|公開日 2020.03.10

31年間の出題傾向遺言・遺留分は、30年間で10問の出題です。やや頻出のテーマといえるでしょう。
むつかしくはありませんが、範囲が少し広いテーマです。
[改 正] 遺言執行者の権限が強化されたり、遺留分減殺請求権が、遺留分侵害額請求に改正されるなど、多くの改正がありました。

1|遺 言

 遺言の自由と遺言能力

すべての人は、自分の財産を自由に処分する権利を有していますが、生存中に処分できるだけでなく、死後における運命をも自由に決定することができます。

自由に遺言できるといっても、最近親の相続をゼロにするというような遺言を許したりすると、相続人間に不平等を生じますので、遺言の自由も無制限に認められるわけではありません。

民法は、遺言の自由と法律上の相続権との調和を図るため、遺留分制度など各種の処置を講じています。

|遺言能力|
遺言は、必ず遺言者本人の独立の意思に基づいてなされなければならず、代理は許されません。遺言は身分行為であるため、とくに表意者の意思を尊重すべきとされているのです。
制限行為能力者の遺言でも、法定代理人や保佐人の同意は不要ですし、同意がないからといって、取り消すことはできません。

未成年者の遺言について、民法は「15歳に達した者は、遺言をすることができる」としています(961条)
未成年者であっても、15歳に達していれば、自分1人の単独意思で遺言をすることができるわけです。法定代理人の同意がなくても完全に有効です。

2|遺言の方式

遺言は、民法の定める方式に従わなければ、することができません。
方式に違背した遺言は、無効です。

1|遺言の要式性
わが国の遺言制度の特色は、遺言訴訟の多くが、方式の不備な遺言について争われていることです。
「死人に口なし」のことわざにあるように、遺言が効力を生じる時には遺言者は生存していないため、遺言がはたして本人の最終意思かどうかを確認することはできません。

遺言の要式性は、遺言者の真意を明確にして、こうした難点を防止するために採用されたものです。

2|普通方式と特別方式
民法の定める遺言の方式には、普通方式と特別方式があります。
① 普通方式による遺言は、自筆証書、公正証書、秘密証書に限られます。
② 特別方式による遺言は、危急時遺言などです。

 自筆証書遺言

自筆証書遺言というのは、遺言者が、
① 遺言書の全文
② 日 付
③ 氏 名
自書し、これに、④押印することによって成立する遺言です。

|財産目録はコピーでよい|
これまで自筆証書遺言は「添付する目録」も含め、全文の自書が必要でした。
しかし、この方式は遺言書作成の負担が大きく、遺言書作成が浸透しない一因ともなっていることから、今回の改正で緩和されました。

つまり、自筆証書に「一体のもの」として添付する相続財産の目録(財産目録)については、自書の必要がなくなり、パソコンなどで作成した財産目録、預貯金通帳のコピー、登記事項証明書(登記簿謄本)のコピーを添付することが認められました。

ただし、偽造等を防止するため財産目録の毎葉(各用紙)に、署名・押印しなければなりません。
各用紙の「両面」に記載があるときは、その両面に署名・押印が必要です。

|自筆証書遺言の変更|
自筆証書(目録を含む)は加除訂正することができますが、加除訂正は、遺言者が変更の場所を指示し、これを変更した旨を付記して特にこれに署名し、かつ、変更した場所に押印しなければ、加除訂正としての効力を生じません。

2 公正証書遺言

公正証書遺言というのは、公証人の立会いの上で「公正証書」につくる遺言です。
次の方式に従って作成されます。

まず「2人以上の証人」の立会いのもと、遺言者が遺言の趣旨を「公証人」に口授して、公証人がこれを筆記して遺言者・証人に読み聞かせます。
そして、遺言者・証人が筆記の正確なことを承認した後、「各自」が署名・押印し、さらに「公証人」が、方式に従って作成された旨を付記して署名・押印します。

