|公開日 2017.7.22|最終更新日 2018.6.05

今回のテーマは損害賠償の原則です。この原則自体は出題されたことはありませんが、債務不履行や賠償額の予定との関連で出題されますので、基本的な知識だけはマスターしておきましょう。

1 損害賠償の原則

そもそも債務が不履行になったらどうするの?
債務者が、債務の本旨に従った履行をしない場合には、債権者は、裁判所を通じて債権の履行を「強制的に実現させる」ことができます。

しかし、債務が履行不能になった場合や、債権の性質上もともと強制履行が許されない場合(タレントの番組出演などなど)には、「強制的に実現させる」手段を使うことはできません。

債権者としては、債務不履行によって受けた損害は、履行に代わる別の手段、つまり金銭で賠償させるほかありません。そればかりではなく、履行はされたが遅滞であったり、不完全な履行であったりしたために受けた損害も、本来の履行に「加えて」、結局は金銭に評価して賠償させるほかはないのです。

こうした債務不履行がある場合に、それによって生じた損害を、どの範囲まで、どのように評価して賠償させるかは、重要かつ複雑な問題となります。

1 賠償すべき損害の範囲

次の点を検討する必要があります。

1 不履行と損害との因果関係
債務不履行と損害との間に因果関係があることが必要です。
「因果関係」というのは原因・結果の関係で、当然のことですが、損害賠償の請求が認められるためには、債務の不履行によってその損害が生じたものであることが必要です。

 債務不履行(原因)
  ↓
 損害発生(結果) という関係です。

2 通常生ずべき損害
債務不履行と損害発生との間に因果関係があっても、「賠償の範囲」は、原則として「当該の債務不履行から通常生ずべき損害」、つまり相当因果関係による損害に限られます。

もともと因果関係というのは「アレなければ、コレなし」という関係で、さかのぼれば際限がありません。

たとえば、建物の引渡しが履行遅滞となっている間、家賃を払ってやむなくマンション住まいをしていたところ、類焼に巻き込まれて家財道具を焼失したというような場合、履行遅滞(原因)がなければマンション住まい(結果)もなく、マンション住まい(原因)がなければ家財道具の焼失(結果)もなかったというように、さかのぼればキリがないのです。

履行遅滞が原因でいろいろな損害が発生しますが、それらをすべて債務者に賠償させるのは、当事者間の公平を図るという損害賠償制度の趣旨から考えて適切ではありません。
そこで、実際上際限のない因果関係を「通常生じる因果関係」という基準で限定することによってこの不都合を回避したわけです。これを相当因果関係といいます。

3 特別の事情によって生じた損害
特別の事情によって生じた損害については、当事者がその事情を予見していたり、または予見することができたようなときには、損害賠償の対象となります。

土地・建物の買主が、これを第三者に転売する契約をして巨額の利益を得るはずであったのに、1か月の遅延のために、この利益を失ったばかりか、転売契約が解除されて違約金をとられたというような場合では、転売による利益や違約金支払いは、一応「特別の事情によって生じた損害」といえるでしょう。

売主が、転売の事実を知っていたとか、普通の注意力があれば予見できたはずだという場合には、これらの損害も賠償させるのが妥当とされるのです。

2 物質的損害と精神的損害

引き渡された家屋の一部が損壊し、これが原因で家人が負傷したとしましょう。

この場合、家屋の修繕費や家人の治療費は「物質的損害」です。
また負傷のために労働能力が低減したときは、これも「物質的損害」になります(計算は複雑ですが)。
相当因果関係が認められる限り、これらは賠償の対象となります。

また、身体の負傷によって歩行が困難になったことから受ける精神的な苦痛は「精神的損害」です。
精神的損害の賠償を慰謝料といいますが(とくに不法行為で問題となります)、債務不履行の場合でも考慮されます。

2 損害賠償に関連する問題

1 金銭債権

金銭債権というのは「代金1000万円支払え」というように、一定額の金銭の支払いを目的とする債権です。

売買契約の代金とか、賃貸借契約における賃料、金銭の貸し借りのような金銭消費貸借契約における貸金、不法行為による損害賠償金などが代表例です。

金銭債権については、債権の目的が「金銭」であることから、次のような特例があります。

1 返済時期
金銭消費貸借の場合に「返済時期」を定めなかったときは、「借主」はいつでも返済することができますが、「貸主」が返済を請求する場合には、相当の期間を定めて催告する必要があります。

2 金銭債務不履行における損害証明
金銭債務の不履行があった場合には、債権者は、現実に発生した損害の証明をしなくても、損害賠償を請求できます。
金銭債務では、債務不履行があったという事実を立証するだけでいいのです。

3 金銭債務不履行における抗弁
金銭債務の不履行については、債務者は不可抗力をもって抗弁することができません。
つまり、期日までに「お金が払えない」という債務不履行が不可抗力(集中豪雨で列車が遅延したので間に合わなかったなど)によるものであることを証明しても、賠償責任を免れることはできないのです。

2 過失相殺──債権者にも過失があったら?

