|更新日 2020.3.10
|公開日 2017.7.12


れいちゃん01

時効の完成猶予って?

たくちゃん01

今回の改正で「時効の中断」「時効の停止」の制度が廃止されて、新しく「時効の完成猶予」「時効の更新」という概念が登場したんだ。

れいちゃん03

むつかしくなったの?

たくちゃん04

従来からの考え方が整理されただけで、実質的な内容に変更はないよ。
ただ、消滅時効に関しては、大きく改正されたから、注意が必要だね。


1|時効の援用と援用権者

 時効の援用

|意 味|
時効の援用というのは、時効によって利益を受ける者が「時効の利益を受ける」という意思を表示して、時効の成立を主張することです。

たとえば、裁判で、借金の返済を求められた債務者が「消滅時効が完成しているので借金は消滅した、債権者の請求棄却を求める」というように、時効を援用することによって、債権の消滅という時効の効果が生じます。

|援用するかどうかは自由|
時効を援用するかどうかは、時効利益を受ける者の自由意思に任せられています。
時効によって借金が帳消しになったのに、「いや、払います」というように、時効の利益を受けることをいさぎよしとしない人に、時効の効果を押しつけることは適切ではないからです。
その人の道徳心を尊重したのです。

民法も「時効は、当事者が援用しなければ、裁判所がこれによって裁判をすることができない」と定めています(145条)

 時効の援用権者

時効を援用できる者は当事者で、「所有権を取得した者」や「債務を免れた者」のように、時効によって直接利益を受ける者をいいます。
具体的には次のとおりです。

|消滅時効の場合|
消滅時効にあっては「保証人」「物上保証人」「抵当不動産の第三取得者」、その他権利の消滅について「正当な利益を有する者」も「当事者」とされます。

1|保証人、連帯保証人
保証人は、主たる債務の消滅時効を援用できます(大判昭8.10.13)
また連帯保証人も、主たる債務の消滅時効を援用できます(大判昭7.6.21)

2|物上保証人
物上保証人は、債務者の被担保債権の消滅時効を援用できます(最判昭43.9.26)

物上保証人は、自分の債務ではなく、他人の債務のために自分の不動産に抵当権などを設定する者で、親が、子の借金のために、自分の土地に抵当権を設定するような場合です。
子が借金を返済できないときは、親は、自己の不動産が競売されることを覚悟しなければなりません。
借金があるか消滅しているかは、親にとって重大な利益を有しているので、時効により「正当な利益」を有する立場にあるわけです。

3|抵当不動産の第三取得者
抵当権のついた不動産を取得した第三取得者は、抵当権によって担保されている債務の消滅時効を援用して、抵当権を消滅させることができます(最判昭48.12.14)

債務が消滅すれば、それを担保する抵当権も当然に消滅します(担保物権の付従性ので、第三取得者は、時効によって「正当な利益」を有する立場にあるのです。

時効の援用

そのほか、詐害行為の受益者も「当事者」に該当します(最判平10.6.22)

以上に反し、以下の者は「当事者」には該当しません。

① 一般債権者
② 後順位抵当権者
後順位抵当権者は、先順位抵当権の被担保債権の消滅時効を援用できません(最判平11.10.21)
■2020.5.21 追加──────
判例は、先順位抵当権の被担保債権が時効消滅すれば、後順位抵当権者の順位が繰り上がるが、これは「反射的な利益」にすぎないからとしています。
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|取得時効の場合|
1|地上権者、抵当権者
たとえば、Aの所有地を時効によって取得するBから、地上権、抵当権などの設定を受けたCは、Bの取得時効について援用権があります。
Bが取得時効を援用しない場合には、Bは所有権を取得しませんが、Cは独自に「Bの取得時効」を援用して、Aの所有地上に、地上権、抵当権などを有することになります。

2|建物賃借人
ただし、建物賃借人は、建物賃貸人による敷地所有権の取得時効を援用することはできません(最判昭44.7.15)

