|公開日 2017.7.4|最終更新日 2018.5.18

今回のテーマ虚偽表示は出題率の高い重要なテーマです。
とくに「善意の第三者」に対する権利関係は確実に理解しておきましょう。

1 虚偽表示──双方がその気もないのに結んだ契約は有効か

1 虚偽表示って?

虚偽表示というのは「相手方と通謀して行う真意でない意思表示」をいいますが、虚偽表示という用語も心裡留保同様、条文には存在しません。
条文(94条1項)には、「相手方と通じてした虚偽の意思表示……」と書いてあります。

実際の試験問題では「売り渡す意思はないのに通謀して」とか、単に「通謀して」、あるいは「意を通じた仮装のもの」「仮装譲渡」などと書かれてあります。
こうした記述があれば、虚偽表示のことですからね。


典型的な例をあげてみましょう。
虚偽表示
Aが、債権者の差押えを免れるために、売却の意思はないのに、友人Bと「通謀して」自分の不動産をBに仮装売買し、登記を移転するというような場合です。
他人Bの所有となった不動産に対しては、Aの債権者はもう差押えはできませんからね。

はたして、このような売買契約は有効なのでしょうか。

2 虚偽表示をしたらどうなる?

虚偽表示をしたときの効果は、「当事者間」の関係と「第三者」に対する関係の2つがあります。

1 当事者間における効果──意思なきところに効果なし
相手方と通謀して行った虚偽の意思表示は、当事者間では無効です。
94条1項は「相手方と通じてした虚偽の意思表示は、無効とする」と定めています。

要するに「うその契約は無効である」ということです。
これは当然ですよね。有効にする合理的な理由がありませんからね。

当事者双方が、売る意思も買う意思もなく、売買を装って契約をしたという場合には、はじめから所有権を移転させようという意思がないのですから、法律上の効力を与える必要はまったくありませんね。

民法の意思表示制度というのは、「当事者が本当に意図するところ(意思・真意)に従って法律効果を与える」という制度ですから、「意思がなければ効果を生じさせる合理的は理由はない」のです。

「意思なきところに効果なし」という意思表示制度の原則どおり、A・B間の意思表示は効力を生じないもの、つまり無効とされるのです。

無効ですから、Aは不動産を引き渡す義務はないし、Bも代金を支払う義務はありません。
不動産の所有権は「はじめからAにあった」ということであり、したがって、たとえBに登記が移転されていても、Aはいつでも売買契約の無効を主張して、無効登記の抹消を請求することができます。

2 第三者に対する効果──善意の第三者
ところで、Bがその不動産を第三者Cに売ってしまったら、Aは契約の無効を主張してCから不動産を返してもらえるでしょうか。
いいかえれば「Aを保護すべきか、第三者Cを保護すべき」かという問題なのです。
ここは非常に重要なポイントです。ちなみに、Bには横領罪などの犯罪が成立します。

虚偽表示と善意の第三者

この場合、民法は、虚偽表示による無効は善意の第三者に対抗できないとして、善意の第三者Cを保護しています(94条2項)

この意味は、Aとの通謀によってBが所有者になっていることを「知らない」善意の第三者Cとの関係では、AB間の売買は「有効になされた」ものとして扱い、したがって、所有権は、A→B→Cに「有効に移転」しており、Cは「完全に所有権を取得する」ということなのです。

Aは、Cに対しては「AB間の契約は虚偽表示により無効だから、不動産の所有権はBに移転していない、もともと所有権は私にある」ということを主張できないのです。

たとえ登記がCに移転していなくても、AもBも、Cに登記がないことを主張して不動産の返還を求めることはできません。

こうして、善意の第三者との関係では、無効の主張を制限したのです。
いうまでもなく、第三者を保護する=取引の安全を図るためです。

もちろん「AB間」では、虚偽表示が無効であることに変わりはありませんから、AはBに対して虚偽表示の無効を主張して土地の返還を求めることはできますが、Cが完全に所有権を取得していますから、結局、返還できないことによる損害賠償をBに請求することになるわけです。

