負担となり、思わぬ不利益を受けることになります。

そこで民法は、相続人は相続を強制されるわけではなく、その意思によって、相続しなかったり、あるいは一定の範囲でのみ相続をすることができる、というようにしました。
「人の意思に反して義務を負わせるべきではない」という近代市民法の大原則に基づき、相続するかどうかについて相続人の意思を尊重したのです。
これが、相続の承認・放棄が認められている理由です。

 承認・放棄はよく考えよう

1|承認・放棄を考える熟慮期間
相続人は、相続の開始があったことを「知った時」から3ヵ月以内に、単純承認か限定承認、または相続の放棄をしなければなりません。3ヵ月の法定期間内であれば、相続の放棄や限定承認をすることができるわけです。

この期間は、相続人が相続財産の内容を十分に調査して、相続するか放棄するかなどを考慮する期間であり、また相続債権者(被相続人の債権者)に対しても、相続における権利関係の早期安定を図るという趣旨でもあるのです。

2|起算点は「知った時」
3ヵ月の熟慮期間は、相続人が、自己のために相続の開始があったこと、つまり、相続の原因である被相続人の死亡の事実を知り、それによって自分が相続人になったことを「知った時」から起算されます。
したがって、相続人が数人いるときは、各相続人について別々に起算することになります(最判昭51.7.1)

相続開始を「知らない」場合には、「3ヵ月が経過」しても単純承認をしたものとはみなされません。
3ヵ月の期間が与えられたのは、承認か放棄かを考慮するゆとりを与える趣旨ですから、相続人は相続開始を知っている必要があるわけです。

なお、相続人が未成年者・成年被後見人であるときは、その「法定代理人」が、これらの者のために相続の開始があったことを知った時から起算します。

3|承認・放棄の取消し
相続の承認・放棄の効力は、確定的です。
1度してしまった承認・放棄は、熟慮期間中であっても撤回(取消し)することはできません。
ただし、錯誤や詐欺などによる承認・放棄であれば、意思表示の原則に従って取り消すことができるのは当然です。

4|取消しの方式
相続の限定承認、または放棄の取消しは、その旨を家庭裁判所に申述しなければなりません。

2|単純承認

 単純承認の意味

単純承認というのは、相続人が、被相続人の権利義務を全面的に承継することをいいます。
民法は、この単純承認を「相続の本来的形態」として、相続人が3ヵ月の期間内に限定承認も相続放棄もしないときは、単純承認をしたものとみなしています。

単純承認は、必ずしも積極的にその旨を意思表示しなくてもいいわけで、家庭裁判所への申述などは不要です(単純承認の不要式性)

 法定単純承認

1|意 味
法定単純承認というのは、相続人に一定の事由があったときに「単純承認をしたものとみなす」ことをいいます。
単純承認とみなされますので、もはや限定承認も放棄も許されません。

|法定単純承認の事由|
法定単純承認とされる事由には、次の3パターンがあります。

1|処分による単純承認
相続人が「相続財産」の全部または一部を処分したときは、単純承認をしたものとみなされます。
経済的価値の高い美術品を「形見分け」したり、相続債務の代物弁済として「相続不動産を譲渡」することは処分とされます。
相続債権(賃料債権の支払い)を取り立てて「収受領得」することも処分にあたります(最判昭37.6.21)

処分は、法律行為に限らず事実行為でもかまいません。
故意に相続家屋を「放火」したり、高価な美術品を「壊し」たりすることも処分に該当し、単純承認とみなされます。

なお相続人は、承認・放棄をするまでは、相続財産の管理人的地位に置かれるため、「保存行為」や「短期」賃貸借契約の締結をすることは処分にはあたりません。
たとえば、相続財産の「不法占拠者に対する明渡請求」は保存行為であって、処分にはなりません。

2|期間経過による単純承認
3ヵ月の期間内に、限定承認または相続放棄をしないでその期間が経過したときは、単純承認をしたものとみなされます。
単純承認を相続本来の形態として、権利関係を早く確定させるためです。
単純承認の意思がなかったことを立証しても、認められません。

3|背信行為による単純承認
相続人が、限定承認または放棄をした後でも、相続財産の全部または一部を「隠匿」したり、「私に消費」したり、「悪意」で財産目録中に記載しなかったような背信的行為がある場合は、単純承認をしたものとみなされます。

3|限定承認

 限定承認の意味

相続財産に負債が多いことがハッキリしていれば、相続を放棄すればいいのですが、プラスの財産が多いかマイナスの財産が多いか不明の場合には、迷いますね。

こんな場合、相続によって取得したプラス財産の限度でのみ、被相続人の債務などマイナスの部分を負担するという留保付きで相続できたら、相続人の固有財産を守ることができます。
限定承認は、こうした相続人のために認められた制度なのです。

