|更新日 2020.5.14
|公開日 2017.8.01

31年間の出題傾向今回のテーマは相殺です。31年間でわずか4問です。
直近では、平成30年(2018)に出題されました。
[改 正] 新設された規定もありますが、試験に重要なのはごくわずか。
れいちゃん01

試験にはほとんど出ていませんね。

たくちゃん01

だね。時間がなければスルーしてもいいよ。

れいちゃん02

でも、ちょっと心配。

たくちゃん02

この講座で基礎だけ押さえておけばいいよ。
自働債権と受働債権をシッカリ区別してね。

1|相殺制度

 相殺の意味と機能

相殺は、日常的にもよく利用される制度ですから、イメージしやすいでしょう。
双方が同じような債権を持っていれば、相殺しようという意思表示だけで清算することです。

Aさんが、Bさんに対して100万円貸しているときに、BさんもAさんに30万円貸していれば、実際に「現金の受け渡し」をして返済しなくても、清算しようという意思表示だけで、Aさんは差額の70万円貸していることにするわけです。

相殺は、当事者の一方から相手方に対する意思表示によってしますので、簡単に決済できて大変便利ですが、相殺のもう1つ大きな機能は、かならず弁済が受けられるという「担保的機能」があることです。

これが現金のやり取りだと、自分が弁済しても相手が弁済する保証はありません。
相殺制度があることによって、簡単に決済できるだけでなく、弁済が確実に受けられるわけです。

 自働債権と受働債権の区別

相殺で注意すべきは、自働債権受働債権を正しく理解することです。

相殺は、同種の債権を対等額で消滅させるものですから、必ず2つの債権が存在するわけですが、この場合、相殺をしかける債権を「自働債権」、相殺を受ける債権を「受働債権」といいます。

A・Bともに債権者であり、同時に債務者でもある場合をみてみましょう。

相殺の双方債権

Aが、その代金債権でBの貸金債権に相殺をしかけるときは、「代金債権」が自働債権で、Bの「貸金債権」が受働債権となります。
反対に、Bが、その貸金債権でAの代金債権に相殺をしかけるときは、「貸金債権」が自働債権、Aの「代金債権」が受働債権となります。

「どちらが相殺を主張するか」で変わってくるわけですね。

 相殺できる要件

相殺できる要件は、以下のとおりです。

1|同種の債権であること
相殺できる第一の要件は、双方の債権が同種の目的を有することです。

最も利用される「同種の債権」としては金銭債権があります。
双方の債権が「金銭の支払い」という「同種」のものであれば、発生原因(売買契約か消費貸借契約かなど)や金額が同一である必要はなく、また「履行期」「履行場所」が違っていてもかまいません。

2|弁済期にあること
次に「弁済期=履行期」ですが、双方の債権がともに弁済期にあるときは、相殺できるのはもちろんですが、「常に双方が弁済期にある」ことは、相殺の要件ではありません。
相殺をしかけるほうの「自働債権」の弁済期が到来していれば相殺できます。
相殺される「受働債権」が弁済期にあることは必要ではありません。

この図で確認しておきましょう。

相殺,自働債権の弁済期

Bが、自己の貸金債権=自働債権とAの代金債権とを相殺しようとする場合には、Bの貸金債権は「必ず弁済期が到来」していなければなりません。

なぜなら、貸金債権の「債務者」であるAには、「弁済期までは支払う必要がない」という期限の利益がありますから、「弁済期が到来しない」のに、債権者Bが一方的に清算することは許されないのです。
期限は「債務者の利益のため」にあると推定されますからね(136条)
弁済期が到来しない間は、債務者Aは履行を強制される義務はないわけです。

したがって「貸金債権」の弁済期さえ来ていれば、相殺される「代金債権」については、弁済期が到来していなくてもかまいません。
「代金債権」の債務者Bは、期限の利益を放棄して、「期限前に」代金債務を弁済する、つまり相殺で決済することに何ら問題はないのです。

2|相殺できない債務

相殺できる債務、できない債務を確認しておきましょう。

 相殺制限特約

当事者は、特約によって相殺を禁止したり制限することができます相殺制限特約
しかし、この相殺制限特約は、善意かつ無過失の第三者には対抗することはできません。

いいかえれば、悪意または重過失ある第三者には、相殺制限特約を対抗することができるわけです。
新民法は、相殺制限特約は「第三者がこれを知り、または重大な過失によって知らなかったときに限り、その第三者に対抗することができる」としています。

※ この点は、債権譲渡における「譲渡制限特約」と類似しています。

 時効消滅した債権

時効によって消滅した自働債権が、その消滅以前に受働債権と相殺できる状態にあった相殺適状にあった)ときには、その自働債権で相殺することができます。

すでに消滅した債権で相殺できるというのは、不思議ですが、これは、相殺できる状態にあったときには、とくに相殺の意思表示をしなくても、当事者は当然に清算されたように考えるのが通常であるため、この信頼を保護したわけです。
すでに相殺できる状態にあったのだから、相殺を認めてもいいではないかということなんですね。