2 善意の第三者

出題例に焦点を絞ってポイントを確認しておきましょう。

1 第三者の範囲

「第三者」というのは、すべての第三者ではなく、「虚偽表示の当事者(またはその相続人)以外の者で、虚偽表示の外形について新たに利害関係に立った第三者」をいいます。

要するに「利害関係に立った第三者」ということですが、具体的には、仮装譲受人Bからの「譲受人」Cとか、仮装譲受人に対する「抵当権者」とか、あるいは仮装債権の譲受人などが該当します。

なお、善意・悪意の時期ですが、「取引当時」を基準とします。
この時に善意であれば、あとで虚偽表示の事実を知って悪意になっても、善意であることに変わりはありません。

注意点をあげておきましょう。
「当事者」に対しては、第三者が無効を主張してもよく、たとえば仮装譲渡人Aの債権者は、仮装譲受人Bのもとにある不動産を差し押さえることができます。
「善意の第三者」に対しては、当事者はもちろん、他の第三者も無効を主張できません。Cに対しては、仮装譲渡人Aの債権者も無効を主張できないのです。

2 善意の第三者に過失があったら保護されないか

善意の第三者が保護されるためには、過失があってもいいのでしょうか。
いいかえれば、「不注意で知らなかった」場合でも保護されるのでしょうか。

判例(大判昭12.8.10)は、善意の第三者には過失があってもよい、つまり無過失であることを要しないとしています。
AB間の契約が仮装譲渡であることを「過失によって知らなかった」としても、第三者は善意でありさえすれば保護されるのです。

もともと民法では、「真実であるかのような権利関係の外観(Bに登記があるからBが権利者であるかのような外観)を信頼する第三者を保護しようという場合には、その第三者に過失がないこと、つまり「無過失」を要件とするのが原則です。

ところが、虚偽表示の場合は、当事者が「積極的に虚偽の状態を作り出している」わけですから、第三者にはそれほど厳しい条件を要求しないで、とにかく善意であればよく、過失で知らなかった場合でも保護されるべきだとして、無過失までは要求されないのです。

虚偽の法律関係を作り上げたA・Bの自業自得というわけですね。

3 善意の第三者は登記が必要か

では、善意の第三者が保護されるために「登記」は必要でしょうか。
Cとの関係では、AB間の契約は「有効として扱う」ということですから、所有権は、A→B→Cに有効に移転しており、A・Bは完全な無権利者になるのです。
Cは、Bから完全に所有権を取得するのですから、そもそも登記は必要ないのです。

したがって、Bにまだ登記が残っている場合に、Aがその登記を回復した後であっても、CはAに対して、登記の移転を請求することができます。

4 転得者は第三者に含まれるか

虚偽表示と転得者
第三者Cからの転得者Dも「第三者」に含まれます。
転得者は善意であれば、直接の第三者が保護されるのとまったく同じように保護されます。
前主の第三者Cが悪意であっても関係ありません。

また、Dは悪意であっても、前主Cが善意であれば、この時点でCは確定的に所有権者になっていますから、Dは真の権利者から所有権を取得したことになり、善意者の地位を承継するからです。
したがって、Aに対する関係でも完全な所有権者になります。

要するにAは、第三者C・転得者Dの双方が悪意のときに限り、虚偽表示の無効を主張できることになるのです。

3 条文とポイントまとめ

1 条文の確認

♠ 94条(虚偽表示)
1 相手方と通じてした虚偽の意思表示は、無効とする。
2 この意思表示の無効は、善意の第三者に対抗することができない

2 ポイントまとめ

1 虚偽表示は、当事者間では無効
2 この無効は、善意の第三者に対抗できない
3 善意の第三者は、過失があっても保護される。無過失を要しない。
4 善意の第三者が保護されるためには登記は不要
5 善意の転得者は保護される。前主である第三者の善意・悪意は無関係。
6 悪意の転得者も、前主の第三者が善意であれば保護される。


(この項終わり)