|公開日 2017.7.12
|更新日 2019.4.23

今回のテーマは時効制度の存在意義です。あわせて時効の効果の起算点を勉強します。

1|時効の意味

「貸した5万円、そろそろ返してよ……」
「えっ! いつ借りたっけ?」
「10年前なんだけど……」
「10年前! そんなの時効、時効」

他人の土地に家を建てて自分の土地のように堂々と使っていれば、10年か20年経つと、時効によって自分のものとして所有権を取得することになります。
また、借金の返済期限がきているのに、涼しい顔をして返さず、貸した方も請求しないままに10年過ぎると借金は時効によって消滅します。
なんだか悪者が得をするような、そんな気がしませんか?

時効は「一定の事実状態が継続した場合」、たとえば、ある人が所有者であるような事実状態とか、借金をしていないなどのような事実状態が継続した場合に、この事実状態が「真実の権利関係と一致しているかどうか」を問わずに(はたして真実の所有者であるかどうか、本当に借金をしていないかどうかということに関係なく)、「継続した事実状態」をそのまま「権利関係」と認めて、真の所有者や債権があっても、もはやその主張を許さないという制度なのです。

時効には2つのタイプがあります。
1 事実上権利者であるような状態を継続する者にその権利を取得させる取得時効
2 権利不行使の状態を継続する者の権利を消滅させる消滅時効

2|制度の存在意義──悪用もやむをえず?

時効は「真実の権利関係よりも事実関係を優先させる制度」ですが、どうしてこんな制度があるのでしょうか?
「真実の権利関係」を無視していいのでしょうか?
時効は、いわば不道徳を法が認めることになり、不合理な制度ではないかという疑問が出てきますね。

時効制度が認められる理由は、主に3つあります。

1 法律関係の安定を図る|取得時効

長期間継続した事実状態をもとの真実の権利関係に引き戻すことは、その事実状態の上に築き上げられた今までの法律関係をすべてくつがえすことになり、法律関係の安定を妨げることになります。
むしろ、そのまま尊重した方が正当だと考えられる場合があるのです。

2 立証の困難を除去する|消滅時効

借金は10年前に返済したということを、後日になって証明するのは非常に困難です。
立証の困難を救済するために、時効によって新たな法律関係を認め、これを法定証拠として裁判をするのが適切な場合があります。
もし時効制度がなかったとしたら、領収書は永久保存しなければなりませんね。

3 権利の上に眠る者は保護に値しない|主に消滅時効

権利を有しながら長期間それを行使しない者は「権利の上に眠っている者」であって、法の保護を受けるに値しないとして、その権利を消滅させます。


時効制度を悪用して、他人の土地を自分のものにしてやろうとか、多額の借金をすべて帳消しにしてやろうとする人が出てくるのは、やむをえないことです。どのような制度も悪用する人を根絶することはできません。
悪用による弊害よりも、時効による意義がより大きければ、やはり制度として定着させておくことが望ましいのです。

時効制度は、昔むかしのローマ時代から今日まで2000年以上にわたって存在してきました。やはり合理的な存在理由があって、時効制度を認めないと困るからなのです。

3|時効の効果──起算日にさかのぼる

時効が完成すると、その効果として権利を取得したり、権利が消滅しますが、この効果は時効期間の最初の時、つまり、起算日にさかのぼります。
この効力を遡及効(そきゅうこう)といいます。

そもそも時効は、一定期間継続した事実状態をそのまま権利として保護する制度ですから、これは当然ですね。遡及効を認めなければ趣旨が一貫しないわけです。

たとえば、10年間所有者として使用してきた土地を時効取得する者は、10年前の最初から所有者となるのであって、10年後にはじめて所有者となるのではありません。

時効制度

B時点で時効が完成すれば、占有が始まったA時点から所有者になるのであって、B時点から所有者になるのではないのです。
これが、時効の効力が起算日にさかのぼるということです。
したがって、時効によって取得された権利を時効期間中に侵害した者は、旧権利者に対してではなく、時効取得者に対して不法行為責任を負うことになります。

 遡及効 
遡及効というのは、法律効果が最初(起算点)にさかのぼって生じることをいいます。法的安定性を害することになるために、原則として認められませんが、民法ではいろいろと顔を出します。
民法が遡及効を認めたのは、それぞれに理由があります。主なものは下記のとおりです。

 icon-check 無権代理行為の追認|116条
別段の意思表示がないときは、契約の時にさかのぼってその効力を生じます。
 icon-check 取消し|121条
取り消された行為は、はじめから無効であったものとみなされます。
 icon-check 時効|144条
時効の効力は、起算日にさかのぼります
 icon-check 相殺|506条2項
双方の債務が互いに相殺に適するようになった時にさかのぼってその効力を生じます。
 icon-check 契約解除の効果|545条1項
解除権を行使したときは、各当事者は、その相手方を原状に復させる義務を負うことになります。


(この項終わり)