|公開日 2017.7.06
|更新日 2019.4.22

今回のテーマは詐欺と強迫です。「善意の第三者」に注意してください。

  • だまされて結んだ契約は有効なのか
  • おどされて仕方なく結んだ契約は?

1|詐欺──だまされて契約したら?

1 詐欺の意味

詐欺というのは、人にだまされて意思表示や契約をすることです。日常用語でいう詐欺と同じ意味です。
民法上の不法行為や刑法上の詐欺罪などが成立しますが、「契約」としては、その効力が問題となります。

2 効果1|当事者間

96条1項は「詐欺による意思表示は、取り消すことができる」と定めています。 相手方にだまされてした意思表示・契約は「取り消すことができる」として、だまされた本人を不利な契約の拘束から一方的に解放できるようにしているのです。取り消すことができるのであって、無効なのではありません。

これが当事者間の効果です。だまされて契約した本人を保護するという観点から当然といえるでしょう。
詐欺の場合には「意思」と「表示」に不一致はないのですが、自由な意思形成が侵害されているので取り消せるとしたわけです。
本来、契約は個人の自由意思によってなされるべきというのが現代民法の根本原理なのです。

さて、取り消された契約は、はじめから無効であったものとみなされます(121条)。したがって、まだ履行されていなければ履行の必要はなくなりますし、履行されていた場合には、これを返還する手続きが残されることになります。

3 効果2|第三者に対する効果

第三者に対する関係ではどうでしょうか?
96条3項にはこう書いてあります。
「詐欺による意思表示の取消しは、善意の第三者に対抗することができない。」

「第三者」というのは、詐欺による意思表示を「前提として」新たに利害関係を築いた第三者のことです。したがって、詐欺を理由に取り消された場合、その「取消し後」に登場した第三者は、ここでいう第三者には該当しません。要注意です。

取消しがあると、契約は「はじめから無効」になりますが、善意の第三者に対しては、取消しの効果を主張できない、つまり意思表示が無効であることを主張できないということです。

詐欺と第三者

A→B→Cと土地の売買が行われ、その後、AがBの詐欺を理由として、AB間の売買契約を取り消した場合、契約は、はじめから無効となって、Bは無権利者となります。 したがって、Bから権利を譲り受けた第三者Cも、その権利を取得することはできないことになります。

Cは権利を取得したと思っていたところ、後になってAから「Bの詐欺を理由に取り消したから、AB間の契約は無効で、Bに権利は移転しておらず、したがってあなたにも移転しておらず、権利は私にある」ということになるのです。

しかし、Aの主張を無制限に認めると、Aの「取消し前」に、事情を知らないで取引関係に入った善意の第三者Cは、大変困ります。これでは安心して取引することはできず、取引の安全を害することになるわけです。

そこで民法は、第三者Cが安心して取引できるよう、以前の取引がどのような状態であったかをいちいち調べなくても、善意であれば、Aは取消しの効果、つまり無効を主張できないとして、Cの利益を保護したのです。
この結果、善意の第三者は、有効に権利を取得できることになるわけです。
結局Aは、Cから土地の返還を請求することはできず、Bから損害賠償を請求できるだけとなります。

2|第三者の詐欺って何だ?

1 意 味

第三者の詐欺というのは、契約当事者以外の第三者にだまされて契約をすることで、たとえば、第三者Cにだまされて、Aが自分の土地を相手方Bに売ったという場合です。この場合の契約の効力が問題となります。

第三者の詐欺

2 効 果

この場合、第三者CにだまされたAは、相手方Bがその事実を知っている悪意のときに限って、契約を取り消すことができます。

相手方Bが「AはCにだまされた」という詐欺の事実を知っているということは、Bは、要するにCの欺罔行為を利用しているのであって、あたかもB自身がAをだましたのと同視できるからです。
Bが「悪意のときに限って」という点に注意してください。

3|強迫──おどされて契約したら?

1 強迫の意味

強迫とは、生命・身体に危害を加えると言ったり、財産・名誉を傷つけると言って、相手に恐怖の念を生じさせて意思表示や契約を強制することをいいます。日常用語でいう脅迫・脅しと同じ意味です。
強迫も、不法行為や刑法上の脅迫罪等が成立しますが、「契約」としては、その効力が問題となります。

2 効果1|当事者間

強迫による意思表示は、取り消すことができます。
強迫の場合も、詐欺と同様に「意思」と「表示」に不一致はないのですが、自由な意思形成が侵害されているからです。

3 効果2|第三者に対する効果

強迫による取消しは、善意の第三者にも対抗することができます
強迫の場合は、強迫された本人に責めるべき落ち度はないのですから、善意の第三者よりも、本人を優先して保護したのです。本人に多少とも落ち度がある詐欺とは異なる扱いをしている点に注意してください。

4 第三者の強迫

1 意 味
第三者の強迫というのは、契約当事者以外の第三者に強迫されて意思表示をすることで、たとえば、第三者Cに強迫されて、Aが自分の土地を相手方Bに売ったというような場合です。

2 効 果 
第三者の強迫により意思表示がなされた場合は、相手方Bが悪意のときはもちろん、たとえ善意であっても、Aはその意思表示を取り消すことができます。
つまりAは、相手方Bの善意・悪意に関係なく、いつでも取り消すことができるのです。
通常の強迫と同じように、第三者に強迫されたことについて、表意者Aに責められるべき事由はなく、詐欺の場合と比べて、より本人を保護すべきであると考えられたのです。

なお、強迫の結果──相手方による場合であれ、第三者による場合であれ──完全に意思の自由を失った表意者の意思表示は、意思無能力者の行為として無効とされます。

4|条文とポイントまとめ

1 条文の確認

重 要 条文は暗記する必要はありません。
「基本的な論点を確認する」というつもりで読むようにしましょう。

 96条|詐欺・強迫 
1 詐欺または強迫による意思表示は、取り消すことができる
2 相手方に対する意思表示について、第三者が詐欺を行った場合には、相手方がその事実を知っていたときに限り、その意思表示を取り消すことができる(第三者の詐欺)
3 詐欺による意思表示の取消しは、善意の第三者に対抗することができない

※2項と3項に「強迫」の文言はなく、したがって、本人が第三者に強迫されたときは、本人は常に取り消すことができます(2項)。また、その取消しは、善意の第三者にも対抗することができます(3項)

2 ポイントまとめ

 詐欺による意思表示は、取り消すことができる。この取消しは、善意の第三者には対抗できない。
 第三者が詐欺をしたときは、相手方が悪意のときに限って、本人は意思表示を取り消すことができる。この取消しは、善意の第三者には対抗できない。
 強迫による意思表示は、取り消すことができる。この取消しは、善意の第三者にも対抗できる。
4 第三者が強迫をしたときは、本人は常にその意思表示を取り消すことができる。この取消しは、善意の第三者にも対抗できる。


(この項終わり)