|公開日 2020.02.03


れいちゃん01

今回は、敷金ですね。

たくちゃん01

改正で、判例法理が明文化されたんだよ。

れいちゃん03

むつかしいの?

たくちゃん02

大丈夫、旧法の勉強が通用するからね。


1|敷 金

今回の法改正で「敷金に関する規定」が新設されましたが、判例法理を明文化したもので、新しい内容ではありません。旧法で勉強したことがそのまま通用します。

過去に出題された「敷金4問」はすべて建物の賃貸借ですから、ここでも建物賃貸借を例に確認しておきましょう。

 敷金の意味

|一種の保証金|
建物の賃貸借では、通常、賃借人から賃貸人に対して敷金が交付されます。
たとえば、家賃の2カ月分(20万円)というようにです。
目的は、賃借人の賃料債務などを担保するためです。
敷金の交付
つまり、敷金は一種の保証金で、賃借人が家賃を払えなくなったときや建物を壊したときの損害などに備えて、あらかじめ賃貸人に支払っておいて、契約が終了して、建物を明渡す時にこれらを清算するのです。

賃貸借は継続的な関係ですから、途中で賃料が支払えなくなったとか、うっかり壁に大きな傷をつけてしまったとかなどの事態も予想されますので、賃貸人が不利益を受けないようにしておくわけですね。

 敷金の性質

敷金の性質については、すでに判例が確立しています。
 敷金返還請求は明渡しが完了した時に発生する。
 敷金が担保する範囲は、契約存続中の債務に限定されない。
 建物の明渡しを先に履行しなければならない。
 敷金を弁済に充てる旨の意思表示は不要である。

以下、少しくわしくみておきましょう。

1|敷金返還請求の発生時期
敷金はいつ返してもらえるのでしょうか。
敷金返還請求権は、①賃貸借が終了し、かつ、②賃貸物の返還を受けたときに発生します。
「契約終了+明渡し時」です。
敷金返還請求権は、明渡しを完了しないと「具体的」には発生しないのです。

判例(最判平14.3.28)は次のようにいっています。
「賃貸借終了後であっても、明渡し前においては、敷金返還請求権は、発生および金額の不確定な権利である」。

なお判例によると、賃借人が適法に賃借権を譲渡したときは、賃貸人と旧賃借人との間に別段の合意がない限り、「賃借権譲渡の時点」で敷金返還請求権が生じます(最判昭53.12.22)

2|敷金が担保する債務の範囲
① 契約期間中の家賃のほかに、
② 契約終了後、建物明渡しまでに生じる損害金、そのほか賃貸人が取得する一切の債権を担保します。

3|建物の明渡しが先
敷金返還請求権は、明渡し完了後に「具体的」に発生しますので、まず先に建物を明け渡す必要があります。
つまり、建物明渡しと敷金返還とは「同時履行の関係にはなく」、留置権も成立しません(最判昭49.9.2)

4|弁済に充てる意思表示は不要
賃貸借が終了して明渡しが完了した時に、賃借人の債務は敷金の範囲内で当然に消滅し、敷金の返還請求権は、その残額について発生します。
敷金を弁済に充てる旨の「相殺などの意思表示」はとくに必要ありません。

 契約期間中の敷金の充当

「契約期間中」に敷金を債務の弁済に充てることはできるでしょうか。

「賃貸人」は、契約期間中かどうかに関係なく、賃借人が賃料債務を履行しないときは、自由に敷金を未払賃料など債務の弁済に充てることができます。
賃貸人は、敷金を債務の弁済に充てる義務はなく、未払賃料の全額を請求することができます。

反対に「賃借人」の方からは、契約存続中も、契約終了後明渡し前でも、敷金を未払賃料などの債務の弁済に充てるよう請求することはできません。
これを認めると、賃借人は安心してしまって賃料の支払いを怠るおそれもあり、賃貸人が担保を失うこととなってしまうからです。
また、敷金を交付しているからといって、賃料支払いを拒絶することもできません。

「保証人」も、敷金額の控除を主張することはできません(大判昭5.3.10)

2|敷金の承継

敷金はどのように「引き継がれる」のでしょうか。
① 建物が譲渡された場合
② 賃借権が譲渡された場合
に分けて考えましょう。

 建物が譲渡された場合

|賃貸人の交替|
建物の「賃貸人」がその所有建物を譲渡した場合です。

賃貸建物の譲渡と敷金の承継

|敷金は承継される|
契約期間中に「建物が譲渡」され、「賃貸人が交替」した場合には、敷金に関する権利義務関係は「賃借人の承諾」がなくとも、未払賃料を控除した残額について、当然に新所有者=新賃貸人に承継されます(最判昭44.7.17)

敷金は、契約終了の際に賃料債務等の不履行があれば、その弁済として当然これに充当される性質のものですから、建物の所有権移転に伴って、賃貸人たる地位の承継があった場合には、敷金は、未払賃料の弁済としてこれに当然充当され、その限度において敷金返還請求権は消滅し、残額についてのみ「新賃貸人に承継」されるのです。

 賃借権が譲渡された場合

|賃借人の交替|
建物の「賃借人」がその賃借権を譲渡した場合です。

建物賃借権が譲渡されても敷金は承継されない

|敷金は承継されない|
契約期間中に、適法に「賃借権が譲渡」され、「賃借人が交替」した場合には、敷金返還請求権を譲渡するなど「特段の事情」のない限り、敷金に関する権利義務関係は当然には新賃借人に承継されません(最判昭53.12.22)

※ 判例は「敷金契約は、賃貸借に従たる契約ではあるが、賃貸借とは別個の契約であるから、旧賃借人が賃貸借関係から離脱した以上、(新賃借人に対して敷金返還請求権を譲渡するとか、その敷金をもって新賃借人の債務不履行の担保とするとかを約するなどの)特段の事情のない限り、新賃借人の債務についてまで、旧賃借人の敷金を担保とすることは、旧賃借人に不利益を与えるものであり、相当でない」としています。

「敷金の承継」については、賃借権譲渡の承諾とは別に、「そのためだけの合意」が必要というわけです。

 賃料債務との相殺

たとえば、賃貸人が事業の失敗などで倒産しそうになって、どうも敷金を返してもらえそうにない場合に、賃借人は、これから払う家賃と敷金とを相殺することができるでしょうか。
賃借人としては、敷金で家賃の代わりにしたいところでしょう。

しかし残念ながら、賃料支払債務と敷金返還請求権とを対当額で相殺することはできません。というのも、契約期間中は敷金返還請求権は「具体的」には発生していないからです。

敷金返還請求権は、契約終了後、明渡し完了までは、発生および金額が「不確定な権利」ですから、「具体的」な対当額について相殺することはできないのです。

ポイントまとめ 建物明渡債務と敷金返還債務とは同時履行の関係にはない。先に建物明渡債務を履行しなければならない。
 敷金の担保範囲
① 契約中の賃料債権だけでなく、
② 契約終了後、明渡し義務履行までに生じる賃料相当の損害金、その他賃貸借契約により賃貸人が取得する一切の債権を担保する。
 未払賃料について、賃借人が敷金からの充当を主張することはできない。
 建物が譲渡された場合、敷金は、原則として「未払賃料を控除した残額」について、新賃貸人に承継される。
 賃借権が譲渡された場合、敷金に関する権利義務関係は、原則として新賃借人には承継されない。
 契約期間中は、賃料債権と敷金返還請求権との相殺はできない
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