債務不履行に関して債権者にも過失があるときは、債務者だけに損害を負担させるのは不公平ですから、その責任を適切に軽減する必要があります。
これを過失相殺といい、不法行為にも認められています。

債務不履行における過失相殺は、債権者に過失があれば、必ず考慮しなければなりません。
当事者が主張しなくても、裁判所が「債権者に過失あり」と認定すれば、必ず過失相殺しなければならないのです(職権主義/最判昭43.12.24)。

ちなみに、不法行為の場合は過失相殺は「任意的」です(運営上はほとんど考慮されますが)。

3 賠償額の予定──損害の証明は面倒、時間もかかる

損害賠償の問題は非常に複雑で、事案によっては、裁判で10年も20年もかかります。
これは当事者には耐え難いものですから、あらかじめ契約で、債務不履行に備えて賠償額を定めておくというのが一般的です。
これを損害賠償額の予定といい、債権者は「不履行の事実」を証明すれば、それだけで約定の賠償額を請求できます。

損害を受けたことや実際の損害額を証明する必要はありません。
もともと賠償額の予定は、損害の有無(損害があったかなかったか)とか、実際の損害額はいくらであったかについての立証を問題とせずに、一律に解決するという趣旨でなされるのです。

注意すべき点を確認しておきましょう。

1 増額・減額の禁止
債権者は、実際の損害額が「予定額より大きい」ことを証明しても増額請求はできません。
同様に、債務者が実際の損害額が「予定額より少ない」ことを証明しても減額請求はできません。
したがって裁判所もまた、その額を増額も減額もできないのです。

過失の有無・損害の有無・損害額について一切の紛争を避けるというのが当事者の意思ですから、これを尊重したわけです。
ただし判例は、あまり苛酷な予定額については、公序良俗違反(90条)を理由に、全部または一部を無効とし、あるいは減額できるとしています。

2 証明の範囲
債権者は「債務不履行があった」という客観的な事実の生じたことを証明するだけでよく、それが「債務者の責めに帰すべき事由による」とか、また損害の発生や損害額を証明しなくても、予定賠償額を請求できます。

3 債務者の免責
賠償額の予定は、あくまで「債務不履行が成立する場合の問題」ですから、債務者は、自己の債務不履行について、責任がない・帰責事由がないことを立証すれば免責されます。

4 賠償額の予定と過失相殺
債務者が、債権者の過失を立証して、過失相殺の主張をしたときには、裁判所は損害額の算定について、その過失を斟酌(考慮)することができます。
賠償額の予定は、過失相殺を排除する趣旨まで含むものではないのです。

5 違約金との関係
違約金というのは、債務不履行があった場合に支払うべきものと約定される一種の制裁金ですが、いろんな内容をもっているため、民法は一律にこれを賠償額の予定と「推定」しています。

3 条文とポイントまとめ

1 条文の確認

♠415条(債務不履行による損害賠償)
債務者がその債務の本旨に従った履行をしないときは、債権者は、これによって生じた損害の賠償を請求することができる。
債務者の責めに帰すべき事由によって履行をすることができなくなったときも、同様とする。

♠416条(損害賠償の範囲)
1 債務の不履行に対する損害賠償の請求は、これによって通常生ずべき損害の賠償をさせることをその目的とする。
2 特別の事情によって生じた損害であっても、当事者がその事情を予見し、または予見することができたときは、債権者はその賠償を請求することができる。

♠418条(過失相殺)
債務の不履行に関して債権者に過失があったときは、裁判所はこれを考慮して、損害賠償の責任およびその額を定める。

♠419条(金銭債務の特則)
1 金銭の給付を目的とする債務の不履行については、その損害賠償の額は、法定利率によって定める。ただし、約定利率が法定利率を超えるときは、約定利率による。
2 前項の損害賠償については、債権者は、損害の証明をすることを要しない。
3 第一項の損害賠償については、債務者は、不可抗力をもって抗弁とすることができない。

♠ 420条(賠償額の予定)
1 当事者は、債務の不履行について損害賠償の額を予定することができる。
この場合において、裁判所は、その額を増減することができない
2 賠償額の予定は、履行の請求または解除権の行使を妨げない。
3 違約金は賠償額の予定と推定する。

2 ポイントまとめ

1 賠償の範囲は、原則として債務不履行から通常生ずべき損害に限られる。

2 特別の事情で生じた損害は、当事者がその事情を予見していたか、予見できたときには、損害賠償の対象となる。

3 慰謝料は、債務不履行の場合でも考慮される。

4 金銭債務の場合、現実に発生した損害の証明をしなくても、債務不履行の事実を立証するだけで損害賠償を請求できる。

5 金銭債務の不履行については、不可抗力を抗弁することはできない。

6 債権者に過失があれば、当事者が主張しなくても、裁判所は必ず過失相殺しなければならない。

7 賠償額の予定があるとき、債権者は不履行の事実を証明するだけで約定の賠償額を請求できる。債務者の帰責事由、損害の発生、損害額を証明する必要はない。

8 債権者は、実際の損害額が予定額より大きいことを証明しても増額請求はできない。
債務者は、実際の損害額が予定額より少ないことを証明しても減額請求はできない。

9 賠償額の予定があっても、債務者は、債務不履行について帰責事由がないことを立証すれば免責される。

10 賠償額の予定があっても過失相殺できる。


(この項終わり)