3 共同遺言の禁止

遺言は、単独の意思表示が確保されるものでなければならず、そのため「遺言は、2人以上の者が同一の証書ですることができない」とされています(975条)
「夫婦」であっても、血縁関係があっても、同一の証書で遺言をすることは許されないのです。

3|遺 贈

 遺贈の自由

遺贈というのは、遺言による遺産処分をいいます。
人は、生前中でも自由に財産を処分できるその延長として、死後の遺産のゆくえも自由に決定させようという趣旨です。

遺言の大部分は、遺贈に関するものです。「遺言の自由」の実質的内容は、「遺贈の自由」にほかなりません。
民法も、986条から1003条の18か条にわたって、遺贈について定めています。

|遺贈と贈与|
遺贈は、財産上の利益を「無償」で与える点で、贈与に似ています。
しかし、贈与は、贈与者と受贈者との契約であり「生前処分」ですが、遺贈は、贈与者の一方意思で完結できる単独行為であり「死後処分」です。

 包括遺贈と特定遺贈

遺贈には、包括遺贈と特定遺贈があり、遺贈によって利益を受ける者を「受遺者」といいます。

1|包括遺贈
包括遺贈は、法律上相続人でない者を相続人のうちに加える方法で、たとえば「認知しない子供にも、嫡出子と同じだけの財産を与える」というような遺言をする場合です。
この場合には、相続人が1人増えたと同じことになり「この者を加えて」遺産の分割を協議することになります。

包括受遺者は「相続人と同一の権利義務を有する」(990条)とされますので、被相続人の「債務も承継」することになります。

2|特定遺贈
特定遺贈は、家屋とか時計とか一定額の金銭など、具体的な「特定の財産」を与えるという遺言をする場合です。
この場合は、共同相続人が遺産の中から、この特定財産を受遺者に与える手続をとることになります。

|負担付遺贈|
たとえば、遺言者が「自分の所有不動産をAに与える。その代わり、Aは、わが子Bを養育しなければならない」という遺言をした場合を負担付遺贈といいます。

受遺者は、遺贈された財産を取得するとともに、「遺贈の目的価額を超えない限度においてのみ」負担を履行すべき義務を負うことになります。

 遺贈の放棄

遺贈の放棄は自由であり、受遺者は、遺言者の死亡後いつでも遺贈の放棄をすることができます。特別の方式は必要ありません。
遺贈の放棄は「遺言者の死亡時にさかのぼって」効力を生じます。

 その他、遺贈の注意点

そのほか、遺贈で注意すべき点を確認しておきましょう。

1|受遺者の資格
受遺者には、自然人でも法人でもなることができます。
また、胎児も例外的に受遺能力が認められています(965条)

2|受遺者の死亡による遺贈の失効
受遺者は、遺言の効力発生の時に生存していることを要します(同時存在の原則)
遺言者の「死亡以前」に受遺者が死亡したときは、遺贈は効力を生じません。

なお、受遺者が死亡していれば、そもそも権利の帰属者が存在しないので、受遺者の相続人が相続することもありません。

3|遺贈の無効・失効の場合の財産帰属
遺贈が無効であったり、受遺者が遺贈の放棄をして遺贈が効力を失ったときは、受遺者が受けるべきであったものは、相続人に帰属します。
ただし、遺言者が別段の意思表示をしたときは、その意思に従います。

4|遺言の効力と執行

 遺言の効力の発生時期

遺言の成立時期は、遺言書作成の時です。
しかし、遺言の効力が生じるのは、遺言者の死亡の時です。
「遺言は、遺言者の死亡の時からその効力を生ずる」(985条)とあるとおりです。

なお、遺言に停止条件をつけた場合には、遺言者の死亡後にその「条件が成就した時から」効力を生じます。

|遺言の無効・取消し|
遺言も法律行為であるため、意思表示の原則により、錯誤・詐欺・強迫などによる遺言は、取り消すことができます。

|遺言書の検認|
遺言書を保管している者は、相続の開始を知った後、遅滞なく、これを家庭裁判所に提出して、その検認を請求しなければなりません。

ただ、遺言は、遺言者の死亡の時から効力を生じ、そのために特別の手続きを必要としないため、検認を経ないで遺言書が執行されても有効です。
遺言書の検認は、遺言の執行を円滑に実施するための準備手続(証拠保全手続)であって、内容の真偽や有効・無効を判定するものではないのです。

