|公開日 2017.7.03
|更新日 2019.4.22

今回のテーマは心裡留保です。「しんりりゅうほ」と読みます。民法は今から121年前の明治29年にできた法律ですが、昔の学者はこういう言葉を普通に使っていたんですね。

さて何が問題かというと、「心裡留保による契約は有効なのか無効なのか」ということです。ここでその理由を正確に理解しておきましょう。

1|心裡留保による契約は有効か

1 心裡留保の意味

心裡留保という用語自体は条文には存在しません。心裡留保を定めた93条にはこう書いてあります。
「意思表示は、表意者がその真意ではないことを知ってしたときであっても、そのためにその効力を妨げられない。」

何のことかサッパリわかりませんね。
真意ではないことを知ってする意思表示、これが心裡留保の意味です。これでも何のことやらですね。
もうちょっとかみ砕いていうと、意思表示をする表意者自身が「自分の真意ではないと知りながら」する意思表示のことで、「真意を心の裡(うち)に留保」して「自分の真意とは別なことを表示する」という意味です。要するに「ウソと知りながら意思表示をする」ことなのです。

試験では「心裡留保」という用語は使われずに、「その意思表示は真意ではない」とか、「売る意思がないのに売買契約をした」とか、「自分の真意ではないと認識しながら売却の意思表示を行った」というように使われています。条文の字句どおりに出題されるんですね。

心裡留保は聞き慣れない法律用語ですが、内容はいたって簡単です。
先ほどいいましたように、表意者が自分の真意と違う表示をする、つまり「うそを言う」わけです。

たとえば、自分に意思・真意がない、売る気もないのに、持っている新品の20万円のマックPCを5万円で売ってやろう、と言ったとします。
「売るよ」という意思表示を受けた相手が、「これは安い、じゃあ買うよ」とこう言った場合に、後になって「いや実は5万円で売るつもりで言ったんじゃない、あれはうそだから無効だ、君が承諾しても契約は成立しないんだよ」──はたしてこのような主張ができるのか、できないのか。

つまり、このような契約は有効なのか無効なのか、それとも取り消すことができるのか、これが問題なのです。

心裡留保の構造

2 効果1|原則は有効

先ほどの93条にはこう書いてありましたね。
「意思表示は、表意者がその真意ではないことを知ってしたときであっても、そのためにその効力を妨げられない。」
「効力を妨げられない」というのは、表意者の表示どおりの効果を生じる、つまり有効ということです。

表意者が、自分の真意でないことを知って行った意思表示は有効とされ、表示どおりの効果が生じるのです。
「売ろう」という表示は有効ですから、これに対して「買う」と承諾して結んだ売買契約も有効となるわけです。「冗談だから、あの話はなかったことにしよう」とは言えないのです。
結局、うそをついた売主の自業自得で、買主としては契約は有効なわけですからその利益が害されることもなく問題は残りません。

ところで、「真意ではない」意思表示なのにどうして有効なのでしょうか?

心裡留保では「表示」に対応する「意思・真意」が存在しないのですから(意思と表示の不一致)、意思表示としては無効のはずです。
しかし、民法がこれを有効としたのは、「表示」を信頼して取引した相手方を保護して取引の安全を図ったからなのです。

契約が成立した後に、都合が悪くなれば「あれはうそだった、冗談だった」という主張を認めて無効としたのでは、相手方は「表示」を信頼して取引することができません。
学者はこれを「嘘つきを保護する必要なし」といいます。

※「表示」を信頼した相手方や第三者を保護して取引の安全を図るという考え方が、実は資本主義経済を支え発展させてきた原動力といえる理論なのです。
実際のところ、表意者の「真意」なんて知ることはできませんからね。

3 効果2|例外的に無効

93条は続いて「ただし、相手方が表意者の真意を知り、または知ることができたときは、その意思表示は、無効とする」と定めています。

相手方が、表意者の真意を「知っているとき」は無効、つまり、Aは5万円で売る意思はないんだ、ということをBが知っているのであれば、無効とされるわけです。
「事情を知って」契約している場合には(これを悪意といいますが)、とくにBを保護する必要はないわけですから、無効としてもBの利益を害することにはなりません。

また相手方が、表意者の真意を「知ることができたとき」も無効とされます。「知ることができた」というのは、普通の社会一般人がする程度の注意をしていれば、本当は売ろうとは思っていない、20万円もする新品のマックPCを5万円で売るなんてうそなんだ、ということを知ることができたという意味です。
それなのにうっかり本当だと信じてしまった場合をいいます。こうしたあまりにも不注意すぎる相手方は保護するに値しないとして無効としたんですね。

結局、心裡留保は、相手方が善意・無過失のときに限り有効となります。

 善意|悪意 
非常に重要な用語です。日常用語でいう善良な心とか道徳心のことではありません。
善意とは「事情を知らなかったこと」、悪意とは「事情を知っていたこと」をいいます。

そして「知らなかったけれども、それは不注意だった。もう少し注意すれば知ることができた」という場合を「善意だが過失があった=善意・有過失」といいます。
また「知らなかったけれども、不注意はなかった。相当の注意をしても知ることはできなかった」という場合を「善意だが過失はなかった=善意・無過失」といいます。

民法は、これらの「主観的な事情」に応じてまったく異なった扱いをしますので要注意です。善意は保護して、悪意は保護しないというのが、民法の基本的な態度です。

2|条文とポイントまとめ

1 条文の確認

重 要 条文は暗記する必要はありません。
「基本的な論点を確認する」というつもりで読むようにしましょう。

 93条|心裡留保 
意思表示は、表意者がその真意ではないことを知ってしたときであっても、そのためにその効力を妨げられない(=有効)
ただし、相手方が表意者の真意を知りまたは知ることができたときは、その意思表示は、無効とする。

2 ポイントまとめ

1 原 則 心裡留保は有効である。
2 例 外 相手方が悪意のとき、または善意であっても過失があるときは、無効。


(この項終わり)