|公開日 2017.8.01
|更新日 2019.4.30

今回のテーマは相殺です。30年間でわずか4問(四択)です。昨年(平成30年)に出題されましたので、基本的なポイントだけでいいでしょう。

1|相殺の機能

1 自働債権と受働債権の区別

相殺の問題を考えるときは、「だれが相殺を主張しているのか」を注意してください。

相殺は、同種の債権を対等額で消滅させるものですから、必ず2つの債権が存在するわけですが、この場合、相殺をしかけるほうの債権を「自働債権」、相殺されるほうの債権を「受働債権」といい、相殺するほうの債権を基準にこの区別がなされます。

ここをしっかり理解しておかないと、混乱してしまいます。

相殺,自働債権,受働債権

A・Bともに債権者であり、同時に債務者でもある場合をみてみましょう。
Aがその代金債権でBの貸金債権と相殺するときは、代金債権が「自働債権」で、Bの貸金債権が「受働債権」となり、反対に、Bがその貸金債権でAの代金債権と相殺するときは、貸金債権が「自働債権」で、Aの代金債権が「受働債権」となります。

「だれが相殺を主張するか」でまったく変わってくるわけで、自働債権と受働債権の区別を正確に理解する必要があります。

2 相殺できる要件

とくに注意しておきたいポイントは、相殺できる場合とそうでない場合の区別です。

1 同種の債権
相殺できる要件の第一は、双方の債権が同種の目的を有することです。

最も利用される「同種の債権」としては金銭債権がありますが、お互いの債権が「金銭の支払い」という「同種」のものであれば、発生原因(売買契約か消費貸借契約かなど)や金額が同一である必要はなく、また履行期や履行場所が違っていてもかまいません。

2 弁済期にあること
次に「弁済期=履行期」ですが、双方の債権がすでに弁済期にあるときは、相殺できるのはもちろんですが、「常に双方が弁済期にある」ことは相殺の要件ではありません。

条文(505条)には「双方の債務が弁済期にあるとき」と書いてありますが、学説・判例とも文字通りには解釈していません。

相殺をしかけるほうの自働債権の「弁済期が到来」していれば相殺できます。
相殺される受働債権が「弁済期」にあることは必要ではありません。

初心者の人は、よく混乱してしまうのですが、この「弁済期」さえしっかり理解できれば、相殺は半分マスターしたのも同然です。

この図で確認しておきましょう。

相殺,自働債権,弁済期

Bが貸金債権でAの代金債権と相殺しようとする場合には、貸金債権=自働債権については、必ず弁済期が到来していなければなりません。

というのも、貸金債権の債務者であるAは「弁済期までは支払う必要がない」という期限の利益を有していますから、債権者Bのほうでこれを一方的に奪うことは許されないのです。
期限の利益は債務者のためにあると推定されますからね(136条)。期限がくるまでは、債務者Aは履行する義務はないわけです。
相殺するBは、自分の貸金債権=自働債権の弁済期が到来するまで待つ必要があります。

貸金債権=自働債権の弁済期が来てしまえば、代金債権=受働債権のほうは、相殺する者Bにとっては債務になるため、弁済期になくても期限の利益を放棄して、貸金債権で相殺することができるのです。

2|相殺できる債務とできない債務

1 時効消滅した債権を自働債権とする相殺

時効によって消滅した自働債権が、その消滅以前に受働債権と相殺に適するようになっていた場合には相殺適状といいますが)、債権者は自働債権で相殺することができます。

すでに消滅した債権で相殺できるというのは、不思議ですね。どうしてこんなことが認められるのでしょうかね。

これは、相殺できる状態にあったときには、とくに相殺の意思表示をしなくても、当事者は当然に清算されたように考えるのが通常であるため、この信頼を保護したんですね。
すでに相殺できる状態にあったのですから、相殺を認めてもいいではないかということなんです。

2 受働債権が不法行為により生じた債権であるとき

相殺,不法行為債権

被害者Bの債権が、Aの不法行為によって発生した損害賠償請求権であるときには、加害者Aは、債務者Bに対して代金債権をもっていたとしても、この代金債権で不法行為債権と相殺することは許されません。
どうしてでしょうか。

これは、不法行為の被害者に対する損害は、必ず現金で支払われるようにするためです。
相殺は、互いの債権額を対等額で消滅させるものですから、相殺を許すと、損害賠償債務は消滅するか減額されてしまいます。
これでは被害者救済が不十分ですね。
「薬代は現金で」ということなのです。

それでは、被害者の側から相殺できるでしょうか。

被害者から相殺するのは許されます。損害賠償請求権に対して相殺が許されないのは、被害者に現実の弁済を保障するためですから、被害者のほうで相殺による決済を望んでいれば、これを認めても支障はないのです(最判昭42.11.30)

それでは「双方の債権がともに不法行為」によるものであるときはどうでしょう。
交通事故ではよくある例ですが、最高裁は相殺を認めていません(最判昭49.6.28)

3 差押債権に対する相殺

相殺,差押債権

たとえば、Aの受働債権が①「差し押さえられた後」に、Bが、②自働債権を取得しても、この債権で相殺することはできません。

これは、差押債権者の利益を考慮したためで、先に差し押さえられたAの受働債権は、差押債権者Cに弁済すべきことになります。
Cの「差押え後」に、Bが自働債権を取得しても相殺によって清算できると期待することは許されないという趣旨なのです。

したがって、「差押え前」にすでにBが自働債権をもっていたのであれば、相殺することも可能です。

Bの自働債権の取得が、Aの受働債権の「差押え前」か「差押え後」かで区別して、差押債権者と債務者との利益の調節を図ったわけですね。

4 その他の注目ポイント

以上のほかに、注目ポイントをあげておきますので確認しておきましょう。

1 履行地の異なる債務の相殺
相殺は、双方の債権を対当額において消滅させる意思表示ですから、鹿児島、青森というように、債務の履行地が異なるときでも、することができます。

2 相殺の遡及効
相殺の意思表示をすれば、両債権は「相殺適状を生じた当時において対当額で消滅した」とされます。
つまり、相殺の効果は、相殺適状が生じた時にさかのぼって生じることになるのです(遡及効)
相殺適状が生じた以上、この時の状態で債権債務関係は決済されたと考えるのが当事者の意思であり、取引の実状であるからという趣旨です。

なお、相殺の意思表示に「期限」をつけることはできません。いつ相殺しても相殺適状を生じた時にさかのぼって清算されるのですから、つけても無意味です。
また「条件」をつけることも許されません。法律関係を紛糾させ、相手方に不当な不利益を与えるからです。

3|ポイントまとめ

1 ポイントまとめ

1 相殺は、意思表示によってするが、その意思表示には、条件期限をつけることはできない。

2 相殺の意思表示は、双方の債務が互いに相殺に適するようになった時にさかのぼって効力を生じる。

3 相殺は、双方の債務の履行地が異なるときであっても、することができる。

4 時効によって消滅した債権がその消滅以前に相殺適状にあったときは、その債権者は、相殺をすることができる。

5 債務が不法行為によって生じたときは、その債務者(加害者)は、相殺をもって債権者(被害者)に対抗することができない。

6 債権が差押えを禁じたものであるときは、その債務者は、相殺をもって債権者に対抗することができない。


(この項終わり)