 遺言執行者の権利・義務

従来、遺言執行者の法的地位・権利義務をめぐっては、明確な規定がなく議論がありましたが、今回の改正で明文化されました。

1|遺言執行者の指定
遺言者は、遺言で、1人または数人の遺言執行者を指定したり、その指定を第三者に委託することができます。

2|遺言内容の通知義務
遺言者が死亡して遺言が効力を発生した場合、遺言内容の実現については、相続人が履行する義務を負いますが、遺言執行者があるときは、遺言執行者が履行する義務を負います。

したがって、遺言執行者の存在・遺言内容について、相続人は重大な利害関係をもつことになります。
そこで、遺言執行者が就職し、任務を開始したときは「遅滞なく、遺言の内容を相続人に通知しなければならない」とされています(1007条2項)

3|遺言執行者の権利・義務
遺言執行者は、「遺言の内容を実現するため、相続財産の管理その他遺言の執行に必要な一切の行為をする権利義務」を有します。

従来、遺言執行者と相続人の間でトラブルが生じたときに、遺言執行者は「遺言者の利益」のために行動するのか、「相続人の利益」のために行動するのか明らかではありませんでした。
改正法は、遺言執行者は「遺言の内容を実現するため」に行動すること、つまり「遺言者の意思を実現する」ために行動することを明確にしたのです。

4|遺言執行の妨害行為の禁止
遺言執行者がある場合、相続人は、相続財産の処分その他遺言の執行を妨害する行為を禁止されています。
相続人に自由な処分を許すと遺言の執行ができなくなるおそれがあるため、相続人の権利を制限したわけです。

これに違反する行為は、無効です。
ただし、取引の安全を保護するため、この無効は善意の第三者に対抗することはできません。

たくちゃん05

相続人が相続財産を処分するような、遺言の執行を妨害する行為は無効だよ。

 遺言の撤回

1|撤回の自由
遺言者は、遺言の方式に従って、いつでも遺言の全部または一部を撤回することができます。
遺言撤回の自由は、遺言者の最終意思を確保するために必要とされる制度です。

2|前の遺言と後の遺言とが抵触したら?
前の遺言が、後の遺言と抵触するときは、その抵触部分については、後の遺言で前の遺言を撤回したものとみなされます。

これは、遺言後の生前処分と遺言が抵触する場合も同様です。
たとえば、遺言で「Bに相続させる」とした土地を、その後、第三者に売却した場合には、その遺言は撤回したものとみなされます。
抵触部分については、前の遺言どおりの内容を実現する意思はないと認められるからです。

3|撤回された遺言の効力
遺言が撤回されると、その遺言はなかったことになります。その撤回行為が撤回されたり、取り消されたりしてもその効力はなく、遺言は復活しません。
ただし、その撤回行為が錯誤、詐欺、強迫などによる場合は、撤回行為を取り消すことができます。

5|遺留分

|遺留分制度の趣旨|
遺留分制度は、妻子など「兄弟姉妹以外」の相続人について、その生活保障・財産の公平な分配を図る趣旨から、最低限の取り分を確保する制度です。
たとえ遺言であっても、遺留分を害することは許されません。

なお、今回の改正により、遺留分を侵害された相続人は、被相続人から多額の遺贈または贈与を受けた者に対して、遺留分侵害額に相当する金銭を請求することができるようになりました。

改正のポイントは次の3点です。
① 遺留分減殺請求権が遺留分侵害額請求権に改められ、権利の内容が整備された
② 遺留分侵害額の算定式が明文化された
③ 受遺者等が弁済等により相続債務を消滅させたときは、遺留分侵害額請求により負担した債務の消滅を請求できる制度が創設された