2|時効利益の放棄

時効の利益を放棄するというのは、「時効の利益を受けない」という意思を表示することです。
時効の利益は、あらかじめ放棄することはできません。

時効制度は民法が定めた公的な法秩序であるため、「時効完成前」に事前放棄を認めると、時効によって消滅する権利は存在しなくなり、時効制度そのものを否定することになるからです。
実際上も、債権者が債務者を強制して、あらかじめ時効の利益を放棄させるような弊害も予想されるため、時効利益の放棄は、すでに完成した時効についてだけ認められます。

なお判例は、時効完成後に債務者が債務の承認をした場合には、時効完成の知・不知にかかわらず、債務者は消滅時効の援用権を失うとしています(最判昭41.4.20)
債務の承認により、債権者は弁済に対する期待をもち、債務の存在も明らかになるからというのがその理由です。

3|時効の完成猶予と更新

さて、前回の[38|時効制度の趣旨]で説明しましたが、消滅時効の趣旨は「権利の上に眠る者は保護しない」「立証の困難を除去する」などの理由から、権利不行使の状態が継続している者の権利や、存在の不明確な権利を消滅させる点にありました。

したがって、明確な権利の行使があったり、権利の存在が明確になった場合には、時効によって権利を消滅させる必要はありません。

この点を念頭に、時効の完成猶予と更新をみていきましょう。

 時効の完成猶予

時効の完成猶予というのは「その間は時効は完成しない」ということです。

たとえば、貸金債権の消滅時効が進行中でも、その途中で債権者が請求すると、これは「明確な権利行使」ですから、消滅時効の進行がストップして、時効は完成しません。貸金債権はそのまま存続します。

以下の事由は、明確な権利行使なので、権利を存続させてもよく、時効の完成が猶予されます。

① 裁判上の請求
② 支払督促
③ 和解・調停
④ 破産手続参加

|手続中は時効の完成が猶予される|
「裁判上の請求」や「支払督促等」があれば、「これらの事由が終了するまでの間」(つまり、その手続中)は、「時効は、完成しない」とされます(147条1項)

|手続終了後も6ヵ月は猶予される|
また、確定判決等が得られないで「権利が確定することなく」手続が終了した場合は、終了後6ヵ月を経過するまでは「時効は、完成しない」とされます(147条本文かっこ書)

 時効の更新

さて上記のように、「裁判上の請求等」の手続中は「時効の完成が猶予される」わけですが、手続が終了して確定判決等が得られて権利が確定した場合は、時効は「その時から新たに進行を始めます」。

裁判によって権利が確定すれば、訴訟手続の中で権利の存在が明確にされたので、その権利は「確定の時から新たに進行を始める」としたのです(147条2項)
時効が1から新たに進行を始めることとなりますので、「時効の更新」といいます。

※ なお、強制執行や抵当権の実行、競売などがあった場合も、上記と同様の扱いがなされます。

4|時効の完成猶予

以下の事由は、時効の完成を猶予するだけで、更新はありません。

 催 告

催告というのは、裁判手続によらない裁判外の請求で、日常用語でいう請求です。
催告があったときは「その時から6ヵ月は時効の完成が猶予」され、時効は完成しません。
なお、催告の後で、改めて催告しただけでは、完成猶予の効力はありません。
催告をくり返すだけではダメなのです。

催告をした後は、6ヵ月以内に「裁判上の請求等」がなされなければ、完成猶予は認められません。

 仮差押え・仮処分

仮差押え・仮処分は、強制執行を保全する手段であることから、仮差押え・仮処分があったときは「その手続終了時から6ヵ月は時効の完成が猶予」されます。

5|承認による時効の更新

債務者が権利を承認したときは、権利の存在が明確になるので、時効は「承認の時から新たに進行を始めます」(152条1項)
これは内容としては旧法のままで、実質的な変更はありません。

ポイントまとめ

1 時効の援用権者
① 保証人、連帯保証人
② 物上保証人
③ 抵当不動産の第三取得者
④ 詐害行為の受益者
⑤ 地上権者、抵当権者
2 援用権者でない者
① 一般債権者
② 後順位抵当権者
3 時効利益の放棄
① 時効完成前に、時効の利益を放棄することはできない。
② 時効完成後の債務承認は、債務者の知・不知に関係なく、援用権を失う。

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