 不法行為等で生じた債権

旧民法では、不法行為により生じた債権を受働債権として相殺することは「全面的に禁止」されていましたが、新民法は下記のように構成し直しています。

1|悪意の不法行為による損害賠償債権
まず、悪意による不法行為に基づく損害賠償債権を受働債権とする相殺は許されません。
ここでいう「悪意」は故意では足りず、「積極的な意欲」「損害を与える意図」まで要求されます。
不法行為による結果を「積極的に意欲」した場合に、相殺禁止の対象とされるわけです。

これは、不法行為の誘発を防止するためなのです。
金を返さない債務者に対して、腹いせに暴行して怪我をさせ、暴行・傷害による損害賠償請求債権を「貸金債権」と相殺するという事態が生じないようにするのです。

相殺,不法行為債権

たとえば、債務者Bの債権が、Aの「悪意による不法行為」によって発生した「損害賠償請求権」である場合、加害者Aは、Bに対して「貸金債権」をもっていたとしても、この貸金債権で損害賠償請求権と相殺することは許されないのです。

これはまた、不法行為の被害者に対する損害は、必ず現金で支払われるようにするためです。
相殺は、互いの債権額を対等額で消滅させるものですから、相殺を許すと、被害者の損害賠償請求権は消滅するか減額されてしまいます。
これでは被害者救済が不十分ですね。
「薬代は現金で」ということなのです。

したがって、加害者Aの「過失」による交通事故などの場合には、相殺を認めてもこうした趣旨に反することはなく、その方が簡便な決済ができるといえます。

不法行為によって生じた債権を受働債権とする相殺を「すべて禁止する必要はない」のです。

たくちゃん10

悪意による不法行為債権に対しては相殺できないよ。

2|生命・身体の侵害による損害賠償債権
人の生命・身体の侵害による損害賠償は、とくに被害者保護の必要性が高いために、不法行為に限定せず、「債務不履行による場合」であっても、相殺禁止の対象となります。
新民法はこの点も明文化しました。

 差し押さえられた債権

差し押さえられた債権に対して、相殺をしかけることができるかどうかは、「差押え前」と「差押え後」で扱いは異なります。

相殺と差押債権

|差押え後|
たとえば、AのBに対する「代金債権」の「差押え後」に、Bが、Aに対して「貸金債権」を取得した場合には、両債権を相殺することはできません。

これは、差押債権者の利益を考慮したためで、先に差し押さえられたAの代金債権=受働債権は、差押債権者Cに弁済すべきことになります。
「差押え後」に、Bが貸金債権=自働債権を取得しても、相殺によって清算できると期待することは許されないという趣旨なのです。

|差押え前|
一方、Cの「差押え前」にすでにBが貸金債権=自働債権をもっていたのであれば、相殺することも可能です。

Bの自働債権の取得が、Aの受働債権への「差押え前」か「差押え後」かで区別して、差押債権者と債務者との利益の調節を図ったわけです。

3|その他の注意ポイント

以上のほかに、その他の注意ポイントを確認しておきましょう。

1|履行地の異なる債務の相殺
相殺は、当事者の一方から相手方に対する意思表示によってしますから、鹿児島、青森というように、双方の債務の履行地が異なるときでも、することができます。
ただし、相殺をする当事者は、相手方に対し、これによって生じた損害を賠償しなければなりません。

2|相殺の遡及効
相殺の意思表示をすれば、両債権は「相殺適状を生じた当時において対当額で消滅した」とされます。
相殺の効果は相殺適状が生じた時に「さかのぼって」生じるわけです遡及効

「相殺適状が生じた時」の状態で債権債務関係は決済されたと考えるのが、当事者の意思であり取引の実情であるからという趣旨です。

3|期限・条件はつけられない
相殺の意思表示に「期限」をつけることはできません。
いつ相殺しても相殺適状を生じた時にさかのぼって清算されるのですから、つけても無意味です。
「条件」をつけることも許されません。
法律関係を紛糾させ、相手方に不当な不利益を与えるからです。

ポイントまとめ

 相殺をしかける債権を自働債権、相殺を受ける債権を受働債権という。
 自働債権は、必ず弁済期が到来していなければならない。
 相殺制限特約は、善意・無過失の第三者には対抗できない。
 時効消滅した自働債権が、その消滅以前に受働債権と相殺適状にあったときは、自働債権で相殺することができる。
 悪意による不法行為に基づく損害賠償債権を受働債権とする相殺は禁止。
 人の生命・身体の侵害による損害賠償債権を受働債権とする相殺は禁止。
 受働債権の差押え後に取得した自働債権で相殺することはできない。
 相殺の効果は、相殺適状が生じた時にさかのぼって生じる。
 相殺の意思表示に、条件や期限をつけることはできない。

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