922条は「相続人は、相続によって得た財産の限度においてのみ被相続人の債務および遺贈を弁済すべきことを留保して、相続の承認をすることができる」と定めています。

限定承認がなされると、相続債権者は、債務者である被相続人の債務を回収できず大きな不利益を受けますが、相続債権者は、もともと被相続人の財産を引当てに債権を取得しているのですから、相続人の固有財産に対して債務の回収を実現させる必要はないといえます。

 限定承認をするには

1|共同相続人の限定承認
相続人が数人あるときは、共同相続人の全員の共同でなければ限定承認をすることはできません。
1人1人に限定承認を認めれば、清算手続が非常に複雑になるからです。
1人が単純承認して、ほかの者が限定承認することはできないのです。

2|限定承認の方式
相続人が限定承認をしようとするときは、相続の開始があったことを知った時から3ヵ月以内に財産目録を作成して、これを家庭裁判所に提出し、限定承認する旨の申述をしなければなりません。
このような方式を要件としたのは、限定承認は、第三者の利害に大きく関係するからです。

3|限定承認の効果
限定承認をした相続人は「相続によって得た財産の限度においてのみ、被相続人の債務および遺贈を弁済すればよいことになります。
単純承認の場合のように「自己の固有財産をもって責任を負う」という必要はなくなるわけです。

4|相続財産の管理
限定承認をした相続人は、清算が終了するまで「自己の固有財産におけるのと同一の注意」をもって、相続財産を管理しなければなりません。
この注意の程度は、いわゆる「善管注意義務」より軽いものです。

4|相続の放棄

 相続放棄の意味

相続の放棄というのは、相続人の自由意思で、一定の手続に従い全面的に遺産の承継を拒否することをいいます。

 相続放棄の方式

相続放棄をしようとする者は、相続開始を知った時から3ヵ月以内に、その旨を家庭裁判所に申述しなければなりません。
相続放棄は、権利の放棄であるため慎重になされることを要するので「要式行為」とされているのです。
相続の放棄は、共同相続人があっても、各相続人が単独ですることができます。

|相続放棄の取消し|
相続の放棄も意思表示ですから、錯誤・詐欺・強迫などによって相続の放棄をしたときは、これを取り消すことができるのは当然です。

 相続放棄の効力

相続放棄をした者は、その相続では、はじめから相続人とならなかったものと「みなされます」。
相続権そのものが発生していないため、相続放棄した者の子が、代襲相続人となることはありません。

相続放棄の効力は絶対的なものであり、特定の者のために放棄するというような相対的放棄は許されず、他人に対して放棄の合意をしてもその効力は生じません(大判大6.11.9)

1|登記との関係
相続の放棄がされると、相続人は「相続開始の時にさかのぼって相続しなかったと同じ地位」におかれることになります。
この効力は絶対的で、何人に対しても「登記なくして」その効力を主張できます(最判昭42.1.20)

2|相続分の計算
他の相続人の相続分は、放棄者の相続分を除いて算定されます。

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次の問題は○か×か(問題文クリック)

[正解&解説] 相続人が遺産を売却するなど、相続財産の全部または一部を「処分」したときは、単純承認をしたものとみなされます(法定単純承認)。
ただし、保存行為と短期賃貸借は「処分」には該当しません。
Bが、甲建物の不法占拠者に対してその明渡しを請求しても、これは処分行為ではなく保存行為にほかなりません。本問は正しい記述です。

ポイントまとめ

 相続人は、相続の開始を知った時から3ヵ月以内に、単純承認か限定承認、または相続の放棄をしなければならない。
 3ヵ月の期間内に限定承認も相続放棄もしないときは、単純承認をしたものとみなされる。
 1度してしまった相続の承認・放棄は、熟慮期間中であっても撤回(取消し)できない。
 法定単純承認の事由
以下の事由があれば、単純承認したものとみなされる。
① 相続財産の処分
② 期間経過
③ 背信行為
 限定承認は、相続人が数人あるときは全員の共同でしなければならない。
 限定承認は、相続開始を知った時から3ヵ月以内に財産目録を家庭裁判所に提出し、限定承認する旨の申述をしなければならない。
 相続放棄をしようとする者は、3ヵ月以内に、その旨を家庭裁判所に申述しなければならない。
 相続放棄をした者は、はじめから相続人とならなかったものとみなされる。
10 単純承認をするには、家庭裁判所への申述は不要である(単純承認の不要式性)。

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