 遺留分権利者

遺留分が認められている遺留分権利者は、配偶者、子、直系尊属です。
したがって、相続人が配偶者と子だけの場合、両者とも遺留分権利者となります。

被相続人の「兄弟姉妹」には、遺留分がありません。そのため、遺留分を保全するための遺留分侵害額請求権も認められません。

 遺留分侵害額の請求

従来からいろいろと問題のあった遺留分減殺請求権は、新たに遺留分侵害額請求権に改められ、権利の内容も整備されました。

一言でいえば、遺留分減殺請求権の物権的効力を否定し、遺留分侵害額請求権として金銭債権化したわけです。
減殺請求ではなく支払請求なのです。

改正民法は「遺留分権利者は、……受遺者または受贈者に対し、遺留分侵害額に相当する金銭の支払を請求することができる」と定め、遺留分侵害額請求権は形成権であるとしました。
この形成権を行使する意思表示をすることによって、遺留分侵害額に相当する「金銭の支払いを請求する権利が発生する」わけです。

|遺留分侵害額の計算方法の明確化|
具体的な遺留分侵害額は、新1046条に定められています。

|弁済した分は侵害額から差引かれる|
遺留分侵害額の請求を受けた受遺者等が、遺留分権利者が承継した相続債務を弁済等によって消滅させたときは、遺留分権利者に対する意思表示によって、遺留分侵害額請求により負担した債務を消滅させることができます。

同時に、この債務弁済等により、遺留分権利者に対して取得した受遺者等の求償権も消滅した債務額の限度において消滅することとなります。
これは、負担の公平を図るとともに求償の手間を省くためです。

 遺留分侵害額請求権の期間制限

遺留分侵害額請求権は、遺留分権利者が、相続の開始および遺留分を侵害する贈与または遺贈があったことを知った時から1年間行使しないときは、時効によって消滅します。
相続開始の時から10年を経過したときも、同様です。

たくちゃん05

物権的な遺留分減殺請求権が金銭債権化されて、遺留分侵害額請求権に改められたよ。

 遺留分の放棄

相続開始前における遺留分の放棄は「家庭裁判所の許可」を受けたときに限り効力を生じます。したがって、他の共同相続人に対して直接、書面で遺留分放棄の意思表示をしても無効です。

共同相続人がいる場合、その1人が遺留分を放棄しても、ほかの共同相続人の遺留分に影響を及ぼすことはありません。
1人が放棄したからといって、ほかの共同相続人の「遺留分が増える」わけではないのです。

ポイントまとめ

 未成年者でも、15歳に達していれば、単独意思で遺言することができる。
 自筆証書遺言は、遺言者が、①遺言書の全文、②日付、③氏名、を自書し、④押印することによって成立する。
 財産目録はコピーでよいが、署名・押印が必要。
 遺言は、2人以上の者が同一証書ですることができない。
 遺贈の放棄は自由。受遺者は、遺言者の死亡後、いつでも放棄できる。
 遺贈の放棄があれば、受遺者が受けるべきであった分は相続人に帰属する。
 遺言は、遺言者の死亡の時から効力を生じる。
 遺言執行者が就職し、任務を開始したときは、遅滞なく、遺言の内容を相続人に通知しなければならない。
 遺言執行者は、遺言者の意思を実現するため、遺言の執行に必要な一切の行為をする権利義務を有する。

10 相続人には、遺言の執行を妨害する行為が禁止されており、これに違反する行為は無効である。この無効は善意の第三者に対抗できない
11 遺言者は、いつでも遺言の全部または一部を撤回できる。
12 前の遺言と後の遺言の抵触部分については、後の遺言で前の遺言を撤回したものとみなされる。
13 遺留分権利者は、受遺者等に対し、遺留分侵害額に相当する金銭の支払請求ができる遺留分侵害額請求権を有する。
14 遺留分侵害額請求権は、遺留分権利者が、相続開始および遺留分侵害の贈与等を知った時から1年間行使しないときは、時効消滅する。
15 相続開始前の遺留分放棄は、家庭裁判所の許可を受けたときに限り効力を生じる。

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